EYの事例

「つぼみ」から「満開」へ。誰もが自分らしく咲ける社会の実現を目指すローランズがたどり着いた、独自の人事評価指標とは

障がい者雇用と事業成長を両立するには、どのような人事評価制度が必要か。EYがプロボノで支援した、ローランズ独自の評価指標づくりを紹介します。

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The better the question

事業の持続的な成長と障がい者雇用を両立させるために、人事制度に必要なものは何でしょうか?

日本では働ける年齢の障がい者のうち約8割が未就労といわれます。ローランズは創業以来、障がい者雇用に挑戦し続け、現在の当事者の数は100人を超えます。事業が急拡大する一方で、組織の根幹を支える「人」の評価において新たな課題に直面していました。


求人の現実と「なりたい職業」とのギャップ

高柳 圭介(以下、高柳):ローランズは、「花」を中心としたサービスを通じて、障がい者雇用の新しい形を追求されています。従業員140人のうち105人(※2026年6月現在)がさまざまな困難と向き合う当事者という、非常に高い雇用率を維持されていますね。まずは、この領域で事業を立ち上げた原点にある思いについてお聞かせください。

ローランズグループにおける障害や難病と向き合うスタッフ・就労困難者の雇用数 一般社団法人ローランズプラス「花屋ローランズ、障害者・就労困難者の雇用数100名を突破」、prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000167165.html(2026年7月30日アクセス)
ローランズグループにおける障害や難病と向き合うスタッフ・就労困難者の雇用数 一般社団法人ローランズプラス「花屋ローランズ、障害者・就労困難者の雇用数100名を突破」、prtimes.jp/main/html/rd/p/000000001.000167165.html(2026年7月30日アクセス)

福寿 満希 氏(以下、福寿氏):学生時代に特別支援学校の教育実習に行った際、そこで出会った子どもたちが「お花屋さんになりたい」「ケーキ屋さんになりたい」と純粋な夢を語ってくれました。ところが、現実に目を向けると、障がい者の求人の多くは単純作業で限定的な職種に限られていたのです。「誰もが、なりたい職業に挑戦できる社会を作りたい」。その思いが、私の原動力となりました。

「働く」という言葉には「傍(はた)を楽にする」という解釈があるといわれます。その言葉の通り、誰かの役に立つ喜びや価値を、あらゆる人が享受できる環境を作ることが自分の役目だと考え、子どもたちが語ってくれた夢の一つであり、そして私自身も心を救われた「花」のギフトサービスから事業をスタートしました。

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株式会社ローランズ 代表取締役/一般社団法人ローランズプラス 代表 福寿 満希 氏
株式会社ローランズ 代表取締役/一般社団法人ローランズプラス 代表 福寿 満希 氏

組織拡大がもたらした「100人の壁」

高柳:創業から10年あまりを経て、原宿や丸の内など都心部への進出や、法人向けサービスの拡大など、着実に事業成長を続けてこられました。その過程で、組織運営にどのような課題が生じていたのでしょうか。

福寿氏:日本財団と共同で原宿店をオープンした2017年当時、従業員は30人ほどでしたが、メディアの紹介や応援してくださる方々を通じて仕事が広がり、ローランズでの障がい者をはじめとする雇用が増えていきました。それまでは私自身が全員とコミュニケーションを図り、それぞれの頑張りを直接把握できていたのですが、2025年に従業員が100人を超えたあたりから、一人では個々の頑張りに目が行き届かなくなる「100人の壁」に当たったのです。明確な人事評価制度が確立していなかったため、評価者によって基準が異なったり、評価に感情が入ってしまったりといった「評価のズレ」が生じることに課題を感じていました。

EY APAC & Japan 製造業・モビリティ・タックスリーダー/製造業・化学セクター・タックスリーダー EY税理士法人 パートナー 尾形 康行
カフェ併設のローランズ原宿店

高柳:雇用形態の違いによる給与のばらつきも課題になっていたのですよね?

