海外子会社のIT実態をどう把握するか ― 本社が押さえるべき3つのポイント

グローバル・システム監査人は語る:グローバル企業における海外子会社のITガバナンス管理 vol.1

海外子会社のIT実態をどう把握するか
― 本社が押さえるべき3つのポイント


海外子会社のITガバナンスは、本社のルール整備だけでは十分に機能しないケースが少なくありません。本稿では、本社のIT部門がまず把握すべき3つのポイントを解説します。


要点

  • 海外子会社のIT環境や責任体制が未整理の場合、リスクの所在を把握できない。
  • 本社ルールは海外子会社ごとに解釈や運用が異なり、実効性にばらつきが生じる。
  • 責任の明確化と実効状況の継続的なモニタリングにより、ガバナンスの実効性を高めることが重要である。

はじめに

本シリーズでは、海外子会社のITガバナンスを本社としてどのように把握・管理すべきか、実務で直面しやすい課題とその対応の考え方を、複数回に分けて解説します。

私たちはこれまで、監査クライアント・非監査クライアントを問わず、外部監査および内部監査のシステム監査人として多くの企業に関与してきました。その中で、IT担当者が日々直面するさまざまな課題を実務の現場で数多く見てきました。こうした経験を踏まえ、「グローバル企業における海外子会社のITガバナンス」をテーマに、本シリーズとして発信します。

昨今は、製造業に限らず、住宅メーカーや消費財セクターなどでも、海外展開を加速させる企業が増えています。また、海外展開の進展に加え、海外投資家や規制当局から求められるガバナンス水準も高まっています。このような環境下では、グローバルで一貫したガバナンスの構築やIT管理の確保が、経営上の重要なテーマとなっています。

一方で、実務の現場では、本社のIT部門が海外子会社の実態を十分に把握できていないケースも少なくありません。日常的なやり取りが限定的である場合や、現地任せの運用が長年続いている場合には、システムおよびネットワーク構成やデータの取り扱い、アクセス権限の管理状況などが不透明になりがちです。その結果、サイバーセキュリティインシデントが発生した際に、監査人からの指摘を受けて初めて実態把握に着手する、という後手の対応に陥ることがあります。

こうした背景を踏まえ、本シリーズでは、実務の現場で生じている具体的な課題を起点に、海外子会社のITガバナンスをどのように管理し、どのように課題へ対応していくべきかについて整理していきます。

第1回となる本稿では、本社のIT部門の担当者が海外子会社のITガバナンスを強化するため、最初に把握すべき“3つのポイント”について解説します。

本社ITの担当者が最初に把握すべき“3つのポイント

1. 海外子会社のIT環境の把握

まず1つ目のポイントは、IT環境の全体像の把握です。海外子会社にどのようなシステムが存在し、どのような構成になっているのかを把握することは、すべての出発点となります。

しかし実務上は、そもそも海外子会社においてITの責任者や担当者が明確に特定されていない、あるいは役割分担が曖昧なまま運用されているケースも少なくありません。このような状況では、誰に確認すべきかが定まらず、結果として正確な情報収集が進まないという問題が生じます。

そのため、ERPや会計システムといった基幹系システムに限らず、周辺の業務システムやネットワーク環境も含めた全体像の把握に加え、「誰がどの領域を管理しているのか」といった体制面の把握も併せて行う必要があります。また、クラウドサービスの利用状況や、外部ベンダーへの委託の有無なども重要な観点となります。

ここが曖昧なままでは、リスクの所在そのものを特定することができません。

2. 海外子会社のIT規程の運用実態の把握

2つ目に、ルールがどのように解釈され、運用されているかという点です。多くのグローバル企業では、グループ共通のセキュリティポリシーやルールが整備されています。しかし、同一のルールであっても、海外子会社ごとに解釈や適用範囲が異なり、実際の運用は大きくばらつくケースが見られます。海外子会社の規模や事業内容が本社と大きく異なる場合、本社の前提に基づいたルールがそのままでは適合せず、現場で実行が困難となるケースも少なくありません。小規模な海外子会社では人員の制約から職務分掌が成立しない場合や、事業特性の違いによりリスクの重点領域が異なる場合もあります。こうした違いを踏まえずに一律に本社が定めたルールを適用すると、形式的な対応にとどまり、実効性が伴わない運用となるおそれがあります。

本社として「準拠している」という報告を受けていても、その内容がどのような前提で整理されているのか、実際にどの水準まで対応されているのかを把握しなければ、ルールの実効性を正しく評価することはできません。規程の存在確認だけではなく、「どのように運用されているか」という、運用実態を把握することが重要です。

3. グローバルガバナンスの機能実態の把握

3つ目に、グローバル企業としてルールを継続的に機能させる仕組みが整備されているかという点です。本社と海外子会社の役割分担や責任の所在が不明確な場合、グローバルガバナンスの実効性は大きく低下します。

多くの企業では、方針や重要な意思決定は本社が担い、日々の運用は海外子会社に委ねられていますが、このとき意思決定と実行の間に十分な連携がなければ、ルールは形骸化しやすくなります。

そのため、誰が最終的な責任を持つのか、問題発生時にどのようにエスカレーションが行われるのかに加え、各海外子会社の実態に応じて運用可能な体制となっているかを確認することが重要です。さらに、インシデントや例外を適時に把握し、対応状況を継続的にモニタリングする仕組みが機能しているかといった点も併せて確認する必要があります。

ルールが存在するだけでなく、それを前提として各海外子会社の特性に応じて無理なく運用され続ける仕組みが整備されているかという観点から、機能実態を把握することが不可欠です。

さいごに

これら3つの視点に共通するのは、形式ではなく実態に着目するという点です。本社としてルールやフレームワークを整備すること自体は重要ですが、それだけで海外子会社のITガバナンスが機能するとは限りません。むしろ、海外子会社でどのように解釈され、どのように運用されているか、問題が発生した際にどのように対応されるのかといった実態を把握することが、ITガバナンス管理の要となります。

次回は、セキュリティインシデントへの対応を例に、「本社のセキュリティルールはなぜ海外子会社で機能しないのか」という点に焦点を当て、課題と対応方針を整理します。


【共同執筆者】

古山 英雅 EY新日本有限責任監査法人 シニアマネージャー
板倉 由樹 EY新日本有限責任監査法人 マネージャー


サマリー

海外子会社のITガバナンスを強化するには、IT環境の全体把握、ルールの運用実態の把握、グローバルガバナンスの機能実態の把握が不可欠です。本稿では本社のIT部門が初期段階で把握すべき3つのポイントを整理します。



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