EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
2022年3月期より、原則適用となる会計基準及び早期適用可能となる会計基準(執筆時点で公開草案であるものを含む)は<表1>のとおりです。
本稿ではこれらを中心に22年3月期決算にあたっての留意事項を解説します。また、本文中で使用する会計基準の略称及び適用開始時期は<表1>のとおりです。
なお、文中の意見にわたる部分は筆者らの私見であることをあらかじめお断りします。
収益認識会計基準等が、21年4月1日以後開始年度から原則適用となりました。四半期決算においては収益の分解情報といった一部の注記が行われていますが、22年3月期の年度決算においては、収益認識会計基準に基づく全ての開示が行われることになります。ここでは注記事項について簡単に再確認します。
収益認識会計基準で定められている注記事項をまとめると<表2>のとおりです。
なお、収益認識会計基準の表示・開示に関して、会計基準の定めについては本誌20年7月号、実務上の論点については20年8月・9月合併号及び22年2月号で解説していますので、併せてご参照ください。
時価算定会計基準が、21年4月1日以後開始年度から原則適用となり、22年3月期の年度決算では、金融商品に関する新たな注記事項の開示が行われます。ここでは時価算定会計基準の概要を簡単に再確認します。
「時価」とは、算定日において市場参加者間で秩序ある取引が行われると想定した場合の、当該取引における資産の売却によって受け取る価格又は負債の移転のために支払う価格とされています。
時価の算定にあたっては、状況に応じて、十分なデータが利用できる評価技法(例えば、マーケット・アプローチやインカム・アプローチ等)を用いることとされ、評価技法を用いるにあたっては、関連性のある観察可能なインプットを最大限利用し、観察できないインプットの利用を最小限にすることが求められます。算定した時価は、その算定において重要な影響を与えるインプットが属するレベルに応じて、レベル1の時価、レベル2の時価、レベル3の時価に分類します(<表3>参照)。時価の算定に重要な影響を与えるインプットが複数含まれる場合は、時価の算定における優先順位が最も低いレベルに分類することとなります。
時価のレベルに関する概念が取り入れられたことにより、「時価を把握することが極めて困難と認められる有価証券」は想定されなくなったことから、この定めが削除されました。ただし、「市場価格のない株式等」に関しては、従来の考え方を踏襲し、取得原価をもって貸借対照表価額とする取扱いとされています。一方で、従来「時価を把握することが極めて困難と認められる有価証券」に該当していた社債その他の債券等については、時価をもって貸借対照表価額となり、従前と異なる取扱いになっている点には留意が必要です。
金融商品に関する注記事項として、これまで求められていた事項に追加して、金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項の注記が求められます。金融商品のレベルごと、また、時価をもって貸借対照表価額とするか否かによって求められる開示項目が異なっており、<表4>の項目の注記がそれぞれ求められています。
改正時価算定適用指針の原則適用は22年4月1日以後開始する事業年度からですが、21年4月1日以後開始する事業年度の期首から、又は22年3月31日以後終了する事業年度の年度末から適用することができます。
改正時価算定適用指針では、投資信託について、その投資信託財産が金融商品である投資信託と不動産である投資信託の二つに区分した上で、時価の算定に関する取扱いを定めています。また、組合等への出資の会計処理について今後の検討課題であることを認識した上で、貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資については、時価の注記を要しないこととされています。
なお、時価算定会計基準等については、以下に詳細な解説がありますので、ご参照ください。
会計上の見積りは、「資産及び負債や収益及び費用等の額に不確実性がある場合において、財務諸表作成時に入手可能な情報に基づいて、その合理的な金額を算出すること」とされていますが、新型コロナウイルス感染症(以下、本感染症)は、さまざまな会計上の見積りに影響を及ぼすと考えられます。
わが国では、一時は感染者数の急速な減少により収束に向けた期待感も出てきていたと考えられる一方で、新たな変異株による22年1月以降の感染再拡大の状況を鑑みると、依然として、本感染症の収束時期を正確に見通すことが難しい状況と考えられます。このため、22年3月期決算においても、本感染症が会計上の見積りに及ぼす影響について、慎重に検討する必要があると考えられます。
