不動産に係る新リース基準の実務ポイント
第1回 一般事業会社における借手の実務論点

寄稿記事

掲載誌:2025年3月10日、週刊 経営財務
執筆者:EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 森 さやか
※「週刊 経営財務」2025年3月10日号掲載

この記事は、『週刊経営財務』3694号(2025年3月10日)に掲載したものです。発行所である税務研究会の許可を得て、EY新日本監査法人がウェブサイトに掲載しているものですので、他への転載・転用はご遠慮ください。



Ⅰ.はじめに

2024年9月に企業会計基準委員会(ASBJ)は、企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」(以下、「リース会計基準」という。)及び企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」(以下、「リース適用指針」という。また、「リース会計基準」と「リース適用指針」を合わせて、「リース会計基準等」という。)を公表しました。リース会計基準等は、原則として、2027年4月1日以降開始される事業年度から適用開始となります(2025年4月1日以後開始する事業年度から早期適用も可能)。

この改正により、従来の借手のオペレーティング・リース処理(賃貸借処理)はなくなり、借手は原則としてすべてのリースのオンバランスが求められるなど借手の会計処理が大きく変更されることになります。財務諸表への影響として資産及び負債が増加するだけでなく、損益計算書やキャッシュ・フロー計算書への影響、さらにROA(総資産利益率)等の経営指標への影響も生じます(図表1参照)。加えて、リースに関する情報を収集するための業務プロセスやシステムへの影響も見込まれるため、リース会計基準の適用対象となる企業は、情報収集や検討など、準備を進められていることと思われます。

今回より3回シリーズで、①一般事業会社における不動産リースの借手の実務論点、②不動産リースの貸手(基礎編)及びグループ間取引の実務論点、③連結グループ内の不動産事業を営む会社における実務論点(不動産業特有の論点)のテーマでそれぞれ解説します。今回は、一般事業会社における不動産リースの借手の視点から、リース会計基準等の適用における各会計処理の確認と、実務上論点となっている事項を交えて取り上げます。

(図表1)リース会計基準導入による代表的な影響

(図表1)リース会計基準導入による代表的な影響
出典:筆者作成

Ⅱ.借手の会計処理の概要及び実務上の論点

リース会計基準等による借手の会計処理の検討過程は(図表2)のような全体像となっています。ここでは、借手の会計処理の中でも、特に検討の対象となる項目について基本的な会計処理の概要と実務上の論点について取り上げます。

1.リースの識別

リース会計基準では、契約にリースが含まれるかどうかをリースの定義に基づき契約締結時に判断する定めが「リースの識別」として設けられています。「リースの識別」は詳細な検討を要するステップで、判断が要求されることが想定されます。

また、この定めはリース会計基準で新しく導入されたため、これまで現行リース基準ではリースとして会計処理されていなかった契約が、リース会計基準ではリースが含まれると判断される場合もあると考えられます。例えば、サービス契約や業務委託契約など、これまでリース取引と捉えていなかった契約についても、リースが含まれると判断される可能性がありますので、契約を網羅的に把握し、契約内容を確認する必要があります。

(図表2)借手の会計処理の全体像

(図表2)借手の会計処理の全体像
(出典)リース会計基準等より筆者作成

(1)リースの識別の会計処理の概要

①リースの定義

リースとは、原資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約又は契約の一部分をいいます(リース会計基準第6項)。契約がリースに該当する要件としては、「特定された資産」であることと、特定された資産の使用を「支配」する権利を移転することの2つが必要になります。詳細は、(図表3)のフローチャートを参照ください。

(図表3)リースの識別に関するフローチャート

(図表3)リースの識別に関するフローチャート
(出典)リース適用指針[設例Ⅰ] より筆者作成

②リースの識別の判断

リースの識別においては、契約の締結時に、契約の当事者は、当該契約がリースを含むか否かを判断することとされています。その判断にあたっては、契約が特定された資産の使用を支配する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する場合、当該契約はリースを含むとされています。また、契約期間中は、契約条件が変更されない限り、契約がリースを含むか否かの判断を見直さないこととされています(リース会計基準第25項〜第27項)。

