欧州森林破壊防止規則(EUDR)の適用開始日を2026年12月30日に延期


  • 欧州森林破壊防止規則(EUDR)の適用開始日は12カ月延期され、大企業には2026年12月30日から適用される一方、EU木材規則(EUTR)の対象外製品を扱う小規模・零細企業については2027年6月30日まで適用が猶予される。
  • 今回の改正により、下流オペレーターおよびトレーダーに対する要件が簡素化されるとともに、小規模・零細のプライマリー・オペレーターについては、デューデリジェンス・ステートメント(DDS)の提出に代えて簡易申告が導入される。
  • 企業は、役割の変更に伴う影響評価の実施、必要なデータの準備体制の確保、および改正後の義務に沿ったコンプライアンス対応の整備を通じて、新たな適用スケジュールに備える必要がある。


エグゼクティブサマリー

EUDRは、規則(EU)2025/2650により改正され、適用開始日が2025年12月30日から2026年12月30日へと12カ月延期されました。小規模・零細企業および個人については、EUTR(規則(EU)995/2010)の対象外であった製品に限り、EUDRの適用開始が2027年6月30日まで延期されます。欧州委員会は2026年4月30日までに簡素化に関するレビューを実施する予定であり、その結果次第ではさらなる制度変更が行われる可能性があります。

さらに、今回の改正では下流オペレーターおよびトレーダー(零細・小規模・中規模企業〈SME〉を含む)に対する要件も簡素化され、情報収集および対応措置が求められるのは、正当な懸念がある場合に限られます。

小規模・零細オペレーター(SMEとは異なる概念である点に留意)については、今回の改正により、DDSの提出に代えて簡易申告を提出することとなります。

加えて、書籍、新聞、印刷された図画およびこれらに類する印刷物(例:第49類。統一システム〈HS〉およびEUの合同関税品目分類表〈CN〉における関税分類上のカテゴリー)は、今回の改正により適用範囲から除外されました。


背景

EUDR(規則(EU)2023/1115)は、牛、カカオ、コーヒー、パーム油、ゴム、大豆および木材に由来する特定の製品について、合法的に生産され、かつ直近の森林破壊または森林劣化に関与していない場合に限り、EU市場への投入またはEUからの輸出を認めています。

EUDRの適用開始日は、以前にも延期されており、大企業については2025年12月30日、小規模・零細企業については2026年6月30日とされていました(2024年10月22日付EY Japan税務ニュース「EUDR(欧州森林破壊防止規則):12カ月の適用延期と追加ガイダンスの公表」をご参照ください)。EUDRに違反した場合、事業者は以下の制裁を科される可能性があります。

  • 罰金(上限額はEU全域の年間売上高の少なくとも4%とされ、実際の罰金額は事案に応じてその範囲内で決定される)
  • 製品の回収またはリコール
  • 製品または収益の没収

EUDRは制裁の枠組みのみを規定しており、加盟国は国内法で制裁を定める際に当該枠組みに従う必要がありますが、各加盟国は追加の罰則や罰金を設けることができます。


新たなスケジュールと要件

今回の延期は、EUの外部および内部の双方からの圧力を背景として行われました。具体的には、EUの予測によりTRACES NT(デジタル管理・認証プラットフォーム)へのアクセスが想定を上回る可能性が示されたほか、一部の企業および貿易相手国から、事務手続きの複雑さやサプライヤー情報不足に対する懸念が示されました。これらの課題に対応するため、今回の改正ではEUDRの主要な目的を維持しつつ、適用スケジュールをさらに1年延期するとともに、下流オペレーターの義務を軽減しています。

さらに、欧州委員会は2026年4月30日までに簡素化レビューを実施し、欧州議会および欧州理事会に報告書を提出することが求められており、当該報告書には立法提案が含まれる可能性があることから、最終的な要件は依然として不明です。


EUDRにおける役割

今回の改正により、EUDR上の役割の定義は以下のとおり変更されます。

  • (最初の)オペレーター(変更なし):対象製品をEU市場に最初に投入する、またはEUから輸出する個人または法人
  • 下流オペレーター(新設):DDSまたは簡易申告の対象となった製品を使用して製造された製品を、市場に投入する、またはEUから輸出する個人または法人
  • トレーダー(改正):製品を市場で流通させるその他全ての事業者

改正前のEUDRでは、全てのオペレーターおよびトレーダーは、サプライチェーン全体での完全なトレーサビリティを確保するため、製品を市場に投入・流通させる、または輸出するたびに、TRACES NTにDDSを提出することが求められていました。DDSの提出に加え、EUDRは、生産が行われた土地区画の位置情報の提供、森林破壊が行われていない地域から製品が調達されていることを確認するためのリスク評価およびリスク軽減プロセスの実施、ならびにDDSの運用維持を求めていました。