20年4月9日にASBJから公表された第429回企業会計基準委員会議事概要「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方」(以下、第429回ASBJ議事概要)では、<表5>の考え方が示されていました。その後、21年2月10日に公表された第451回企業会計基準委員会議事概要「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方(21年2月10日更新)」(以下、第451回ASBJ議事概要)では、本感染症の今後の広がり方や収束時期等を予測することが困難な状況に変化はなく、会計上の見積りを行う上で、特にキャッシュ・フローの予測を行うことが極めて困難な状況に変わりはないとして、第429回ASBJ議事概要の考え方が改めて周知されました。
21年3月期決算においては、<表5>の考え方を踏まえて会計上の見積りが行われていたものと考えられますが、22年3月期決算においても、上記のとおり、本感染症の広がり方や収束時期等を正確に見通すことは引き続き困難であると考えられるため、本感染症に関連する事象について会計上の見積りを行うにあたっては、<表5>の考え方を踏まえて検討を行う必要があります。例えば、次のような項目は、その影響を大きく受ける可能性があるため、慎重に検討する必要があると考えられます。
① 固定資産減損会計
減損の兆候の判定においては、例えば、前期末時点では減損の兆候がないと判断していた場合でも、本感染症が当初想定よりも長期化したことや、本感染症による消費者の趣向の変化及び事業環境の変化等により、将来の売上高の著しい減少が続くことが見込まれる場合には、減損の兆候に該当する可能性があり、慎重に検討する必要があります。
また、将来キャッシュ・フローの見積りにおいては、本感染症に関連して生じている企業の経営環境の変化により将来の業績にどのような影響が生じるか等、本感染症の収束時期等を正確に予測することは依然として困難であるものの、企業自らが合理的で説明可能な仮定を置いて見積もることが必要となります。
② 繰延税金資産の回収可能性
本感染症の影響により、企業の分類の見直しの要否や、翌期以降の事業計画等に基づく一時差異等加減算前課税所得の見直しの要否を検討する必要があります。一時差異等加減算前課税所得の見積りにあたっても、正確な収束時期等の予測に不確実性がある中、企業自らが合理的で説明可能な仮定を置いて見積もる必要があります。
また、回収可能性適用指針28項及び29項の定め(いわゆる「反証規定」)の適用については、慎重な判断が求められます。反証規定を適用する場合、将来のいずれの期においても一時差異等加減算前課税所得が生じることを合理的な根拠をもって説明することが求められているものと考えられます。この点、例えば、前期末においては、当期を含む将来3年間について一時差異等加減算前課税所得が生じるとして、回収可能性適用指針29項に従い(分類4)から(分類3)としていたところ、当期の実績では一時差異等加減算前課税所得がマイナスとなった場合には、一時差異等加減算前課税所得が生じることを合理的な根拠をもって説明することが困難な状況であると推察されます。したがって、このような状況で、当期に改めて翌期以降3年間について一時差異等加減算前課税所得が生じるものとして回収可能性適用指針29項の反証規定が認められるか否かについては、より慎重な検討が求められると考えられますので、留意が必要です。
第451回ASBJ議事概要においては、本感染症の今後の広がり方や収束時期等の一定の仮定については、見積開示会計基準における開示に含まれることが多いと想定され、そのような場合は、改めて追加情報として開示する必要はないと考えられるとされています。また、本感染症の影響に重要性がないと判断される場合であっても、当該判断を開示することの有用性から追加情報として開示していたケースについて、そのような開示は見積開示会計基準で求められる開示には含まれないが、引き続き、追加情報を開示する趣旨に沿ったものになるとの考え方が示されています。
21年3月期においては、第451回ASBJ議事概要の考え方を踏まえて開示が検討されていたものと考えられますが、22年3月期決算における開示を検討する上でも、上記の考え方が引き続き参考になると考えられます。例えば、前期において見積開示会計基準に基づく開示の中で本感染症の収束時期等の仮定を開示しており、当期において収束時期等の仮定を変更した場合には、会計上の見積りについて財務諸表利用者の理解に資する情報を開示するという見積開示会計基準の開示目的に照らして、当期の見積開示会計基準に基づく開示において当該変更の内容も含めて記載することが考えられます。また、前期において本感染症の影響に重要性がないとの判断を追加情報として開示していたところ、当期においても重要な影響がないと判断される場合には、引き続き、当該判断について追加情報として開示することが考えられます。
