EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本稿の執筆者
EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 伊藤 ゆかり
主に、物流、不動産、サービスなど多くの上場、非上場会社の監査に従事する他、長期的価値(LTV)などの非財務情報に係る業務にも従事。
※所属・役職は記事公開時のものです
要点
2025年3月に公開した「情報センサー」業種別シリーズの記事「鉄道業におけるサステナビリティ情報の保証のポイント(サイト往査編)」において、サステナビリティ情報の保証業務の1つであるサイト(拠点)往査の一連の流れについて、保証業務実施者の観点から説明しました。その続編として今回は、本社往査と開示検討の一連の流れについて説明します。本稿は、温室効果ガス(GHG)排出量に対する限定的保証(任意保証)を前提とし、当該保証に対応する本社往査、開示検討に関するものです。また、会社の状況や保証の内容によって実施する内容が変わり得る点についてご留意ください。
なお、意見に関する部分は、筆者の個人的な見解であることをあらかじめご承知おきください。
サステナビリティ情報の保証業務において実施する実証手続については大きく3つのフェーズに分かれます。すなわち、サイト往査、本社往査、開示検討です。本社往査においては、総括的手続の実施、事業所・子会社といった拠点のエネルギー使用などのデータが網羅的に正確に集計されているか、GHG排出量などへの換算が適切に行われているかを検討します。
保証対象(主題情報)は、サステナビリティ開示基準(以下、SSBJ基準)(プライム市場上場企業を中心に2027年3月期以降企業規模に応じて段階的に適用予定)適用前の任意保証を前提としている現状の実務においては、企業の開示の内容を踏まえ、企業との協議に基づいて決定されることになります。したがって、契約締結にあたり、保証対象、集計範囲、算定方法などを企業と合意し確認することが必要となります。保証対象については、前年度から変更がないか確認し、前年度から項目が追加された場合には、当該項目について会社の体制が整備され、保証可能であるかどうか検討を行います。集計範囲については連結か単体か、国内のみか海外を含むのか、本業のみか関連事業を含むのか、テナント委託先を含めるのかの論点があります。
鉄道業においては、列車の運行だけでなく、駅・車両基地・変電所などのインフラ、駅ビル・商業施設、不動産賃貸・開発など多角化経営を展開している企業が多く、集計範囲や算定方法を明確化することが重要となります。また、他社と相互乗り入れしている場合においては、電力使用量とその費用を精算する実務があり、そのような場合には計算が複雑となるため留意が必要です。
サステナビリティ担当役員や実務責任者とのディスカッションを行い、環境経営を推進する上でのリスク、重視しているステークホルダー、重視している指標や取り組み方針、サステナビリティ情報の作成にあたり不正や違法行為の有無などについて協議を行います。これにより、どの情報に固有のリスクがあるのかを把握し、重要な虚偽表示のないサステナビリティ情報の作成を可能にする内部統制のプロセスを理解します。これは、「国際サステナビリティ保証基準(ISSA)5000『サステナビリティ保証業務の一般的要求事項』」の要求事項です。
保証対象データの集計プロセスに係る内部統制の理解をします。各拠点での入力、集計、レビュー、本社での集計作業という一連の流れの中で、どのような統制が存在し、どこにリスクが存在するかを把握します。これは開示情報レベルでの不正または誤謬による重要な虚偽表示リスクを識別し、評価するために実施します。また、統合報告書などの開示及び報告書日までの全体のスケジュールや決算日、データ集計状況の確認も行います。
本社往査では、保証範囲に応じて、保証業務実施者が結論を表明するに足る十分かつ適切な証拠を入手するために、分析的手続、質問、査閲、証憑突合などを実施します。その過程で特に時間を要するのが、各サイト(拠点)から報告されたデータの集計の確認です。サイトでは、電気・LPG・都市ガス・液体固定燃料(重油、ガソリン、軽油など)・熱など複数の項目の入力が必要となり、またそれぞれ入力の単位も異なるため、誤入力や集計漏れが発生することがあります。そのため、業務マニュアルの作成・展開状況を確認し、サイトで適切に入力が行われ、それをチェックする体制が整備されているのか、異常値があった場合にどのように識別し対処しているのか、また本社へ報告するプロセスが明確になっているかを確認します。
システムを利用して集計している場合には、システムのアクセス制限、承認機能、異常検知機能などについても確認します。
網羅的かつ正確にデータが集計されていることを確認するために、分析的手続を実施します。例えば、保証対象年度と前年度のデータの対比を行い、説明のつかない異常な増減がないか、定性的な情報と整合が取れているか、データの欠落や二重計上がないかなどを確認します。必要に応じて、月次推移の趨勢分析や前年同月比較も実施します。分析的手続を実施するにあたっては、企業の状況の変化、具体的には、既存組織の変更(工場の新設・廃止、部署の新設・廃止・統合など)や組織再編の影響により、データ集計がどのように変わるのかを確認することもポイントとなります。
