中国拠点における不正調査の留意点と対応策:第2回 親・子会社それぞれの課題

情報センサー2026年6月 Topics

中国拠点における不正調査の留意点と対応策:第2回 親・子会社それぞれの課題


本シリーズでは、日系企業の中国拠点における不正調査において考慮すべき特有の事情や親・子会社がそれぞれ抱えている課題、その対応策を3回に分けてお届けします。

第1回では、不正調査に関する中国特有の事情について解説しました。第2回となる本稿では、中国拠点および日本の親会社における課題を考察します。

本稿の執筆者

EY新日本有限責任監査法人 Forensics事業部 中国公認会計士 李 植

2022年の入社後、各種調査案件における委員会補助業務をはじめ、クロスボーダー企業に対する内部統制評価や内部監査支援業務に多数従事し、日系企業の中国拠点の法定監査や内部統制評価業務に関する知見を有する。

EY中国 Forensics ニューヨーク州弁護士 三宅 亜紀子

日本・米国・中国で15年以上、法律事務所・外資系コンサルティングファームにて不正調査・予防、コンプライアンス体制構築や係争支援に従事し、日本の調査委員会や、不正および贈収賄リスクアセスメント等の領域で豊富な経験を有する。

※所属・役職は記事公開時のものです


要点

  • 中国拠点では、長期的な関係によるリスクや現地従業員への過度の依存、承認の形骸化、取引先選定方法の不備、第三者との癒着などの課題が見られる。
  • 日本の親会社では、経営者の意識、組織風土・出資体制、ガバナンス、研修・周知、内部通報体制といった課題が指摘されている。

Ⅰ はじめに

中国の拠点で不正が発覚した場合、その調査に当たっては、考慮しなければならない中国特有の事情があります。また、中国の子会社と日本の親会社とでそれぞれ抱えている課題があることから、その対応策は異なります。

それぞれの課題について中国の子会社と日本の親会社とで認識のギャップがある場合、中国拠点における不正防止策の効果が弱まっている可能性があります。全3回シリーズ第2回の本稿では、それら課題を考察します。

シリーズ各回の記事はこちらからご覧いただけます。

第1回:中国特有の事情とは
第2回:親・子会社それぞれの課題
第3回:不正防止策と発覚時の諸対応

Ⅱ 中国拠点における課題

1. 長期的な関係によるリスク

現地従業員は、短期間で帰任する駐在員よりも、上下関係が長期にわたり継続する上長(長期駐在者や現地従業員を含む)の指示や意向を優先する傾向があります。その結果、当該上長を中心とする組織構造が形成される場合があります。仮に当該上長による不正行為の疑義が生じたとしても、代替要員の不在等を理由として、調査の実施や懲戒処分に本格的に着手することに消極的な意見が、組織内で生じることがあり得ます。

2. 有能な現地従業員への過度な依存

海外拠点においては、日本語が堪能な現地従業員が管理の中核を担う立場に登用され、昇進していくという傾向がしばしば見受けられます。このような状況が継続すると、特定の従業員に権限が集中し、けん制や相互チェック機能が形骸化する恐れがあります。その結果、当該状況に不満を抱く他の従業員との間で対立が生じ、不正行為や組織内の分断を招く場合もあります。また、日本人駐在員が日本語を理解する現地従業員とのみコミュニケーションを行う状況も多く見られます。そのため、仮に重要な情報であっても、当該現地従業員にとって不都合な内容については、上位者や本社に適切に報告されない恐れがあります。

3. 駐在員による承認の形骸化

駐在員が現地の企業文化やビジネス環境に過度に配慮するあまり、現地拠点における独自の慣行を必要以上に容認してしまっている点が挙げられます。かつては、中国において当局関係者や取引先に対し、現金による祝儀や謝礼を提供する慣行が存在していましたが、現在では、そのような慣行は大きく減少しています。しかしながら駐在員がその変化を把握できていない場合、現地従業員から「従来実施している」との説明を受けて、不適切な支出を容認してしまう恐れがあります。

研修や社内イベントを名目とした支出が、実際には社外贈答に流用される事例も確認されています。チームビルディングや研修といった「従業員向けイベント用」と説明される場合、駐在員にとっては当該支出の使用目的や合理性を客観的に判断することが難しく、その結果、十分な検証を行わないまま承認に至ってしまうケースがあることも否定できません。

4. 取引先選定を任された現地従業員による親族企業との取引

現地従業員の親族が経営する企業(以下、親族企業)との取引が発覚した時点では、当該取引の規模が拡大しており、実務上、取引を停止することが困難な状況に陥っている場合があります。仮に、取引開始の段階で親族の関与が認識されていたとしても、特に地方においては取引先の選択肢が限られていることから、結果として当該親族企業との取引を行わざるを得ないケースも見受けられます。

このような状況においては、現地従業員が主体的に親族企業とコンタクトを取り、実務上の調整が円滑に進むという側面がある一方で、その状態を黙認したことにより、現地従業員と親族企業との間の取引関係がブラックボックス化する恐れが考えられます。その結果、水増し請求や、親族企業に対する不透明な資金の流れが疑われる事態へと発展するケースもあります。

5. 現地従業員と第三者との癒着

中国に進出している日系企業の特徴として、製造業が多く、現地工場を円滑に運営する目的から、製造部門出身の親会社の幹部社員が海外拠点の経営管理を担う駐在員として派遣されるケースが多く見受けられます。その結果、駐在員が現地特有の法令、商慣習、会計基準等について、必ずしも十分な理解を有していないことに留意が必要です。

