新リース会計基準(案)を踏まえたリースのオンバランス処理に伴う契約情報等の管理及び収集プロセス構築の主な留意点

情報センサー2024年8月・9月 FAAS

新リース会計基準(案)を踏まえたリースのオンバランス処理に伴う契約情報等の管理及び収集プロセス構築の主な留意点


リースのオンバランス処理を適切に行うためには、会社のさまざまな部署で管理されている契約情報等から、リースのオンバランス処理に必要な情報を、経理部門が漏れなく、効率的に収集できるようにする必要があり、本稿では、契約情報等の管理及び収集に焦点を当てた考察を行っています。


本稿の執筆者

EY新日本有限責任監査法人 FAAS事業部 公認会計士 矢﨑 豊

FAAS(財務会計アドバイザリーサービス)事業部において、新会計基準や国際会計基準への対応、決算期統一や早期化、経営計画策定、トランザクションにおける会計面の検討、サステナビリティ開示対応等、CFOや財務部門等が抱える課題支援等に従事している。



要点

  • リースのオンバランス処理にあたっては、判断が必要な項目も含め新たに管理及び収集が必要な情報が多数あるため、どのような項目を新たに収集する必要があるのか早めに把握する必要がある。
  • リースは、さまざまな部署で管理されていることが多いため、各部署で管理されている情報を経理部門が網羅的かつ、効率的に収集する仕組みが必要となる。
  • オンバランス処理となることに伴い、リースの契約は投資案件として整理される会社もあるものと想定され、その場合、稟議書、決裁書のフォーマットや決裁基準等も変わる可能性がある。


Ⅰ はじめに

企業会計基準委員会から2023年5月2日に、<表1>の会計基準等の公開草案(以下、新リース会計基準案)が公表され、新リース会計基準案の最終基準公表から2年程度経過した4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することが提案されています(ただし、早期適用可)。本稿の記載時点においては、まだ、最終基準が公表されていないことから、今後の動向に注視する必要があります。

一方で、新リース会計基準案では、リースの定義自体が見直され、また、現行の会計基準における借手のオペレーティング・リースについてもオンバランス処理が提案されており、貸借対照表等に大きな影響を与える可能性がある会社では、新リース会計基準案をもとに、財務諸表や業務プロセス、システム等に及ぼす影響の調査に着手しています。

そのような先行して新リース会計基準案の準備に着手している会社の状況や、IFRS第16号(IFRSにおけるリース会計基準)に先行して対応した会社の事例に鑑みると、新リース会計基準の適用による実務への影響の懸念がある会社については、早めに業務プロセスの構築(特に、契約情報等の管理及び収集プロセスの構築)について検討に着手する必要があると考えられることから、公開草案段階ではありますが、新リース会計基準案を踏まえて、すべてのリース(短期リースや少額リースとして取り扱うリースを除く)がオンバランス処理となった場合のリースの借手における契約情報等の管理及び収集プロセス構築の主な留意点について考察いたします。なお、本文中意見に係る部分は筆者の私見である旨、あらかじめ申し添えます。

表1 公表された公開草案

企業会計基準公開草案第73号

「リースに関する会計基準(案)」

企業会計基準適用指針公開草案第73号

「リースに関する会計基準の適用指針(案)」

その他、上記公開草案により、影響する企業会計基準、企業会計基準適用指針及び実務対応報告の改正に係る公開草案(計12件)

Ⅱ 借手のリース契約情報等の管理及び収集プロセス構築の主な留意点

新リース会計基準案によると、原則として適用範囲となっているすべてのリースについてオンバランス処理が求められていますが、それに伴い、リースの借手は、契約情報等の管理及び収集プロセスの構築において、主に以下の5つの事項に留意する必要があるものと考えます。

1. リースのオンバランス額等の算定に必要な情報項目の網羅的な把握

リースのオンバランス処理は、リース料、リース期間、割引率等の情報を使って割引現在価値をベースとした「使用権資産の取得価額相当額」や「使用権資産の簿価相当額」、「使用権資産の減価償却費相当額」、「リース負債残高」、「利息相当額」等を算定する必要があるため、通常の自己所有の減価償却資産よりも、複雑な計算が必要となりますが、それらの計算には、<表2>のように、契約書や申込書等から読みとれる情報以外に、「割引率」や「自社所有であった場合の表示科目」「決定したリース期間」等、判断が必要な項目も含め、多数の項目を情報として保持する必要があります。

