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フロンティアAIが変えるサイバーセキュリティ――レジリエンス再定義の必要性とは?


本調査では、 サイバーセキュリティ責任者が、最近のフロンティアAIによる脅威の新事実を受けて、自社のレジリエンスをどのように構築しようとしているのか精査しています。


要点

  • CISO(最高情報セキュリティ責任者)、取締役会、経営幹部は、最近のフロンティアAIによる脅威の新事実を受けて、自社にレジリエンスを構築するために、今後1年から1年半の間に迅速かつ確実な措置を講じることが必要である。 
  • 本調査において、企業資産の36%は可視性やサイバーセキュリティ制御が不十分で、AIによる攻撃に対して脆弱であることが判明した。
  • 「セキュアクリエイター」と呼ばれる先行企業群は、サイバーセキュリティを機械的なスピードで運用できるように変革し、企業全体で適切な調整を行い、レジリエンスを高めている。


EY Japanの視点

今回の調査は、日本国内においても多くの組織に対して脆弱性管理の見直しを迫る結果となりました。フロンティアAIの進化により、これまで見逃されていた軽微な脆弱性や、忘れられていた資産およびIDが複合的に組み合わされることで攻撃や侵入が可能となるため、組織は資産やIDおよびそれらに内包され得る脆弱性を可視化するための取り組みを改めて強化する必要があります。
EY Japanの窓口

フロンティアAIの登場により、企業のサイバーセキュリティとレジリエンスに求められるものが大きく変化しています。企業にとって重要資産を守ることは引き続き重要です。しかし、これからのレジリエンスは、自社から見えにくい場所に存在する資産やID、依存関係まで含めて把握し、適切に管理し、迅速に対処できるかどうかに左右されることが増えていきます。

フロンティアAIモデルが脆弱性を発見・悪用する能力を持つことが最近明らかになり、多くの企業は対応を迫られました。脆弱性の確認やパッチ適用は依然として重要ですが、課題の本質はもっと継続的かつ構造的です。EYでは、現在のビジネス環境が非線形(Nonlinear)、加速的(Accelerated)、変動的(Volatile)、相互接続型(Interconnected) に象徴される状態を「NAVIワールド」と呼んでいます。NAVIワールドでは、大きな変化がこれまで以上に頻繁かつ急速に発生し、その影響は組織全体へ連鎖的に広がります。その結果、企業のレジリエンスが限界まで試されるケースも増えています。将来起こり得る転換点としては、完全自動化されたサイバー攻撃、量子コンピューティングを活用した攻撃者の出現、あるいは現在は想定すらされていない新たなサイバーリスクなどが考えられます。

こうした環境では、レジリエンスを単なる「インシデント発生後の復旧能力」として捉えるだけでは不十分です。サイバーセキュリティ責任者は、自社のどこに脆弱性が集中しているのかを継続的に把握し、組織として最低限維持すべき重要機能(Minimum Viable Enterprise)を優先的に保護するとともに、急速に進化する脅威に見合ったスピードで対応できる体制を整備しておくことが欠かせません。

EYグローバル・サイバーセキュリティ・リーダーシップ・インサイト調査2026(以下、本調査)では、脆弱性が集中している可能性のある領域を明らかにしました。サイバーセキュリティ責任者800名以上から得られた回答結果と、475種類の資産に対する調査分析の結果、企業資産の平均36%が、「脆弱性ゾーン」とEYが定義する領域に属していることが明らかになりました。脆弱性ゾーンとは、資産に対する可視性とセキュリティ対策の適用レベルが平均以下であり、サイバーリスクにさらされやすい状態にある領域を指します。  

36%
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企業資産の平均36%が脆弱性ゾーンに該当する

なぜ今、脆弱性ゾーンが重要なのか

サイバーセキュリティでは、企業にとって最も重要な資産を優先的に保護するアプローチが広く採用されています。しかし一方で、優先順位が低い資産に十分なセキュリティ対策が講じられず、防御が不十分な資産群が徐々に形成されてしまう難点もあります。

