顧客データ活用はCDP導入では終わらない ──ビジネス変革につなげるための考え方

顧客データ活用はCDP導入では終わらない ──ビジネス変革につなげるための考え方


デジタル化の進展により、企業はこれまでにない量と種類の顧客データを手に入れられる一方で、多くの企業が十分に活用できていないという課題を抱えています。

なぜ顧客データ活用は重要視される一方で、成果につなげることは難しいのでしょうか。本記事では、データ活用の本質と成功のポイントを解説します。


共同執筆者

神津 崇 
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
カスタマーエクスペリエンス・トランスフォーメーション ディレクター



要点

  • 顧客データ活用は、CX向上と競争力維持のための「必須要件」になっている
    パーソナライズされた体験が当たり前にとなる中、顧客データを活用できない企業は、顧客の期待とのギャップが拡大。

  • 多くの企業はデータを保有しているが、成果につなげられていない
    企業・経営層の多くがデータ活用の必要性を認識している一方で、収益向上やCX改善といった本来の成果を十分に得られていない。

  • 顧客データ活用の本質は、分析ではなく「ビジネス変革」である
    成功の鍵は顧客視点で提供したい体験を定義し、組織・プロセス・仕組みを横断して実行し、事業戦略と一体で進めることが重要。


なぜ今、顧客データ活用が重要なのか

 

デジタル化/DXの進展により、企業はこれまでにない量と種類の顧客データを取得できるようになりました。webサイトやアプリ、EC、店舗、コンタクトセンター、SNSなど、顧客接点は急速に増え続けています。さらに、コロナ禍を契機に、消費者行動や業務プロセスのデジタル化が一気に進み、私たちの生活やビジネスは「データを前提とした世界」へと移行しました。その結果、企業は大量の顧客データを保有するようになりました。

 

また、消費者側の期待も変化しています。現在の消費者は、利便性の高い体験や、自分を理解してくれるサービスを強く求められており、顧客の70%が体験への期待でブランドを選択※1していることが明らかになっています。つまり、データを活用したパーソナライズされたコミュニケーションや、タイミングの良い提案、オンライン・オフラインを横断した一貫性のある体験は、すでに期待される前提条件となっています。

そのため、多くの企業においては何らかの形でデータ利活用に取り組んでいるのが実態です。しかし、データ活用によって「全社で十分な成果を得ている」と回答した企業は2.4%、「一部の領域では十分な成果を得ている」と回答した企業も13.8%※2であり、収益向上やコスト削減、顧客満足度の改善といった本来得られるはずの成果を十分に引き出せていません。

一方、データを先駆的に活用している企業においては、明確な成果差が確認されています。データ活用を進めている先駆的な企業においては、投資対効果(ROI)の創出スピードも45%が6カ月以内、88%が18カ月以内にROIを改善※3を創出し、収益や顧客体験の改善といった具体的な成果を上げています。

実はこの差を生んでいるのは、データの有無ではなく、データを顧客体験やビジネスに結び付けられているかどうかの違いです。

こうした結果は、顧客データ活用がもはや「あれば望ましい施策」ではなく、顧客体験を通じて競争力を維持・強化するための必須要件になっているという事実です。そして同時に、中途半端なデータ活用は、顧客の期待を裏切り、競争劣位につながるリスクを孕んでいることも意味しています。

だからこそ今、顧客データ活用は単なる分析テーマではなく、経営や事業戦略と一体で取り組むべき重要なテーマとして位置付けられているのです。

※1 ”Ipsos CX Global Insights 2025” Ipsos,www.ipsos.com/sites/default/files/ct/publication/documents/2025-05/cx-global-insights-2025-ipsos-sneak-peek.pdf(2026年4月1日アクセス)
※2 Gartner 「Gartner、日本企業のデータ活用に関する最新の調査結果を発表:全社で十分な成果を得ている組織の割合は2.4%にとどまる」、www.gartner.co.jp/ja/newsroom/press-releases/pr-20260108-data (2026年4月1日アクセス) 
※3 TECH+(テックプラス)「調査レポートから判明:CDP導入で92%の企業が目標を達成! これからの顧客データ活用成功のカギはCDP×AIにあり!」, news.mynavi.jp/techplus/kikaku/20250605-3331690/ (2026年4月1日アクセス)


