関連法令等の改正(新規上場時の会計不正事例を踏まえたIPO関係者の対応について)

EY新日本有限責任監査法人
企業成長サポートセンター
潮田 和也

1.  新規上場時の会計不正事例を踏まえたIPO関係者の対応について」の公表

2026年3月、日本取引所グループ(東京証券取引所および日本取引所自主規制法人)、日本証券業協会および日本公認会計士協会は、「新規上場時の会計不正事例を踏まえたIPO関係者の対応について」を共同で公表しました。

本公表物は、各団体が最近の新規上場会社等における会計不正事例の発生を踏まえ、2025年12月から2026年3月にかけて公表した対応策を基に、それらを一定の視点で取りまとめ、IPO関係者の対応策として概要を示したものです。

また、本公表物では、不正の手口の複雑化・巧妙化に対応するためには、証券取引所、主幹事証券会社および監査法人が、不正リスクに対応した審査・監査の能力向上に努めることに加え、不正の発生を未然に防止するためには、上場準備会社に対する情報発信や啓発活動を推進していくことが重要であるとされています。また、そのためには、これらの関係者が、対応策の趣旨を踏まえ、相互に協力して対応することの重要性が強調されています。

2.  対応策の概要(全体像)

本公表物では、対応策について、対応の実効性を確保しつつ、上場準備会社に過度な負担を課すことを避けるとの基本方針のもと、以下の4つの視点から整理が行われています。

(1) 会計不正事例を踏まえた不正リスク対応
(2) 不正リスクに関する情報収集・連携
(3) 上場準備会社役員に対する啓発等の取組み
(4) 不正リスクに関する審査・監査能力の向上

このうち、(4)は、IPO関係者側の能力向上に関する対応策であることから、以下では、上場準備会社にも関係する(1)~(3)の取組みについて解説します。

なお、以下では、日本取引所グループの対応策を「(取)」、日本証券業協会(引受主幹事証券会社)の対応策を「(証)」、日本公認会計士協会(監査法人)の対応策を「(会)」と表記します。
 

(1) 会計不正事例を踏まえた不正リスク対応

直近に発生した会計不正事例では、代理店取引や広告宣伝取引を通じた循環取引が問題となったことに加え、上場準備期間中に監査法人が交代となっていたことから、循環取引等への対応、上場準備期間中の監査人交代への対応、その他不正リスクへの対応の観点から各対応策が整理されています。

① 循環取引等の発生リスクを踏まえた対応

  • 代理店の利用比率が高い場合の実質的な仕入先・販売先の確認(取)(証)
  • 必要に応じて実質的な仕入先・販売先への直接確認の実施(証)
  • 広告宣伝の状況の確認(取)(証)

② 上場準備期間中の監査法人交代等への対応

  • 監査法人交代発生時の上場準備会社および前任監査法人への交代経緯確認(取)(証)
  • 上記対応の実効性確保に向けた守秘義務解除等の環境整備(取)(会)
  • 主幹事証券会社交代時の前任への交代経緯確認(取)

③ その他不正リスクへの対応

  • AI等の新技術を扱う会社の監査を行う場合の監査体制の点検(会)
  • 経営者の資質や上場準備会社の対応等に関して審査対応に懸念が想起される場合の確認(証)
     

(2) 不正リスクに関する情報収集・連携

不正リスクに関する情報収集の強化も重要な柱とされており、内部通報窓口の設置状況の確認や、不正情報の収集の観点から、以下の対応策が示されています。

① 内部通報体制の整備状況の確認

  • 経営陣から独立した通報窓口の設置状況の確認(取)(証)
  • 通報者保護等の通報窓口を有効に機能させるための環境整備状況の確認(取)(証)

② 不正情報の収集・連携

  • 上場準備会社役職員に対する取引所通報窓口の周知および周知状況の確認等(取)(証)
  • 受領した情報の関係者への円滑な連携に向けた環境整備(取)
  • 把握した違法行為の規制当局への報告実施に関する周知(会)
     

(3) 上場準備会社役員に対する啓発等の取組み

経営陣および独立役員に対する啓発活動も重要な柱と位置づけられており、以下の対応策が示されています。

① 経営陣に対する啓発活動の実施

  • 上場準備会社の経営陣に対して上場の責任(誠実性・不正防止)に関する啓発活動を実施(取)(証)

② 独立役員に対する不正防止体制等の評価確認

  • 上場準備会社の独立役員に対して不正防止に向けた体制整備・運用状況の評価を確認(取)(証)

3. まとめ

本公表物は、新規上場時の会計不正を個別事象として捉えるのではなく、IPO関係者全体で不正リスクに対応する枠組みを整理・明確化した点に特徴があります。今後、上場準備の現場においても、本対応策の趣旨を踏まえた運用が進むことが想定されます。

上場準備会社としては、本対応策を踏まえ、以下の点を改めて確認しておくことが有用です。

  • 取引構造や収益認識について、第三者の視点から十分に検証が行われているか
  • 監査法人および主幹事証券会社との間で、不正リスクに関する認識共有が十分になされているか
  • 内部通報制度およびコンプライアンス体制が実効的に運用されているか

また、これらの検討を進めるに当たっては、引受主幹事証券会社および監査法人と早期から十分に連携し、必要に応じて事前に相談を行いながら進めていくことが重要です。

EY Japan Assurance Hub

EY新日本有限責任監査法人が経営・経理・財務に携わる方に向けて企業会計・サステナビリティ開示情報の解説や経営インサイトをお届けします。