このようなトレードオフも、以前は許容できるものだったかもしれません。しかし最近では、攻撃者は企業のネットワーク境界に存在する脆弱性を突き止め、複数の組織をまたいで攻撃を連鎖させ、より価値の高い資産への侵入を試みるようになっています。フロンティアAIだけでなく、誰でもアクセスできる既存のAIモデルの普及により、こうした傾向は加速しています。その結果、防御が不十分な資産はより多くの攻撃者から狙われやすくなり、脆弱性の発見から悪用までに要する時間も大幅に短縮されているのです。CrowdStrike 2026 Global Threat Report(クラウドストライク2026年版グローバル脅威レポート)によると、サイバー犯罪の平均ブレイクアウトタイム(攻撃者が最初に侵入してから初めて横展開するまでの時間)は29分に短縮されています。これは、攻撃者が侵入後わずかな時間でラテラルムーブメント(ネットワーク内を横移動し、侵害範囲を拡大する攻撃手法)を実行できることを示しています。1

一方で、注目すべきこととして、過去の調査において同業他社と比べてサイバーセキュリティ機能が成熟している企業群「セキュアクリエイター」の存在が、今回の調査でもまた確認されました。本年度の調査におけるセキュアクリエイターは、脆弱性ゾーンに特定された資産の割合は平均30%にとどまっています。セキュリティ対策で劣る企業群「プローンエンタープライズ」の同割合は42%でした。

セキュアクリエイターは、攻撃対象領域を幅広く網羅する対策を取り、フロンティアAIによる大きな変化に動じず、体制を整備していました(2023年版調査で解説)。また、セキュアクリエイターでは、全社のレジリエンス戦略にサイバーセキュリティが既に統合されていたことから、AIが組み込まれた新たな脅威に対しても、迅速に対応し、適応できていました。

これらの戦略を推進し、脆弱性ゾーンの最小化に取り組むCISO、取締役会および経営層は、次の大きな変化に直面した際にも、より適切に準備態勢を整えることができるでしょう。

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第1章

脆弱性ゾーンの特定

脆弱性ゾーンは一定の資産カテゴリに集中しており、業界によって異なります。また、変化のペースが加速するにつれて進化します。

多くの取締役会、経営層、規制当局は、フロンティアAIによる新たなリスクが顕在化したことにより、サイバーセキュリティを企業レジリエンスの重要な構成要素として捉えるようになっています。CISOが将来のサイバーセキュリティ環境の変化に備えたレジリエンスを構築するためには、以下の3つの変化が組織全体のリスク構造をどのように変えているのかを理解することが不可欠です。

  • 急速なAIの実験と導入の拡大が、攻撃対象領域を増大・拡張させている。
  • 複雑化するサードパーティおよびソフトウエアサプライチェーンにより、ユーザー企業が直接管理できない資産に新たなリスクが生じている。
  • AIを悪用する攻撃者は、防御が不十分な資産の脆弱性を悪用し、組織内外を横断して横展開(ラテラルムーブメント)することが可能になっている。

これらの変化が及ぼす影響は、すべての資産で一様ではありません。CISOは、脆弱性ゾーンを特定することで、何が変化しているのか詳細に状況を把握し、リスクが蓄積している資産に対する可視性とセキュリティカバレッジの向上につなげることができます。

また本調査では、資産に変更が発生し、それに伴いセキュリティ統制の見直しが必要となる頻度について分析しました。例えば、在庫管理AIやクラウドベースの業務システムのように更新頻度の高い資産では、サイバーセキュリティ部門が変化のスピードに対応しきれない場合、資産の把握やセキュリティ対策の適用が追いつけない可能性があります。実際、今回の回答者は、正確な資産管理をする上での最大の課題として、「技術変化のスピード」を挙げています。