福寿氏:その通りです。スタッフが安心して、そしてモチベーティブに働いてもらうためには、公平かつ透明性の高い「共通基準」が必要不可欠だと強く感じました。そこで、ローランズの経営に伴走してくださっている一般社団法人ソーシャル・イノベーション・パートナーズ(SIP)を通じて、EYに人事評価制度の策定を支援していただくことになりました。

EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ピープル・コンサルティング パートナー 高柳 圭介
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ピープル・コンサルティング パートナー 高柳 圭介

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The better the answer

リブランディングと連動し、「9つのバリュー」に基づく独自の評価軸を共創

ローランズが抱えていた組織課題に対し、EY Ripplesは高柳をリーダーとするプロボノチームを編成し、人事評価制度の策定を支援しました。制度設計にとどまらず、対話を重ねて組織の価値観を言語化しながら、評価の仕組みに落とし込むプロセスを丁寧に伴走。同社の特殊な企業特性を深く理解するとともに、既存の枠組みに当てはめるのではない、独自の評価指標を作り上げました。


「1対6」の議論を経てたどり着いた最適な評価バランス

福寿氏:最初の打ち合わせは、2025年の6月でしたね。ローランズには6人以上で話せる会議室がなくて、ローランズ原宿近隣で顔合わせを行いました。

高柳:店舗にほど近いシェアオフィスの屋上で、日陰もなくとても暑かったのを覚えています。それから約9カ月間、隔週で対面会議を行いながら制度策定を進めていきました。ローランズの皆さんと向き合う中で、特に印象に残っているのは「業績評価」と「行動評価」のバランスをめぐる議論です。

福寿氏:当初、私は、ローランズは事業自体が「花を通じて障がい者雇用を前進させる」という社会性を持った内容であるため、「事業で成果が出る=会社が求める行動になっているはずだから行動評価は要らない」という、今思えば自分でもびっくりするような主張をしていました。私は、「頑張ったから評価する」という情緒的な感覚による評価の揺れや、近くで頑張りが見える人だけに高評価が寄るようなことを防ぎたいと思っており、それができる仕組みを求めていました。そのため、迷いなく定量的に測れる基準をも設定したいと考えていたのです。ところが、プロジェクトメンバーからは「行動評価も必要ではないか」という意見が相次ぎ、「1対6」の構図で話し合いが進みましたね(笑)。

高柳:その主張には「待った」をかけなければならないと感じました。ローランズの成長の背景には、経営者である福寿さんの思いに共感して多くの人が集まってきたことがあります。今回の人事評価制度は、会社の理念を体現しローランズらしさを守ることと、ビジネスの観点から客観的に到達度を測れること、この2つを両立させる必要がありました。単に数字を追求するのではなく、そのプロセスの「質感」がローランズらしいかどうか。それを見極めるための行動評価を組み込むべきだと提案しました。

福寿氏:最初は「そもそも会社が求める行動ができていないと、数字の成果が出ない事業構造だ」と伝えていました。行動評価を盛り込まなくても会社の文化は自然に守れるものだと、その時は信じていたのです。しかし、組織の人数が増える中で、スキルと行動が必ずしも伴わないケースが見られるようになっていました。

実は、プロジェクトの最中にも、社内で「ローランズらしくない」コミュニケーションが起こりました。あらためて「ローランズらしさ」とは何か。文化とは何か。それは、変わっていいものなのか否か。そういったことを考えるようになりました。今まで私たちは、「どこでも良い」ではなく、「ここで、働きたい」「ここじゃないと」と言ってくれる仲間と一緒に会社を作ってきましたし、これからもそうでありたいというのが純粋な気持ちです。ローランズという組織を、全員が熱量を持って前に進める組織にしたいと願うからこそ、これまで自然に作られてきた価値観=文化を守るための仕組みが必要だと思いました。最終的には、行動評価を「価値観体現度」と定義し、業績と行動の双方のバランスを取る形にたどり着きましたが、振り返ってみると、行動評価を組み込むことは不可欠だったと納得しています。全力で行動評価の設計を推していただいたプロジェクトの皆さまに本当に感謝しています。


リブランディングと連動した、独自の評価指標

高柳:今回の制度は、障害や困難と向き合う当事者と健常者を同じ仕組みの中で評価することを念頭に、ある程度懐の深さを担保する必要がありました。そのため、評価項目をどのように設定するか、とりわけ理念を評価にどのように落とし込んでいくかが大きなポイントでした。

最もユニークなのは、同時進行していたリブランディングと連動させた点です。具体的には、ブランドの核となる「9つのバリュー」(種・土・水・風・陽・混・咲・命・百花)を、そのまま人事評価のコンピテンシー(行動特性)に採用しました。

図:株式会社ローランズ提供

福寿氏:評価項目に「種」や「風」といった言葉が並んでいるのは、植物を扱うローランズならではの独自性と言えるかもしれません。例えば「種」という項目は、「その人が本来持っている力を見つめ、それを伸ばしていくために行動できているか」という、スタッフの可能性を伸ばす行動を定義しました。また、「風」は、「物事がスムーズに進むための情報整理ができているか」という、情報の整理整頓を通じて、仕事のフローをスムーズにしていく姿勢を指しています。

