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EY新日本有限責任監査法人 品質管理本部 会計監理部 公認会計士 益子 卓也
品質管理本部 会計監理部において、会計処理及び開示に関して相談を受ける業務、並びに当法人内外への情報提供などの業務に従事している。
2025年10月29日に、企業会計基準委員会(以下、ASBJ)より、企業会計基準公開草案第89号「金融商品に関する会計基準(案)」及び企業会計基準適用指針公開草案第88号「金融資産の予想信用損失に係る会計上の取扱いに関する適用指針(案)」等の公開草案(以下、これらを合わせて「本公開草案」)が公表されています。
本公開草案においては、金融資産の減損に関する会計基準の開発にあたって、IFRS会計基準の予想信用損失モデルを基礎としています。一般事業会社の通常の営業債権等への影響は限定的といえますが、一方で、金融機関において、原則的な予想信用損失の算定方法を適用する場合には、実務上の影響は非常に大きなものとなります。財務諸表に大きな影響を与える可能性がある金融機関においては、早めに対応を検討する必要があると考えられます。本稿では、金融機関のみならず、一般事業会社にも影響があると考えられる本公開草案の基本的な内容について解説します。なお、文中意見に係る部分は筆者の私見である旨、あらかじめ申し添えます。
2016年にASBJから公表された中期運営方針では、わが国における会計基準を国際的に整合性のあるものとするための取組みの1つとして金融商品に関する会計基準が挙げられており、わが国における会計基準の改訂に向けた検討に着手するか否かの検討を行うとされていました。その後、ASBJにおいて、2018年に行われた適用上の課題とプロジェクトの進め方に対する意見募集も踏まえた検討が行われた結果、「金融資産の減損」に関しては、国際的に予想信用損失モデルが導入されており、国際的な整合性を図る観点から、開発に着手する意義は高いと結論付けられました。なお、国際的な会計基準において予想信用損失モデルは、合理的で裏付け可能な将来予測情報を反映し、予想信用損失をより適時に認識することを意図して開発されています。
こうした状況を踏まえ、わが国においても2019年に金融資産の減損について会計基準の開発に着手することが決定され、ASBJにおいて数年にわたり議論が重ねられ、今般、2025年10月29日に本公開草案が公表されるに至りました。
また、本公開草案を適用するにあたり、実務に資するための情報を提供することを目的として、補足文書(案)「金融資産の予想信用損失に係る会計上の取扱いについて(案)」(以下、補足文書(案))が併せて公表されました。
本公開草案の一般事業会社及び金融機関への主な影響は、<図1>のとおりです。
図1 改正基準の影響の分類
今回の改正において、原則的な予想信用損失の算定方法を適用する場合には、IFRS第9号を適用した場合と同じ実務及び結果が得られると認められる算定方法となりますが、実務上の影響は非常に大きなものとなると考えられます。また、IFRS第9号と同様の算定方法を出発点として、適切な引当水準を確保した上で実務に配慮した方法として、一部の項目(<図1>の4点)について簡素化された方法も提案されています。
一方、主に一般事業会社において影響があると考えられる企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」の範囲に含まれる取引から生じた受取手形、売掛金等に係る債権についての単純化したアプローチが提案されています。これは主に、原則的な予想信用損失の算定方法にて求められている、信用リスクの著しい増大の判定が省略できることが挙げられ、FRS第9号における単純化したアプローチと同様の提案となります。
本公開草案では、予想信用損失を算定する範囲について、<図2>のとおり提案されています。
図2 予想信用損失を算定する範囲
満期保有目的の債券については、満期まで保有することによる約定利息及び元本の受取りを目的としており、満期までの間の金利変動による価格変動のリスクを認める必要はないとされています。このことから、時価を考慮することなく信用リスクのみに焦点を当てることが適切と考えられるため、本予想信用損失を算定する範囲に含めることとされました。一方、その他有価証券に分類される債券について予想信用損失モデルを適用するかどうかは、金融商品の分類及び測定と併せて検討する必要があると考えられるため、予想信用損失を算定する範囲に含めないこととされています。