本調査の回答者には、各業界固有の資産リストが提示されており、すべての回答者の資産リストは次のカテゴリに分類されています。

  • AIシステム/ツール
  • クラウド資産
  • データ資産
  • エコシステム/サードパーティ
  • ネットワークインフラ
  • AI以外のデジタル資産
  • OT/物理資産

OT/物理資産(57%が脆弱性ゾーンに該当)、エコシステム/サードパーティ (同49%)、AIシステム/ツール(同47%)、ネットワークインフラ(同38%)は、脆弱性ゾーン割合が全体平均よりも高い。


OT/物理資産が、脆弱性ゾーンに最も多く含まれていることは、決して意外な結果ではありません。これらの資産は、従来サイバーセキュリティの管轄外として扱われることが多かったためです。過去、こうした状況を経営層が許容範囲のリスクとして捉えていたかもしれません。しかし、フィジカルAIの普及や、従来は分離されていた資産のネットワーク化が進む中で、フロンティアAIを悪用するOT環境への脅威も増大しています。こうした環境変化を踏まえると、CISOには、OT/物理資産の保護を主導する役割が求められています。そのためにはまず、攻撃対象領域全体の可視性を高めることが不可欠です。

 

脆弱性ゾーン割合が2番目に高いカテゴリとなった「エコシステム/サードパーティ」では、ソフトウエアやクラウドインフラから物流、サービス提供に至るまで、企業活動の根幹となるオペレーションを支える存在として、重要性が高まっています。こうした外部パートナーの重要性が増すにつれて、組織内部のネットワークやシステム環境への常時接続や管理者権限などのアクセスが必要となるケースが増えています。その結果、攻撃対象領域も大幅に拡大しています。さらに、エージェント型AI(自律型AI)の普及により、効果的な導入に際してAIベンダーによる複数の業務機能や組織全体にわたる広範なアクセス権限を持つことが増えるため、この傾向は一層強まる可能性があります。 

 

攻撃者はこうした状況を巧みに悪用しているのです。近年では、まずサードパーティを侵入口として攻撃し、その後、主な標的環境へ横展開するケースが増えています。重要なサードパーティとの関係を維持しながら、こうしたリスクを低減するためには本調査で明らかになった基本的なセキュリティ統制課題を、CISOが解消しなければなりません。具体的には、47%が適切なネットワーク分離を実施できておらず、また59%が包括的な資産テレメトリ(監視・可視化データ)の不足により、資産の可視性が低下し、脅威の検知が遅れる要因となっていると回答しました。

47%
47%
社内環境のセグメント化が進んでいないと回答した割合
59%
59%
包括的な資産テレメトリが欠如していると回答した割合

AIシステム/ツールは、脆弱性ゾーンの割合が3番目に高い資産カテゴリでした。AIは、脆弱性ゾーンを構成する2つの要素となる可視性とセキュリティカバレッジの両面に課題があります。まず、可視性の確保はさまざまな面で難しくなっています。生成AIの導入が進む中で、従業員が承認されていないツールを利用する「シャドーAI」の使用や、把握されていないデータの流れが発生しやすくなっています。さらに、エージェント型AIの利用が広がると、AIエージェント、デジタルID、ツール間の接続、さらには自律的なアクションが急速に増加し、これらすべてを資産として把握・管理し、継続的に監視することが難しくなり、新たな死角が生じます。一方で、セキュリティカバレッジの不足も問題をさらに深刻化させています。多くのセキュリティ部門では、急速に進化し、機密データや重要な業務プロセスと連携するAIシステムやツールに対して、一貫したセキュリティ統制、テスト、監視、ガバナンスを十分に適用できていません。

