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EY新日本有限責任監査法人 品質管理本部 会計監理部 公認会計士 宮﨑 徹
品質管理本部 会計監理部において、会計処理及び開示に関して相談を受ける業務、ならびに研修・セミナー講師を含む会計に関する当法人内外への情報提供などの業務に従事するとともに、主に製造業の監査業務に従事している。主な著書(共著)に『会社法決算書の読み方・作り方(第17版)』(中央経済社)がある。
企業会計基準委員会(以下、ASBJ)から2023年5月2日に<表1>の会計基準等の公開草案(以下、本公開草案)が公表され、23年8月まで本公開草案へのコメントが募集されています。その後、最終化に向けた審議が再開され、仮に24年3月末までに会計基準等が最終化された場合、26年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から原則適用(24年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から早期適用可)となることが考えられます。
本公開草案は、現行の会計基準における借手のオペレーティング・リースについてもオンバランスさせることが提案されており、財務諸表、特に貸借対照表に大きな影響を与える可能性があります。本公開草案は、このように財務諸表に大きな影響を与える可能性があり、また、早期適用する場合には早めに検討する必要があると考えられるため、公開草案段階ではありますが、本公開草案について借手の会計処理及び開示を中心に解説します。なお、文中意見に係る部分は筆者の私見である旨、あらかじめ申し添えます。
16年1月に国際会計基準審議会(IASB)より国際財務報告基準(IFRS)第16号「リース」(以下、IFRS第16号)が公表され、同年2月に米国財務会計基準審議会(FASB)よりFASB Accounting Standards CodificationのTopic 842「リース」(以下、Topic 842)が公表されました。
IFRS第16号及びTopic 842では、借手の会計処理に関して、主に費用配分の方法が異なるものの、原資産の引渡しによりリースの借手に支配が移転した使用権部分に係る資産(使用権資産)と当該移転に伴う負債(リース負債)を計上する使用権モデルにより、オペレーティング・リースも含む全てのリースについて資産及び負債を計上することとされています。
これは、現行の我が国の会計基準等とは異なるものであり、ASBJでは19年3月より、国際的な会計基準と整合的なものとするために、借手の全てのリースについて資産及び負債を計上する会計基準の開発が進められ、今般、本公開草案等が公表されました。
開発にあたっての基本的な方針は次のとおりとすることが提案されています。
IFRS第16号と同様に、リースがファイナンス・リースであるかオペレーティング・リースであるかにかかわらず、全てのリースを金融の提供と捉え使用権資産に係る減価償却費及びリース負債に係る利息相当額を計上する「単一の会計処理モデル」によることが提案されています(<表2>参照)。
次の方針とすることが提案されています。
* IFRS第16号の主要な定めの内容のみを取り入れる開発方針は、取り入れなかった項目についてもIFRS第16号と同じ適用結果となることを意図するものではなく、取り入れた主要な定めの内容に基づき判断が行われることを意図するものであるため、適切な会計処理は、IFRS第16号における詳細な定めに基づき会計処理を行った結果に限定されないこととなると提案されている。
借手と貸手の会計処理に齟齬(そご)が生じないように、借手のための新しい会計基準を開発するものではないものの、既存の会計基準の改正とすると項番号の修正が多くなるため、利便性の観点から項番号を振り直し、新たな会計基準とすることが提案されています。
貸手の会計処理については、IFRS第16号及びTopic 842ともに抜本的な改正が行われていないため、次の点を除き、基本的に、現行の企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」(以下、企業会計基準第13号)の定めを維持することが提案されています。
本会計基準案等は、契約の名称などにかかわらず、<表3>の①~④に該当する場合を除き、リースに関する会計処理及び開示に適用することが提案されています。
本会計基準案等を連結財務諸表のみに適用すべきか、連結財務諸表と個別財務諸表の双方に適用すべきかについて検討した結果、本会計基準案等の適用に関する懸念の多くは、個別財務諸表固有の論点ではないと考えられ、本会計基準案等では、連結財務諸表と個別財務諸表の会計処理は同一であるべきとする基本的な考え方及び方針を覆すに値する事情は存在しないと判断し、連結財務諸表と個別財務諸表の会計処理を同一とすることが提案されています。
