EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
有価証券報告書におけるサステナビリティ情報開示は、企業の中長期的な事業価値創造や将来財務に重要な影響を及ぼすレジリエンス戦略を理解するための中核的開示媒体として、その位置づけが急速に変化してきています。その象徴が、サステナビリティ開示基準(以下「SSBJ基準」という)の適用に係る2026年2月20日に公布・施行された「企業内容等の開示に関する内閣府令及び特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」等と、第三者保証制度の導入です。
この変化は、開示担当部門だけでなく、取締役会等のガバナンス責任者、そして 監査役・監査役会の役割を大きく変え得るものです。具体的な法改正はこれからであるものの、その動向に係る注目は高まっており、どのような備えが必要か、問い合わせが増えています。
そこで、本稿では、制度背景を整理した上で、サステナビリティ情報開示において、ガバナンス責任者・監査役に今後どのような役割が求められるのか、実務の視点から解説します。
SSBJ基準は、サステナビリティ情報を「非財務情報」ではなく、サステナビリティ関連財務情報として定義しています。すなわち、短期・中期・長期にわたり、企業のキャッシュ・フロー、資本コスト、財務状態に影響を与えるリスクと機会、及びそれに対する企業の対応戦略を説明する情報です。
この考え方は、従来の「ESGの取組み紹介」や「CSR報告」とは明確に異なり、「経営戦略や事業計画が、サステナビリティ上のリスク・機会をどう織り込んでいるのか」を有価証券報告書上で投資家に説明することが求められていることを意味します。
SSBJ基準では、開示項目として、以下の4つのコア・コンテンツが求められています。
このうち「ガバナンス」は、単に委員会を設置しているかどうかではなく、誰が、どのように、サステナビリティ関連リスク・機会に係る企業の取組みを監督しているのか、具体的に示すことが求められます。例えば、以下のポイントを含め、有価証券報告書上で説明する必要があります。
ガバナンス責任者に求められる最大の役割は、サステナビリティを理念やスローガン、特定部署の取組みではなく、経営戦略・事業戦略の文脈で整理されているか、という点について執行をモニタリングすることです。
具体的には、
といったプロセスが求められます。
SSBJ基準では、開示の公表承認日及び承認者の開示が求められています。
これは、開示されるサステナビリティ情報が「現場任せのデータ」ではなく、取締役会等が内容を理解し、責任を持って承認した情報であることを示すためです。
また、第三者保証に関し、外部保証人の選任理由や保証報酬など、保証業務実施者に関する情報については有報上これを開示することが求められる見込みです。
そのため、
といった点も含め、ガバナンス責任者の役割として明確にしていくことが必要です。
SSBJ基準に基づくサステナビリティ情報には、第三者保証(限定的保証)が段階的に義務付けられます。保証の義務化は、SSBJ基準に準拠した開示の翌年度からのスタートが想定され、対象は当初2年間、
に限定されますが、将来的にこれが拡大される可能性も考えられます。
*1 対象はSSBJ基準に準拠し開示される全てのリスクと機会に係るもの(気候変動関連に限定されない)
また、第三者保証制度においては、現在の財務諸表監査で実施されているのと同様、今後、「保証業務実施者とガバナンス責任者とのコミュニケーション」が保証基準上要求されますが、日本においては「実務上の混乱を回避し、企業統治の実効性を確保する観点から、基本的に監査役等がその中心的な役割を担うと理解する」(日本監査役協会)とされています。これにより、以下のポイントについても、今後監査役に一定の関与が求められてくる流れを認識する必要があります。
サステナビリティ情報も、有価証券報告書の一部である以上、虚偽記載に対する法的責任の対象となります。
監査役には、以下のような点を、監督の視点から確認する役割が期待されます。
なお、将来情報や見積り情報、Scope3 GHG排出量等の不確実性を伴う情報については、いわゆるセーフハーバー・ルールの考え方が示されています。これら情報については、前提や仮定、推論過程、社内の開示手続等が一般に合理的と考えられる範囲で具体的に示されているか、セーフハーバー・ルールの適用前提となる前提設定や判断プロセスが適切に設計・運用され開示されているかという視点が求められます。
保証制度は、監査法人に限定されない「profession-agnostic」な制度として設計されています。そのため、監査役は以下のポイントを理解し、必要に応じて意見交換を行うことが重要になります。
サステナビリティ情報開示においても重要なのは、企業環境・ビジネスモデルの理解→リスク・機会の識別・評価→事業戦略と関連付けた方針・施策の立案→指標・目標の設定と実績の評価→開示・保証が論理的につながっていることです。これは、改正開示府令における人的資本開示の要求事項とも共通です。ガバナンス責任者と監査役は、この「つながり」が有価証券報告書上で適切に表現されているかを、それぞれの立場から確認する役割を担います。
サステナビリティ情報開示の高度化は、単なる開示対応の問題ではなく、企業のガバナンスと監督の範囲・在り方まで見つめ直すことを示唆するものです。ガバナンス責任者には、経営戦略としての説明責任が、監査役には、その信頼性を支える監督責任が、これまで以上に求められています。サステナビリティ情報開示への対応は「開示義務対応」で終わらせるのではなく、企業の中長期的な事業戦略や不確実な外部環境に対するレジリエンス戦略をどう説明するかを再設計する機会として捉えることが本質的に重要となるでしょう。
2026年3月期の開示までの準備期間はすでに限られています。当期対応できること、来期対応すべきこと、またそれ以上に時間がかかる項目についてはどう取り組むのか、開示対応戦略を含め、部門横断で整理することが重要です。今回の制度改正を、単なる他社との横並びで対応する追加開示として受け止めるのではなく、自社のサステナビリティ開示や人的資本の考え方を見直し、社内外に伝える好機として活用していくことが期待されます。 EY新日本監査法人では、SSBJ基準導入をはじめ、サステナビリティ制度開示の導入を支援しています。
今回の開示府令改正は、単なる情報開示要請にとどまりません。情報開示対応を通じ、企業経営の深化を促すものです。ガバナンス責任者には経営戦略としてのサステナビリティの取組みへの関与が、監査役にはその信頼性を支える監督が、これまで以上に求められます。