ネットワークインフラは、脆弱性ゾーン割合が38%にのぼる4番目の高さですが、CISOにとって懸念すべき重要なリスク領域の1つです。特に国家支援型の攻撃者が、VPNゲートウェイやファイアウォール、ルーター、エッジネットワーク機器などの境界領域に配置されたネットワーク機器を足掛かりとして侵入するケースが増えています。これらのネットワーク機器の多くは、最新のクラウドサービスやエンドポイントソフトウエアと比べて、独自ファームウェアを使用していることや、パッチ適用サイクルが長いことなどの特徴があります。そのため、フロンティアAIを悪用した高度な脅威に対して、より脆弱になりやすいことが考えられます。こうした資産の可視性とサイバーセキュリティカバレッジを向上させ、脆弱性ゾーンから切り離すことがCISOに求められます。

業界別脆弱性ゾーンの分析


本調査から、脆弱性ゾーンの業界別パターンが明らかになりました。大きくは、インフラストラクチャ、鉱業・金属、電力・ユーティリティ、石油・ガス・化学など、OT資産への依存度が高い業界では、脆弱性ゾーンに多くの資産があります。一方で、脆弱性ゾーン内の資産が最も少ない業界は、政府・公共セクター、銀行・証券、保険、航空宇宙・防衛・モビリティなど、より厳しいセキュリティルールを適用する規制制度があることが典型的です。


業界別脆弱性ゾーン

業界を選択すると、脆弱性ゾーンの詳細について確認できます。

Asian man watching the Singapore skyline at night
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第2章

完全な可視性を確保し、脆弱性ゾーンを最小化する

フロンティアAIの脅威が攻撃対象領域を拡大する中、資産を部分的に可視化するだけではもはや不十分です。

本調査では、サイバーセキュリティリーダーの70%が、最も重大なリスクは死角にあると考えていることが判明しました。

最近のフロンティアAIによる脆弱性の発見が明らかになったことを受けて、取締役会や経営幹部はサイバーセキュリティリスクへの関心がこれまで以上に高まっています。CISOは、この機会に自社全体の可視性を向上させるための投資を推進するべきです。

70%
70%
最も重大なサイバーセキュリティリスクは死角にあると考えている回答者の割合

本調査では、多くの企業のサイバーセキュリティ部門は、十分な基盤がない状態から業務を始めていることが明らかになりました。自由記述形式の回答を分析した結果、社内資産を可視化する上で最大の課題となるのは、依存関係の複雑さ、リソース不足、そして資産データのガバナンスの不備が挙げられました。2また、資産の特定や棚卸管理に自動化を活用している回答者は43%にとどまり、資産台帳が完全かつ最新の状態であると確信している回答者も45%にすぎませんでした。 


攻撃者がサイバーセキュリティ部門には見えないシステムの脆弱性を数秒で発見し悪用できる時代において、手動かつ分断された資産識別手法に頼るのでは、企業のレジリエンスを脅かしかねません。

従来のやり方では、将来的にエージェント型AIを活用する組織体制やオペレーションと整合性が取れなくなるでしょう。エージェント型AI環境では、ソフトウエアエージェントが機械的なスピードでID、アクセス権限、さらにはツール間の接続を生成し利用することが可能になります。そうした環境において、手作業による資産特定手法では対応が遅すぎる上、管理が分断されているため、どのような資産が存在しているのか、それらがどのように相互作用しているのか、そしてどこにリスクが蓄積しているのかを正確に把握し続けることが困難になります。

「エージェント型環境では、可視性のあり方を、エージェント、ID、アクセス権限、実行経路が生成されるその瞬間を捉える、リアルタイムかつ機械可読な形式でマッピングできるように移行しなければなりません。」と、EY Global Cybersecurity Managed Services Emerging Markets LeaderのMaez de Guzman氏は述べています。「統制の鍵となるのは、ID管理、継続的なテレメトリ(監視データの収集)、そしてAIを活用した資産検索機能です。また、ネットワーク図によるエクスポージャー分析により、新たに発生しつつあるリスクを可視化できます。実行時に観測し、推論し、対応する能力を備えたアーキテクチャを具備している組織であれば、リスクが発生してから対策を講じるまでの時間を大幅に短縮することができます」。

