EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本稿の執筆者
EY中国 税務 川島 智之
2022年6月よりEY中国税務に参画し、日系企業に対して各種の税務コンサルティングサービスを提供。10年を超える中国税務経験を有する。
※所属・役職は記事公開時のものです
要点
昨今、日本では中国景気の不況が唱えられる中、4月中旬に中国国家統計局が発表した2026年第一四半期の実質GDPは前年同期比5.0%増とされており、確かに過去に比べると鈍化しているとはいえ、活発な輸出や、半導体関連など一部の活況を呈する産業のけん引を受け、相対的には依然として一定程度の成長水準を継続していると言えます。中国政府は引き続き内需の活性化を目的として、中国一体市場政策の推進や、外資企業の中国市場における事業活動の支援に力を入れています。例えば、上海市政府は2025年末に各政府部門が連名で、外資企業の国内再投資を奨励する以下のような20項目からなる通知(关于印发〈上海市鼓励外商投资企业境内再投资若干措施〉的通知 沪发改开放〈2025〉536号)を公表しています。
上海市 外商投資企業の国内再投資を奨励する若干の措置の公布に関する通知 | |
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事業経営上、大きな中国市場の重要性が高い在中日系企業では、生き残りをかけて中国事業の再構築やさらなる強化に取り組んでおり、在中日系企業に対して行われたアンケート調査※1では、少なくとも過半の企業が今後も「現状維持」以上の方針を採っているとの結果が公表されています。一方、外務省が公表する「海外在留邦人数調査統計」では、中国の在留邦人数は毎年減少傾向にあります(2025年10月1日時点では約93,000人、国別では米国・オーストラリアに次ぐ第3位)※2。これは、在中日系企業において当初はスタッフ層だった中国人従業員が経験とともに成長し、経営層・管理層の日本人派遣者から中国人従業員への切り替え、いわゆる現地化が徐々に進んでいることも1つの要因として数字にも表れているものと考えられます。
※1 日本貿易振興機構「2025年度 海外進出日系企業実態調査 | 中国編 -黒字比率は4年ぶりに上昇、事業拡大意欲は最低も下落幅縮小-」www.jetro.go.jp/world/reports/2026/01/d6f2bb335c25c6a4.html(2026年7月2日アクセス)、中国日本商会「会員企業景況・事業環境認識アンケート結果 第8回」cjcci.org/userfiles/JP_cjcci_questionnaire_20260210.pdf(2026年7月2日アクセス)
※2 外務省「海外在留邦人数調査統計(令和7年〈2025年〉10月1日現在)」www.mofa.go.jp/mofaj/files/100957047.pdf(2026年7月2日アクセス)
近年の中国における、技術革新の短期化と厳しい競争環境を背景として、製造業の在中日系企業では、中国における研究開発活動の機能強化、現地化促進の必要性に迫られており、中国市場でのさらなる成長及び存続のための喫緊の事業経営課題となっているケースが見受けられています。中国政府も中国での研究開発活動を奨励しており、それを後押しする租税優遇措置が設けられています。
① 高新技術(ハイテク)企業認定
一定の要件を充足する高新技術(ハイテク)企業として認定された企業は、企業所得税率15%(通常25%)、税務上の欠損金の繰越期間10年(通常5年)を適用することができます。
高新技術(ハイテク)企業の認定条件 高新技術企業認定管理弁法 |
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② 研究開発費用の加算控除
上記①の要件を満たさない企業であっても、適正な研究開発費用については企業所得税の課税所得計算上、100%加算控除(=2倍損金算入)することができます。なお、この対象となる研究開発活動とは、企業が科学技術の新知識を獲得し創造的に活用する、または技術・製品(サービス)・プロセスを実質的に改善するために継続して行う、明確な目標を有する体系的な活動とされています。この100%加算控除の対象の判断基準としては、明確なイノベーション目標を有するのか、体系的な組織形式を具備しているのか、結果の不確実性を有するのか、などが挙げられます。