高柳:一般的な企業であれば「チームワーク」や「ロジカルシンキング」といった用語が使われる場面ですが、しっかりと浸透させていくには、文言一つひとつにどれだけ思いを込められるかが極めて重要でした。その点についてはローランズの皆さんも強いこだわりをお持ちで、皆さんが日常的に使う言葉に置き換えたことで、誰もが自分ごととして捉えることのできる制度になりました。

福寿氏:評価方法を「つぼみ」から「満開」の5段階に設定するなど、私たちの「らしさ」を多分に取り入れていただきました。EYの皆さまには、一般的な理論ではめていく形ではなく、私たちの内側にある思いや「らしさ」を尊重しながら、実用的な制度にまとめ上げていただいたと感じています。

高柳:ローランズにとって初めての人事評価制度であることから、運用のしやすさを重視し、評価基準や考え方をできる限りわかりやすく整理した制度となっています。今後、会社が300人、500人規模へと成長していくことを見据え、職階ごとに評価項目や運用方法にバリエーションを設けるなど、この制度を土台として柔軟に発展させていくことも可能だと思います。

「1対6」の議論を経てたどり着いた最適な評価バランス

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The better the world works

制度を耕しながら成長を重ね、誰もが咲き誇れる社会を構築する

2026年3月に完成した人事評価制度は、早くも社内に意識変化をもたらしています。今後の運用を通じて組織をより良いものにしていくには、変化に応じた柔軟なアップデートが欠かせません。


「ベータ版」の制度を耕し、育てる

高柳:2026年3月に人事評価制度が完成し、7月からまずは社員向けに運用をスタートするとうかがっています。組織内ではどのような変化がありますか。

福寿氏:まずは最初に経営陣で意識がそろえられたことに大きな手応えを感じています。スキルだけでなくカルチャーフィットが重要だという、策定の過程で私自身が深く認識したことを、経営陣をはじめ、ローランズで働く一人ひとりと共通認識を形成するための言語を得ることができました。評価項目の細かな文言について、納得できるまで何度も修正を重ねましたが、EYの皆さまが一緒にこだわり抜いて知見と熱意をつないでくださったおかげで、運用に自信を持てる制度になりました。

高柳:今回の人事評価制度は、ローランズの「ありたき姿」を力強く示す羅針盤になるはずです。お伝えしたいのは、制度は完成して終わりではなく、常に「ベータ版」であっていいということです。組織の成長に合わせて、大切にすべきバリューの優先順位が変わるかもしれません。その変化を恐れず柔軟にアップデートし続けることで、この先10年、20年と使い続けられるものになっていくはずです。

福寿氏:「常にベータ版でいい」という言葉をいただいて、気持ちがとても楽になりましたし、これから制度を育てていくことが楽しみになりました。この人事評価制度は、まさに「人を咲かせる」土壌のようなものですね。私たちの手で常に耕し、手入れを重ねながら、スローガンに掲げる「みんなみんなみんな咲け」を実現するものへと育てていきたいと考えています。


障がい者雇用の“新たな常識”を社会へ

高柳:今回のプロジェクトは、伴走したEYのメンバーにとっても非常に刺激的な経験になりました。普段私たちが向き合うクライアントの多くは大企業であり、そこでは一般論や既存の枠組みを起点に施策の検討が進められることが多いと言えます。しかし、福寿さんのように熱意にあふれたリーダーが率いる社会企業との共創は、議論を重ねながら他に類を見ない仕組みを作り上げる試行錯誤の繰り返しであり、私たちにとっても非常にやりがいのあるチャレンジでした。プロボノとして関わることで、社会的な課題に取り組む組織の価値観や在り方そのものに向き合いながら共創できた点は、本プロジェクトならではの意義であったと感じています。

福寿氏:あらためて素晴らしい機会をいただけたことに感謝しています。当初は高度な専門性を持つプロフェッショナルからプロボノの支援を受けることに気後れもありましたが、今は、いただいた支援を、社会への責任としてアウトプットしていくミッションを与えていただいたと感じています。社会を前進させるための人事制度のもとで働く一人ひとりが咲き、その先でまたたくさんの人が咲き、社会に良い変化を作っていく、という形で、EYの皆さまに感謝を返していきたいです。

高柳:熱い思いを反映したこの評価制度が、働く皆さんのやりがいを深め、自分らしく咲くための後押しとなるのを願っています。今後のご活躍にも期待しています。

障がい者雇用の“新たな常識”を社会へ


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