19年12月に成立した「会社法の一部を改正する法律」(令和元年法律第70号。以下、改正法)により、会社法202条の2において、金融商品取引法2条16項に規定する金融商品取引所に上場されている株式を発行している株式会社が、取締役等の報酬等として株式の発行等をする場合には、金銭の払込み等を要しないことが新たに定められました。本実務対応報告等は、これを受けて、取締役等の報酬等として金銭の払込み等を要しないで株式の発行等をする場合における会計処理及び開示を明らかにすることを目的として公表されました。
会社法202条の2に基づいて、取締役の報酬等として株式を無償交付する取引が対象とされています。対象となる取引については、ASBJから21年1月28日に公表された実務対応報告第41号「取締役の報酬等として株式を無償交付する取引に関する取扱い」(以下、実務対応報告)を参照し会計処理することとなります。この点、実務対応報告は適用範囲が限定的であり、この点を誤らないようにすることが重要です。
また、現行実務において行われているいわゆる現物出資構成により、金銭を取締役等の報酬等とした上で、取締役等に株式会社に対する報酬支払請求権を現物出資財産として給付させることによって株式を交付する取引には適用されないとされています。
なお、実務対応報告が対象とする取引は、会社法上、株式の無償発行であるのに対して、いわゆる現物出資構成による取引は株式の有償発行である等、法的な性質が異なる点があり、したがって、いわゆる現物出資構成による取引の会計処理のうち払込資本の認識時点等、法的な性質に起因する会計処理については異なる会計処理になるものと考えられるとされています。
改正会社法の施行日である21年3月1日以後に生じた取引から適用することとし、その適用については、会計方針の変更には該当しないとされています。
改正会社法は昨年度に施行されたものでありますが、この制度の実施には株主総会の決議が必要となるため、当期から影響すると考えられます。
令和2年度税制改正において、従来の連結納税制度が見直され、グループ通算制度に移行する令和2年法律第8号「所得税法等の一部を改正する法律」(以下、令和2年度改正法人税法)が20年3月27日に成立しています。グループ通算制度の適用対象となる企業については、22年4月1日以後に開始する事業年度からグループ通算制度が適用されることとなります。
連結納税制度では、連結納税の範囲に含まれる連結会社群を、法人税法上の一つの納税主体として、法人税の申告納税を行うこととされています。
一方、グループ通算制度では、企業グループ内の適用対象の各法人を納税主体として、各法人が個別に法人税額の計算及び申告を行い、損益通算等の調整を行う制度とされています。
実務対応報告第39号「連結納税制度からグループ通算制度への移行に係る税効果会計の適用に関する取扱い」(以下、実務対応報告39号)では、令和2年度改正法人税法の成立日以後に終了する事業年度の決算(四半期決算を含む。)において、グループ通算制度の適用を前提とした税効果会計における繰延税金資産及び繰延税金負債の額については、連結納税制度を適用する場合の税効果会計の取扱いに関する必要な改廃をASBJが行うまでの間は、グループ通算制度への移行及びグループ通算制度への移行に合わせて単体納税制度の見直しが行われた項目について、企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」44項の定めを適用せず、改正前の税法の規定に基づくことができるとされています。
また、実務対応報告42号について、早期適用しない場合には、22年3月期においても実務対応報告39号を適用することができます。
原則適用及び早期適用の時期については、<図1>のとおりであり、22年3月期の期末から早期適用することが可能です。
連結納税制度とグループ通算制度では、全体を合算した所得を基に納税申告を親法人が行うか、各法人の所得を基にそれらを通算した上で納税申告を各法人が行うか等の申告手続は異なりますが、企業グループの一体性に着目し、完全支配関係にある企業グループ内における損益通算を可能とする基本的な枠組みは同じであるとされています。このため、実務対応報告42号は、連結納税制度とグループ通算制度の相違点に起因する会計処理及び開示を除き、連結納税制度における実務対応報告第5号「連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する当面の取扱い(その1)」及び実務対応報告第7号「連結納税制度を適用する場合の税効果会計に関する当面の取扱い(その2)」の会計処理及び開示に関する取扱いを踏襲するとされています。すなわち、基本的に会計処理及び開示に影響するのは、税務上の連結納税制度からグループ通算制度に変更されたことによる影響であると考えられます。