ただし、貸付金代替性私募債※については、現状、その他有価証券に分類されている場合があると考えられその経済的な実質が貸付金とほぼ同一と考えられることから、貸付金に含めて取り扱うこととし、予想信用損失を算定する範囲に含めることとされています。
また、発行者における金融保証契約及び貸出コミットメント等については、IFRS第9号における予想信用損失モデルの適用対象と整合させるために、本公開草案では、予想信用損失を算定する範囲に含めています。
※貸付金の代替として銀行が引き受けて保有する私募債をいう。
原則的な予想信用損失算定方法における信用リスクの著しい増大に関する判定の内容は<図3>のとおりです。
図3 信用リスクの著しい増大に関する判定
本公開草案においては、債権単位で当初貸出実行時からの信用リスクの著しい増大に応じて引当額を算定する相対的アプローチが提案されています。相対的アプローチの最も特徴的な点は、判定時点で同じ信用リスクの債権であっても、当初貸出実行時の信用リスクの相違により、判定結果が異なり得ることとなります。そして、信用リスクが著しく増大していない債権等については12カ月の予想信用損失を算定し、信用リスクが著しく増大している債権等については、全期間の予想信用損失を計算することが提案されています。
予想信用損失とは、信用損失を確率加重平均したものをいい、信用損失とは、企業に支払われるべきすべての契約上のキャッシュ・フローと、企業が受け取ると見込んでいるすべてのキャッシュ・フローとの差額(すなわち、すべてのキャッシュ・フローの不足額)を現在価値に割り引いたものとすることが提案されています。
原則的な予想信用損失の算定方法については、<図4>に記載の内容を反映する方法により算定することが提案されています。
図4 予想信用損失の算定方法
①に関しては、最も可能性の高いシナリオ1つのみを考慮するのではなく、複数のシナリオを考慮することが求められています。なお、すべての考え得るシナリオを特定する必要はないものの、信用損失が発生しないことが最も可能性の高い場合や信用損失が発生する可能性が非常に低い場合であっても、両方の可能性を反映して、信用損失が発生するリスク又は確率を考慮することになります。
②に関しては、予想信用損失の算定において、デフォルトが発生すると予測されるまでの期間ではなく、期末までの期間にわたり、予想信用損失を割り引くことで貨幣の時間価値を考慮します。割引を行う際には、原則として債権等の発生の認識時における実効金利又はその近似値を用いることになります。
③に関しては、期末において過大なコストや労力を掛けずに利用可能な合理的で裏付け可能な情報を考慮することになります。その際、企業内部又は外部のさまざまな情報源を用いることができます。また、予想信用損失の算定にあたって、貸倒実績などの過去の情報を用いる場合、GDP、失業率、不動産価格等の観察可能なデータの変動を予想信用損失の算定に反映します。
原則的な予想信用損失の算定方法についてはこれらすべてを考慮することが求められ、相応の実務負担がかかることになると考えられます。
予想信用損失の算定において、特に実務上の負担が重いと考えられる<図5>の4つの項目について、簡素化された予想信用損失の算定方法を定めることが提案されています。
図5 簡素化された予想信用損失の算定方法
原則的な予想信用損失の算定方法は国際的な会計基準との整合性を図るものであり、IFRS第9号を適用した場合と同じ実務及び結果となると認められる会計基準を目指しています。これに対して、簡素化された予想信用損失の算定方法は、適切な引当水準を確保した上で実務負担に配慮することを目的として開発されました。具体的には、<図5>のとおり、信用リスクの著しい増大に関する判定、債権等の予想存続期間、将来予測シナリオ、貨幣の時間価値の4つの項目について、簡素化された方法が提案されています。これらは企業の判断により個別に選択して適用できることが提案されています。
なお、信用リスクの著しい増大に関する判定における内部信用格付の区分については、企業会計基準適用指針公開草案第88号「金融資産の予想信用損失に係る会計上の取扱いに関する適用指針(案)」第57項から第62項に従って、正常先、要注意先、破綻懸念先、実質破綻先及び破綻先に区分して、区分に応じて債権等の発生の認識以降に信用リスクが著しく増大しているかどうかの判定を行うことになります。
通常の営業取引から生じる営業債権(収益認識会計基準」の範囲に含まれる取引から生じる受取手形及び売掛金等)及びリースにより生じた債権については、<図6>のような単純化したアプローチが提案されています。
図6 営業債権等に係る単純化したアプローチ
