EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
米国・メキシコ・カナダの間で発効するUSMCAについて、本年7月には協定内容のレビューが行われる予定です。
現在の米国政権は、多数の国に対する追加関税を課していますが、メキシコ・カナダについては、USMCA上の原産地規則を満たす製品である場合、それらの課税対象から除外されています。
今回のUSMCAのレビューにおいては各製品の原産地基準の見直しが行われる見通しです。米国市場向けに、これらの国に製造拠点を構える企業においては、このレビューにおける原産地基準の変更次第では、材料・部品の調達を含めてこれまでのサプライチェーンの抜本的な変更を強いられるケースも想定され、今後も注視が必要です。
EY Japanの窓口
大平 洋一
EY Japan インダイレクトタックス・リーダー EY税理士法人 パートナー
福井 剛次郎
EY税理士法人 インダイレクト・タックス シニアマネージャー
米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)は、北米自由貿易協定(NAFTA)に代わる協定として2020年7月1日に発効し、北米貿易の枠組みを現代的なものへと刷新しました。その革新的な要素の1つが、レビューおよびサンセット条項のメカニズムであり、これにより変化する経済・規制環境に応じて協定を定期的に評価し、更新できるようになっています。
このレビューメカニズムは、協定の署名国が広範な課題についてUSMCAの修正を求めることができるため、北米で事業を展開する企業にとって潜在的な機会と課題の両方をもたらします。既存の協定がもたらす重要な影響、変動する貿易政策環境、そして起こり得る幅広い結果を踏まえると、企業はレビュープロセスに備えて対策を講じることが推奨されます。
レビューの要件は、協定本文と、米国による協定の施行および監視方法を規定した「USMCA実施法(米国公法PL116-113)」の両方に規定されています。
USMCA第34.7条は正式なレビュープロセスについて定めており、米国、カナダ、メキシコ(以下「締約国」)に対し、協定の運用状況を定期的に評価することを求めています。初回のUSMCAレビューは協定の発効から6年後となる2026年7月1日に予定されています。全ての締約国が協定の有効期間の延長に同意した場合、その後のレビューは6年ごとに実施されます。6年ごとのレビューにおいて、いずれかの締約国がUSMCAをさらに16年間延長することに同意しない場合、協定が失効するまで、年次の共同レビューが毎年行われます。また締約国は、共同レビューの時点でUSMCAの延長に同意しなかった場合でも、協定の失効前であればいつでも延長に合意することができます。
USMCA実施法は、レビュー関連の活動について、タイムリーな議会報告と一般への通知を義務付けています。具体的には、米国通商代表部(USTR)に対し、利害関係者がUSMCAの運用に関する意見を述べる機会を提供するよう求めています。また同法は、USTRに対して、USMCAの運用状況の評価、レビュー時に提案される措置に関する勧告、USTRの勧告の根拠となる懸念事項に対するこれまでの取り組み(ある場合)、および諮問委員会の意見について取りまとめた報告書を議会に提出するよう義務付けています。USTRは、本報告書を遅くとも2026年1月2日までに議会に提出しなければなりません。
実施法に基づき、USTRは協定の運用状況および共同レビューに向けた勧告について、パブリックコメントを募集することが求められています。2025年9月16日、USTRはこの公開プロセスを開始する旨の連邦官報公示を発表しました。
利害関係者からの意見募集の一環として、USTRは以下の事項に関するコメントを募集しました。
USTRは1,500件を超える書面によるコメントと、2025年12月3日から5日に予定されている公開ヒアリングへの証言を行うための175件の申請を受領しました。
公開プロセスは行政と連携して優先事項を伝える重要な手段の1つですが、USTRと議会は、正式なコメント募集プロセスが終了した後も、レビュー期間を通じて継続的に利害関係者と連携していくことが見込まれます。
USMCAレビューでは、協定の履行に関連する多数の実質的な課題が確実に取り上げられると見込まれます。これらの課題は、原産地規則、デジタル貿易、労働・環境に関する取り組み、紛争解決メカニズム、農産品貿易、バイオ医薬品、通関・貿易円滑化、サプライチェーンのレジリエンスなど、多岐にわたります。原産地規則に関しては、米国は、北米地域内で製造される製品に中国製部品が使用されていることへの懸念や、第三国が協定から恩恵を受けられる状況を制限することについて、対応を求めると予想されています。
