EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
西口:昨年、国内初となるグロースステージの未上場スタートアップを対象にバイアウト手法で買収する専門ファンド「Coalis1号ファンド(以下、「Coalisファンド」)」を立ち上げました。まずは、Coalis発足、そしてCoalisファンド立ち上げの背景を教えてください。
上原氏(以下敬称略):国内のスタートアップエコシステムにおいて、起業家や投資家が資金回収を図るエグジットの手段として新規株式公開(IPO)の比率が他国と比較して高く、大規模なM&Aによるエグジットはまだ少数派です。また、時価総額数十億円~100億円規模で上場を果たすスモールIPOが少なくなく、スタートアップが十分に成長する前に上場しています。スモールIPOでは、スタートアップが上場時に十分な資金調達ができず、企業成長に必要な追加投資が行えない結果、証券市場での評価が芳しくない状態となることが課題となっています。
こうしたエコシステムの課題を解決したいという発足メンバーの思いが重なりCoalisをスタートさせました。当初から行っているファイナンシャルアドバイザリーの案件を進めていく中で、自分たちでリスクをとってファンドとしてマジョリティ投資を行いつつ経営に参画し、グロースステージのスタートアップ支援を通してエコシステム全体の成長を促進する目的でCoalisファンドを立ち上げました。
西口:Coalis発足メンバーのそれぞれのバックグラウンドが多彩ですが、メンバーについて教えてください。
上原:NTT/NTTドコモやミクシィ、DeNAでのキャリアを持つ原田はプロダクトの戦略にとても長けています。久保田は投資銀行出身で、ベンチャーキャピタル(VC)で10年間パートナーとして活躍していたこともあってソーシングのスピードが速く、ファイナンシャルアドバイザリーの知見がものすごいです。増島はスタートアップファイナンスのさまざまなファンドを立ち上げるロイヤーとしての経験値が高く、スタートアップファイナンスのストラクチャー構築に関して彼の右に出る者はなかなかいないと思います。起業家出身の私は、組織の作り方やエクゼキューションの部分で強みがあると感じています。これらのメンバーの経験や強みを集結させて、スタートアップの中長期の事業成長の支援に取り組んでいます。
また、グロース市場での成功経験者をエグゼクティブパートナーとして迎えており、彼らの経験・ノウハウを投資先のスタートアップに投じて、時価総額1,000億円以上の会社に育てる取り組みもしています。
西口:上原さんは起業家のバックグラウンドがあり、その強みを生かしてCoalisの取り組みを推進していますが、そもそも起業家となったきっかけを教えてください。
上原:小学5年生の時に松下幸之助さんの書籍を読み、「松下電器は人をつくるところでございます。あわせて電気製品をつくっております」という言葉にとても衝撃を受けました。そこから経営の神様と呼ばれる松下さんについて調べて心酔していく中で、自分も日本を代表するような経営者になりたいと感じるようになりました。大学の経営学部に入ってからも「絶対に起業するんだ」との思いのもと、スタートアップで週に5、6日ほどアルバイトに励みました。
その後、30歳手前でNTTのベンチャー企業担当の部署に所属していた時に、ミクシィやグリーのほぼ同世代の経営者と接する機会がありました。彼らと接しているうちにインターネットを使って世の中に価値を生み出したいと考えるようになり、Web2.0関係で注目され始めた際に、「このチャンスを逃したら起業するチャンスがないぞ」と感じて31歳で起業しました。
西口:Coalis発足の背景でも少し触れていただきましたが、上原さんやCoalisメンバーが感じているスタートアップエコシステムの課題について教えてください。
上原:少々くだけた表現になりますが、現在の日本のスタートアップエコシステムは証券取引所というお店の棚にお客さん(機関投資家)に買ってもらえない商品(小粒銘柄)ばかり出荷している状況にあります。このままではお店に棚を空けてもらえなくなり、せっかく開いた世界の金融市場への玄関口が閉じられてしまいかねません。また、起業家がとにかくIPOを目指して「主語が自分」となっている風潮がありますが、PMF以後のスタートアップのあるべき姿は「主語は事業」だと思います。事業が成長し続けるためにIPOという選択肢があるし、M&Aを受け入れるという選択肢もあると思います。事業が成長するために合理的な道を選択することが、起業家が本質的に目指すべきことであると考えています。