ツール導入だけでは成果が出ない

前述の通り、多くの企業がデータ活用に取り組んでいるにもかかわらず、十分な成果を実感できていないのが現実です。その大きな理由の一つが、顧客データが分断されていることです。

顧客接点は年々増え続けています。web、アプリ、EC、店舗、コールセンターなど、それぞれの接点でデータは取得されますが、保管場所や形式が異なるため、顧客を一人の「個客」として一貫して捉えることができません。その結果、分析も施策も部分最適にとどまり、顧客体験全体を改善するには至らないのです。

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こうした分断を解決する手段として、昨今ではCDP(Customer Data Platform)を導入し、顧客データを統合して「一人の顧客像(シングルカスタマービュー)」をつくろうとする企業が増えています。しかし現場では、CDPを「入れた」だけで、分析や施策が自動的に高度化するわけではありません。「誰が旗を振るのか」「CDPを導入したが使いこなせていない」「高度なデータを扱える人材が不足している」――こうした声は、多くの企業に共通しています。

統合すべきデータの範囲や優先順位、顧客をどう識別・名寄せするか、どの指標を成果として追うか、誰が運用し誰が意思決定するか、といった設計が不十分だと、データは溜まっても使われず、結局は従来の部門別運用に戻ってしまいます。

ここから言えることは、ツール導入はスタート地点であり、目的と活用シナリオ、運用・ガバナンスまで含めて一体で整えない限り、成果にはつながりにくいということです。

つまり、顧客データ活用が難しい理由は、単にツールやスキルの問題ではありません。本質的には、顧客データ活用とは「データという新たなアセットを獲得し、ビジネスモデルを変革する挑戦」だからです。新たな価値を生み出す取り組みである以上、部分最適の改善ではなく、ビジョンから始まり、組織・業務・システムを横断して進めていく必要があります。顧客データ活用とは、マーケティング施策の高度化だけではなく、企業全体の変革を伴う取り組みであると言えるでしょう。


成功の鍵は「顧客視点」にある

顧客データ活用と言うと、「どんなデータが取れるか」「どのツールを導入するか」から議論が始まりがちです。しかし、本質的に重要なのは「顧客は、どんな体験をしているのか」「どんな行動の流れの中にいるのか」という顧客起点での理解です。

顧客体験は「購入」という一点で完結するものではありません。認知・興味・比較・購入・利用・継続といった購買サイクル、さらには購入後も含めたライフジャーニー全体の中で、顧客は複数の接点を行き来しています。

ここで重要なのは、「この顧客は今、どのフェーズにいるのか」「そのフェーズで、どんな不安・期待・行動が起きているのか」を起点にデータを捉えることです。

例えば、ECや小売ビジネスでは、従来、購買履歴を基に「次に売れそうな商品」をレコメンドするアプローチが一般的でした。これは企業側にとって分かりやすい施策ですが、必ずしも顧客にとって最適な体験とは限りません。

顧客起点で考える場合、焦点は「次に何を売るか」ではなく、「顧客は今どんな状況にあり、何につまずいているのか」に移ります。

購入直後であれば使い方に不安を感じているかもしれませんし、しばらく利用が途切れている場合は、価値を実感できていない可能性があります。

そのため、購買データだけでなく、閲覧行動、再訪タイミング、問い合わせ履歴などを組み合わせて捉え、「売り込み」ではなく「支援」につながる体験を設計していきます。結果として、短期的な売上ではなく、継続利用やLTVの向上につながります。