③リースを構成する部分とリースを構成しない部分の区分

借手及び貸手は、リースを含む契約について、原則として、リースを構成する部分とリースを構成しない部分とに分けて会計処理を行います(図表4参照)。借手は、契約における対価の金額について、リースを構成する部分とリースを構成しない部分とに配分するにあたって、それぞれの部分の独立価格の比率に基づいて配分します。契約における対価の中に、借手に財又はサービスを移転しない活動及びコストについて借手が支払う金額が含まれる場合、借手は当該金額を契約における対価の一部としてリースを構成する部分とリースを構成しない部分とに配分します(リース会計基準第28項、リース適用指針第11項、リース適用指針設例7)。

(図表4)リースを構成する部分と構成しない部分の区分

(図表4)リースを構成する部分と構成しない部分の区分
(出典)リース会計基準等より筆者作成

また、借手は、上述の定めにかかわらず、対応する原資産を自ら所有していたと仮定した場合に貸借対照表において表示するであろう科目ごと又は性質及び企業の営業における用途が類似する原資産のグループごとに、リースを構成する部分とリースを構成しない部分とを分けずに、リースを構成する部分と関連するリースを構成しない部分とを合わせてリースを構成する部分として会計処理を行うことを選択することができるとされています(以下、「リース会計基準第29項の例外規定」という。)

さらに、借手は、財又はサービスを移転しないコストとして、固定資産税や保険料などを負担しますが、借手は、これらの固定資産税及び保険料の金額を把握していたとしても、これを対価から控除せず、リースを構成する部分とリースを構成しない部分とに配分することとしています(リース適用指針BC18項)。

 (2)リースの識別における実務上の論点

①リースを構成する部分、リースを構成しない部分への区分方法

 例えば、オフィスを賃借する場合、契約書において賃料、管理費等の費目が分かれている場合には、それを目安にリースを構成する部分、リースを構成しない部分に区分することが考えられます。しかし、契約書において費目が分かれていない場合、あるいは契約書において費目が分かれていても、それを目安にして区分することが実態にそぐわないケースも実務においては存在すると考えられます。

リースを構成しない部分を区分するのが難しい際には、上述のリース会計基準第29項の例外規定を用いて、両者を区分せずにリースを構成する部分として扱うことになると考えられます。ただし、貸借対照表の科目ごとにリース会計基準第29項の例外規定を用いると、結果的に使用権資産等としてオンバランスされる金額が大きくなることがあります。この際には、リース会計基準第29項において併せて記載されている「性質及び企業の営業における用途が類似する原資産のグループごと」に着目して、例外規定を適用することが考えられます。この結果、貸借対照表科目ごとの適用よりもより適用範囲が細分化され、オンバランスされる使用権資産の増加を抑えられる可能性がありますので、検討することが有用と考えられます。

②リース契約の対価の範囲

リース契約の対価については、借手・貸手ともにリースを構成する部分とリースを構成しない部分に区分します。リースを構成しない部分とは、不動産賃貸借契約に組み込まれている物件貸借以外の役務提供で、日々の清掃や、定期的なメンテナンス、警備等があります。一方で現行のリース会計基準上での礼金や更新料などは一般的にはリースを行うための対価と考えられることから、貸手としてはリース期間で定額法にて収益計上を行うとされ、借手側としても、その裏返しの処理ということで、契約対価に含めて使用権資産やリース負債を計上する必要が生ずる可能性もあるため、改めて検討を行う必要があります。


2.借手のリース期間

現行のリース基準とは異なり、解約不能期間に限定されず、延長又は解約オプションの行使可能性も考慮する必要があるため、借手のリース期間の見積りは複雑な判断を伴うケースが想定されます。

(1)リース期間の会計処理の概要

 借手は、借手のリース期間について、借手が原資産を使用する権利を有する解約不能期間に、次の①及び②の両方の期間を加えて決定するとされています(リース会計基準第31項)。

①借手が行使することが合理的に確実であるリースの延長オプションの対象期間
②借手が行使しないことが合理的に確実であるリースの解約オプションの対象期間

例えば、契約期間が1年6カ月で、1年経つと解約できる解約オプションが付され、また、契約終了後は1年延長できる延長オプションが付されているケースにおいて、会社が契約終了後も1年間の契約延長をすることが合理的に確実と判断する場合、1年間の延長を加味して、リース期間は2年6カ月と判断されることになります(図表5参照)。

(図表5)借手のリース期間の例

(図表5)借手のリース期間の例
出典:筆者作成

なお、ここでいう「合理的に確実」とは、蓋然(がいぜん)性が相当程度高いことを示しており(リース適用指針BC29項)、「合理的に確実」かどうかの判定については、経済的インセンティブを生じさせる要因(図表6参照)を考慮する必要があります(リース適用指針第17項)。