本調査において、先行する回答者グループのセキュアクリエイターは、自社全体にわたる可視性を完全に実現できる状態に近く、資産間の相互接続関係についてより深く理解していることから、フロンティアAIを活用した脅威への備えが十分できていることが示されています。これは、構成管理データベース(CMDB)に対する満足度が著しく高いことにも表れています(85%に対してプローンエンタープライズは45%)。セキュアクリエイターのCISOは、何が最も重要な資産であるのか、またリスクがどこに集中しているのか、より信頼性の高い視点を持つことができます。

先行するCISOは、継続的なテレメトリ(監視データ収集)と、脅威に基づくエクスポージャー監視を採用してセキュリティ基盤を強化し、自律的かつAIを活用した資産発見、優先順位付け、修復へと移行しています。また、こうした取り組みと併せて、リスク対応における明確な責任体制を部門横断的に整備し、ソフトウエア開発ライフサイクルの中にセキュリティを組み込んでいます。その結果、より安全にAIを導入し、自律型かつエージェント主導型の環境において、効果的なオペレーションができるようになります。

「先行するサイバーセキュリティ部門は、ソフトウエア開発を保護する過程で得られた教訓を活用し、AIエージェントの開発ライフサイクルそのものにサイバーセキュリティを組み込むべきです」と、EY Americas Consulting Cyber Risk LeaderのGanesh Devarajanは、述べています。「そのためには、AIモデルやAIエージェント同士のコミュニケーションを自動的に発見・把握する仕組みを含めて構築しなければなりません」  

セキュアクリエイターは、単にIT資産を把握しているだけでなく、ネットワーク、ID、およびシステム間の依存関係まで可視化する能力に優れています。AIを悪用する高度な攻撃では、高速に横展開(ラテラルムーブメント)するための侵入経路として、認証やトラストの仕組みが狙われるケースが増えており、こうした可視化能力がサイバー防御の重要な土台になります。実際、ネットワーク構成の把握能力を高く評価している企業の割合は、セキュアクリエイターでは67%と、プローンエンタープライズの59%を上回っています。セキュアクリエイターは組織横断でさまざまな資産や関係性を可視化しています。

エージェント型AIの普及によって、「アイデンティティ(ID)」という概念そのものが変化しつつあります。そのような中で、自社の攻撃対象領域や、ネットワークと各種依存関係がどのように相互作用しているかを最も深く理解しているCISOこそが、今後増加していく非人間型で、動的かつ機械的なスピードで生成・利用されるIDを効果的に管理できる立場にあるでしょう。

Sunset on Saigon riverside,  in Ho Chi Minh city, Vietnam
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第3章

次なるサイバーセキュリティ危機に備え、自社のレジリエンスを高めるためには

今こそ、企業がサイバーセキュリティを企業全体のレジリエンスを支える経営課題として位置付ける絶好の機会です。次の大きな転換点が到来する前に、レジリエンス戦略への統合を一層進める必要があります。

NAVIワールド時代は、1つの転換点が、次なる転換点を生み出します。 そのため、取締役会や経営幹部は、フロンティアAIモデルが現在もたらす脅威だけでなく、その先にあるリスクまで視野に入れておく必要があります。最近のフロンティアAIモデルの脅威が明らかになる以前に実施した本調査において、AIを活用した脅威に対して十分な備えができていると自信を持つサイバーセキュリティ責任者は45%にとどまりました。また、量子コンピュータを活用した脅威への備えができていると回答した割合は、わずか21%でした。