そのため、オンバランス処理にあたり、どのような情報が必要であるのか、それはどの部署で管理されているのか(もしくは、現時点では把握・管理できていないのか)等について網羅的な把握を行う必要があります。

なお、契約書等の中には、当初の原契約に対して、その後、契約期間やリース料、対象物件の範囲等が部分的に変わり、その変更箇所のみを覚書で締結するケースもあるため、原契約からの変更履歴情報の保持についても検討が必要となります。

表2 リースのオンバランス処理にあたって必要となる情報項目の例

オフバランス処理であっても必要な管理情報(例)

契約書、申込書等から読みとれる情報

  • 物件名
  • リース契約の相手先
  • 契約期間、契約開始日、契約終了日

 
  • リース料、消費税額
  • 支払い回数
  • 自動更新、延長オプション、解約オプションの有無、内容

契約条件以外の情報

  • 管理部署
  • 設置場所

オンバランス処理にあたり必要な追加情報(例)

  • 割引率
  • 自社所有であった場合の表示科目
  • 決定したリース期間(及び、その判断内容)
  • 減価償却方法
  • サブリース契約の有無、及びその内容

※ 会計監査や税務調査等において、判断根拠を聞かれた場合に、スムーズな回答ができるようにしておくためには、単に計算に必要な情報を保持するだけでなく、その判断理由をどこかに記録しておくことが必要となります。

(筆者作成)

2. 契約情報や関連する情報等の管理及び収集方法の見直し

リース契約を含む契約情報等の管理は、その契約種類によって会社のさまざまな部署で管理されていることが多いため、各部署が管理している契約情報から、リースのオンバランス処理に必要な情報を、リースの会計処理を行う経理部門がどのようにして収集すればよいのかについて検討する必要があります。

例えば、<図1>は、リース計算システムとは別に、契約管理システムを活用し、各部門が管理している契約情報を契約管理システムで一元管理することを想定した場合の業務フローの例になります。図の左側が関係部署となっており、関係部署の各担当者が契約書から契約情報を契約管理システムに登録します。その上で、図の右側の経理部門は、随時、契約管理システムにアクセスして、リース契約に該当するものに絞って契約の一覧表をダウンロードし、それに割引率やリース期間等、判断が必要な項目を追加したファイルを作成して、リース計算システムにアップロードする業務フローです。

この例では、「リース計算要素に関する判断」を経理部門が行う業務フローとなっていますが、関係部署において「リース計算要素に関する判断」を行って、その内容を契約管理システムに登録し、経理部門では、その内容のチェックを中心に行うという業務フローも考えられることから、さまざまな業務フローのパターンを検討の遡上に挙げ、契約情報等をどの部署で登録・管理するのが会社全体として効果的・効率的であるか、契約情報へのアクセス権をどの部署やどの担当者まで付与するのがよいか等について検討してみることが有用であると考えます。

図1 契約管理システムと、リース計算システムの関係例(イメージ)

図1 契約管理システムと、リース計算システムの関係例(イメージ)
(筆者作成)

3. 判断マニュアルや判定フロー等の整備

新リース会計基準案によると、「契約が特定された資産の使用を支配する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する場合、当該契約はリースを含む」とされており、契約にリースが含まれているかどうかについて、会計基準に精通しない方が判断するのは難しい状況です。また、リースと判断された取引をオンバランス処理する過程においても、いくつか判断を求められる項目があり、その中でも、「リース期間」は、その判断がオンバランス額に大きな影響を及ぼすため特に重要な項目です。しかし、新リース会計基準案では「解約不能期間に、行使することが合理的に確実な延長オプション期間と、行使しないことが合理的に確実な解約オプション期間を加えてリース期間を決定する」とされており、リース期間の判断についても会計基準に精通しない方が判断するのは難しい状況です。そのため、リース期間やそれ以外に判断が必要な項目について、適用指針において示されている設例も活用しながら、会社としての判断マニュアルや判定フロー等を整備していく必要があります。

