B2Bブランディングが「経営テーマ」になった理由──選ばれる前に勝負は始まっている

B2Bブランディングが「経営テーマ」になった理由──選ばれる前に勝負は始まっている


B2B購買は「営業を受けて選ぶ」から「自ら探して絞り込む」へ。接点が減る今 、ブランディングは認知ではなく、事業変革と意思決定を動かす“思想と構造”になっています。

共同執筆者

山本曜平
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
カスタマーエクスペリエンス・トランスフォーメーション ディレクター

※所属・役職は記事公開当時のものです。



要点

  • 購買の主導権が買い手に移り、会う前に候補から外れる時代が到来。 
  • ブランドは外部の理解コストと内部の判断コストを同時に下げる装置。 
  • 言葉だけでなく、戦略・業務・人材まで結ぶと事業変革の推進力になる。


B2B事業で、ブランディングが「任意施策」ではなく経営テーマになった

「イメージづくり」と受け止められることも少なくありません。しかし、役員や事業部長層の皆様が直面している現実は、かつてなく切実です。技術や機能、価格での差別化は年々難しくなり、営業の効きも弱まる一方で、事業は複雑化し、内部の足並みもそろえにくい。そうした中で、ブランディングは、事業を動かすための「思想と構造」の話へと変わっています。
 

背景:外部と内部の環境変化が、同時に起きている

ブランディングの重要性が高まる背景には、外部環境と内部環境、双方の変化があります。外部では、顧客企業の購買行動が変わり、情報収集や比較・検討の多くが営業接触以前に行われるようになりました。実際、バイヤーの多くが「営業担当なしで進めたい」と感じているという調査もあります。※1

一方で内部では、事業の多角化、DXの進展、人材の専門化・流動化が進み、「同じ会社の中で見ている景色が違う」状態が起きやすくなっています。外に向けては提供価値が伝わりにくく、内に向けては優先順位や判断基準が揺れる。ブランディングは、こうした外部・内部双方の変化に同時に向き合うための手段として再定義されつつあります。


外部:購買は「営業を受けて選ぶ」から「自ら探し、絞り込む」へ

特に外部では、「営業を受けて選ぶ」から「自ら探し、絞り込む」購買行動への転換が進んでいます。顧客は課題意識を起点に、自ら情報を集め、複数の選択肢を比較し、ある程度結論を持った上で接点を求めます。結果として、事業側が顧客と直接対話できる機会は限定的になり、「会えば伝わる」「説明すれば分かる」前提は崩れつつあります。

 

会う前から、どのような事業で、どんな価値を提供する存在なのかが理解されていなければ、検討の土俵にすら上がりません。いわば、顧客が“自走して選べる状態”をつくる「バイヤーイネーブルメント」が必要とされています。


空中戦化:露出より「一貫性」と「納得感」が決定打になる

この状況は、B2Bにおける競争が「空中戦化」していることを意味します。webサイト、発信コンテンツ、導入事例、第三者評価などを通じて、事業の全体像やスタンスが事前に判断される時代です。ここで問われるのは、カスタマージャーニーの設計や露出量、表現の巧拙ではなく、「一貫性」と「納得感」です。断片的な情報の寄せ集めではなく、事業としての意味や立ち位置が分かりやすく伝わっているかが決定的になります。

また、B2Bでは「社内で説明して通るか」が重要です。担当者が上司や関係部門に説明する際、資料やサイトの言葉がそのまま“稟議の言語”として使えるか。買い手側の合意形成を前に進める情報設計が、競争力そのものになっています。
 

内部:ブランディングは、意思決定の摩擦を減らす「共通言語」

同時に、ブランディングの価値は外部向けにとどまりません。事業が複雑化するほど、内部における判断の軸が曖昧になりがちです。どの領域に注力するのか、どの案件を選び、どこで線を引くのか。そのたびに個別説明や調整を繰り返していては、スピードも一貫性も失われます。

事業ブランドは、こうした意思決定の前提となる「共通言語」を提供します。言い換えると、ブランドは“広告のための言葉”ではなく、“経営と現場をつなぐ設計図”として機能します。
 

「統制」ではなく「自律」を生む:現場が迷わず動ける状態へ

ブランドが機能すると、組織は「統制」ではなく「自律」に近づきます。トップや事業責任者がすべてを判断せずとも、現場が「この事業らしいか」「目指す方向と合っているか」を自ら問い、判断できる状態が生まれます。これは理念論ではなく、事業運営の効率と質を高める実務効果です。

さらに、人材の採用・育成・評価の場面でも「どんな人材が望ましいか」「何を良い仕事とするか」がそろいやすくなり、組織能力が蓄積されます。外への発信と内の行動がそろったとき、ブランドは“実体”を持ち始めます。
 

IT業界典型的な構造課題:「個別最適の積み重なり」が分かりにくさを生む

こうした文脈の中で、IT業界では「事業ブランド」を再設計する動きが広がっています。IT業界の企業群は長年、個別案件・個別要件への最適化を強みに成長してきました。その一方で、機能や技術、組織が細分化され、「結局この事業は何を提供しているのか」が顧客にも社内にも伝わりにくくなるという課題を抱えやすい構造にあります。

