EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
要点
近年、AIの技術は急速に進化し、ビジネスのさまざまな側面に影響を与えています。企業はAIを活用することで、業務の効率化や新たな価値創出を図り、競争力を高めています。前編では、金融業界や情報通信業界、製造業におけるAIの導入事例を通じて、AIがどのように企業の運営に寄与しているかを述べました。特に、AIエージェントが顧客対応を迅速化し、製造業における生産ラインの最適化が進んでいることなどに触れました。
しかし、AIの導入には多くの課題も伴います。法規制やガバナンス体制の整備が求められる中で、企業はどのようにリスクを管理し、変化する環境に適応していくべきなのでしょうか。後編では、各国のAIに対する規制動向とその影響について掘り下げ、企業が直面する課題とその解決策を探ります。
AIの社会実装が進む中、各国で法規制の整備が急速に進展しています。EUでは世界初の包括的なAI法(EU AI法)が2024年に成立し、2026年の全面適用を目指しています。EU AI法はリスクベースでAIシステムを分類し、高リスク分野(医療機器、生体認証、重要インフラなど)には厳格な義務を課しています。アメリカでは連邦レベルの包括的なAI法は未成立ですが、州ごとに独自のAI規制が制定されています。日本では2025年5月に人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(AI推進法)が成立し、政府による情報提供要請や指導権限が定められました。韓国はAI基本法を成立させ、2026年施行予定で、倫理・透明性・通知義務などに違反した場合は罰則が科されるハードロー型です。
各国で規制の厳しさやアプローチが異なるため、グローバル展開する企業は複数の法規制への対応が求められています。これらの規制は、企業がAIを導入する際の基準を明確にし、消費者の安全を守ることを目的としています。
EUや韓国のような罰則を伴う法律が存在する国では、AIサービスの設計段階から法令遵守を意識した体制整備が不可欠です。企業はこれらの規制を遵守することで、法的リスクを軽減し、持続可能なビジネスモデルを構築することが可能になります。特にEU AI法では、高リスク分野においては、技術的な信頼性が求められるため、厳格な規制が必要とされています。一方で、規制の厳しさがイノベーションを阻害するとの懸念もあり、施行の一時停止や一部緩和の議論も進んでいます。アメリカでは、企業は州ごとの規制に適応するための柔軟な戦略を構築する必要があります。日本は、罰則がないハードローでありながらもソフトロー路線も残した形の先進的な法律と言えます。
企業はこれらの規制を遵守することで、法的リスクを軽減し、持続可能なビジネスモデルを構築することが可能になります。規制に適応するための戦略を練ることが今後の成功につながるでしょう。
日本ではAI推進法のもと、政府が情報提供を要請し、必要に応じて指導を行う体制が整いました。罰則はないものの、社会的責任やレピュテーションリスクを意識した自主的なガバナンス強化が企業に求められています。実務上は「AI事業者ガイドライン」や「生成AIの調達利活用ガイドライン」など、政府や業界団体が発行する指針を参照し、AI倫理・透明性・説明責任の確保などを自社ポリシーに反映することが重要です。特に政府調達案件では、「行政の進化と革新のための生成AIの調達・利活用ガイドライン」への準拠が事実上の基準となりつつあり、今後は行政ガイドラインや政令等で強制力が高まる可能性も指摘されています。また、金融機関向けには金融データ活用推進協会(FDUA)のガイドライン、グローバル展開企業にはEU AI法など、業界・地域ごとの基準への対応も不可欠です。企業はこれらのガイドラインを遵守することで、信頼性を高め、顧客からの支持を得ることができます。
AIガバナンス体制の整備にあたっては、いくつかの実務課題が浮き彫りになっています。まず、AI利用ポリシーや開発ルールの策定は進んでいるものの、技術進化が速いため「どの頻度、どのタイミングで見直すべきか」を悩む企業が多い印象です。さらに、AIの責任部署がIT部門に限定されず、現場部門や経営層も巻き込む必要があるため、組織横断的な体制構築が求められます。人材面では、AIガバナンスやAIのリスク管理に精通した人材の慢性的な不足が課題です。AI人材の要件定義や研修制度の設計やAIに精通した人材を短期間で獲得することが難しいため、外部の第三者評価や認証(ISO/IEC 42001など)制度の態勢整備を行いながら、社内の知見蓄積と人材育成を進める動きが広がっています。企業は、AI技術の進化に伴い、継続的な教育プログラムを導入し、社員のスキルアップを図ることが重要です。
企業にとってAIガバナンスは非常に重要な要素ですが、実際には自社のガバナンスがどの程度整備されているかを自社のみで把握し判断することが難しいという課題を抱えている企業も少なくありません。多くの企業において、内部の評価基準やプロセスが不明確であるため、AIガバナンスの整備状況を客観的に評価することが困難です。その結果、自社のAI活用やリスク管理の取り組みが十分であるかどうかを外部に示すことが容易ではない場合があります。