リースの定義に関する定めは、借手が貸借対照表に計上する資産及び負債の範囲を決定するものであることから、国際的な会計基準との整合性を確保するためには、リースの定義に関する定めについて、IFRS第16号との整合性を確保する必要があると考えられます。
このため、本会計基準案等では、リースの定義に関する定めについて、IFRS第16号の定めと整合させて、借手と貸手の両方に適用することが提案されています。具体的には、「リース」について、「原資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約又は契約の一部分」と定義することが提案されています。
本会計基準案等では、リースの識別に関する定めについて、基本的にIFRS第16号の定めと整合させて、借手と貸手の両方に適用することが提案されています。具体的には、主に次の定めを置くことが提案されています。
ただし、リースの識別に関する細則的なガイダンスについては、国際的な比較可能性が大きく損なわれるか否かを主要な判断基準として、取捨選択して取り入れることが提案されています。本会計基準案等に取り入れていないものとして、例えば、次のものがあるとされています。
リースの識別に関する定めは企業会計基準第13号では置かれていなかった定めであり、本会計基準案等の適用によって、これまで企業会計基準第13号により会計処理されていなかった契約にリースが含まれると判断される場合があると考えられます(<図1>参照)。
借手のリース期間の決定は、借手が貸借対照表に計上する資産及び負債の金額に直接的に影響を与えるものであり、IFRS第16号における定めと整合的に、次の定めを置くことが提案されています。
借手は、借手のリース期間について、借手が原資産を使用する権利を有する解約不能期間に、次の①及び②の両方の期間を加えて決定する。
① 借手が行使することが合理的に確実であるリースの延長オプションの対象期間
② 借手が行使しないことが合理的に確実であるリースの解約オプションの対象期間
借手のみがリースを解約する権利を有している場合、当該権利は借手が利用可能なオプションとして、借手は借手のリース期間を決定するにあたってこれを考慮する。貸手のみがリースを解約する権利を有している場合、当該期間は、借手の解約不能期間に含まれる。
ここで、「合理的に確実」の判断にばらつきが生じる懸念及び過去実績に偏る懸念に対応し、借手が延長オプションを行使すること又は解約オプションを行使しないことが合理的に確実であるかどうかを判定するにあたって考慮する経済的インセンティブを生じさせる要因として次の例示を含めることが提案されています。
① 延長又は解約オプションの対象期間に係る契約条件(リース料、違約金、残価保証、購入オプションなど)
② 大幅な賃借設備の改良の有無
③ リースの解約に関連して生じるコスト
④ 企業の事業内容に照らした原資産の重要性
⑤ 延長又は解約オプションの行使条件
企業会計基準第13号では、リース資産及びリース債務の計上額を算定するにあたっては、原則として、リース契約締結時に合意されたリース料総額からこれに含まれている利息相当額の合理的な見積額を控除する方法によるとされていました。
本会計基準案等では、IFRS第16号の定めと同様に、借手は、使用権資産について、リース開始日に算定されたリース負債の計上額に、リース開始日までに支払った借手のリース料(以下、前払リース料)及び付随費用を加算して算定し※1、リース負債の計上額を算定するにあたっては、原則として、リース開始日において未払である借手のリース料からこれに含まれている利息相当額の合理的な見積額を控除し、現在価値により算定することが提案されています。
ここで、借手のリース料は、IFRS第16号の定めと同様に、借手が借手のリース期間中に原資産を使用する権利に関して行う貸手に対する支払であり、<図2>の①から⑤の支払で構成されるとされています。
本会計基準案等では、<表4>のとおり、原則的な取扱い及び簡便的な取扱いのいずれも現行と同様の取扱いとすることが提案されています。
本会計基準案等では、<表5>のとおり、使用権資産の償却について、基本的に現行のリース資産の償却と同様の会計処理が提案されています。
本会計基準案等では、現行の定め及びIFRS第16号の定めと同様に、借手は、短期リース(リース開始日において、借手のリース期間が12カ月以内であるリースをいう。)について、リース開始日に使用権資産及びリース負債を計上せず、借手のリース料を借手のリース期間にわたって原則として定額法により費用として計上することを認めることが提案されています。
本会計基準案等では、次の①又は②について、借手は、リース開始日に使用権資産及びリース負債を計上せず、借手のリース料を借手のリース期間にわたって原則として定額法により費用として計上することを認めることが提案されています。