既知のサイバーセキュリティリスク、そして今はまだ想像もつかない未知のリスクに備えるためには、少なくともサイバーセキュリティを網羅したレジリエンス戦略を策定し、混乱に陥った場合でもステークホルダーに対する重要な責任を果たし続けられる体制を築くことが不可欠です。そこで必要とされるアプローチがMVE(Minimum Viable Enterprise:事業を回すための実用最小限の業務機能)を定義し、防御することです。MVEとは、企業が重要責務を果たし続けるための必要最小限の中核機能、資産、および依存関係を指します。MVEを防御するためには、状況変化に応じてMVEが継続して機能するかどうかを示すリアルタイムの指標が必要です。また、そのアーキテクチャの有効性を検証するための机上演習や、戦略と乖離しないよう物理インフラとデジタルインフラの両方を整備することも重要です。

サイバーセキュリティをレジリエンスの向上に機能させるためには、防御対策そのものがほぼ機械的なスピードで機能し、かつ脅威環境に構造的に適合させる必要が生じます。レジリエンスとは、継続的な監視、高品質な脅威インテリジェンス、自動化された検知および対応に依存するものです。また、攻撃者はレガシーシステム、社内の依存関係、サードパーティ、さらにはデータアクセス経路をまたいだ活動をますます活発化させています。そのため、サイバーセキュリティ責任者には、システム同士がどのように連携しているのか、障害・侵害が発生した影響がどのように波及するのかが反映された、攻撃対象領域の統合的な可視化が必要とされています。

フロンティアAIの進化によってサイバー攻撃が高度化・高速化する時代には、古いシステムや複雑化したIT環境を抱えたままでは企業のレジリエンスを維持できなくなります。 EYとオックスフォード大学サイード・ビジネススクールの長期的な共同研究 に基づいた最近の調査によると、サイバーセキュリティ向上を目的とした大規模な変革に取り組む企業の割合は28%増加しています。レガシーアーキテクチャ、長年にわたり蓄積された技術負債、そして十分に理解されていない複雑なシステム構造は、より高速で適応力の高い脅威に直面する中で、レジリエンスを損なう重大な脆弱性を露呈しています。持続的なレジリエンスを実現するためには、こうした構造的な欠陥を周辺から運用管理し続けるのではなく、正面から対処しなければなりません。

社外レジリエンスの調整

フロンティアAIモデルの開発者は、新たな現実に対応するため、エコシステム全体を巻き込んだ取り組みを立ち上げています。その背景には、多くの企業が自力で脆弱性を検証し修正するスピードをはるかに上回る勢いで、脆弱性の発見・悪用のスピードが飛躍的に高まっている状況があります。また、CrowdStrike社のProject QuiltWorksのような活動も推進されています。これは、AIを活用して脆弱性を特定・検証・優先順位付けし、攻撃者に悪用される前に対処することを目的とした業界横断で連携する取り組みです。この活動にセキュリティベンダー、AI研究者、そしてEYを含むさまざまな組織が参加し、リスク低減を協調的かつ迅速に進めることを目指しています。

CrowdStrike Field CTO World WideであるFabio Fratucello氏は、「Project QuiltWorksは、フロンティアAIを活用して、組織が新たなリスクに先手を打てるよう支援することを目的とした取り組みです」と述べています。「フロンティアAIモデルをベースとするQuiltWorksは、CrowdStrikeのセキュリティ専門知識と、EYをはじめとする業界パートナーの知見を結集し、脆弱性の発見や、攻撃者によってどのように脆弱性が連鎖的に悪用され得るかを分析し、実際の運用環境におけるリスク検証を支援します。その目的は、企業が脆弱性の修正対応の優先順位を適切に設定し、脆弱性が攻撃手段として悪用される前に、リスク水準を低減することにあります」

参加企業にとって、新たに発見される脆弱性をより早い段階で把握できるようになるほか、リスクの検証を迅速に行い、相互に接続されたエコシステム全体でより協調的に脆弱性対策を進めることが可能になります。さらに広い視点では、テクノロジーベンダーが上流工程で脆弱性を発見し、対処することで業界全体が恩恵を受けます。その結果、システムリスクが低減され、企業は脆弱性が実際に悪用される前に、自社が攻撃にさらされるリスクを軽減できるようになります。

