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2026年2月20日、米国連邦最高裁判所は、最高裁長官ジョン・ロバーツ氏を首席判事とする6対3の判決において、国際緊急経済権限法(IEEPA)は大統領に関税を課す権限を付与するものではないとの判断を示しました。本判決ではロバーツ最高裁長官に加え、ソトマヨール判事、ケイガン判事、ゴーサッチ判事、バレット判事、およびジャクソン判事の5名が賛同し、トーマス判事、カバノー判事、およびアリート判事の3名が反対意見を表明しました。
本判決により、IEEPAに基づいてカナダ、メキシコ、および中国からの製品に課されていた関税、ならびに全輸入品への一律10%の課徴金および国別相互関税は無効とされました。また、ベネズエラ、ロシア、イラン、ブラジル、およびキューバに関する大統領令に基づく関税の可能性は否定されました。しかし、本判決は、大統領が宣言した国家非常事態を無効にするものではありません。依然として大統領は、IEEPAを根拠として「通商を規制する」その他の措置を講ずることや、国家非常事態に対処することが可能とされています。
判決において、多数意見は、関税は税金であり、憲法第1条8項に基づき、明確に議会の権限に属すると結論付けました。最高裁長官は「議会が関税の権限を委任する場合、それは明確な条件と厳格な制限を伴って行われてきた」と論じました。しかし政府のIEEPA解釈によれば、大統領は「無制限の関税を一方的に課す権限」を有し、「他の関税法にある重要な手続的制約を受けず、無数の変更を自由に行える」ものであり――その結果、「大統領の関税権限は『劇的に拡大』する」ことになります。
最高裁はこれに異議を唱え、過去のいかなる大統領もIEEPAを「いかなる関税――ましてや本件のような規模と範囲の関税――を課すため」の根拠としたことはないと指摘しました。実際にはIEEPAは関税以外の措置を講ずるために援用されてきており、関税を課すために用いられたことは一度もありません。最高裁はさらに「大統領がここで主張する『国家経済に対する広範な法定権限』は、あらゆる観点から見ても行き過ぎである」とし、「IEEPA関税の経済的・政治的影響は予想を超えて重大である」と述べています。このような重大性を考慮して、最高裁長官は、議会がこれほど広範な権限を大統領に委任したと解するのは合理的ではないとの見解を示しました。
すなわち、最高裁長官の記すところは以下のとおりです。「大統領は、金額・期間・範囲に制限のない関税を一方的に課すという法外な権限を主張している。その主張する権限の広さ、歴史的経緯、憲法上の文脈を踏まえれば、大統領は当該権限を行使するためには、明確な議会の承認が必要である。IEEPAが与える『輸入を・・・規制する』権限は、その要件を満たしていない。」
最高裁は予想どおり関税を無効とした一方で、すでに関税を支払った企業に対する還付方法について、今後の対応に関する言及を行いませんでした。カバノー判事は反対意見において、この点について多数意見を批判しています。「最高裁の決定は近い将来、他の深刻な実務上の問題を招く可能性が高い。その問題の1つが還付であり、数十億米ドルに上る還付は、米国財務省に重大な影響を及ぼす。現時点で最高裁は、政府が輸入業者から徴収した数十億ドルを還付すべきかどうか、またその方法については言及していない。しかし、口頭弁論で認められたように、その手続きは『混乱を招く』ことになるだろう。」
関税の還付に関する明確化を求める企業は、今後の追加的な司法判断や行政対応を待つ必要があります。
本判決は、1962年通商拡大法第232条または1974年通商法第301条に基づいて政府が課した関税には影響を及ぼしません。これらの権限に基づく関税は引き続き有効です。
政府は関税政策の継続性を保つため、他の利用可能な権限を迅速に発動して関税を課すと広く予想されています。第232条および第301条に加え、その他の権限としては、大統領が貿易不均衡に対応して最長150日間、輸入関税を最大15%まで調整できる1974年通商法第122条、あるいは貿易相手国が米国の製品や商取引を差別している場合に、大統領が最大50%の関税引上げや輸入停止を発動することのできる1930年通商法第338条などがあります。このように関税政策の継続が見込まれることから、米国の貿易相手国は、ここ数カ月で合意した二国間貿易協定の履行に引き続き取り組むと予想されます。
本関税は、米国の貿易相手国に対する国家非常事態宣言を根拠に発動されていました。議会はこの宣言を覆すため、複数の不承認決議案の裁決を予定していましたが、今回の最高裁判決によってその圧力は軽減されました。ただし、本判決は関税のみを無効とするものであり、発動中の国家非常事態宣言そのものを無効とするものではないため、議会が引き続きこれらの不承認決議案の採決に進むかは不透明です。また、一部の議員が、無効とされた関税と同様の内容の法制化を推進しようとする可能性もあります。
IEEPA関税(国別の相互関税など)に対する米国最高裁の違憲判決に関し、2025年2月から直近までにIEEPAを根拠として課されていた関税については還付される可能性が高まっています。
現時点では、政府およびCBPともに還付手続きについて明確な発表を行っておらず、還付申請は不透明な状況ではあります。しかし一方で、企業としては、将来の関税還付を見越し、現時点からIEEPA関税の支払金額を把握するとともに、CBPに対するPSCやProtest手続きの期限のモニタリングすることが推奨されます。
また、米国政府は、当該判決とほぼ同時に新たに122条関税の課税を発表しました。これまでの状況を踏まえると、米国の関税政策に大きな方針転換はなく、幅広い品目に対する追加関税の課税は中長期的に続く可能性が高いと考えられます。企業にとっては、今後も一定の高関税が継続することを前提に、関税プランニングやサプライチェーンの見直しなどの対策の導入が引き続き重要となります。
EY税理士法人
大平 洋一 パートナー
原岡 由美 パートナー
福井 剛次郎 シニアマネージャー
※所属・役職は記事公開当時のものです
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