業務標準化・集約はなぜ必要か? AI時代に加速するGBS(グローバル・ビジネス・サービス)の理由

業務標準化・集約はなぜ必要か? AI時代に加速するGBS(グローバル・ビジネス・サービス)の理由


AIがあれば、業務をわざわざ1カ所に集める必要はもうないのでしょうか。多くの経営層が抱くこの疑問に、実務の現場から答えます。

AI時代にこそ標準化と集約が業務効率化と競争力を左右する理由と、改革を進めるための現実的な道筋を解説します。


要点

  • AIは本物の転換点であり、標準化・接続・ガバナンスの面で次世代GBSへの移行を必然にする。
  • 問うべきは集約の是非ではなく、何を切り分け、何を集約し、何を留保するかである。
  • Built-in AIを前提に、事業とGBSが共同で設計し段階的に移行することが現実的な道筋である。



ある大手日本企業の経理財務部門の責任者と、GBS(グローバル・ビジネス・サービス)の導入について議論したときのことです。

標準化を進め、AIを導入する。それが時代に合ったやり方であり、業務を1カ所に集めることにこだわる必要はない――そう言われました。

反論するのは難しくありませんでした。難しかったのは、反論した後に何を言うべきか、です。

本寄稿は、その問いへの答えです。



「集約すべきか」という問いが、議論を止める

 

集約の是非を議論し始めると、必ず推進派と反対派に分かれます。

推進派は効率化とスケールメリットを語り、反対派は現場の多様性と過去の失敗を持ち出します。会議は長くなり、決まるのは次回の会議の日程――そういう場面を、われわれはこれまでに何度も見てきました。

 

なぜこうなるのか。集約を目的として議論するからです。
 

集約は手段です。特定の目的を達成するための、選択肢の一つでしかありません。手段に賛否を問えば、議論は感情論と政治論に引き寄せられます。ドリルを使うべきかどうかを方針として議論する工務店と構造は同じです。
 

もう一つ、見落とされがちな点があります。集約に反対する人の多くは、集約という考え方自体に反対しているのではありません。過去の進め方の失敗に反応しています。現場を無視したトップダウン、報告ラインの強引な変更、移行後のサービス品質の劣化――そういった記憶が、集約という言葉そのものへの警戒を生んでいます。批判の対象がずれているのです。
 

冒頭の企業の責任者も、同じ構造の中にいます。標準化とAI導入を推すその主張は、集約への反対というより、過去型の集約推進への反発として理解すべきでした。
 

ただ、ここで一つ認めておきます。AIは過去の技術と同じ延長線上にはありません。推論のコストと速度は、過去のどの技術進化よりも急激に変わっています。だからこそ問うべきは、集約すべきかではなく、この転換点に対してGBSがどんな形に変わるべきか、です。


次世代GBSを必然にする3つの理由

では、AIがあれば、集約という手段を選ぶ必要性はなくなるのでしょうか。最も合理的な反論に、正面から答えます。理由は3つあります。

1.AIは標準化されたプロセスでのみ、その能力を最大化する

標準化されていない、属人化したプロセスにAIを適用すると、推論にかかるコストと誤作動の頻度が指数的に増えます。AIは業務の混乱を読み解く装置ではなく、整備されたプロセスの上で初めて精度を発揮する装置です。

つまり、AIを部門ごとに後付けするだけでは、その能力は引き出せません。プロセスの土台からAIを組み込んだGBSへと、形そのものを変える必要があります。

お問い合わせ

より詳しい情報をご希望の方はご連絡ください。


2.AIで安くなったのは、推論だけ。つなぐことは変わっていない

推論コストはここ数年で約280分の1*1にまで下がりました。知性は、安くなりつつあります。しかし、部門間のデータ連携コスト、つまり人が手で情報を転記し、確認し、調整するコストは下がっていません。分散した環境では、AIを動かす前の準備コストで優位性が消えます。新しいボトルネックは、知性ではなく、接続なのです。

*1 出典:“The 2025 AI Index Report,” Stanford University, hai.stanford.edu/ai-index/2025-ai-index-report(2026年5月21日アクセス)
 

3.AIが強力になるほど、管理の集中が欠かせなくなる

複数のAIエージェントが連携して動く環境では、1つの誤った指示が連鎖的に広がるリスクがあります。分散したネットワークには、そのリスクを遮断する回路が構造的に存在しません。AIの能力が上がるほど、暴走が組織に与えるダメージも大きくなります。スケールの設計は、効率だけでなくリスク管理の観点からも、AI時代に重要性を増しているのです。

この統制は、GBSだけが担うものではありません。事業側とGBSが共同でガバナンスを設計して初めて、機能します。

3つの論拠が示すのは、共通した構造です。AIは、スケールが整った環境でのみ、その本来の力を発揮できる――分散環境では、推論の精度も、接続の効率も、ガバナンスの安全性も、いずれも構造的に制約されます。この3つが求めているのは、集約の量を増やすことではありません。GBSという仕組みそのものを、つくり直すことです。


次世代GBSは、何が違うのか

ここまで読んで、では集約を進めるべきだという話かと思われたかもしれません。しかし、そうではありません。

正しい問いは、集約すべきかではなく、何を最適化するために、何を切り分けるかです。同じ集約という言葉を使っていても、中身は別物になります。

旧来型のSSC(シェアードサービスセンター)は、コストを削るための箱でした。業務を1カ所に集め、標準化し、人を減らす――目的はそこで完結していました。

自社がどちらの段階にいるかを見極めることが、不毛な賛否論争を終わらせます。見極め方は、以前の記事『日本企業におけるシェアードサービスセンターの独自進化にみる次世代業務最適化の展望』で5段階の成熟度モデルとして整理しています。