レジリエンスは、IDおよびSaaSプロバイダーのサイバーセキュリティリスクの管理能力に依存する

サプライチェーン内で発生したインシデントを迅速に検知することに自信を持っている割合は、回答者の48%にとどまりました。

企業の重要業務は、クラウドやSaaS、外部サービスに広く依存するようになっています。そのため、企業のレジリエンスは自社システムだけではなく、認証基盤やSaaS事業者を含むサプライチェーン全体の信頼性に左右されるようになっています。しかし、この状況は、アイデンティティを標的とするサイバー攻撃が増加している中では不安定なものに映ります。それは、こうした攻撃は、機密性の高い社内リソースとSaaSプロバイダーとの間で直接的な連携を必要とする認証プロトコルやIDの仕組みを狙うものだからです。 CrowdStrike 2026 Global Threat Report(クラウドストライク2026年版グローバル脅威レポート)でも指摘されているように、検知された侵害活動の82%はマルウェアを伴わない攻撃でした。これは、最新の侵入攻撃の多くが、マルウェアではなく、侵害されたID、正規の認証情報、信頼されたアクセス経路を悪用して行われていることを示しています。

わずか
48%
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サプライチェーン内のインシデントを迅速に検出する能力に自信を持っていると回答した割合

脆弱性の発見と悪用の高速化が進んでいる実態が、こうした問題をさらに深刻なものにしています。多くのサードパーティベンダー、とりわけリソースが限られた中小企業では、フロンティアAIが明らかにした脆弱性に対して、適切な修正やパッチ適用が行われたことを十分に証明することが難しいケースに直面します。代替ベンダーを特定し、その妥当性を検証することは1つの対策になり得ます。しかし実際には、重要な業務プロセスが少数の専門ベンダーに依存しているなど、有効な代替先が存在しない場合も少なくありません。

こうした現実に対処するために、企業はレジリエンスを強化し、IDを標的とした攻撃の増加に対応できるよう、サードパーティとの関わり方そのものを変えていかなければなりません。具体的には、定期的なベンダー評価と、「VPN接続と契約書」に依存した従来型の管理から脱却し、継続的かつID中心のアプローチへ転換することを意味します。この新たなアプローチでは、最小権限の原則、継続監視を基本としたアクセス管理、サプライチェーン全体の保証、実行時のセキュリティガードレールを組み合わせて運用します。

セキュアクリエイターは既に一歩先にいます。先行企業では、自社環境へアクセスするサードパーティに対して、必須かつ検証可能なセキュリティ要件を定めている割合が高まっています(セキュアクリエイターの55%が関連要件を導入しているのに対し、プローンエンタープライズでは39%)。また、サプライチェーン内でサイバーセキュリティインシデントが発生した場合、迅速に検知できる能力についても、セキュアクリエイターは大きな自信を示し(68%対30%)、データセンター内の場合も同様です(81%対49%)。

レジリエンスを組織的に高めるには、OT/物理資産に対するサイバーセキュリティの権限を拡大することが不可欠

OTは、必ずしもサイバーセキュリティ部門の直接的な管轄に含まれるとは限りません。しかし、OT/物理資産がネットワークに接続されたり、AIが組み込まれたりする場合には、CISOが必ず関与し、助言を行うべきです。その際、CISOは、次の2つの観点を考慮すべきです。

  • OTを安易にネットワークへ接続しない:OTを新たにネットワークへ接続する際には、接続することを前提とするのではなく、運用面のメリットとサイバーセキュリティ上のリスクを比較検討し、慎重なリスク評価の対象として扱うべきです。
  • レガシーOTは脆弱であることを前提に考える:既にネットワーク接続されている環境の中には、ハードウエアやソフトウエアの更新がほとんど行われない、あるいは全く行われないレガシーなOTシステムが存在します。こうした環境において、CISOはパッチ適用が困難または不可能なシステムを前提として、ネットワーク分離、監視、代替的な保護を講じることで防御する必要があります。

