EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本稿の執筆者
EY税理士法人 国際税務・トランザクションサービス部 税理士 戸崎 隆太
東京国税局、他Big 4税理士法人等での勤務を経て、2018年EY税理士法人に入社。2020年から2023年までEY米国のニューヨーク事務所に赴任。日系および外資系多国籍企業に対する国際税務アドバイザリー、M&A支援に従事。BEPS 2.0プロジェクトリーダー。
要点
2021年10月にOECD/G20の「BEPS包摂的枠組み」において合意されたグローバル・ミニマム課税(BEPS 2.0 Pillar 2)に対応するため、令和5年(2023年)度税制改正において、所得合算ルール(IIR: Income Inclusion Rule)が創設され、内国法人の令和6年(2024年)4月1日以後に開始する対象会計年度から適用が開始されています。
さらに、令和7年(2025年)度税制改正では、軽課税所得ルール(UTPR: Undertaxed Profits Rule)および国内ミニマム課税(QDMTT: Qualified Domestic Minimum Top-up Tax)の法制化が行われています。
前編・後編の2回にわたり、グローバル・ミニマム課税の制度概要と日系企業による対応に関するロードマップを概括。前編となる本稿では、グローバル・ミニマム課税の概要を解説します。
グローバル・ミニマム課税は、年間総収入金額が7.5億ユーロ以上の多国籍企業グループを対象に、一定の所得について国ごとに最低税率15%以上の課税を確保する仕組みです。
日本においては、国際的な合意に沿って、<図1>の通り、IIR、UTPRおよびQDMTTの3つのルールが導入されています。
図1 グローバル・ミニマム課税の全体像
さらに、日本以外の国においても、国際的な合意に沿って、これら3つのルールの全てまたは一部が導入されています。ただし、米国等、導入予定がない国もあります。
3月決算の日系企業を例にとると、2025年3月期において、原則として対応が必要となる日本または海外のルールは以下の通りです。
(注)2025年3月期については、UTPRが適用される国はありません。
次章ではこれらルールへの対応の流れについて説明し、加えてIIRやQDMTTが具体的にどのように適用されるかについて解説します。
グローバル・ミニマム課税による最低税率15%に至るまでの部分に係る税額は、一般にトップアップ税額(Top-up Tax)と呼ばれています。本税制への対応の最終的な目標は、特定多国籍企業グループ等に属する構成会社等について、国別のトップアップ税額を計算し、これを申告・納付することです。全体的な対応の流れは<図2>の通りとなります。
図2 全体的な対応の流れ
まず、トップアップ税額の計算に先立ち、適用対象となる「特定多国籍企業グループ等」、「構成会社等」および各構成会社等の「所在地国」を特定する必要があります。
特定多国籍企業グループ等とは、連結総収入金額が7.5億ユーロ以上の多国籍企業を言います。また構成会社等とは、基本的には、連結財務諸表において連結して記載された個々の会社を言います。ただし、本税制における構成会社等は、法人形態のものに限られず、例えば支店や建設現場等の恒久的施設(PE: Permanent Establishment)も、本店等から独立した別個の構成会社等として取り扱われる点に留意が必要です。所在地国については、原則として、その構成会社等の税務上の居住地と一致することになりますが、パススルー扱いされる米国LLC等のように、その事業体自体が課税されない場合は、いわゆる無国籍構成会社等として取り扱われます。
次に、トップアップ税額の算出プロセスおよび数値例は<図3>の通りです。
図3 トップアップ税額の算出プロセスおよび数値例
まず、国別実効税率の計算のため、分母となる国別個別計算所得等と分子となる国別調整後対象租税額を算定します。
国別個別計算所得等(<図3>①)は、会計上の税引後当期純利益を出発点として、所要の加減算調整を行うことにより計算されます。調整には、一定の受取配当・キャピタルゲインの除外等が含まれます。
国別調整後対象租税額(<図3>②)は、原則として、会計上の法人税等の額と法人税等調整額の合計額を指します。ただし、法人税等の中に所得に対する法人税ではないもの(例:日本の住民税均等割)等が含まれている場合は、除外する必要があります。また、法人税等調整額についても一定の調整が必要となります。代表的なものとしては、15%を超える税率で繰延税金資産・負債を計算している場合は、15%に引き直す、いわゆる「15%リキャスト」や、繰延税金資産に対して評価性引当額がある場合はこれをないものとする調整が挙げられます。また、会計上の税効果会計は一般的に、会計上の帳簿価額と税務上の帳簿価額との差異に基づき計算されることとなりますが、本税制における税効果会計は、本税制上の帳簿価額と税務上の帳簿価額との差異に基づき計算する必要があり、法人税等調整額に関する調整は、本税制の中でも特に複雑な仕組みとなっています。
国別個別計算所得等と国別調整後対象租税額に基づいた国別実効税率(<図3>③)が15%を下回ることとなった場合、15%との差異がトップアップ税率となります(<図3>④)。
超過利益(<図3>⑤)にそのトップアップ税率を乗じたものが、国別トップアップ税額(<図3>⑥)となります。超過利益とは、国別個別計算所得等から実質ベースの所得除外額(SBIE: Substance-Based Income Exclusion)を控除した残額を言います。実質ベースの所得除外額とは、一定の給与等の額または一定の有形資産の帳簿価額の一定割合(原則5%、経過措置あり)を乗じた額を言います。
