EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社は株式会社ビズリーチと協力し、AIを活用した社内における人材可視化とマッチングのPoC(概念実証)に取り組みました。11月20日に「経営にインパクトを与えるスキルベース型人材マネジメント ~スキル管理を超えた実践的なスキル活用の在り方を考える~」と題して開催されたセミナーでは、このコラボレーションから見いだされた知見が紹介されました。
要点
Section 1
人材流動化が進む中、ジョブを「スキル」に分解し、タレントと柔軟にマッチングするスキルベース管理の重要性が高まっています。実現にはスキルや経験の可視化が必要であり、これは個々のマッチングだけでなく、企業全体の人材戦略の解像度を高める上でも有効です。
「適材適所」と口で言うのは簡単ですが、その実現は想像以上に難しいのが実情です。ましてや人材の流動化が進む中では、どのようにスキルと業務をうまく結び付け、全体として競争力を高めていくかは、企業の行く末を左右しかねない問題となっています。解決の鍵として期待できそうな要素はAIをはじめとするIT技術ですが、具体的にどの場面で、どのように使いこなせば効果を発揮できるのか、試行錯誤は始まったばかりです。
セミナー冒頭、EY Asia East / Japan ピープル・コンサルティングリーダーの鵜澤慎一郎は、「多くの会社がAIを使ったジョブマッチングに悩まれており、われわれも日々、プロジェクトのアサインメントに悩んでいます」と率直に述べ、EY自身の実験的な取り組みを参考に、また参加各社の担当者間で横のつながりを広げることで、ヒントを見いだしてほしいと呼び掛けました。
EY Asia East / Japan ピープル・コンサルティングリーダー
EYストラテジー・ アンド・コンサルティング株式会社 パートナー 鵜澤 慎一郎
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社のパートナー、高柳圭介は、「スキルベース人材マネジメントの施策設計~運用における障壁」と題し、スキルベースの人材マネジメントの要点を改めて確認した上で、ビズリーチとのコラボレーションを通してどのような教訓が得られたかを紹介しました。
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
ピープル・コンサルティング パートナー 高柳 圭介
「VUCA」という言葉に象徴される通り、今、企業は非常に速い変化にさらされています。「これに伴って事業の動きも高速化し、ジョブも並外れたスピードで移り変わるようになりました。ジョブディスクリプションの定義自体が間に合わなくなってきている上に、仮に定義できたとしてもそこにマッチする人材が見つかりにくくなっています」と高柳は指摘しました。
加えて、世界的な人材不足が進む中では、これまで以上に仕事を細分化、モジュール化して分業しなければ、業務遂行が困難となる時代が目前に来ています。一方で、AIをはじめとするテクノロジーが進化したことで、AIと人間がコラボレーションし、人間が担う仕事の範囲がより細分化していくと予測されています。
こうした背景から、従来のジョブベースに代わり、スキルベースの人材マネジメントが注目を集めるようになりました。
では、そもそもスキルベースの「スキル」とは何を指すのでしょうか。高柳は、役割を示す総称である「ジョブ」の解像度を高めながら解説しました。
まず、ジョブは「ポジション」とも表現できます。この特定のポジションが担うべき業務の責任範囲をまとめたものが「ロール」です。そのロールを遂行する上で必要な要素技術、いわばケイパビリティは主に二つに分類されます。一つは、タスクの実行に必要とされる行動特性である「コンピテンシー」で、現在の人事評価では主にこちらが用いられています。そしてもう一つ、特定のジョブやロールを実行する上で必要な要素技術などを指す「スキル」や「経験」も不可欠なケイパビリティです。
ジョブベースでは文字通り、ジョブという単位でのマネジメントを志向していました。これに対し「スキルベースの人材マネジメントは、スキルや経験単位で人材を見極め、ジョブとのマッチングを考えていくものです」と高柳は説明しました。
ジョブの遂行には複数のスキルが求められます。しかし従来のジョブベースの組織では、ジョブに求められるスキルとタレント(人材)の持つスキルとがぴったりマッチングするとは限らず、「活用されないスキル」が発生してしまう可能性がありました。
これに対しスキルベースの組織では、複数のスキルを持つ人材が複数のジョブに携わって能力をフルに生かしたり、逆に、誰か一人では実現困難なジョブを、必要なスキルを持つ複数の人材が結集して遂行したりすることが可能です。