なお、具体的な会計処理及びグループ通算制度への移行時における税効果会計への影響は、本誌21年12月号「グループ通算制度に関する会計・税務」をご参照ください。
令和4年度の税制改正の大綱が21年12月24日に閣議決定されています。この税制改正の大綱では、積極的な賃上げを促すための措置やオープンイノベーション促進税制の拡充等が織り込まれています。また、グループ通算制度における投資簿価修正についても見直しがなされており、その内容について次に説明します。
グループ通算制度における投資簿価修正について、一部の取引に関しては売却した際に多額の課税がなされると指摘されていた制度の改善が図られています。
連結納税制度では、連結子法人株式について譲渡を行う等の事由が生ずることとなった場合において、その連結子法人の株式につきその連結子法人の連結納税適用期間中の連結個別利益積立金額又は利益積立金額の増加額又は減少額に相当する一定の金額の帳簿価額の修正を行うとされていました。
一方、グループ通算制度における投資簿価修正は、税務上の簿価純資産額過不足額を加算又は減算することとされており、離脱時の株式の帳簿価額は投資簿価修正により税務上の簿価純資産額となります。
ここで、従来の連結納税制度では、買収プレミアム込みで株式を取得している場合には、当該買収プレミアム相当も含めて投資簿価修正後の税務上の簿価が算定されていたのに対し、グループ通算制度において投資簿価修正が算定される税務上の簿価純資産価額には、買収プレミアムは含まれないことになります。このため、このような取引については、譲渡した際に多額の課税がなされる可能性があり、この点が制度上の課題として指摘されていました。
上記のような多額の課税が生じるようなケースに対応するために、令和4年度税制改正の大綱において、次のような見直しが図られています。
通算子法人の離脱時にその通算子法人の株式を有する各通算法人が、離脱時の子法人株式の帳簿価額とされる通算子法人の簿価純資産価額に「資産調整勘定等対応金額(非適格合併における資産調整勘定に類似するもの)」を加算できるとする措置が講じられています。なお、「資産調整勘定等対応金額」とは、その通算子法人株式の通算開始・加入前取得価額(買収対価)を合併対価としてその取得時にその通算子法人を被合併法人とする非適格合併を行うものとした場合に、資産調整勘定又は負債調整勘定として計算される金額に対応する金額とされています。イメージは<図2>をご参照ください。
また、当該措置を適用するための要件や対象法人は<表6>のとおりです。
当該見直しが22年4月1日から適用される場合には、グループ通算制度の適用開始時期と同時であるため、見直し前の制度は実質的に適用されなかったことになり、連結納税制度からグループ通算制度へ移行する場合で、かつ、当該措置の適用対象となる場合には、基本的に連結納税制度との相違はなくなると考えられるため、移行による税効果会計への影響はないものと考えられます。ただし、買収時期が古い場合や段階取得した場合等、資産調整勘定等対応金額の算定が困難な状況も考えられるため、適用要件を満たすかどうかは予め検討しておく必要があると考えられます。
なお、当該見直しに係る税法改正が期末日までに国会で成立しない場合で、実務対応報告第39号「連結納税制度からグループ通算制度への移行に係る税効果会計の適用に関する取扱い」を適用していない場合には、見直し前の制度に基づくことになり、「資産調整勘定等対応金額」だけ、一時差異が増減することになるため、通算子法人株式の売却等の意思決定を行った場合等には、税効果へ影響が生じることが考えられます。
記述情報を中心とした非財務情報の開示に関連し、19年1月31日に企業内容等の開示に関する内閣府令の改正が公布・施行され、有価証券報告書等の記載内容の見直しが、20年3月期の有価証券報告書までに原則適用されています。
記述情報の開示充実に向けた取組みは継続しており、有価証券報告書では記述情報の開示の原則に基づき、「経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」や「事業等のリスク」等においてサステナビリティ情報に関する開示も増加しています。東京証券取引所のコーポレートガバナンス・コードの改訂等も背景として「サステナビリティ情報」の開示の充実が期待されており、また、22年3月期から監査基準委員会報告書720「その他の記載内容に関連する監査人の責任」(以下、監基報720)の改正が適用されることから、その開示の充実がより一層期待されています。