本会計基準案等では、借手は、IFRS第16号の定めと同様に、リースの契約条件の変更が生じた場合、変更前のリースとは独立したリースとして会計処理を行う又はリース負債の計上額の見直しを行うことが提案されています。具体的には、<表6>のとおりです。
本会計基準案等では、借手は、IFRS第16号の定めと同様に、リースの契約条件の変更が生じていない場合で、次のいずれかに該当するときには、該当する事象が生じた日にリース負債について当該事象の内容を反映した借手のリース料の現在価値まで修正し、当該リース負債の修正額に相当する金額を使用権資産に加減することが提案されています。
(ⅰ) 借手のリース期間に変更がある場合
(ⅱ) 借手のリース期間に変更がなく借手のリース料に変更がある場合
企業会計基準適用指針第16号では、再リース期間をリース資産の耐用年数に含めない場合の再リース料は、原則として、発生時の費用として処理する取扱いを定めていました。当該取扱いは、IFRS第16号では設けられていない取扱いとなっていますが、再リースは我が国固有の商慣習※2であり、当該取扱いを引き続き設けることにより、国際的な比較可能性を大きく損なわせずに、作成者の追加的な負担を減らすことができると考えられることから、当該取扱いを踏襲した取扱いを認めることが提案されています。
具体的には、借手は、リース開始日及び直近のリースの契約条件の変更の発効日において再リースに係るリース期間を借手のリース期間に含めないことを決定した場合、再リースを当初のリースとは独立したリースとして会計処理を行うことができることが提案されています。
本会計基準案等ではセール・アンド・リースバック取引については、IFRS第16号ではなく、Topic 842と整合的な会計処理が提案されています。
本会計基準案等では、「セール・アンド・リースバック取引」について、売手である借手が資産を買手である貸手に譲渡し、売手である借手が買手である貸手から当該資産をリース(以下、リースバック)する取引と定義することが提案されています。また、リースバックが行われる場合であっても、売手である借手による資産の譲渡が次のいずれかであるときはセール・アンド・リースバック取引に該当しないとされています。
セール・アンド・リースバック取引における資産の譲渡が売却に該当するか否かで、<表7>のとおり、異なる会計処理が提案されています。なお、IFRS第16号においては、IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」により収益が認識されると判断される場合、買手である貸手に移転された権利部分については権利の譲渡に係る利得又は損失を譲渡時に認識し、リースバックにより売手である借手が継続して保持する権利部分については権利の譲渡に係る利得又は損失を繰り延べることとされており、本会計基準案等においては、IFRS第16号の定めとは異なる定めを置くことが提案されています。
資産の譲渡が売却に該当するかの判断について、<表8>の要件をいずれか満たす場合には売却に該当しないことが提案されています。
売手である借手は、当該資産の譲渡対価と借手のリース料について<表9>のとおり取り扱うことが提案されています。
本会計基準案等では、「サブリース取引」について、原資産が借手から第三者にさらにリース(以下、サブリース)され、当初の貸手と借手の間のリースが依然として有効である取引と定義し、当初の貸手と借手の間のリースを「ヘッドリース」、ヘッドリースにおける借手を「中間的な貸手」と定義した上で、サブリース取引について、IFRS第16号と同様にヘッドリースとサブリースを2つの別個の契約として借手と貸手の両方の会計処理を行うことが提案されています。
IFRS第16号においては、本会計処理に対する例外は設けられていませんが、本会計基準案等では、サブリース取引の例外的な定めとして、「中間的な貸手がヘッドリースに対してリスクを負わない場合」の取扱いと「転リース取引」の取扱いを定めることが提案されています。
我が国の不動産取引において、法的にヘッドリースとサブリースがそれぞれ存在する場合であっても、中間的な貸手がヘッドリースとサブリースを2つの別個の契約として借手と貸手の両方の会計処理を行い、貸借対照表において資産及び負債を計上することが取引の実態を反映しない場合があるとの意見が聞かれました。
これを受けたASBJでの審議の結果、国際的な比較可能性を大きく損なわせない範囲で、<表10>のとおり、我が国における例外的な取扱いを定めることが提案されています。
企業会計基準適用指針第16号における転リース取引の取扱いについては、主に機器等のリースについて仲介の役割を果たす中間的な貸手の会計処理として実務に浸透しているため、本会計基準案等では、当該取扱いをサブリース取引の例外的な取扱いとして、<表11>のとおり、企業会計基準適用指針第16号の定めを変更せずに認めることが提案されています。