また、サブスクリプションやデジタルサービスでも、顧客起点の視点は重要です。

従来は、解約が発生してから理由を分析し、対策を検討する事後対応が中心でした。しかし顧客起点で考えると、「解約した顧客」ではなく「解約しそうな顧客」に目を向けます。

ログイン頻度の低下、特定機能の未利用、問い合わせ内容の変化など、解約前には一定の兆候が現れます。こうした行動データを横断的に捉え、顧客が成功体験を得られていない段階でオンボーディング支援やフォローを行うことで、離脱防止につなげることが可能になります

これらの例に共通しているのは、データを見る視点を「企業」から「顧客」へ切り替えている点です。

売上や施策を中心に考えるのではなく、顧客がどんな体験をし、どんな成果を得られているかを起点にデータ活用を設計することで、初めて分断されたデータが意味を持ち始めます。

顧客起点で考えることは、分析手法を変えることではありません。

データ活用の出発点を「顧客の行動・体験」に置くことこそが、全社的な成果につながる第一歩なのです。


EYが提唱する顧客データ活用を支えるフレームワーク

顧客起点のデータ活用を実現するためには、場当たり的な分析ではなく、全体を整理するフレームワークが不可欠です。

EYが提唱する顧客データ活用を支えるフレームワーク

このフレームで特に重要なのは、「左から右に実行するが、考える順番は右から左」という考え方です。

つまり、誰に、どんな体験を提供したいのかその体験を実現するために、どんな行動データが必要か、そのデータを、どのように取得・統合・分析するかという順で考えることが、データ活用を“使える形”にします。

これは単なる分析ではなく、「次に顧客が成功するために、何を提案すべきか」という体験設計に直結する視点です。

フレームワークの価値は、ツール選定やデータ整理そのものではなく、顧客体験とデータを一本の線でつなぐ思考を支えることにあります。

また、これを実現するためには、左側のデータだけでも右側の顧客体験だけでも不十分であり、前述しているように、提供したい顧客体験から始まり、組織・業務・システムを横断した本フレームワークで記載している全てを満たす検討を実施しなければ最終的なゴールに行き着くことはできません。まさに、企業全体の変革を伴う取り組みであると言えるでしょう。

小さな成功から始めるアプローチ

顧客データ活用は、最初から全社横断・フルスケールで進める必要はありません。むしろ重要なのは、小さな成功を積み重ねることです。

前章で言及した「売りたいもの」ではなく「顧客の状況」から考えて短期的な売上ではなく、継続利用やLTVの向上につなげた事例、「解約後対応」から「兆候への先回り」をすることで離脱防止につなげる事例等、具体的なシナリオを設計し、PoCとして実行・検証していく。これが「小さな成功」の正体です。

重要なのは、完璧なデータ基盤を待つことではなく、「この顧客の成功を、データでどう後押しできるか」という問いに対し、実行可能な範囲で一歩踏み出すことです。

短期的な成果を積み重ねながら、関係者を巻き込み、徐々に取り組みを拡張していく。そのプロセスこそが、顧客データ活用を「絵に描いた構想」で終わらせず、実際のビジネス成果へとつなげる近道となります。
 

まとめ

顧客データ活用は、非常に魅力的な可能性を秘めています。一方で、その実現は険しい道のりでもあります。なぜなら、それは単なるデータ分析ではなく、ビジネス変革そのものだからです。

成功のためには、顧客視点で目指す姿(データ活用ビジョン)を描き、関係者を巻き込みながら、小さな成功と仕組み化を積み重ねていくことが欠かせません。

データ活用で成功するために必要なことは、顧客データを通じて企業の未来を描き、実行していくための実践的なアプローチなのです。




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サマリー 

顧客データ活用は、非常に魅力的な可能性を秘めている一方で、その実現は険しい道のりでもあります。なぜなら、それは単なるデータ分析ではなく、ビジネス変革そのものだからです。

EYでは、顧客データを通じて顧客視点で目指す姿を描き、顧客と共に小さな成功と仕組み化を積み重ねていく実践的なアプローチで支援します。



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