下流オペレーターおよびトレーダー

今回の改正により、情報収集義務に関するDDSの提出要件が変更されます。改正前は、全てのオペレーターおよびトレーダーがDDSを提出しなければなりませんでした。2027年以降、DDSは製品が最初に市場に投入される、またはEUから輸出される時にのみ必要となりますが、下流オペレーターおよびトレーダーは、対象取引についてサプライヤーおよび顧客に関する特定のデータ項目を引き続き収集する必要があります。直接の仕入先がオペレーターである場合、DDSの参照番号または申告識別番号を収集しなければなりません。

改正後のデューデリジェンス(DD)義務は、正当な懸念がある場合に限り課されます。下流オペレーターおよびトレーダーは、すでに市場に投入された製品について違反の可能性を認識した場合、直ちに各国管轄当局(NCA)および下流の受領者に通知しなければなりません。製品を市場に投入する前にコンプライアンス上の懸念が生じた場合(すなわち、評価されたリスクが無視できない場合)、非SMEの下流オペレーターおよびトレーダーは、上流においてDDが適切に実施されたことを確認する必要があります。

今回の改正により、NCAによる検査の負担は軽減され、下流オペレーターおよびトレーダーの文書確認に重点が置かれ、疑義が生じた場合にのみ抜き打ち検査が実施されることとなります。

登録義務は変更されておらず、全ての非SMEは、DDSを提出しない場合であってもEUDR上の事業者としてTRACES NTへの登録が必要です。


小規模・零細のプライマリー・オペレーター

EUDRは、原則として全てのオペレーターおよびトレーダーに適用されますが、低リスク国に設立された小規模・零細企業であって、一定の基準を満たす企業については、特例が適用されます(2025年5月付のEUベンチマーク国リストにおいて、全てのEU加盟国は森林破壊に関して低リスクに分類されています)。

  • 当該企業が、以下の基準のうち少なくとも2つを超えないこと。
    • 総資産が500万ユーロ
    • 純売上高が1,000万ユーロ
    • 平均従業員数が50人
  • 当該企業が、自ら栽培、収穫、取得または飼育した対象製品を、当該EU加盟国内でのみ市場に投入すること

今回の改正により、必要とされる申告が簡素化されました。小規模・零細のプライマリー・オペレーターは、対象製品をEU市場に投入する際、DDSに代えて、TRACES NTにおいて一度限りの簡易申告を提出することができ、申告識別番号が付与されます。

また、今回の改正では生産地に関するデータ要件も簡素化され、位置情報の座標に代えて、土地区画または事業所の郵便住所を使用できるようになりました。


適用範囲およびその他の技術的変更

今回の改正により、附属書I(対象品目の一覧)から、第49類の書籍、新聞、印刷された図画およびこれらに類する製品(例:ラベル、取扱説明書)が除外されました。

また、今回の改正では、各国税関システムとTRACES NT間のデータ連携を可能にするプラットフォームの実施日が、2029年12月1日に延期されました。


新たな適用日

  • オペレーター、トレーダー、NCAについては、2026年12月30日から義務が適用されます。
  • 個人ならびに小規模・零細企業については、EUTRの対象外であった製品に限り、2027年6月30日から義務が適用されます。
  • EUTRの適用対象であった製品のうち、2023年6月29日より前に生産され、かつ2026年12月30日より前に市場に投入されたものは、2029年12月31日まで引き続きEUDRではなくEUTRの適用を受けます。


EU企業への影響

EU市場への輸入またはEUDR対象製品の生産を行う(非SMEの)EU企業については要件に変更はなく、TRACES NTにDDSを提出するため、サプライチェーンに関する完全なDDおよび位置情報データが引き続き求められます。さらに、DDSは自由流通のための通関許可または輸出の前に、税関が確認できる状態でなければなりません。ただし、輸出についてDDSが必要となるのは、EUDR対象品目からEUDR対象製品が製造され、かつDDが実施されていない状態でEUから直接輸出される場合に限られます。多くの場合、輸出に利用可能なDDSが存在しないことが想定されるため、EUDRに基づく再輸入の実現可能性は制約される可能性があり、実務上の対応は今後の動向を踏まえて検討する必要があります。