借地権の設定に係る権利金等に係る会計処理は<表12>のとおりとすることが提案されています。
本会計基準案等では、借手の会計処理をIFRS第16号と整合的なものとする中で、借手の表示についても、IFRS第16号と整合的なものとすることとし、<表13>のとおり提案されています。
開示目的を定めることで、より有用な情報が財務諸表利用者にもたらされると考えられるため、本会計基準案等では、リースに関する情報を注記するにあたっての開示目的(借手又は貸手が注記において、財務諸表本表で提供される情報と合わせて、リースが借手又は貸手の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローに与える影響を財務諸表利用者が評価するための基礎を与える情報を開示すること)を定めることが提案されています。
本会計基準案等では、開示目的を達成するため、リースに関する注記として、<表14>の事項が提案されています。
本会計基準案等では、借手の会計処理をIFRS第16号と整合的なものとする中で、借手の注記事項についても、IFRS第16号と整合的なものとすることが提案されています。
ただし、本会計基準案等は簡素で利便性が高いものを目指していることから、取り入れなくとも国際的な比較可能性を大きく損なわせない内容については、必ずしもIFRS第16号に合わせる必要はないと考えられるため、取り入れないことが提案されています。具体的には、我が国の会計基準に関連のない注記、少額リースの費用に関する注記及び短期リースのポートフォリオに関する注記について、取り入れないことが提案されています。
本会計基準案等では、連結財務諸表を作成している場合、個別財務諸表においては、借手及び貸手の注記の内の「リース特有の取引に関する情報」及び「当期及び翌期以降のリースの金額を理解するための情報」について注記しないことを認めることが提案されています。また、個別財務諸表においては、借手の注記の内の「会計方針に関する情報」を記載するにあたり、連結財務諸表における記載を参照することを認めることが提案されています。
本会計基準案等に基づく連結財務諸表における開示の定めと個別財務諸表及び四半期財務諸表の開示の定めとの関係は、<表15>のとおりとなります。
本会計基準案等では、次の理由から、適用時期について<表16>のように提案されています。
① これまでにASBJが公表してきた会計基準については、会計基準の公表から原則的な適用時期までが1年程度のものが多い
② IFRS第16号の原則的な適用時期が2019年1月であり、また、Topic 842における公開企業の原則的な適用時期もほぼ同時期であったため、会計基準の公表から原則的な適用時期までの期間を長く設ける場合、我が国における実務が国際的な実務と整合的なものとなるまでの期間が長くなる
③ リースの識別を始め、これまでとは異なる実務を求めることとなるため、会計基準の公表から原則的な適用時期までの期間は1年程度では短い可能性がある
④ 一方、本会計基準等の適用開始にかかる実務上の負担への対応として、我が国の会計基準を基礎とした場合に関連すると考えられるIFRS第16号の経過措置を取り入れていることに加えて我が国特有の経過措置を設けている
なお、2023年8月までに本公開草案へのコメントが募集され、その後最終化に向けた審議が再開され、2024年3月末までに会計基準が最終化された場合、<表17>のような適用時期が考えられます。
本適用指針案では、会計基準の適用初年度においては、適用初年度の期首より前に新たな会計方針を遡及適用した場合の適用初年度の累積的影響額を適用初年度の期首の利益剰余金に加減し、当該期首残高から新たな会計方針を適用することができるとの経過措置が提案されています。そして、次の項目について具体的な経過措置の方法が提案されています。
※1 使用権資産の計上額については、現行の企業会計基準適用指針第16号「リース取引に関する会計基準の適用指針」(以下、企業会計基準適用指針第16号)における貸手の購入価額又は見積現金購入価額と比較を行う方法を踏襲せず、IFRS第16号と整合的に、借手のリース料の現在価値を基礎として使用権資産の計上額を算定することが提案されている。
※2 我が国の再リースの一般的な特徴は、再リースに関する条項が当初の契約において明示されており、経済的耐用年数を考慮した解約不能期間経過後において、当初の月額リース料程度の年間リース料により行われる1年間のリースが挙げられる。
※3 資産の譲渡対価が明らかに時価ではないかどうか又は借手のリース料が明らかに市場のレートでのリース料ではないかどうかは、資産の時価と市場のレートでのリース料のいずれか容易に算定できる方を基礎として判定する。
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