なお上記の①②ともに、租税優遇措置であると同時に税務当局の重点調査論点であり、適切に要件を充足できているのか否かが事後的にチェックされますので、適用を受ける納税者は将来の税務調査に備えて、十分に事前の精査分析及び環境整備をしておくことが必須となります。
中国側の研究開発活動強化の話は、移転価格の論点とも密接に関連します。一般的な日系多国籍企業における事業モデルの場合、中国子会社は重要な開発活動を主体的には行っておらず、技術は日本本社が一括管理する、中国子会社は現地化改良を行うが日本からの受託の建て付けであり、現地化改良を含む技術全体について、日本本社から技術の使用許諾を受けてロイヤルティを支払うパターンが多く見受けられます。この事業モデルでは、移転価格税制に係る税務局への説明がシンプルとなるメリットがある一方で、前述の在中日系企業が近年直面する課題を解決するのは困難になると考えられます。
この課題を解決するための移転価格の観点からの施策としては、例えば現地化改良を切り離し中国子会社が主体的に行い、その現地化改良の成果は、日本本社へのロイヤルティ対象外としてロイヤルティ支出を減額する案が想定されます。ただしこの案では、基礎技術と現地化改良技術の区分の理論付け、日本本社による改良開発への貢献部分の精算方法、そして、ロイヤルティ料率の定量化分析等、日本と中国の双方の観点からの専門的な分析が必要となることが想起されます。
国外関連者へのロイヤルティ支出取引は、中国移転価格税制上、最も注目される取引の1つであり、実務上、ロイヤルティ支出後の営業利益の水準とのバランスが焦点となります。納税者はその点も念頭に、グループとしての移転価格ポリシー設定を日中で連携して綿密に議論することが強く推奨されます。
中国の外資誘致競争力の強化、及び外国投資家による対中投資の持続的な拡大の促進を目的として、中国政府は2025年6月、従前より設けられていた配当源泉税繰延の施策をさらに拡充する形で、新たな再投資に係る租税優遇措置(财政部 税务总局 商务部关于境外投资者以分配利润直接投资税收抵免政策的公告 财政部 税务总局 商务部公告2025年第2号)を公表しています。概要は以下の通りです。
国外投資家の分配利益による直接投資に対する税額控除に関する公告 | |
適用業種 | 被投資企業の産業が奨励産業に属していること。 |
優遇内容 | 投資額の10%を当年度の税額から控除することができ、控除しきれない部分は、以後の年度に繰り越すことができる。 |
税額控除対象 | 外国投資家が利益分配企業から、利益分配再投資日以降に取得した配当等の所得に対して納付すべき企業所得税 |
適用期間 | 2025年1月1日~2028年12月31日 |
投資回収 | 再投資を5年間継続保有しない場合、租税優遇額が比例的に減額調整される。 |
中国現地法人が保有する余剰資金をどう事業経営において活用していくのかについては、企業ごとに考え方が異なりますが、日本本社へ単に配当するだけではなく、中国における新会社設立や増資、持分取得など今後の投資案もある場合には、それらも踏まえた検討が重要です。一定の要件を充足する必要はあるものの、当制度を適用しグループ全体での租税負担を低減できる可能性を検討することも一案と考えられます。
中国の中央及び地方政府は、市場の活性化や雇用環境の活性化、研究開発力の強化などを背景として、引き続き外資企業からの投資を渇望しており、それを支援・促進するような種々の施策を設けています。日中関係には時として波があるものの、日系企業の経済活動の面からは密接に連携しており、不可分な状況にあると言えます。中国市場で事業展開を行う日系企業は、今後も中国現法の研究開発の現地化推進とともに、これらの優遇措置や現地政府の意向を踏まえた補助金・助成支援などもうまく活用しながら、健全かつしたたかに引き続き中国事業を発展させていくことが肝要と考えられます。
中国市場で事業展開を行う日系企業は、中国政府が設ける各種の優遇措置なども有効活用しながら、事業を発展させていくことが重要です。
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