通常の営業取引から生じる受取手形及び売掛金等、並びにリースにより生じた債権についてはIFRS第9号において定められている営業債権、契約資産及びリース債権についての単純化したアプローチに関する定めを取り入れることとされました。その結果、<図6>のとおり、信用リスクの著しい増大の判定の省略が可能となっていますが、②重要な金融要素を含む受取手形及び売掛金等、③リースにより生じた債権については、単純化したアプローチを会計方針として選択する必要がある点は注意が必要です。また、本公開草案では、収益認識会計基準の範囲に含まれる取引から生じた受取手形、売掛金等に係る12カ月又は全期間の予想信用損失を算定する際、貸倒実績に基づき、一定の期日経過日数に応じた引当率を定める方法を用いることができることとされています。これは、貸倒実績に基づき、将来予測的な見積りを反映して予想信用損失を算定する方法の例示であり、予想信用損失の算定に関する実務への適用に資するものであると考えられることから、IFRS第9号の定めを取り入れることとしたものです。
本公開草案における償却原価に係る会計処理は<図7>のとおりです。
図7 償却原価
<図7>の概要に記載のとおり、貸付金及び重要な金融要素を含む債権並びに満期保有目的の債券の償却原価の算定にあたっては、原則として実効金利法を適用することが提案されています。この趣旨は、予想信用損失モデルの導入に伴い、予想信用損失の算定において貨幣の時間価値を反映する際に用いられる金利と予想信用損失の算定の対象となる金融資産の償却原価の算定に用いられる金利が整合的になるようにとの考えに基づくものです。なお、実効金利に含める手数料等の範囲については、原則としてIFRS第9号と同一の範囲が提案されており、従来の償却原価法における利息法よりも広いと考えられます。結果として実効金利法における計算結果はIFRS第9号の実効金利と原則として同じ結果になるように設計されていますが、実務負担軽減のため、組成した貸付金及び重要な金融要素を含む債権のうち発生の認識時に信用減損していないもの等の一定の要件を満たす場合には、簡便的なオプションや、<図7>に記載している従来からの金利差額調整法の使用も認められ得るものとなっています。
財務諸表利用者が企業の財政状態、経営成績、キャッシュ・フローの状況を適切に理解するために、追加的で有用な情報を提供することを目的として、信用リスクに関する注記の開示目的が新たに定義されました。これを受けて、<図8>のとおり、予想信用損失の分解情報、信用リスク管理実務及び予想信用損失の算定プロセスに関する情報、当期及び翌期以降の財務諸表への影響を理解するための情報、の3点を注記することが提案されています。これら3点のさらに詳細な項目については、相応の分量の注記が新たに求められることとなっています。また、適用初年度においては、簡便的な開示も許容されており、経過措置の項目にて解説します。
図8 開示目的と注記事項
本公開草案では、適用時期について、<表1>のように提案されています。
表1 適用時期
区分 | 適用時期 | 2027年3月までに基準公表された場合の3月決算会社の適用時期 |
原則適用 | 20XX年4月1日[公表から3年程度経過した日を想定している]以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用 | 2031年3月期 |
早期適用 | 20XX年4月1日[公表後最初に到来する年の4月1日を想定している]以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から本会計基準を適用することができる なお、この場合には、同時に公表又は改正された一連の会計基準等についても同時に適用する必要がある | 2028年3月期 |
出所:本公開草案を基にEY作成
適用時期については、最終基準公表日のタイミングに影響を受けますが、例えば2027年3月までに最終基準が公表された場合、3月決算会社においては、2031年3月期の期首より原則適用となります。これは、改正後の「金融商品に関する会計基準」について、金融機関に対する影響が特に大きいと考えられることから、システム開発やモデルの構築など、実務上の負担への対応が考慮されたものになります。なお、早期適用に対するニーズが存在することを考慮し、早期適用を認めることも提案されています。
本公開草案においてはすべてを原則的な方法で対応する場合に相応の実務負担があることから、いくつかの経過措置が設けられており、遡及適用、比較情報、信用リスクが著しく増大しているかどうかの判定、注記、の4つの観点から、適用初年度における簡便的な取扱いが用意されています(<図9>参照)。
図9 主な経過措置
EYのプロフェッショナルが、国内外の会計、税務、アドバイザリーなど企業の経営や実務に役立つトピックを解説します。