高柳はこのように説明した上で、「スキルベース管理にまず必要なことは、ジョブサイド、タレントサイドのそれぞれで、スキルや経験を同じ粒度で可視化することです。それが実現できれば、ジョブと人のマッチングがシステマチックにできるようになる可能性があります」と述べました。
スキルの可視化には、より細かい粒度で、しかも柔軟なマッチングが可能になるというミクロ的な利点があります。さらに、「一つの組織、一つの企業のスキルをベースとした『戦闘力』を定量的に表すことで、弱い部分を集中的に育成する、逆に強みをさらに伸ばすといった具合に、より解像度の高い人材戦略を構築できる可能性があります」(高柳)
こうした可能性を見込んで、スキルベースでの人材採用や育成はもちろん、処遇にもスキルを反映させて活用している先進的な企業も現れています。
Section 2
EYはビズリーチと協力し、AIを活用して個々人のスキルや経験を可視化し、最適なプロジェクトとマッチングするPoCを実施しました。違和感のない粒度でスキルを抽出し、タグ付けによって必要な人材を検索できる可能性が見えてきた一方で、運用上の課題も見えてきました。
世の中にはさまざまな仕事がありますが、EYのようなコンサルティング会社においては「ヒト」こそが競争力の源泉です。だからこそ「スキルや経験を可視化し、個々のプロジェクトと一人一人のマッチング精度を高めることによってお客様により多くの価値を提供できると考えました。同時に一人一人の育成やリテンションにもつなげていくことを目的にPoCを実施しました」(高柳)
EYには、新卒入社後に所属してさまざまな経験を積む「ACG」(Advisory Consultant Group)と呼ばれるプール組織があります。ここに所属する入社1~3年目の若手、約700名を対象にPoCを実施しました。
PoCでは、人事の基礎データに加え、個人にひも付かないプロジェクトの概要を記したデータ、そしてクォーターごと、プロジェクトごとの個々人の評価データを、社内版ビズリーチのAIにインプットしました。この結果、個々人のキャリアサマリーと職務経歴書をまとめた「個人レジュメ」がアウトプットとして自動生成されました。
「キャリアシートができればタレントの検索も可能になります。しかも社内版ビズリーチの場合は、『タレントマネジメントのことを知っていて、人事制度の設計を経験したことのある人が欲しい』などと自然言語で入力すれば、AIによって条件にマッチした人物のレジュメが出てきます」(高柳)
最終的には、個々人のスキルや経験を構造化された形で可視化し、そこにマッチングや検索といった機能を組み合わせ、プロジェクトごとに適切なコンサルタントをマッチングできる、社内の「タレントマーケットプレイス」作りを目指しています。
実際にPoCを実施してみるといくつかの課題も見えてきました。たとえば、プロジェクト概要に、関わった個人のレジュメをダイレクトに反映させると、あたかも一人でプロジェクトをすべて遂行したかのように「盛り気味」に表現されてしまう、また、ネガティブなフィードバックもそのまま反映されてしまうため、全マネージャーに公開するにはデリケートな内容が含まれる、といった具合です。
一方で、個々人のスキルや経験を違和感のない粒度で抽出・可視化でき、タグ付けによって必要な人材を検索できるなど、メリットも多々実感できたと言います。
それだけに、インプットデータの質をいかに高め、正確性を担保するかが重要です。また効果的な運用のためには、スキルや経験だけでなく本人の性格などの要因をどのようにマッチングのプロセスに組み込み、データの網羅性を高めるか、そして従業員一人一人に過度な負担をかけることなく、いかに自然な形で不足しているデータを収集するかといった課題を踏まえ、適切な運用プロセスをデザインしていくことが求められるでしょう。
最後に高柳は、タレントとプロジェクトのマッチングはあくまでスキルベースの人材マネジメントを進める上での「副産物」に過ぎないと指摘しました。「スキルベースのマネジメントの本質は、スキルに基づいて組織全体としての戦闘力を可視化し、人材戦略の解像度を上げるためのツールである点が重要です」(高柳)
また、PoCでの成果も踏まえ、「今の段階では、AIがすべてやってくれるという期待は幻想に過ぎません」とし、AIに頼る部分と人間が担うべき部分の見極めが問われていくとも述べました。
このように、まずはスモールスタートで試すことによって初めて、多くのものが見えてきます。AIを巡っては、「ワークスロップ」のような無意味な成果物が増え、かえって生産性を損ないかねないという指摘もありますが、高柳は、「AIを使わなくていい理由にはなりません。様子見をしていれば、失敗を通して知見や経験を蓄積した企業に後れを取ることになります」と述べ、まずは一歩踏み出して自ら試し、課題を洗い出すべきだとして、セッションを終えました。
Section 3