このように計算された国別トップアップ税額は、日本のIIRまたは各国のQDMTTに基づいて、申告・納付されることになります(両制度の関連性は後述)。
さらに、国別トップアップ税額の申告とは別に、租税債務の正確性を評価するために必要な情報を記載した「特定多国籍企業グループ等報告事項等」※、通称GIR(GloBE Information Return)の提出も求められることになります。GIRは30ページ以上にも及ぶもので、海外子会社の所在地国数によっては、膨大な情報量となり得ます。
本税制の適用初年度である2025年3月期の申告・納付期限は、対象会計年度終了の日の翌日から1年6カ月以内、すなわち、2026年9月末まで、となります。
※EY Japanウェブサイト
国税庁、「特定多国籍企業グループ等報告事項等の記載要領」の改訂版を公表(2025年10月19日アクセス)
前述の通り、トップアップ税額の計算に当たっては、原則として、詳細な国別実効税率計算が求められていますが、本税制導入後の一定期間においては、移行期間国別報告事項(CbCR: Country-by-Country Reportingセーフハーバーが設けられています。具体的には、<図4>の3つのテストのいずれかを充足する国については、トップアップ税額がゼロとされます。
図4 移行期間CbCRセーフハーバーの概要
これらのテストにおける総収入や税引前当期純利益は、原則として、CbCRに記載された金額をそのまま用い、対象租税額も、連結等財務諸表に記載されたものを大きな調整なく使用するため、簡便的な判定が可能となります。
移行期間CbCRセーフハーバーの適用も加味した全体的な対応の流れは<図5>の通りです。本セーフハーバーを充足した場合、トップアップ税額計算が一切不要となりますので、大幅な実務負担の軽減につながります。
図5 移行期間CbCRセーフハーバーの適用も加味した全体的な対応の流れ
本税制への対応に当たっては、移行期間CbCRセーフハーバーの判定やトップアップ税額の計算を、どの国の法令に従って行うかについて理解をしておく必要があります。
まず、本税制、特にQDMTTが導入されていない国に所在する子会社については、日本親会社に対して適用される日本のIIR法令に基づいて対応を行うことになります。すなわち、日本の移行期間CbCRセーフハーバー法令によってその国がテストを充足するかどうかを判定し、仮に充足しない場合は、日本のIIR法令に従って、トップアップ税額の計算を行い、トップアップ税額が算定された場合は、日本において申告・納付することになります。
一方、QDMTTが導入されている国に所在する子会社については、基本的には、QDMTTが優先されるため、子会社に対して適用される現地のQDMTT法令に基づいて対応を行うことになります。すなわち、現地の移行期間CbCRセーフハーバー法令によってその国がテストを充足するかどうかを判定し、仮に充足しない場合は、現地のQDMTT法令に従って、トップアップ税額の計算を行い、トップアップ税額が算定された場合は、現地において申告・納付することになります。なお、現地でQDMTTが導入されている場合は、原則として、日本IIR法令によるその国に関するトップアップ税額はゼロとみなされます(QDMTTセーフハーバー)。
したがって、日本の親会社においては、子会社の所在地各国においてQDMTTが導入されているかどうかを確認し、それぞれ異なる対応を行っていく必要があります。なお、各国法令における移行期間CbCRセーフハーバーは、OECDが定めたモデルルールに従って定められているため、原則として、その判定結果は、同一になると思われます。つまり、一般的な実務対応としては、CbCR等の情報を有する日本親会社において、全ての国の移行期間CbCRセーフハーバーの判定を行い、これをQDMTT導入国に対して展開するという流れが想定されます。ただし、各国法令における移行期間CbCRセーフハーバー法令とOECDモデルルールとの間に、重要な差異がないかについては、留意が必要となります。
また、QDMTT導入国で、その国の法令に基づいて移行期間CbCRセーフハーバーの判定やトップアップ税額の申告・納付を行う場合であっても、(一般的に)日本親会社が作成すると想定されるGIRには、QDMTT導入国を含む全ての国の一定の情報を記載する必要があるため、日本親会社においては、子会社との相応の情報連携が必要となります。また、その国に複数の子会社が存在する場合、親会社による取りまとめの役割も必要とされる可能性があります。
本税制は、これまでの法人税制とは異なる新しい税制であること、仕組みが複雑であること、グローバルコーディネーションが求められること等の理由により、特に適用初年度に関しては、綿密な実行計画を定めることが望ましいと考えられます。
後編では、本税制に関する法令解釈、オペレーション、テクノロジーの観点から、本税制に対して具体的にどのように対応していけばよいかについて、解説します。
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前編となる本稿では、グローバル・ミニマム課税の概要を解説しました。後編は、日系企業の具体的な対応方法について説明します。
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2024年4月1日からグローバル・ミニマム課税(BEPS 2.0 Pillar 2)の適用が開始されています。本制度の概要を解説した前編に続き、本稿では、日系企業による対応に関するロードマップを概括します。
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