協定本文には明記されていないものの、本レビューでは現在の関税環境への対応も重要な論点となります。具体的には、移民問題やフェンタニルに対する米国の懸念を理由として、カナダおよびメキシコから輸入されるUSMCA非適格品に課されている関税が含まれます。カナダの場合、USMCA非適格製品には35%の関税(エネルギーとカリ<カリ肥料>を除く)が課され、メキシコからのUSMCA非適格製品には25%の関税(カリ<カリ肥料>を除く)が課されています。米国への輸入品に特恵関税を利用している企業にとっては、その恩恵が大幅に拡大しています。一方で、北米の貿易圏にサプライチェーンを再構築しなかった企業や、USMCAの原産地証明に必要な行政手続きを実施しなかった企業にとっては、その結果生じる負担が大きくなっています。
1962年の通商拡大法第232条に基づく調査に関連する懸念に対処するため、2019年に締約国は「サイドレター」に合意しました。例えば、米国とカナダは第232条の手続きに関するサイドレターを締結し、米国は、両国が適切な解決策を協議する時間を確保するため、措置発動後少なくとも60日間は、第232条に基づきカナダの商品またはサービスに関税や輸入制限を課さないことを約束しました。さらに、サイドレターでは、米国の措置に対してカナダが「同等の商業的効果を有する措置を講じる」裁量権を持つと認めています。
米国とメキシコもサイドレターで同様の条件に合意したほか、米国が第232条に基づき乗用車、小型トラック、自動車部品に関税を課す場合、メキシコ産のこれら製品に関税割当を適用することにも合意しました。
これらのサイドレターはUSMCA本文には含まれていないものの、レビュー時に再検討される可能性があります。また、締約国は関税に関する懸念に対処するため、USMCA本文とは別の取り決めを交渉する可能性もあります。
協定と実施法の両方に基づくUSMCAレビューは、米国、メキシコ、カナダが履行状況を評価し、新たに生じる課題に対処するとともに、北米貿易圏の競争力を維持するというコミットメントを再確認する機会を提供します。
また重要な点として、このレビューは利害関係者がUSMCAの運用効果を改善または維持するための主要な優先事項について、行政機関や議会と意見交換・調整を行う機会にもなります。そのためには、USTRの公開プロセスに向けた効果的な準備と参加に加え、レビューのあらゆる段階で議会および行政機関と積極的に関与することが求められます。
レビュープロセス全体を通じて自社の優先事項を効果的に推進するためには、北米における自社のサプライチェーンや、USMCAが自社の事業モデルに与える影響を深く理解することに加えて、最終的な結果を左右する複雑な政策・政治的動向を踏まえたアドボカシー戦略が不可欠です。準備が整っていない企業は、競合他社が行政機関や議会と連携して自社の優先事項の実現を図る中で、競争上不利な立場に置かれる恐れがあります。
2020年7月1日に発効したUSMCAは、6年ごとのレビュープロセスを通じて北米貿易の枠組みを刷新しています。初回レビューは2026年に実施され、締約国は協定の実効性を評価し、必要に応じて見直しを行う機会となります。企業にとっては、サプライチェーンへの影響を見据えつつ、自社の優先事項が反映されるよう積極的に働きかけることが一段と重要になります。
EYの関連サービス
トランプ政権は、世界経済における地殻変動を引き起こし、日本企業にとってのビジネス環境を大きく変えつつあります。激変する地政学的状況も相まって、関税の上昇や輸出規制、ひいては中長期的なサプライチェーン戦略の観点からも日本企業は大きな影響を受けつつあります。地政学的リスク、サプライチェーン、関税、税務、イミグレーションなど各分野のプロフェッショナルを有するEYでは、包括的なアドバイザリーサービスをワンストップで提供します。
続きを読む米中の地政学的対立によって世界で保護主義が進む中、関税の上昇や輸出規制の強化が続いており、企業には新たな通商関税管理が求められています。EYでは、パラダイムシフトを迎えて急速に変化する国際貿易環境に合わせた関税・国際貿易アドバイザリーサービス、そして、国際ルールの厳格化に対し、国際的な輸出規制に対処するアドバイザリーサービスを提供します。
続きを読むEYの最新の見解