なお、後述の通り、現状実務では排出量の算定にあたっては2次データとして財務数値などのデータが利用されることが多いため、保証業務実施者が会計監査人である場合、分析が効果的かつ効率的に実施されることが期待されます。
上記分析的手続とは別に、サイト往査のフォローとして、サイト往査で確認したデータが適切に集計データに反映されていることも確認します。期中にサイト往査を実施した場合には、期末までの間の月次推移の趨勢分析を実施し、追加の確認事項があった場合には本社または親会社を通じて拠点担当者に確認を行います。また、サイト往査で発見された検出事項があった場合には、全社的に見直し・修正が行われているかを確認します。
各サイトの集計データを確認し、サンプルで集計データに関するエビデンスを入手して、証憑突合を行います。サンプルは最も数量が多い拠点や月などを基に選定します。限定的保証における主たる手続は分析的手続ですが、その補強という位置付けで実施する場合があります。
鉄道業の場合には、駅ビルや駅構内店舗など、隣接または包含する拠点が存在する場合があり、また、細かいものも含めて拠点数が多いことから、網羅的に集計できているかという観点でマスター登録の確認にあたっては特に注意が必要です。不動産業を展開している場合にはテナントのデータを含めるか否か(任意開示においては企業による裁量があるため)、含める場合にはテナントからのデータ報告が必要となり、適切なテナントの協力体制が構築できるのかがポイントとなります。
SSBJ基準による開示対応の早期化に向けて、報告期間に係るデータの集約が間に合わないことなどにより、一部の期間に見積りに基づく概算値が使用されることも考えられますが、見積りには不確実性を伴うため慎重な検討が必要です。
サステナビリティ情報の開示実務はまだ年数が浅いことから、いわゆる2次データが使用されることが多く、例えば財務数値などのデータに排出係数を乗じて、GHG排出量が算定されます。算定にあたっては、適用される規準(クライテリア)に従った排出係数が用いられているか、また、最新の排出係数が使用されているかを確認します。また、Scope3においては、費目・活動内容に合った適切な換算係数が適用されているかを確認します。係数の更新漏れや換算係数誤りは、GHG排出量の数値に大きな影響を及ぼすため、慎重なチェックが必要です。すべてのデータがシステムで自動的に換算されるケースは少なく、実務的には表計算などを駆使して集計している場面が多く見られます。システムによる自動計算が行われない場合には、資料間の整合性についても確認します。
本社往査実施後に、統合報告書などへの適切な開示がなされているかを検討します。
統合報告書には複数部門が関与し、外部に作成を依頼しているケースもあることから、統合報告書において保証対象が開示される場合、適時に修正することが難しいことが起こり得ます。そのため早期にドラフトを入手し、数値・記載の内容を確認する必要があります。また、表やグラフが用いられる場合には文章との整合性を確認する必要があります。
今後監査済財務諸表と同時に開示されることになった場合には、当該財務諸表とサステナビリティ情報との間に重要な相違がないことを確認することも必要となります。例えば、重要な会計上の見積り注記において記載されている仮定と、サステナビリティ情報の仮定とが整合しているか、売上規模の増減とGHG排出量の増減は整合しているか、などを確認する必要があります。
サステナビリティ開示は一度開示したら終わりではなく、定義や範囲の見直し、データ精度の向上、開示レベルの高度化、開示の早期化に向けて継続的に協議していく必要があります。SSBJ基準に基づくサステナビリティ情報開示においては、法定開示書類である有価証券報告書において開示を行うことが求められ、経過措置はあるものの、開示の早期化への対応は必須となります。また関連する財務諸表と同じ連結ベースの企業集団での開示が求められるため、任意開示を行っていた企業においては網羅性を担保した情報開示を行うための準備が必要となります。
実施時期については期中と期末日後に分けて複数回実施する場合と、期末日後にまとめて実施する場合があります。
複数回実施する場合は、集計ミスや換算誤りなどの誤謬を早期に発見することができます。また、集計の早期化に対応することができ、SSBJ基準対応も可能となります。ただし、会社側で期中のサステナビリティ情報を集計する体制が整っている必要があります。
まとめて実施する場合は、報告書日までの期間が短い場合には、検出された問題点の修正対応が完了しない恐れがあります。
本社往査では鉄道業における事業の多様性や拠点が多いという特色があることから、データの集計の確認は特に留意が必要です。また、今後のSSBJ基準への対応に向けた開示の早期化への対応も必要になります。そのため、保証業務実施者は本社または親会社と十分にコミュニケーションを取りながら進めることが重要です。
サステナビリティ情報の保証業務における手続の1つである本社往査・開示検討について一連の流れを把握するとともに、鉄道業の特徴を踏まえた実務的な留意点について考察します。
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