このような状況を改善するためには、AIガバナンスの第三者評価や認証(ISO/IEC 42001など)を活用することが効果的です。企業が自社のAI活用やAIのリスク管理への取り組みを客観的に可視化し、強みや改善点を明確にすることは、対外的な信頼性を高めるための有効な手段になります。自社評価だけでは見落としがちなリスクや業界標準とのギャップを、外部の専門家が多角的に診断することで、実効性の高い改善策を導き出すことが可能です。
また、取引先や顧客、行政機関への説明責任を果たす上でも、第三者評価の有無は大きな差別化要素となります。EYでは、経済産業省と総務省により取りまとめられた「AI事業者ガイドライン」をベースに、企業のAIガバナンス体制を網羅的に評価するサービスを提供しています。この評価では、倫理・透明性・説明責任・データ管理・セキュリティ・人権配慮など多岐にわたる観点をチェックリスト化し、現状の成熟度や改善ポイントなどを明確にします。
評価結果は、社内のガバナンス強化だけでなく、対外的なアピールや調達・入札時の信頼獲得にも活用できます。さらに、国際規格であるISO/IEC 42001は、AIシステムの安全・倫理的な開発・運用を支えるマネジメントシステムの枠組みを提供しており、ISMS(ISO/IEC27001)と構成が類似しているため、日本企業にも導入しやすい特徴があると考えられています。ISO/IEC 42001認証を取得することで、グローバル市場や行政調達での信頼性向上、社内の継続的なPDCAサイクルによるリスク低減、AI活用の透明性・説明責任の担保が期待できます。
AIの活用は企業や社会のイノベーションを推進し、新たなビジネスモデルの創出にもつながりますが、その一方でリスク管理の重要性が日々高まっています。AIガバナンス体制の整備と運用によって、リスクを適切に管理し、社会的責任を果たすことが企業価値の向上にも直結します。EYは監査法人としての独立性・客観性・専門性を生かし、AIガバナンスの構築や第三者評価を通じて、企業の社会的責任の遂行や価値向上を支援しています。また、AIの台頭は歴史的に見ても、かつての自動車社会の到来と同じような社会現象であり、当時の車社会が安全性や運転者教育、道路インフラや交通ルールの整備を通じて社会に定着したように、AI社会でも品質管理や人材育成、ルール整備、そして第三者による監査や評価が不可欠です。EYは、AI活用の安心・安全な社会基盤づくりに貢献していきます。
AI市場の規模は今後も成長・拡大が見込まれています。多くの企業で生成AIに代表されるAIが活用され、合わせてルールの整備にも取り組んでいます。AIの利用により業務品質や生産性の向上が期待される一方、AIの利用には、正確性・公平性・知的財産権・セキュリティ・プライバシーなど、さまざまなリスクが存在します。EYでは、組織においてAI活用を進めていくにあたり、そうした多様なリスクに対応したガバナンスの構築や、構築した AIガバナンスの運用状況について第三者としての客観的な評価で支援します。
企業はAIガバナンスやリスク管理の重要性が増す中、AI関連法が整備され、法令遵守も意識する必要があります。第三者評価を活用することで信頼性を高め、社会的責任を果たすことができます。倫理基準を定め、透明性を確保することが顧客からの信頼性向上につながります。
関連記事
企業がAIガバナンスを強化することで得られる競争優位性とは?(前編)
競争優位性を高めるためにAIガバナンスの強化が不可欠です。企業がAIの活用により競争力を維持し、持続可能性を高める具体的なアプローチを考察します。
EYの関連サービス
AI市場の規模は今後も成長・拡大が見込まれています。多くの企業で生成AIに代表されるAIが活用され、合わせてルールの整備にも取り組んでいます。AI の利用により業務品質や生産性の向上が期待される一方、AI の利用には、正確性・公平性・知的財産権・セキュリティ・プライバシーなど、さまざまなリスクが存在します。EY では、組織において AI 活用を進めていくにあたり、そうした多様なリスクに対応したガバナンスの構築や、構築した AI ガバナンスの運用状況について第三者としての客観的な評価で支援します。
続きを読むAI(人工知能)を安全かつ責任ある形で活用するためのAIマネジメントシステム規格 ISO/IEC 42001:2023について、ISO認証機関を持つEYがサポートします。
続きを読むAIは企業のイノベーションを推進し、新たなビジネスモデルを創出する重要な要素となりますが、活用する際はリスクを適切に管理することが求められます。企業がAIに関するガバナンス体制を整備することで、リスクが適切に管理され、社会的責任を果たすことが可能となります。これにより企業は競争優位性の確保につながり、変化する市場環境に適応する力を高めることができるでしょう。
続きを読む