「OTにおけるレジリエンスは、まず可視化から始まります。資産を正確に特定することが重要です」と、EY Global Cyber Architecture, Engineering & Emerging Technology LeaderであるPiotr Ciepielaは述べています。「この取り組みは通常サイバーセキュリティ部門が主導しますが、OT部門との緊密な連携なしには実現できません。さらに、その上で認識しておかなければならないのは、OT環境の多くはパッチ適用ができない、あるいは現実的に困難だという事実です。したがって、レジリエンスは、修正できない環境を前提として、それらをセグメント化し、隔離し、その周囲に適切な統制を構築することで実現されるのです」

OTとの連携がレジリエンス向上に不可欠となっている背景には、サイバー脅威環境における2つの重要な変化があります。1つ目は、OTそのものが攻撃の侵入口になりつつあることです。例えば、Volt Typhoonのような攻撃グループは、古いOTシステムやインフラ環境に気付かれない形で侵入し、長期間にわたって潜伏しながら、組織の業務継続能力や運用レジリエンスを徐々に弱体化させる手法を示しています。2つ目は、高度なAI能力が、ネットワーク接続されたデバイス、各種インターフェース、そしてレガシー環境に存在する脆弱性の発見や悪用に利用されるようになっていることです。こうした環境は、多くの場合、ITシステムほど頻繁に更新やパッチ適用が行われないため、AIを活用する攻撃者にとって魅力的な標的となっています。

本調査から、セキュアクリエイターの属性を持つ回答者グループは、オペレーション部門とより緊密に連携し、OT/物理資産の管理で、他の企業よりも優れた成果を上げていることが明らかになりました。具体的には、セキュアクリエイターは、OTセキュリティ対策のための部門横断チームを設置している割合が高く、61%が該当し、プローンエンタープライズでは51%にとどまりました。また、OT/物理資産セキュリティに関して、オペレーション部門との連携に満足している割合も、セキュアクリエイターは68%、プローンエンタープライズでは45%にとどまりました。


Female working on a computer trading in a futuristic style
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第4章

フロンティアAI時代における脆弱性ゾーンを最小化するステップとは

CISOは、今後1年から1年半の間に脆弱性ゾーンを大幅に縮小するべきです。

CISOが脆弱性ゾーンを最小化するためには、可視性とサイバーセキュリティ統制を向上させるとともに、レジリエンスの強化に注力し、次の転換点に備えて先進的なサイバーセキュリティ技術へ投資するために取るべき6つのステップを解説します。

本記事の執筆に当たっては、EY Global Advisory Cyber Architecture, Engineering & Emerging Technology LeaderのPiotr Ciepiela、EY Global Cybersecurity Managed Services Emerging Markets LeaderのMaez De Guzman、EY Americas Consulting Cyber Risk LeaderのGanesh Devarajan、EY Global Consulting Risk Markets LeaderのScott McCowan、 Ernst & Young LLP Associate DirectorのAnnMarie Pino、Ernst & Young LLP Assistant DirectorのWilliam Reid、EYGS LLPの Associate Director Joe Morecroftの協力を得ました。


サマリー

多くの組織は、最近明らかになったフロンティアAIサイバーセキュリティの脅威に対して準備ができていませんでした。一方で、先行する企業のCISOは、今が次の転換点に備えるためのサイバーレジリエンスを強化する機会と認識し、取締役会や経営陣を説得しています。そのために、自社の脆弱性ゾーンを特定し、その範囲を最小化し、AIの企画・開発・運用・利用に至るAIライフサイクル全体にわたって信頼を構築することに取り組んでいるのです。

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