EYが実施したPoCは、社内版ビズリーチを活用したものです。AI技術と、ビズリーチが長年蓄積してきた外部労働市場に関する大量のデータを生かすことで質の高いマッチングを実現し、さらに個々人のキャリア形成にも寄与できる可能性があります。
続けて、株式会社ビズリーチで執行役員、HRMOS事業部長を務める小出毅氏が、「外部労働市場のスキルや経験を踏まえた、社員・ポジションの可視化方法」というタイトルで、社内版ビズリーチを用いたスキルやポジションの可視化・マッチングを通して、人材の最適配置や自律的なキャリア形成を支援するアプローチについて説明しました。
株式会社ビズリーチ 執行役員
HRMOS事業部 事業部長 小出 毅 氏
CMでもおなじみとなったビズリーチは、中途採用が経営に欠かせない手段となる時代が日本にも到来すると予想し、企業が候補者に直接声を掛けて採用活動をしていく「ダイレクトリクルーティング」のサービスを16年前から提供してきました。
この事業を通してビズリーチの社内には、求人票や個人の職務経歴書に関する多くのデータが蓄積されています。「言い方を変えると、企業が求めるスキルや経験、志向、報酬、そして個人を表すスキルや経験、志向、年収のデータを国内有数の規模で保有しています」(小出氏)。さらに、その求人と個人がどのようにマッチングし、その時の報酬はどの程度だったかを可視化したデータについても、日々アップデートしながら保有しています。
外部労働市場に関するこうした大量のデータを踏まえてリリースされたのが、社内版ビズリーチです。社内で蓄積してきたノウハウに基づく自社の判断だけでなく、「外部労働市場基準」で業務やスキルを可視化することが最大のポイントだと小出氏は説明しました。
小出氏は、労働市場が変化し、中途採用の有用性が高まる中、人材獲得競争の難易度はますます高まっていることを改めて指摘しました。さらに、「まだまだ人材流動化元年であり、今後5年、10年で、若手を中心にさらに人材は流動化していくと見ています」と言います。その上、経営を巡る環境が目まぐるしく変化し、内部での異動やリソースソフトの必要性も高まっています。
そんな中でも企業が成長を続けていくには、入社後のキャリアの可能性を提示するなどして、従業員に選ばれる魅力的な企業にならなければなりません。そのためには、当然、他社や世の中の動向も踏まえる必要があります。
小出氏はこのように説明した上で、「ポジションと人材を、社内外から高い質でマッチングし、シームレスに充足させていく、質・スピードが求められてきます」と述べました。
この際にポイントになるのが、外部労働市場の要素です。
日本企業では長らく、従業員のスキルや経験、ポジションを自社の言葉で定義し、評価し、管理してきました。小出氏は、こうした内部労働市場ベースのアプローチを決して否定するものではないとしながらも、もはや全組織、全従業員を対象にするのは困難であると指摘しました。これに対し社内版ビズリーチでは、外部労働市場のデータを元に学習したAIを活用することで、市場基準に基づいて職務経歴書やポジションを定義できるのが強みだと言います。
また、高柳がPoCの課題でも言及した通り、この仕組みに実効性を持たせるには、質の高いデータを十分な量、入力する必要があります。しかし、業務の傍らレジュメやポジションを入力し、アップデートしてほしいと従業員に依頼しても、なかなか進まない可能性があります。そこで社内版ビズリーチでは、AIを活用し、フォーマットを問わずにデータを投入すれば自動的に職務経歴書を作成し、タグ付けできる仕組みを整えました。
こうした仕組みを生かしてポジションと従業員のスキルを可視化していけば、内部流動性を高め、外部労働市場基準の社内公募システムや社内FA(Free Agent、公募や異動希望の制度)の仕組みも整備できるでしょう。さらに、異動や昇格を検討する際にも、AIとデータを掛け合わせることで、当初はリストに挙がらなかった適性を持った候補を推薦し、フェアに検討することも可能になります。
今や、内部の論理に加え、外部労働市場を参照しなければ必要な人材を獲得できないだけではなく、内部につなぎ止めることもできません。外部労働市場のデータに基づいてスキルや経験を可視化することで、適切なマッチングはもちろん、特定のポジションの評価や年収を客観的に示したり、キャリアパスを開拓していく上で必要なスキルをタグとして示し、外部の学習コンテンツと連携して補っていったりと、企業にとっても従業員にとってもさまざまな可能性が開かれるでしょう。
スキルや経験の可視化はスキルベース人材管理実現の鍵であり、企業人材戦略の解像度を高める上でも有効です。小さな一歩から始め、いち早く運用上の課題を洗い出すことができれば、スキルベースの人材マネジメントのベースとなるマッチング、従業員のキャリア形成、AI活用の可能性を広げることができるでしょう。
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