EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EY新日本有限責任監査法人
企業成長サポートセンター
シニアマネージャー 公認会計士 髙橋 朗
株式会社東京証券取引所および日本取引所自主規制法人(以下「取引所」という)は、新規上場後に会計不正が発覚する事例が生じていることを踏まえ、上場審査機能の実効性向上および再発防止に向けた対応方針として、2025年12月12日付で「新規上場時の会計不正事例を踏まえた取引所の対応について」を公表しています。
近年のIPO市場では、スタートアップ企業を中心に上場件数が増加しており、事業内容や取引形態も高度化・多様化しています。その一方で、上場準備段階において会計処理や内部管理体制の不備、不正リスクに対する認識不足が十分に是正されないまま上場に至り、上場後に不正が発覚する事案が発生しています。
取引所は、こうした事案が市場の信頼性を損なう重大な問題であると認識し、上場審査機能の実効性向上と、IPO関係者全体による再発防止への取組みが不可欠であるとの考えを示しました。本公表では、取引所自身の対応強化に加え、主幹事証券会社、監査法人および上場準備会社がそれぞれの役割を果たし、相互に連携・協力する姿勢が明確にされています。
また、スタートアップ育成という政策的観点にも配慮し、画一的な規制強化ではなく、不正リスクの程度に応じたメリハリのある対応を行う方針が示されている点も特徴です。
取引所は、会計不正リスクの高低に応じた上場審査を行う方針を明確にしています。循環取引等が生じやすい取引構造を有するビジネスモデルや、代理店・外注先を多用する事業については、実質的な仕入先・販売先の状況等を確認するとしています。これに伴い、上場申請時の提出書類において、主要な実質的仕入先・販売先の会社概要等に関する記載項目を追加する方針が示されています。
加えて、上場準備期間中に監査法人が交代している場合(最近3年間〔基準事業年度の末日から遡ります〕において、監査法人の交代が生じている場合で、監査契約に限らず、上場時の監査の実施を前提とした上場準備に係るアドバイザリー契約等を解除した場合を含みます。)には、その交代経緯等を確認するとともに、後任監査法人の規模・体制やIPO監査の経験等を考慮した上で、必要に応じて前任監査法人へのヒアリングを実施するなど、不正リスクの見極めを一層強化する方針が示されています。
上場準備会社における内部通報体制の整備および運用状況は、上場審査における重要な確認事項とされています。具体的には、経営陣から独立した通報窓口の設置、通報者の秘匿性を確保する仕組み、通報内容が不正行為者に伝達されない体制の構築など、実効性のある制度運用が求められます。
さらに、取引所が設置する通報窓口について、上場準備会社の役職員等への周知を進めるとともに、当該窓口を通じて得られた情報を主幹事証券会社および監査法人に円滑に連携できるよう手続を整備し、問題の早期把握および是正につなげる方針が示されています。
取引所は、会計不正の防止には制度面の整備に加え、経営者の意識および姿勢が極めて重要であるとの考えから、上場準備会社の経営幹部に対し、誠実性や不正防止の観点も含めた「上場の責任」に関する啓発活動を強化するとしています。
また、社外取締役や監査役に対する上場審査時のヒアリングにおいても、不正防止体制の整備状況やその運用実態が重点的に確認され、ガバナンスの実効性がこれまで以上に問われることになります。
IPOに関与する監査法人の裾野が小規模監査法人まで拡大している現状を踏まえ、日本公認会計士協会による「登録上場会社等監査人」に関する取組みを通じた監査の信頼性向上に期待するとともに、取引所としてもこれに協力して対応していくとしています。
また、主幹事証券会社に対しては、適切な審査機能を一層発揮することが求めており、取引所における不正リスク対応の強化を踏まえ、証券会社の引受審査機能の適切な発揮に向けて、日本証券業協会と連携して対応していくとしています。
取引所では、会計不正事例から得られた教訓を踏まえ、上場審査に関する研修の充実、IPO関係者・関係機関との連携強化、業界関係者や専門家からのヒアリング、AIの活用等を通じて、不正リスクに関する情報収集・分析能力の向上を図るとしています。
加えて、自主規制法人内において不正リスクに応じた機動的な情報連携を徹底するとともに、不正リスクの程度に応じて標準審査期間を弾力的に運用することで、不正リスクへの対応という観点から上場審査体制の一層の充実を図るとされています。
本公表を受け、上場準備会社においては、自社のビジネスモデルに内在する会計不正リスクを改めて点検し、取引の実態が適切に会計処理へ反映されているかを検証することが重要となります。特に、代理店の利用比率が高いビジネスモデルや、取引関係が複雑なビジネスモデルにおいては、内部管理体制の実効性向上が不可欠です。
また、内部通報制度については、形式的な制度整備にとどまらず、実際に機能しているかを定期的に検証し、必要に応じた改善を行うことが求められます。経営陣および社外役員が会計不正防止に関する共通認識を持ち、ガバナンス体制全体として不正を許容しない企業文化を醸成することが重要です。
今回の公表は、IPO市場全体の信頼性向上を目的とするものであり、上場準備会社にとっては、ガバナンスおよび内部管理体制を改めて見直す重要な機会となります。これらの対応を着実に進めることが、円滑な上場および上場後の持続的成長につながるものと考えられます。