(図表6)経済的インセンティブを生じさせる要因の例


① 延長オプション又は解約オプションの対象期間に係る契約条件(リース料、違約金、残価保証、購入オプションなど)

② 大幅な賃借設備の改良の有無

③ リースの解約に関連して生じるコスト

④ 企業の事業内容に照らした原資産の重要性

⑤ 延長オプション又は解約オプションの行使条件
 

ここでは、要因の例として、大幅な賃借設備の改良の有無を例示に含めていますが、賃借設備の改良が借手のリース期間の判断に影響を与える「大幅な賃借設備の改良」に該当するか否かは、例えば、賃借設備の改良の金額、移設の可否、資産を除去するための金額等の事実及び状況に基づく総合的な判断が必要になると考えられます(リース適用指針BC34項(2)①)。

リース適用指針の設例において、借手が借家契約を行っている場合に、物理的使用期間が賃貸借契約期間より大幅に長く、金銭的にも賃借している建物に対し重要な投資を行っているケースでは、借手としては、延長オプションを行使しないと、投資の減価償却が進まず多額の除却損が発生することになるため、その投資を長期に有効活用しようとするインセンティブが働くことになり、延長オプションを行使することが合理的に確実と判断される場合が示されています。また、不動産を賃借して改良を行い第三者に賃貸するケースや、本社機能や倉庫として賃借設備を大幅に改良しているケースでは、その他の経済的インセンティブも考慮した上でリース期間を決定する必要があります。不動産のリースでは契約期間が長期のものも多く、将来の見積りを行うための情報も必要になると考えられるため、情報収集体制の整備も求められることになります。

(2)実務上の論点

①契約が自動更新される場合の借手のリース期間

借手の企業は、貸手と普通借家契約を締結し、建物を賃借しており、借手、貸手いずれも2年間は解約することはできず、2年経過後については、いずれかが解約を通知するまで契約は毎年自動で更新される場合、借手の企業のリース期間はどのように判断することになるのでしょうか。

普通借家権については、借主保護の観点より、賃貸人が更新を拒絶するためには正当な事由が求められるとともに、更新しない旨の通知をしなかったときは、法定更新されます(借地借家法第26条、第28条)。普通借家契約において、借手が契約の継続を希望する場合に、貸手から解約をすることや、契約期間終了時の更新の拒絶は、貸手に正当な事由がない限りできないことから、このような契約では借手は実質的に延長オプションを保持していると考えられます。

このため、借手は、借手のリース期間を決定するに際して、当該延長オプションを行使することが合理的に確実か否かを評価することになります。当該評価にあたっては、(図表6)に記載の内容を考慮することになります。例えば、借手の企業にとって、当該建物が営業戦略上、重要な存在であり、代替可能性は低く、中期経営計画(5年間)において、当該建物を使い続けることを前提にしているような場合には、借手の企業は延長オプションを3回行使することが合理的に確実であると判断して、5年間をリース期間とすることも考えられます。

②借地権の違いによる延長オプションの考え方

借地権には、旧借地権、普通借地権、定期借地権の3種類あります。元々借地権は期限の定めがなく、借手が望めば永遠に更新し続けることができるというものでしたが、借手の権利が強いため家主が土地などを貸したがらず、不動産の有効活用の阻害が起きていることから、1992年にこの借地借家法の改正がなされ、期限を設けた借地権設定ができることになりました。ただし、廃止前から残存している借地権は引き続き有効とされたため、現時点においても改正以前の借地権は存在します。これを旧借地権といいます。

普通借地権は、地主側に土地の返還を請求するだけの正当事由が存在しなければ、借地人が更新を望む限り契約満了時に自動的に借地契約が更新される借地権です。普通借地契約では、①と同様に、借手は実質的に延長オプションを保持していると考えられます。

旧借地権においても、借手が契約の継続を希望すれば、貸手から解約をすることや、契約期間終了時の更新の拒絶は、貸手に正当な事由がない限りできないことから、このような契約では借手は実質的に延長オプションを保持していると考えられます。

定期借地権は、地主側の正当事由の有無にかかわらず、契約満了時に借地人が借地を地主に返還しなければならない借地権です(借地借家法第22条第1項、第23条第1項及び第2項又は第24条第1項)。このため、この契約では実質的に借手は延長オプションを保持していないことになります。それぞれの借地権における延長オプションの保持に関する違いを勘案してリース期間を設定することが必要になります。