特に、関係部署において「リースを含むかどうかの判断」や「リース計算要素に関する判断」を行い、その内容を契約管理システムに登録するような業務フローを構築する場合には、各関係部署の担当者が理解できるような判断マニュアルや判定フロー等を整備する必要があります。


4. 稟議書、決裁書のフォーマットの見直し

リースは、本社や工場、支店、営業店舗、倉庫等の不動産賃貸借契約や、車両リース、ITサービス契約に含まれるネットワーク設備機器使用契約、複合機リースの契約、従業員の社宅契約等、さまざまな契約に含まれており、おのおのの契約を担当する各部署の契約実務に影響が及ぶことが想定されます。そのため、会計処理の要となる経理部門(又は、リースのオンバランス処理を集中管理する固定資産管理部門等)も、どのようなリース物件がどのような条件で締結されようとしているのか等が早期に把握できるように、稟議書、決裁書等のフォーマットの見直しが必要となってくる可能性があります。
 

加えて、リースがオンバランス処理となるということは、今後、リースに関する新たな契約は単なる支出を伴う契約締結ではなく、投資案件として位置付ける会社も出てくるものと考えられます。特に、リース期間等、判断が必要な項目をどのように設定するのかによってオンバランス額が大きく代わり、ROAや自己資本比率等にも影響してくることを考えると、稟議書にオンバランス処理の概算額を載せて、当該概算額も含め関係者の決裁をとることが考えられます。


また、当該オンバランス処理の概算額によっては、決裁権限者自体が変わるという対応も考えられます。


5. 子会社からリース注記等に必要な情報を収集するための連結パッケージの改修

新リース会計基準の導入によって、各社単体決算上、新たな勘定科目の設定が必要となってくるだけでなく、それを連結決算においても集計できるように、連結の科目設定の見直しや連結注記で必要な情報を収集できるように連結パッケージの改修が必要となります。

現在公表されている新リース会計基準案では、下記に示すようにリースに関するさまざまな情報の注記が求められている(また、収集が容易ではないと思われる注記も含まれている)ため、連結パッケージの改修だけでなく、実際に必要な情報が集計可能なのか収集・集計の練習(トライアル)も、本番適用前に実施する必要があります。

図2

Ⅲ おわりに

本稿では、リースの借手における契約情報等の管理及び収集プロセス構築の主な留意点に焦点を当てて考察してきました。

まだ、最終基準が公表されていないことや税務におけるリースの取り扱いも不明であることから、新リース会計基準の導入に向けた準備に着手しづらいという会社も多くあると思われますが、今回触れた契約情報等の管理及び収集以外にも、契約の解約や契約変更、減損処理等、さまざまなケースも想定して、業務プロセスの構築を検討する必要があり、また、契約管理システムやリース計算システムを導入するのかどうか、導入するとすればどのようなシステムを導入すべきであるのか等の検討も必要となります。

特に、最新の契約管理システムの中には、AIによるOCR(文字認識)機能を搭載したシステムも精度が向上し普及してきており、契約情報の読み込みにより、最初に定義した項目を体系的に整理したリース契約の台帳情報を生成するだけでなく、キーワード検索により、読み込んだすべての契約書の内容から欲しい条文や文言を瞬時に検索することができるシステムもあることから、新リース会計基準の導入に伴う業務負担増の軽減策として、システムの利用を検討することも考えられます。

そのため、新リース会計基準の導入における会計面を中心とした影響度調査も重要であるものの、その後の、関係者を巻き込んで実施する業務プロセスの構築やシステム検討のための準備時間を十分に確保いただきたいと考えます。


サマリー

リースのオンバランス処理を適切に行うためには、会社のさまざまな部署で管理されている契約情報等から、リースのオンバランス処理に必要な情報を、経理部門が漏れなく、効率的に収集できるようにする必要があり、本稿では、契約情報等の管理及び収集に焦点を当てた考察を行っています。


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