EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
2025年7月発行のIPOガイドブックを転載したものであり、本文中特に断り書きのない限り、2025年4月15日現在の法令・規則等に準拠して作成しています。
2025年版 IPOガイドブック
株式上場をするためには、主幹事証券による引受審査と証券取引所による上場審査をクリアする必要があります。
引受審査は、主幹事証券が、株式引受の観点から、証券市場に株式を流通するのに値する株式かどうかを判断するために実施される審査となります。具体的には、会社の企業経営の健全性及び独立性やコーポレート・ガバナンス及び内部管理体制の状況、業績の見通しなどが審査されます。主幹事証券による審査実施後、上場会社として相応しい会社であると判断した場合、上場申請書類とともに「上場適格性調査に関する報告書」を証券取引所に提出し、証券取引所が上場審査を実施します。
上場審査は、証券取引所が、会社がパブリックカンパニーになるべく、株式上場の適格性を有しているか否かを判断するために実施される審査です。具体的には、証券取引所が設けている「有価証券上場規程」等によって定められた株主数や時価総額など定量的な基準である「形式要件」と、開示体制やコーポレート・ガバナンスの状況などを確認する定性的な基準である「実質審査基準」への適合状況が確認されます。詳細は、第2章「株式上場の基準」及び巻末の<参考資料>をご参照ください。
引受審査及び証券取引所審査において審査される項目は多岐にわたります。特に、「実質審査基準」では上場審査において上場会社としてふさわしい内容を備えた会社であるかを重点的に確認するため、「有価証券上場規程」において定められた5つの観点から審査が行われます。それぞれの観点別に、審査のポイントとなる項目や事例を以下において説明します。
主幹事証券による引受審査は、一般的には、直前期から上場申請までの期間にわたり実施されます。一方で、証券取引所による上場審査は、市場により一部異なり、プライム市場・スタンダード市場の審査期間は、上場申請から上場承認日まで3ヶ月、グロース市場の審査期間は2ヶ月を目安として実施されます。なお、グロース市場へのエントリーから上場承認までのスケジュールは以下のとおりです。
① 証券取引所へ提出する書類
新規上場申請に伴う書類は、それぞれの市場等によって異なりますが、例えば、グロース市場に上場申請する場合に申請会社が作成し提出する主な資料は、その内容によって、おおむね以下のように大別することができます。なお、書面又はデータにより提出する事になります。
これらのうち、作成に最も時間を要する書類が、上記のうちの「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」と「新規上場申請者に係る各種説明資料」です。
新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)は、「有価証券届出書」の記載に準じた様式となっています。一方、新規上場申請者に係る各種説明資料は、申請会社グループの概要を詳細に記述するものであり、上場審査における中心的な資料となります。なお、プライム市場・スタンダード市場においては、「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅱの部)」の提出が求められ、グロース市場では「新規上場申請者に係る各種説明資料」の提出が求められます。
新規上場申請に伴うこれらの提出書類の雛型は、ウェブサイトで閲覧することができます。
なお、東証の有価証券上場規程等の一部改正が行われ、2023年3月13日から施行されています。
これにより、「新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)」に添付する監査報告書について、改正前までは上場申請時及び上場承認時に東証へ提出することが必要でしたが、改正後は上場承認時までに提出すれば足りるものとされました。(第2章「4.IPOに関する上場制度等の見直しに係る有価証券上場規程等の一部改正について」もご参照ください。)
加えて、「金融商品取引法等の一部を改正する法律」の施行により、2024年4月1日以後に開始する四半期から、四半期報告書が廃止され、従来の第2四半期のみ半期報告書の提出が義務付けられることとなりました。これに伴い、上場申請にあたり、改正前は上場申請期の各四半期に係る「新規上場申請のための四半期報告書」の提出が求められていましたが、改正後は「新規上場申請のための半期報告書」(新規上場日が申請期の6か月を経過した後となる場合)のみ提出が求められることとなりました。