自社のステージを見極めた上で、実務上有効とされる、GBSの戦略立案・計画策定のメソッドがあります。

  • 機能の目的から始める。集約の是非を問う前に、機能の設計を問います。
  • 業務を切り分ける。標準化できるものと、事業固有として手元に残すべきものを整理します。
  • 組織のあるべき姿を定義する。切り分けの結果として、組織のあるべき姿を定義します。
  • 数字(ビジネスケース)で検証する。コストとベネフィットを数字で検証します。
  • 最後に、集約する、留保する、廃止する、現行のまま効率化・自動化する―という選択をします。

戦略立案・計画策定の検討アプローチ

戦略立案・計画策定の検討アプローチ

このプロセスを正しく踏んだ結果が、集約しないという結論になることもあります。組織の規模が小さい場合や、現行体制の効率化余地がまだ大きい場合は、集約のコストがメリットを上回ることがあります。

しかしながら、経験則として、大規模な企業の多くは、このプロセスを正しく踏んだ結果として、集約によるメリットが結果的に大きくなります。それは集約が正解だからではなく、スケールの論理が大規模組織においてより強く働くためです。
 

次世代GBSへの動かし方

正しいプロセスは理解できます。問題は、それをどうやって社内で動かすことだ――そういう声もよく聞きます。

過去のBig Bang型の集約推進が、現場に深い傷を残してきたケースは多いと言えます。報告ラインを一気に変え、移行後の品質が落ち、現場が混乱した。その経験が集約への警戒を生んでいます。

もう一つ、見落とされがちな失敗があります。AIを個別の業務に後付けするやり方です。部門ごとの取り組みは、ほぼ例外なく散発的な実験で止まります。既存の仕組みにAIを貼り付ける"bolt-on AI"は限られた効率化しか生みません。効果を生むのは、プロセスの土台から組み込む"built-in AI"の発想です*2

*2 出典:“EY.ai Value Blueprints,” EY website, www.ey.com/en_be/services/ai/value-blueprints (2026年7月6日アクセス)

次世代GBSへの移行は、この発想を政治的な摩擦を最小化しながら根付かせる取り組みです。

  • まず、現状のまま移管します。報告ラインを変えず、目的はデータを1つの場所に置き、AIが部門をまたいで参照できる状態をつくることです。この段階では、集約とも呼ばなくていいです。
  • 次に、隣接した状態でプロセスをつくり直します。人が全てを確認する前提をやめ、リスクが高い場面や人の経験が競争力になる場面だけ人を戻す設計に切り替えます(EYはこれを"design-for-zero"と呼びます*3)。摩擦の少ない場所から進め、根拠は積み上がります。
  • 最後に、検証済みの標準を企業全体に展開します。この段階で、GBSは業務を集めて処理する場所から、AIエージェントと人の働き方を組織全体で統括する拠点、グループ全体のインテリジェンス・ハブに変わります*3

*3 出典:“How agentic AI can transform GBS into an enterprise intelligence hub,” EY website, www.ey.com/en_dk/insights/consulting/the-role-of-gbs-in-an-agentic-ai-future(2026年7月6日アクセス)


変革の摩擦を最小化しながら推進するアプローチ

変革の摩擦を最小化しながら推進するアプローチ

この流れは、集約ありきの実行計画ではありません。Built-in AIを前提に、設計・検証・意思決定を段階的に進める現実的な方法です。
 

問いを持つ組織が、次の一手を持つ

冒頭の企業の責任者との議論は、今も続いています。

ただ、最近の対話のトーンは少し変わってきました。集約すべきかという問いから、何から手をつけるかという問いへ。その変化が、議論を前に進めています。

AI時代に変わったのは、集約の必要性ではありません。集約をコスト削減の目的として語っていた時代が終わったということなのです。

そしてこの問いは、GBS部門だけのものではありません。何を最適化するために、何を切り分け、何を集約し、何を留保するか――事業側とGBSが共に持つべき設計の問いです。

この問いに対する答えを設計する機能として持っている組織だけが、次の一手を持つことができます。




お問い合わせ
より詳しい情報をご希望の方はご連絡ください。


サマリー 

AIの進化によっても、業務の集約や標準化の重要性が失われるわけではありません。本記事では、集約を前提とせず、AI導入の効果最大化するための最適な判断軸を整理します。


関連記事

日本企業におけるシェアードサービスセンターの独自進化にみる次世代業務最適化の展望

日本企業のSSCは、独自の進化を経て「業務の運営OS」へと変わりつつあります。データとAIを軸に、企業全体の最適化を実現する次世代SSCの姿を探ります。

グローバル先進企業におけるGBS・SSC・BPOのトレンド-日本の現状とその可能性・将来性について

2025年8月27日、一般社団法人コーポレート機能協会(CoFA)主催セミナーにて、EYストラテジー・アンド・コンサルティングは「グローバル先進企業におけるGBS・シェアードサービス・BPOのトレンドに見る日本の現状と将来性」をテーマに講演しました。 SSCやBPOを超え、横断の標準化とデジタル統合で価値を生むGBS。E2E視点とAIの組み合わせで、コスト削減にとどまらない成長エンジンをどう作るか。日本企業の現状、課題、実践ポイントを解説します。


この記事について