(図表7)借地権の種類による借手の延長オプションの判断

借地権の種類

借手の延長オプションの判断

普通借地権

実質的に延長オプションを保持

定期借地権

実質的に延長オプションを保持していない

旧借地権

実質的に延長オプションを保持

借地権の権利金等については、使用権資産の取得価額に含め、原則として借手のリース期間を耐用年数とし、減価償却を行います。ただし、旧借地権の設定に係る権利金等又は普通借地権の設定に係る権利金等のうち、(図表8)の①又は、②の権利金等については、減価償却を行わないものとして取り扱うことができます(適用指針第27項)。

(図表8)権利金のうち減価償却を行わないものとして取り扱うことができるもの

①リース適用指針の適用前に旧借地権の設定に係る権利金等及び普通借地権の設定に係る権 利金等を償却していなかった場合、本適用指針の適用初年度の期首に計上されている当該権利金等及び本適用指針の適用後に新たに計上される権利金等の双方
②本適用指針の適用初年度の期首に旧借地権の設定に係る権利金等及び普通借地権の設定に係る権利金等が計上されていない場合、本適用指針の適用後に新たに計上される権利金等

なお、権利金の償却については、リース適用指針第27項第1段落に定める原則的な取扱いを適用する借手がリース会計基準の適用初年度の期首に計上されている旧借地権の設定に係る権利金等又は普通借地権の設定に係る権利金等を償却していなかった場合、当該権利金等を使用権資産の取得価額に含めた上で、当該権利金等のみ償却しないことができます(リース適用指針第127項)。

このほか、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の適用初年度の累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することを選択するときに、償却していた借地権の設定に係る権利金等の帳簿価額を適用初年度の期首における使用権資産の帳簿価額とすることができる場合や、会計基準の適用初年度における使用権資産の期首残高に含まれる当該権利金等については、償却していなかった当該権利金等を計上した日から借手のリース期間の終了までの期間で償却するものとして、当該権利金等を計上した日から償却した帳簿価額で計上することができる場合などの定めがあります(リース適用指針第128項、第129項)。

(図表9)借地権の権利金等の会計処理

(図表9)借地権の権利金等の会計処理
*1 残存価額がある場合には残存価額を控除する。ただし、見積りが困難である場合は残存価額をゼロとすることも考えられるとされている
*2 旧借地権及び普通借地権の権利金等が対象
*3 適用前に償却していなかった場合、既存の権利金と新規をともに償却しない、又は既存のものだけ償却しないことが認められる(経過措置から)
(出典)リース適用指針第27項、第127項〜第129項より筆者作成

①リース物件における附属設備の耐用年数と借手のリース期間との関係

借手のリース期間とリース物件における附属設備の耐用年数は、相互に影響を及ぼす可能性がありますが、それぞれの決定における判断及びその閾値は異なるため、借手のリース期間とリース物件における附属設備の耐用年数は、整合する場合、整合しない場合、どちらも生じうると考えられます。

例えば、リース物件に造作した附属設備のある店舗について、5年ごとにリニューアルによる追加コストが発生する場合、リニューアルを行ってまで延長オプションを行使するかは、店舗の損益の状況次第になり、借手のリース期間中の除去及び借手のリース期間後の使用を見込んでいない場合には、当該附属設備の耐用年数が借手のリース期間と整合し、リース期間後の使用を見込んでいる場合には、整合しないと考えられます(リース適用指針BC34項(2)②)。

②フリーレント期間の扱い

フリーレントとは、賃貸する際に数カ月分の賃料を無料にする契約をいい、借手のリース期間は、リースの開始日(リース会計基準第18項)に開始することから、フリーレント期間は借手のリース期間に含まれることが明らかであるとされました(ASBJ「リースに関する会計基準(案)」等に対するコメントへの対応71)。この取扱いは基本的には現行基準と変わりません。例えば少額リースに該当し使用権資産及びリース負債を計上せず、原則として定額法により費用を計上する賃貸借処理がなされるケースでは、フリーレント期間(6カ月)とリース料(月12)を支払う期間(2年半)からなる全体で3年間のリース期間である場合、リース期間全体(3年間)にわたって、総支払リース料(12×30カ月=360)を36カ月で除した額(360÷36=10)を毎月のリース料として費用処理します。
 