近年見られる事業ブランドの再編は、この構造的課題である個別最適の積み重なりによる複雑化と分断に対して、提供価値を束ね直し、説明可能な全体像に再構成する取り組みだと捉えることができます。
 

事業ブランドは“名称”ではなく“枠組み”:外部の理解コストと内部の判断コストを下げる

ここで言う事業ブランドとは、特定の製品名やキャンペーン名ではありません。散在するアセットやケイパビリティ、実績を“顧客課題のまとまり”で編成し直し、顧客に「全体像」として理解してもらう枠組みです。同時に、社内に対しても「自分たちは何者で、何ができるのか」「どの価値を核にするのか」を再定義し、組織を同じ方向に向ける役割を果たします。

つまり、外部の理解コストを下げ、内部の判断コストを下げる。両方を同時に狙うのが、今の事業ブランド設計の特徴です。
 

ブランドとビジネスモデルのアップデートを両立させる

重要なのは、ブランドとビジネスモデルのアップデートが同時に進められている点です。例えば先に説明したIT業界では、個別最適な受託中心から、再利用性・スケーラビリティを前提としたモデルへ。提供の単位も「システム」から「価値(成果・体験・運用)」へ。さらに、提案の入口も「要件」から「経営アジェンダ」へ変化しています。

こうした転換は、言葉だけ整えても実現しません。何を標準化し、どこを個別化するか。どの領域をアセット化し、どの領域は伴走として価値を出すか。ブランドは、その設計思想を内外に共有し、投資・営業・デリバリーを同じ方向にそろえる“器”として機能します。
 

結論:事業ブランドは「伝える手段」ではなく「変革を成立させる前提条件」

つまり、事業ブランドは「伝えるための手段」ではなく、「事業変革を成立させる前提条件」になりつつあります。言葉や世界観を整えるだけでは意味がありません。経営戦略(どこで勝つか)、業務(どう届けるか)、人材(誰が実行するか)と結び付いて初めて、ブランドは実効性を持ちます。

B2B企業の役員や事業の責任者にとって、ブランディングはもはや「やるかどうか」の話ではありません。複雑化する事業をどう束ね、顧客にどう全体価値を伝え、社内の力をどう同じ方向に集め直すか。さらに、その軸でビジネスモデルをどう更新していくか。事業ブランドは、その一連の変革を“分かる形”にして推進するための、実務的な経営装置として位置付けられるフェーズに入っています。

EYができること:ブランドを「骨格」として、収益獲得につながる変革に落とし込む

EYができること:ブランドを「骨格」として、収益獲得につながる変革に落とし込む
EY作成

私たちEYは、ブランディングを「認知施策」ではなく、企業・事業の“骨格”として捉えます。ブランドは、経営戦略、事業開発、製品・サービス開発、DX、業務推進、セールス、人材開発、カルチャーといった領域を貫く共通思想として体現されて初めて意味を持ちます。言葉として掲げるだけではなく、社外のステークホルダーには一貫した価値の全体像として伝わり、社内のステークホルダーには行動と意思決定の基準として機能することで、ブランドは“実体”になります。

そのためEYは、ブランドを「収益獲得」や「具体的な方策(Go-to-market:市場投入・販売戦略、オファリング設計、営業・マーケティングの実装、提供プロセスの標準化、人材・組織の設計)」を起点に置きながら、事業の現実に接続して設計・運用することを支援します。すなわち、(1)外部に対しては、顧客が“会う前に”理解し、比較し、社内合意形成に使える情報設計(バイヤーイネーブルメント)としてブランドを整え、(2)内部に対しては、事業の方向性と優先順位をそろえ、現場が自律的に判断できるようにブランドを業務・組織・人材の仕組みに接続します。

EYの強みは、ブランディングをクリエイティブやコミュニケーションの領域に閉じず、経営変革、業務変革、DX、人材・組織の観点まで横断して、実装と運用に踏み込める点にあります。ブランドを軸に、事業の勝ち筋(どこで勝つか)と、届け方(どう売り、どう届け、どう継続価値を生むか)と、実行体制(誰が、どんな能力で、どう回すか)を整合させることで、単発のメッセージ刷新ではなく、持続的に成果へつながる事業の“型”づくりをご支援します。

※1
“Gartner Sales Survey Finds 61% of B2B Buyers Prefer a Rep-Free Buying Experience,” Gartner website, gartner.com/en/newsroom/press-releases/2025-06-25-gartner-sales-survey-finds-61-percent-of-b2b-buyers-prefer-a-rep-free-buying-experience(2026年4月1日アクセス)
 
“Gartner: 67% of B2B Buyers Prefer a Rep-Free Experience - Demand Gen Report,” Gartner website, demandgenreport.com/industry-news/news-brief/gartner-67-of-b2b-buyers-prefer-a-rep-free-experience/52142/(2026年4月1日アクセス)



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サマリー 

B2B購買は営業接触前に意思決定が進むため、ブランディングは“認知施策”から“経営テーマ”へ変化しています。外部の選定を前に進め、内部の判断軸をそろえる設計ポイントを解説します。 


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