EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本シリーズでは、日系企業の中国拠点における不正調査において考慮すべき特有の事情や親・子会社がそれぞれ抱えている課題、その対応策を3回に分けてお届けします。
第2回では、中国拠点と日本の親会社が抱えている課題を考察しました。第3回の本稿では、それぞれが取るべき不正防止策や不正発覚時の諸対応について解説します。
本稿の執筆者
EY新日本有限責任監査法人 Forensics事業部 中国公認会計士 李 植
2022年の入社後、各種調査案件における委員会補助業務をはじめ、クロスボーダー企業に対する内部統制評価や内部監査支援業務に多数従事し、日系企業の中国拠点の法定監査や内部統制評価業務に関する知見を有する。
EY中国 Forensics ニューヨーク州弁護士 三宅 亜紀子
日本・米国・中国で15年以上、法律事務所・外資系コンサルティングファームにて不正調査・予防、コンプライアンス体制構築や係争支援に従事し、日本の調査委員会や、不正および贈収賄リスクアセスメント等の領域で豊富な経験を有する。
※所属・役職は記事公開時のものです
要点
中国の拠点で不正が発覚した場合、その調査に当たり、考慮しなければならない中国特有の事情があります。また、中国の子会社と日本の親会社とでそれぞれ抱えている課題があることから、その対応策も異なります。
全3回のシリーズを締めくくる本稿では、不正防止に向けて中国現地側と日本の親会社側がそれぞれ取るべき対応策を考察するとともに、不正が発覚した場合における対応時の留意点について解説します。
シリーズ各回の記事はこちらからご覧いただけます。
第1回:中国特有の事情とは
第2回:親・子会社それぞれの課題
第3回:不正防止策と発覚時の諸対応
現地拠点の経営者による内部統制無効化は単に拠点で対応するだけではなく、親会社による監督、けん制が不可欠です。そのため、現地拠点における一定金額以上の支出や投資等に対し親会社側で承認を行うなど、親会社が一定程度関与し、協力する仕組みを設けることが推奨されます。
人事ローテーションについては、人員数の制約、業務への適性や職務範囲の限定といった問題に加え、新規採用に要する時間やコストの負担も大きく、直ちに実行することは難しいとの指摘が多く聞かれます。その一方で、業務の属人化を防止し、組織内に適切なけん制機能を確保するためには、権限規程や職務分掌を明確に定めるとともに、重要事項については機関決定を要件とすることが必要です。また、管理職に対して業務マニュアルの作成を義務付けることや、経理・財務分野における管理職経験を有する人材を管理監督者として配置したり、営業、購買等の事業部門の決裁権限を分散させたりするなど、実務面に即した対応を講じることが求められます。
不正調査における証拠収集の観点からは、平時より、業務用パソコンや携帯端末の利用状況を適切にモニタリングできる体制や、社内サーバー上のデータを体系的に管理・整理するデータガバナンスの仕組みを整備しておくことが重要です。近年では、不正の端緒が携帯端末上のアプリケーションから発覚するケースも多く、業務命令として端末の提出を求めることができるよう、雇用契約に内部監査や調査時の携帯端末または携帯端末内の業務関連データ提出の同意を織り込むといった対応も有用です。
第1回でも触れましたが、中国においては、各種情報のデータベース化が進んでいるため、取引先に関する企業情報については、比較的容易に確認することが可能となっています。これらのデータベースは調査会社による詳細な調査には及ばない場合が多いものの、「国家企業信用信息公示系統」「企査査」「天眼査」等の公開データベースを活用し、対象企業の登記情報、出資関係、訴訟の有無、行政処罰の履歴などは把握できるため、これらを定期的に確認することが推奨されます。
業務改善や危機対応といったニーズに応じて、弁護士、公認会計士、コンサルタント等の外部専門家の知見を適切に活用することが重要です。もっとも、外部専門家の資質には一定のばらつきが見られるため、グローバルに展開している事務所や日系の専門事務所など、信頼できる専門家との間で平時から関係性を構築しておくことが望ましいと考えます。その上で、必要な局面において速やかに外部専門家へ相談できるルートを確保しておくことも、実務上極めて重要です。
親会社の経営者の意識や価値観は、グループ企業全体の行動指針や組織風土に大きな影響を及ぼします。昨今の経営者に求められるのは、「守りのコンプライアンス」から「攻めのコンプライアンス」への発想の転換ではないでしょうか。経営者自らが率先してコンプライアンス順守の姿勢や企業価値向上に向けた取組みを明確に示し、グループ全体に対して継続的かつ積極的に発信していくことが求められています。
海外拠点におけるコンプライアンス対応の実効性を確保するためには、会計や法律に関する高度な専門知識を必ずしも有している必要はないものの、少なくともその基礎的な素養を備え、強い使命感を持ってリスクに対する感度を高く保てる人材が、駐在員として適していると言えます。これに加え、親会社による継続的な教育、フォローも不可欠であり、その前提として、駐在前から駐在期間中に至るまで、駐在員と親会社側の支援担当者との間で密接かつ円滑なコミュニケーションが可能となる関係性を構築しておくことが重要です。