非財務情報の開示の重要性は高まっており、21年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードでは、上場会社は、経営戦略の開示にあたって、自社のサステナビリティについての取組みを適切に開示すべき、また、プライム市場上場会社は、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)又はそれと同等の枠組みに基づく気候変動に関する開示の質と量の充実を進めるべき、と定められています。
この改訂に対応したコーポレートガバナンス報告書の提出が21年12月末日までを期限として求められていましたが、プライム市場のみを対象とする原則については22年4月4日から適用されるため、同日以降に開催される定時株主総会後が提出期限となっています。
さらに、金融庁では21年6月25日に開催された金融審議会において、企業情報の開示の在り方に関する検討について、審議を開始し、主な検討事項の一つとして、サステナビリティに関する開示(気候変動対応、人的資本への投資等)を取り上げています。
また、IFRS財団は、国際的なサステナビリティ開示基準の開発を目的とする「国際サステナビリティ基準審議会(International Sustainability Standard Board:ISSB)」を設置することを21年11月に公表しました。このような状況から、21年12月、公益財団法人財務会計基準機構は、国内のサステナビリティ開示基準の開発等を目的として、「サステナビリティ基準委員会(Sustainability Standard Board of Japan:SSBJ)」を22年7月に設立することを決議しており、今後日本においてもサステナビリティに関する統一的な開示の枠組みを策定する動きが進むことになります。
金融庁は、19年より、投資家と企業との建設的な対話に資する充実した企業情報の開示を促すため、「記述情報の開示の好事例集」を公表しています。20年11月に公表された「記述情報の開示の好事例集2020」(21年3月最終更新)においては、記述情報に関する有価証券報告書等の主要項目に関する開示例に加え、個別事項として、「新型コロナウイルス感染症」及び「ESG」に関する好開示例を紹介しています。
この継続的な取組みの一環として、近年、社会的な関心が高まっている項目である「サステナビリティ情報」に関する開示についても好事例を取りまとめ、21年12月21日に、「記述情報の開示の好事例集2021」(22年2月更新)が公表されています。この好事例集では、「サステナビリティ情報」に関連し、「気候変動関連」及び「経営・人的資本・多様性等」の開示例を、好事例として着目したポイントを示した上で紹介しています。
企業内容等に関する情報の開示について、経営者による財務諸表以外の情報の開示の充実が進んでおり、当該情報に対する監査人の役割の明確化、及び監査報告書における情報提供の充実を図ることの必要性が高まっていることを背景に、21年1月14日に、監基報720の改正が公表されています。
改正後の監基報720では、「その他の記載内容」について、監査人の手続が明確化され(<表7>参照)、また、監査報告書において「その他の記載内容」について記載することとなりました。「その他の記載内容」とは、監査した財務諸表を含む開示書類のうち当該財務諸表と監査報告書を除いた部分の記載内容をいい、通常、財務諸表及びその監査報告書を除く、企業の年次報告書(計算書類等や有価証券報告書等)に含まれる財務情報や非財務情報となります(監基報720第11項(1))。
改正後の監基報720は、22年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度に係る監査から原則適用されます。
対象となる「その他の記載内容」は、有価証券報告書を例とした<表8>のように、多岐の項目にわたります。特に、記述情報を中心とした非財務情報の開示の重要性は高まっており、また、「サステナビリティ情報」に対する社会的な関心の高まりから、22年3月期の有価証券報告書の非財務情報はより充実した開示がされることが想定されます。
今回の監基報720の改正により、監査人においては、例えば、気候変動がもたらす財政状態への影響を含む記述がされる場合、開示される財務諸表又は会計上の見積りの監査の過程で得た知識との間に重要な相違があるかどうかの検討がされることになります。
非財務情報の開示がより充実されるとともに、会計上の見積りとも関連する複雑で高度な情報が開示されることも見込まれるなか、非財務情報の開示を適切に行うためには、事前に監査人との密接な連携を行うことがより重要になると考えられます。
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