さらに、(最初の)オペレーターは、DDSの参照番号(または申告識別番号)をサプライチェーン下流の下流オペレーターおよびトレーダーに伝達する必要があります。

すでにEU市場に投入されたEUDR対象製品がその後EU域内で販売される場合、再販時にDDSを提出する必要はありません。ただし、EUDR上の義務を負う全ての事業体はTRACES NTへの登録が必要であるため、どの事業体が義務対象となるかを評価する必要があります。まだ対応していない企業は、EUDR対象品目の法的および物理的な流れをマッピングし、EU域内の各事業体について役割(〈最初の〉オペレーター、下流オペレーター、トレーダー)と役割固有の義務を特定する影響評価を実施する必要があります。

また、EU域内での調達についてもサプライヤーから情報を収集する義務は残っており、必要な情報がなければ製品を市場に投入することはできません。サプライヤーおよび顧客のデータ項目の収集は比較的容易でも、下流オペレーターおよびトレーダーは、DDSの参照番号または申告識別番号を収集すべきか判断するため、自社のサプライチェーン上の位置を確認する必要があり、これにはサプライヤーへの働きかけやオンボーディングが伴います。

さらに、DDを実施できる体制を整え、正当な懸念が生じた場合にはNCAまたは下流の顧客に速やかに通知できるようにしておくことが重要です。

まとめると、EUDRは下流オペレーターおよびトレーダーに対する一部の義務を簡素化しますが、基盤となる作業は残っており、(非SMEの)(最初の)オペレーターとして行動するEU企業は引き続き完全なDDを実施する必要があります。


非EU企業への影響

非EU企業については、製品を最初にEU市場に投入する事業体が引き続き責任を負います。その結果、EUの関連会社およびEU域内の顧客は、契約上の合意の一環としてDDを実施しDDSを提出するために必要な情報を入手する必要があります。これは、非EU企業が交渉に先立ち、データの品質、ガバナンスおよび文書化を強化しなければならないことを意味します。

EU企業と同様に、非EU企業が製品をEU市場に輸入する場合、オペレーターとしての完全な義務が引き続き適用されます。これには、EUへの輸入前にDDを実施し、土地区画レベルの位置情報および合法性の証拠を提供することが含まれます。

重要な点として、今回の改正でも第7条は削除されておらず、(最初の)オペレーターがEU域外に設立されている場合、当該製品をEU市場で最初に流通させるEU域内の個人またはEU域内に設立された法人もオペレーターとみなされます。これは、非EU事業者がDD対象となるEUDR対象品目の記録上の輸入者(importer of record)または生産者・販売者として行動する場合、EU企業のコンプライアンス上のリスクが大幅に増加する可能性があることを示しています。したがって、これらの要素は、商業上およびオペレーティングモデルの意思決定において考慮される必要があります。


今後のステップ

EUDR対応をまだ開始していない対象企業は、以下の事項を検討する必要があります。

  • 対象製品および取引、ならびにTRACES NTへの登録が必要な事業体を特定するための影響評価の実施
  • 製品およびサプライヤーのマスターデータを整備し、改正後の適用範囲に照らして関税・HSコードの分類を確認することにより、データの準備体制を確保すること
  • 特定されたEUDR上の義務に基づきコンプライアンス対応を実施し、可能な限り関連プロセスを自動化すること

EUDRの施行に向けた準備が整っている対象企業は、今回の延期および改正を活用して、以下のとおり自社のアプローチを強化できます。

  • システムおよびサプライチェーンのマッピングを最新の変更に合わせて調整し、各事業体の新たな義務およびデータ要件を確認すること(これは〈非SMEの〉下流オペレーターおよびトレーダーとしての義務のみに該当する場合も含む)
  • 調達システム(例:Ariba、Coupa)および関連プロセスをEUDRコンプライアンスプロセスに統合すること
  • EUDRと関連する他のESG規制(例:炭素国境調整メカニズム〈CBAM〉、企業サステナビリティ・デューデリジェンス指令〈CSDDD〉、デジタル製品パスポート、包装および包装廃棄物規則〈PPWR〉)の影響および要件も把握できるマスターデータ・プラットフォームのアプローチを検討すること
  • 苦情処理メカニズムを構築し、将来の監査に備えて社内ポリシーおよび文書を整備すること
  • オペレーティングモデルおよび契約を調整することにより、取引レベルでのコンプライアンス戦略を見直すこと
  • 契約条項を伴い、年間を通じて段階的に必要な情報を収集するため、段階的にサプライヤーへ働きかける戦略を計画すること

お問い合わせ先

EY弁護士法人

松田 暖 パートナー

EY税理士法人
上田 理恵子 パートナー

 

※所属・役職は記事公開当時のものです