起業は人生で1度きりと多くの方が思い込んでいますが、起業は人生で何度でもできることであり、起業家になることは1つの長いキャリアの選択です。この変化の激しい昨今では、自分が立ち上げた1つの事業を単体で中長期に行うことは容易なことではありません。時にはその事業が属するエリアの強者とM&Aで合流し、そのエリア全体の中で事業を拡張させる選択をすればよいのではと思います。起業家は、単独で我を通すことにこだわるよりも、自分が立ち上げた事業がたくさんの人に使われること、自分の生み出した価値がより多くの人に届くことを一義とすべきではないでしょうか。
起業家人生の中で1度目の起業だけを重く捉えず、適切なタイミングでバトンを次に渡す感覚も持っていいと思います。2度目、3度目、4度目と次々と起業すればいいのです。1度目の起業で「経営筋力」がついているので、2度目の起業でもっと大きなスケールで経営にチャレンジできますし、結果として、市場価値が大きく投資家にとって魅力的な銘柄が証券取引所に並ぶことにつながります。証券取引所の棚に、時価総額が1,000億以上の銘柄がどんどん並んでいくような環境となっていくのが、将来の日本経済を考える上でとても重要だと認識しています。
私はよくこのような表現をするのですが、機関投資家が渦巻く資本市場の世界では、スモールIPOをしたスタートアップは人間に例えると大人とは言えず、まだまだ「中二」くらいの成熟度だと言えます。誰かが十分に成長するまで育て、資本市場のルールを身につけさせた上で市場に送り出すべきなのが、「中二」のまま市場に放り出されるともまれにもまれた挙げ句、最終的に周りに誰もいなくなって苦しむケースはよくあります。しっかりと育てられ資本市場と十分に戦える状態で市場に多く放たれるべきなのに、現状のスタートアップエコシステムを見ると、市場は「中二」くらいの成熟度のスタートアップで溢れています。
西口:国内のスタートアップエコシステムをとりまく課題がある中で、Coalisはどういった企業に狙いをつけて、どういった立ち位置をとっていますか。
上原:狙う企業は、お金や経営人材のリソースがなくてグロースステージを乗り越えられず成長の壁に直面している企業です。
起業家10年選手は、周りに成功者扱いされていることもあって、これからの道筋について相談できなくて困っています。こうしたレイターステージの起業家と膝を突き合わせて議論していると、「道筋が見えた」と言って起業家の顔に輝きが戻ります。Coalisは起業家との伴走を大前提としています。そのため、グロースバイアウトという手法をとり、スタートアップに特化したPEファンドとして、株式の過半数取得を通じて複雑化した資本構成やガバナンスを再構築し、起業家の「経営パートナー」として寄り添い、大胆な成長曲線を描けるよう共に挑戦しています。
西口:これからのCoalisについて教えてください。
上原:国内スタートアップのエグジットは、潮目の変化を迎えています。スモールIPOの増加やグロース市場の低迷や上場維持基準の厳格化といった流れの中で、M&Aもエグジットの重要な選択肢となっています。ただ、成長戦略やガバナンス体制、適正な企業価値算定の難しさといったスタートアップ特有の課題から、スタートアップM&Aは成立しづらい過去がありました。こうした状況を踏まえ、Coalisの取り組みで、前例を作ったり、仕組みを作ったりしてスタートアップM&Aを促進させ、スタートアップエコシステムの進化、そして、日本経済の持続的な活性化につなげていきたいと思います。
個人的には、私は本当に起業家が大好きで、どこまでも起業家の味方ですので、今後も起業家に寄り添い、起業家が幸せで良いキャリアを描いていけるようなエコシステムにしていきたいと思います。そのために起業家との伴走を1社1社根気よくやっていきたいです。
Coalisは、グロースステージの未上場スタートアップを対象に、グロースバイアウト手法で経営参画する専門ファンドです。スモールIPO偏重という日本のスタートアップエコシステムの課題に対し、起業家と伴走しながら再成長を支援し、ユニコーン創出と市場の健全化を目指しています。
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