現地拠点に対する支援体制の整備や、親子間における情報共有の強化、コンプライアンス部門の人員体制の充実、内部監査機能の拡充など、ガバナンス体制の強化が求められています。
まず、親会社内部において、部門横断的な事案や課題に関する情報を適切に共有できる仕組みを整備する必要があります。その上で、親会社と現地拠点との間の効果的な連携を図るため、親会社による定期的なモニタリングを実施するとともに、現地拠点が直面する業務上の課題を共有し、解決策について協議するなど、双方向の情報共有を継続的に行うことが重要です。
さらに、多言語対応が可能で、かつ現地事情に関する十分な知見を有する人材を内部監査に関与させることにより、内部監査の実効性および検証の深度を深めていくことも求められています。
このように、親会社が現地拠点の内部監査を補完することでその機能を拡充するとともに、課題解決に向けた相互連携によりガバナンス体制の強化が図られます。
中国においては従業員の入れ替わりが比較的頻繁です。そのため、グループの方針や社内ルールを全従業員に確実に浸透させるには、現地従業員に対するコンプライアンス研修を適切な頻度で継続することが不可欠となります。
また、研修資料を現地語に翻訳し、現地従業員が理解しやすい表現や用語を用いて作成することにより、内容の理解度が増し、研修の実効性向上にもつながります。
これまで日本企業は駐在員を多く配置し、駐在員によるルールの徹底や管理などを行ってきました。しかし、日本の労働人口減少に伴い駐在員の減少が進み、親会社の目がさらに行き届きにく場面が増えてくることが予想されます。親会社からのメッセージやルールを繰り返し伝えることに加え、遠隔地にいながら実行可能なデータ分析や現地往査によるサンプルチェックなどを効率的かつ効果的に組み合わせながら定期的にモニタリングを実施することで、ルール順守の実効性を確保していくことが求められます。
不正を発見する上で極めて有用な手段として、海外拠点から通報が寄せられる仕組み、いわゆるグローバル内部通報制度の設計および運用を適切に整備することが重要です。
制度設計の観点からは、データ越境に伴うリスクやその対応策を十分に検討・評価した上で、現地拠点からの通報情報が親会社の内部通報窓口へ確実かつタイムリーに到達する体制を構築することが望まれます。
また、制度運用の観点から、内部通報制度が有効に機能している場合、比較的頻繁に通報が寄せられる一方で、誹謗(ひぼう)中傷や単なる不満、愚痴との判別が必ずしも容易ではないという課題があります。トリアージをうまく行い、通報内容に迅速かつ真摯(しんし)に対応していくとともに、通報者へ調査結果を適切にフィードバックするなど、従業員の通報窓口に対する信頼性を高めていくことが重要です。さらに、通報者の匿名性確保を内部通報制度に組み込むことも、信頼性向上のポイントになります。
不正の疑義が生じた場合には、まず監査役会(監査役)、顧問弁護士、会計監査人等の関係者に相談した上で、速やかに社内調査を開始することが求められます。もっとも、海外拠点においては、社内の役員が主体となって調査を指揮したり、現地従業員のみで調査を遂行したりすることが実務上困難である場合も少なくありません。そのため、調査の過程において、外部専門家による調査へ速やかに移行することができるように、親会社がリードする必要があるケースも多く見受けられます。
現地拠点において会計不正が発生した場合、その規模によっては親会社の連結財務諸表に影響を及ぼす恐れがあるため、通常は 1~2カ月以内に調査を完了させることが求められます。実務上は、不正行為が長期間にわたって行われており、過年度の決算訂正が必要となるケースも多く見受けられることから、調査と並行して決算訂正作業や追加監査対応を進めていく必要があります。
また、現地拠点における不正については、親会社の責任問題となる可能性もあるため、現地拠点のみならず、親会社がどこまで知っていたのか、関与していたかなどの調査を実施することも重要です。さらに、不正がグループ全体に波及していないかを検証する観点から、グループ全体を対象としたアンケート調査や内部通報窓口(ホットライン)の活用を行うことも必要となります。
会計不正が発生した場合、課税所得の算定に誤りが生じ、法人税の修正申告が必要となります。中国において日系企業が意図的に脱税を行うケースは必ずしも多くありませんが、脱税と認定された場合、本税の最大500%に相当する罰金が科される可能性があります。日本の法人税法上の重加算税率は40%程度にとどまっており、中国は税務違反に対する制裁水準が極めて高いという特徴があります。
不正防止に当たっては、中国拠点および日本の親会社の双方において、それぞれの立場に応じた適切な対応、対策を講じることが求められます。また、万が一不正が発覚した場合には、速やかに調査が実施できるよう、日頃から中国の現地拠点と日本の親会社が協力し、調査時の体制を整えておくことが重要です。
シリーズ第3回となる本稿では、中国の子会社と日本の親会社が取るべき不正防止策や不正発覚時の諸対応について解説します。
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