3.借手のリース料

(1)借手のリース料の会計処理の概要

「借手のリース料」とは、借手が借手のリース期間中に原資産を使用する権利に関して行う貸手に対する支払であり、次のもので構成されます。

①    借手の固定リース料
②    指数又はレートに応じて決まる借手の変動リース料
③    残価保証に係る借手による支払見込額
④    借手が行使することが合理的に確実である購入オプションの行使価額
⑤    リースの解約に対する違約金の借手による支払額(借手のリース期間に借手による解約オプションの行使を反映している場合)

借手のリース料には、契約におけるリースを構成しない部分に配分する対価は含まれません(ただし、借手がリースを構成する部分とリースを構成しない部分とを分けずに、リースを構成する部分と関連するリースを構成しない部分とを合わせてリースを構成する部分として会計処理を行う場合を除く。リース会計基準第19項)。

「借手の固定リース料」とは、借手が借手のリース期間中に原資産を使用する権利に関して行う貸手に対する支払であり、借手の変動リース料以外のものをいいます(リース会計基準第20項)。

「借手の変動リース料」とは、借手が借手のリース期間中に原資産を使用する権利に関して行う貸手に対する支払のうち、リース開始日後に発生する事象又は状況の変化(時の経過を除く。)により変動する部分をいいます。借手の変動リース料は、指数又はレートに応じて決まる借手の変動リース料とそれ以外の借手の変動リース料により構成されます(リース会計基準第21項)。

(2)借手のリース料の実務上の論点

①借手のリース料の範囲

リースの対価としての貸手への支払すべてを含むものではなく、例えば、指数又はレートに応じて決まるもの以外の借手の変動リース料『市場における賃料の変動を反映するように当事者間の協議をもって見直されることが契約条件で定められているリース料が含まれる(リース適用指針 第24項)。リース対象不動産を利用することで得られる売上高に連動するリース料等)は、借手のリース料には含まれません。

借手のリース料に基づき使用権資産及びリース負債が計上されますので、リースの対価としての支払であっても借手のリース料に該当しない場合、オンバランス対象にはならないことになります。ただし、注記の対象とはなりますので、情報収集は必要となる点に留意する必要があります。

②移転費用等のリース・インセンティブ

借手は、原則として、リース開始日において未払である借手のリース料からこれに含まれている利息相当額の合理的な見積額を控除し、現在価値により算定する方法によりリース負債の計上をします(リース適用指針第34項)。また、当該リース負債にリース開始日までに支払った借手のリース料、付随費用及び資産除去債務に対応する除去費用を加算し、受け取ったリース・インセンティブを控除した額により使用権資産を計上します(リース会計基準第33項)。

リース・インセンティブについて、明確な定義はありませんが、実務において当てはまる例として、貸手が借手に移転費用の援助を行うことがあります。このような場合は、貸手から借手にリース契約への動機づけとして支払う実質的な値引きですので、リース・インセンティブに該当すると考えられます。この場合には、移転費用を控除した額により使用権資産を計上することに注意が必要です。

③少額リースの判定(将来返還されない敷金を含めるか)

リース適用指針では、敷金の差入企業である借手は、差入敷金のうち、差入敷金の預り企業である貸手から差入企業である借手に将来返還される差入敷金について、原則として、取得原価で計上します。差入企業である借手は、差入敷金のうち、差入敷金の預り企業である貸手から差入企業である借手に返還されないことが契約上定められている金額を使用権資産の取得価額に含めることになります(リース適用指針第33項、第34項)。

少額リース料の判定において、将来返還されない敷金についてどう反映させるかが論点になるケースがあります。

差入敷金のうち返還されないものについての会計的性格として、リース適用指針BC65項では「毎月支払われるリース料と相違はない」とされています。

「将来返還されない敷金」は単なるリース料の前払と考え、少額リースへの該否の判定においては、リース契約1件当たりの金額に含めた上で、300万円以下であるかどうかを判定することになると考えられます。少額リースの判定では、「契約1件当たりの金額」に基づきますが、当該金額から、リース開始日までに支払った借手のリース料は控除してよいという定めにはなっておらず、リース開始日までの支払の有無にかかわらず、借手のリース料の全額は「契約1件当たりの金額」に当然含めるべきであると考えられます。

 

Ⅲ.おわりに

今回は一般事業会社における不動産リースの取引につき、第1回目として、リースの定義及び識別、リース期間、リース料の項目において、会計処理の概要と想定される実務上の論点について触れてきました。リース会計基準等への対応で契約情報を収集、整理される際にご留意いただければと思います。次回は不動産リースの貸手(基礎編)及びグループ間取引の実務論点をお届けします。


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