② 主幹事証券会社の審査の段階で提出を求められる書類
証券取引所等への提出資料の他、それに先立って行われる引受証券会社の審査のために提出を求められる資料があります。
求められる資料は証券会社によって異なりますが、ここでは参考までに一般的なものを一部掲げます。
主幹事証券会社審査上の提出書類
新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)は、どの市場に上場申請する場合にも必要です。
「Ⅰの部」は、企業情報、提出会社の保証会社等の情報、特別情報と株式公開情報の4部から構成されています。
この内容は、上場承認後に行われる株式の公募売出しに際し、金融商品取引法の規定により提出が求められている有価証券届出書及び目論見書とほぼ同様の内容となります。
このうちの「第一部企業情報」の内容は、上場した後に継続して開示が要求されている「有価証券報告書」に記載されることになります。
なお、株式上場の際には電子開示制度(EDINET)が適用されますのでご留意ください。
EDINETの詳しい内容に関しては、金融庁ウェブサイトをご覧ください。
「金融商品取引法に基づく有価証券報告書等の開示書類に関する電子開示システム」
新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅱの部)や各種説明資料などは、上場審査時の審査資料として実質的に中核をなすものであり、申請の理由、会社や企業集団の沿革や概況、労務の状況や事務の組織・経営管理体制、役員・大株主の状況、業界・事業の内容、経理の状況の内訳、関係会社の状況、利益計画等の広範囲な内容が記載されます。また、会社の全体を対象とし、また過去数期間にわたった内容の記載が求められるため、それらの根拠資料の正確性、資料相互間の整合性には十分な注意を払って作成する必要があります。そのためには、日常的に必要なデータが正確に収集される体制を整えることが肝要です。
なお、「Ⅱの部」等は、申請会社の全貌が把握できるようになっていますが、上場審査の目的だけに使用され、一般には開示されません。
「Ⅰの部」の概要は以下のようになります。
第一部 企業情報
第1 企業の概況
1. 主要な経営指標等の推移
2. 沿革
3. 事業の内容
4. 関係会社の状況
5. 従業員の状況
第2 事業の状況
1. 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等
2. 事業等のリスク
3. 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析
4. 経営上の重要な契約等
5. 研究開発活動
第3 設備の状況
1. 設備投資等の概要
2. 主要な設備の状況
3. 設備の新設、除去等の計画
第4 提出会社の状況
1. 株式等の状況
2. 自己株式の取得等の状況
3. 配当政策
4. コーポレート・ガバナンスの状況等
第5 経理の状況
1. 連結財務諸表等
2. 財務諸表等
第6 提出会社の株式事務の概要
第7 提出会社の参考情報
1. 提出会社の親会社等の情報
2.その他の参考情報
第二部 提出会社の保証会社等の情報
第三部 特別情報
第四部 株式公開情報
監査報告書
Ⅰ. 上場申請理由について
Ⅱ. 企業グループの概況について
Ⅲ. 事業の概況について
Ⅳ. 経営管理体制等について
Ⅴ. 株式等の状況について
Ⅵ. 経理・財務の状況について
Ⅶ. 予算統制について
Ⅷ. 過年度の業績等について
Ⅸ. 今後の見通しについて
Ⅹ. その他について
(1) 係争、係争事件
(2) コンサルティング契約・顧問契約
(3) 主幹事の決定時期等
(4) 他の金融商品取引所への申請
Ⅺ. 添付書類について
東証は、2022年12月に「新規上場ガイドブック(グロース市場編)」を改訂し、宇宙、素材、ヘルスケアなど、先端的な領域において新技術を活用して新たな市場の開拓を目指す研究開発型企業(ディープテック企業)が、製商品化・サービス化に至っていない段階で上場する場合における審査上のポイント等を開示しました。
これは、ディープテック企業は、技術開発及びビジネスモデルの構築が途上であり、相対的に企業価値評価が困難という特性があるという前提を踏まえつつ、グロース市場「事業計画の合理性」の審査において機関投資家の投資評価を活用しながら、円滑な上場審査を実施することを明確化したものです。