このような状況下で、現地において会計や法務に関する問題が生じた場合、現地従業員が主導して、関係のある専門家や会計事務所、法律事務所といった第三者に相談し対応を進めることが少なくありません。その過程において、現地従業員とこれら第三者との関係が不透明となり、両者の癒着を背景として不正行為が発生するケースも確認されています。

Ⅲ 親会社における課題

1. 経営者の意識面

親会社の経営者に現地任せの姿勢が見受けられる点が挙げられます。現地拠点において不正が発覚した多数の事案を分析すると、親会社の経営者には共通して、グループガバナンスに対する意識の希薄さや、現地の実情に対する無関心・理解不足が認められます。コンプライアンス対応を単なるコスト要因として捉えていたり、外部専門家との間で適切なコミュニケーションが図れていなかったりします。その結果として、問題の本質や深刻性を十分に認識できていないという風潮は、多くの企業に共通して存在しています。

また、現地化の推進に消極的で、日本における管理手法をそのまま現地に導入しようとする点も課題として挙げられます。現地の法規制、商習慣、従業員の価値観等について日本との相違を十分に理解しないまま、日本のノウハウを画一的に適用しようとした場合、実際の運用上、有効に機能しない可能性があります。

2. 組織風土、出資体制

会社の業績を優先するために、コンプライアンスが軽視・逸脱される点が挙げられます。海外子会社の業績を過度に優先するため、コンプライアンス対応に必要なコストを十分に考慮しない事業計画が策定され、利益を上げる子会社に対する親会社の統制が弱まる傾向が見受けられます。

コンプライアンスを重視していたとしても、合弁先への配慮や遠慮が存在する場合、親会社によるガバナンスを十分に機能させることが困難となる点も課題として挙げられます。中国に進出している日系企業においては、合弁企業を設立しているケースが多く、中国側パートナーが経理、法務、人事等の管理部門を主導する体制の下、日本側の親会社によるガバナンスが十分に機能していないケースもあります。具体的には、会計システムや銀行口座情報の閲覧制限、中国拠点の各種印鑑へのアクセス制限などにより、日本側の統制が有効に機能しにくい状況が生じています。

3. ガバナンス体制

現地拠点に対する支援体制が十分に整備されていない点が挙げられます。グループガバナンスの観点からは、親会社と現地拠点との間で適時かつ適切な情報共有は不可欠です。ところが、多くの企業において、内部監査やコンプライアンス・プログラムの整備といった施策が、親会社主導の「上からの統制」として一方通行で導入される傾向にあります。その結果、問題が発生した際に、現地拠点が親会社に対して相談や報告を行う有効な窓口として機能しないケースが見受けられます。また、現地拠点の危機対応という観点から見ると、中国拠点では管理部門の機能が脆弱(ぜいじゃく)であることが多いにもかかわらず、現地拠点の緊急時において、親会社側の人員派遣、対応方針策定、予算支援、指定専門家による支援等の体制が十分に構築できていないケースも少なくありません。

さらに、内部監査が形式的なものにとどまりがちである点も課題として挙げられます。親会社が現地拠点に対して内部監査を実施する場合、往査前に資料提出を求めることが一般的ですが、現地では事前対応が行われることに加え、言語の壁により十分にヒアリングできなかったり、現地証憑や実務慣行に対する理解不足から、問題点の把握に支障が生じたりすることがあります。その結果、監査が実質を伴わず、形式的な確認にとどまってしまう傾向にあります。加えて、海外拠点においては、社内規程や業務フローが形式上は整備されているものの、実務上は順守されておらず、いわゆる形骸化が生じているケースも少なくありません。このような実態を、短期間で実施される親会社による内部監査のみで見抜くことは、容易ではないのが実情です。

4. 現地拠点向けのルール周知

親会社が作成した研修資料が機械的に翻訳された結果、内容の正確性や分かりやすさを欠いたまま、あるいは翻訳自体が行われないまま現地従業員に提供されているケースが見受けられます。そのため、現地従業員に研修内容が十分に理解されていない状況が生じています。

また、中国の現地拠点においては従業員の入れ替わりが比較的頻繁であることから、親会社の方針や社内ルールが、新たに採用された従業員に対して十分に浸透していないケースも少なくありません。

5. 現地における内部通報の対応能力

日本の親会社には内部通報制度が整備されているものの、現地拠点には当該制度が導入されていなかったり、現地からの通報が親会社の内部通報窓口まで適切に到達しない仕組みとなっていたりするケースは、大企業においても少なからず存在します。

制度自体は形式上整備されているが、通報件数が極めて少ない、あるいは通報がなされたとしても、単なる不平・不満として受け止められ、十分な検討や対応がないまま放置されてしまう事例も見受けられます。特に、現地の経営者や、経営者に近い立場にある管理部門の幹部が通報対象となる場合、通報者が不利益を被ることを懸念して通報を躊躇(ちゅうちょ)したため、長年にわたり不正が発覚しないなど、内部通報制度が有効に機能しないケースもあります。

このように、グローバル内部通報制度については、その設計および運用の両面において、依然として多くの課題が残されています。
 

Ⅳ おわりに

上述のように、中国の現地拠点においては、駐在員による現地従業員への過度な依存や承認プロセスの形骸化、現地従業員による親族企業との取引、第三者機関との癒着といった課題が挙げられます。一方、日本の親会社では、経営者の意識や組織風土、出資体制、ガバナンス体制、ルールの周知徹底、内部通報制度の設計・運用といった側面において、課題が存在しています。

これらを踏まえ、第3回ではそれぞれの課題への対応策について解説します。


サマリー

シリーズ第2回となる本稿では、不正調査において考慮すべき中国拠点および日本の親会社における課題をそれぞれ考察します。


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