具体的なポイントは、下記のとおりです。
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項目 |
内容 |
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想定される企業 (ディープテック企業) |
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審査内容 |
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求められる開示 |
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出典:(株)東京証券取引所「IPO等に関する見直しの概要」2022年12月より作成
日本取引所グループは、2024年11月11日に「上場審査に関するFAQ集」を公表し、上場準備を行うスタートアップ企業が、IPOの支障になるとの理解から、先行投資やM&Aなどの成長に向けた取組みを見送るケースがあるという実情を踏まえて、過度に保守的な対応をとる必要がなくなるように、上場審査における考え方を明らかにしました。
概要は以下の通りです。
グロース市場において、上場までの黒字化を求める制度はなく、赤字上場は可能です。赤字上場事例(上場申請期が赤字となる業績予想を公表した事例)はこれまでにも多く存在します。一方で赤字上場を行う際には以下の点に気を付ける必要があります。
・成長の実現に向けた取組みの効果やコストを、事業計画に合理的に反映させること
・投資家が適切に評価を行えるよう、自社の成長可能性やそれを実現するための事業計画について、特に丁寧に開示することを心掛けること(「上場できる」ということと、「投資家に評価される」ということは、また別の話)
上場準備中にM&Aを実施しないことを求める制度はなく、上場可能です。これまでも上場準備中にM&Aを行っている事例は多く存在します。一方で、以下の点に気を付ける必要があります。
・M&Aの影響を踏まえた事業計画が適切に策定されていること
・M&A対象を含むグループ全体の管理体制の整備が適切に行われていること
なお、M&Aの実施は主幹事証券会社による引受審査や監査法人の会計監査に影響を与える可能性があり、手戻りが発生し、上場日程が変わってしまうリスクがあります。IPOの支援を行う関係者(主幹事証券会社や監査法人等)と、M&Aを実施する場合にどのような対応が必要となるか、事前に十分なコミュニケーションを行うことが重要です。
上場審査では、予算と実績が乖離した場合、適切な時期に、原因分析を踏まえた予算の策定方法等の見直しや事業計画の修正を行えているかを確認することになり、予算と実績の乖離だけを問題視することはありません。ただし、乖離幅が非常に大きい場合や予算修正の回数が多い場合には、その要因を踏まえ、一定の運用期間を求めることがあります。
業績予想は特定値(1本値)以外の開示も可能です。予測困難な要素によって業績が大きく左右される場合等には、前提条件を付して一定のレンジで開示することや予測困難な理由を示した上で非開示(その代わりに業績面以外の事業計画や業績の進捗状況を丁寧に開示)とするなど、投資家の理解が進むように業績予想の出し方について工夫することも考えられます。
先行投資型バイオベンチャーのビジネスモデルは様々であり、上場審査ではビジネスモデルの特徴を踏まえた確認を ⾏っています。東証では、先⾏投資型バイオベンチャーが、 それぞれのビジネスモデルを踏まえて上場に向けた準備を進めていただくため、「先⾏投資型バイオベンチャーの上場についての考え方と審査ポイント」を公表しています。上場審査での基本的な考え方としては、申請会社のビジネスモデルの特徴を踏まえ、投資者による企業価値評価に必要な情報が開示可能な状態で存在し、その情報が上場後も含め的確に開示されていることが確認されます。例えば、以下のような場合、保有するパイプラインについて、臨床試験での薬理効果の確認や製薬会社とのアライアンスの締結は必ずしも求められません。
・基盤技術を基にしたビジネスで、ライセンスアウトの状況を通じて、当技術の有用性が確認されている場合
・製薬会社とのアライアンスの締結が合理的に見込まれており、パイプラインの事業化を十分に担保している場合で、アライアンスの締結に際し、投資判断に重要と考えられる情報を適時に開示する方針が示されている場合