情報センサー

収益認識基準 開示上の留意点

2022年1月31日 PDF
カテゴリー 会計情報レポート

情報センサー2022年2月号 会計情報レポート

EY新日本有限責任監査法人 品質管理本部 会計監理部 公認会計士 加藤圭介

グローバル事業会社・国内事業会社(自動車、建設、不動産など)の監査業務に従事する一方で、会計処理・開示の相談を受ける業務や研修講師を含む当法人内外への情報提供などの業務に従事。主な著書(共著)に『何が変わる?収益認識の実務-影響と対応-』『連結手続における未実現利益・取引消去の実務』(共に中央経済社)などがある。当法人 シニアマネージャー。

Ⅰ はじめに

収益認識に関する会計基準(以下、収益認識基準)及び収益認識に関する会計基準の適用指針(以下、収益認識適用指針)が、2021年4月1日以後開始年度から原則適用されています。3月決算の上場会社においては、22年3月期の四半期決算からすでに収益の分解情報といった一部の注記が行われていますが、年度決算において、収益認識基準に基づく全ての開示が行われることになります。現時点では、多くの企業において年度の開示に向けての準備の最終段階と考えられ、本稿では開示における留意点を解説します。文中における意見にわたる部分は、筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。なお、収益認識基準の表示・開示に関して、会計基準の定めについては本誌20年7月号(Vol.156)、実務上の論点については本誌20年8月・9月合併号(Vol.157)で解説していますので、併せて参照ください。

Ⅱ 有価証券報告書における注記の留意点

1. 会計基準、開示規則で求められる注記

有価証券報告書の(連結)財務諸表の重要な会計方針の注記及び収益認識に関する注記では、収益認識基準で要求される項目を記載する必要があります。具体的な注記項目は<表1>のとおりです。

表1 重要な会計方針の注記及び収益認識に関する注記

2. 有価証券報告書レビュー審査結果の活用

21年4月8日に金融庁から「令和2年度の有価証券報告書レビューの審査結果及びそれを踏まえた留意すべき事項」として、IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」に基づく開示の審査結果が公表されました。こちらは、IFRS任意適用会社を対象としていますが、金融庁が「我が国の「収益認識に関する会計基準」の適用準備中の会社にも参考になると考えられる」と示しているとおり、日本基準適用会社が開示を検討する際の参考になると考えられます。後述3.及び4.については審査結果を踏まえた解説を行いますが、審査結果の詳細については金融庁ウェブサイトを参照ください。

3. 注記の要否、重要性の判断などに関する留意点

(1) 重要な会計方針の注記

<表1>の収益認識基準で定められる注記項目のうち、(1)の項目を漏れなく記載する必要があります。

なお、<表1>(1)2について、「履行義務を充足する通常の時点」と「収益を認識する通常の時点」は通常同じですが、出荷基準等に関する代替的な取扱い(収益認識適用指針第98項)を適用した場合などにはそれらが異なることになり、この場合には「収益を認識する通常の時点」を記載する点に留意が必要です(収益認識基準第163項)。

(2) 収益認識に関する注記

① 開示目的に照らした開示の要否や詳細さの検討

収益認識に関する注記には、「顧客との契約から生じる収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報を企業が開示する」という開示目的があります(収益認識基準第80-4項)。<表1>の(2)の記載の有無や詳細さは、開示目的に照らした検討が必要です。重要性がないとして要求される項目を省略する場合には、省略することにより開示目的の達成に必要な情報の理解が困難になっていないかどうか、財務諸表利用者の視点で判断する必要があります。特殊な履行義務ではない、業界慣行に従った処理であるということは、基準で求められる注記を省略する理由としては適切ではないとされています。なお、重要性の判断により注記を省略する場合には、重要性が乏しいことが分かるような説明をすることが有用と考えられます。

② 有報レビューの結果を踏まえた留意点

有報レビューの結果、重要な会計方針として記載した事項を含め以下の指摘がされており、注記の検討にあたり留意すべきと考えられます。

  • 主要な履行義務の内容、充足時期は、企業特有の内容を反映して具体的に説明する(<表1>(1)、(2)②)。
  • 特にサービスの提供や一定の期間にわたり充足する履行義務はさまざまな類型の契約が存在すると考えられるため、詳細に説明する(<表1>(1)、(2)②)。
  • どの履行義務が代理人として行動しているのかを明確に説明する(<表1>(1)、(2)②)。
  • 重要な金融要素や変動対価について重要性がない、該当がないとして記載しない場合にもその旨を簡潔に説明する(<表1>(2)②)。
  • 残存履行義務に配分した取引価格に関して、いつ収益として認識すると見込んでいるかについて、定性的情報を使用した方法で説明する場合でも、財務諸表利用者の将来予測に資する詳細さで情報を提供する(<表1>(2)③)。

4. 開示間の整合性に関する留意点

収益認識に関する注記が開示目的を達成するためには、個々の項目が会計基準に従っているのみならず、関連する項目全体として十分かつ一貫性のある開示が必要です。具体的な留意点は以下のとおりです。

(1) 収益の分解情報とその他の開示との整合性

収益の分解情報は、収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性に影響を及ぼす主要な要因に基づく区分に分解することが求められます(収益認識基準第80-10項)。例えば、事業別かつ履行義務の充足時期別に分解情報を記載した場合には、重要な会計方針においてそれぞれの事業に対応する履行義務の内容及び充足時期の説明を行うなどの整合が図られる必要があります。また、セグメント情報で開示される売上高との関係を理解するための説明の十分性や非財務情報との整合性にも留意が必要です。

(2) 当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報とその他の開示との整合性

注記項目は<表1>(3)のとおりですが、例えば、契約資産及び契約負債に重要性があるとして残高を注記する場合には、「重要な会計方針」や「収益を理解するための基礎となる情報」において契約資産や契約負債が生じる取引内容を記述するなどの整合を図る必要があります。また、「重要な会計方針」や「収益を理解するための基礎となる情報」で主要な履行義務の未充足部分に言及した場合には、残存履行義務に配分した取引価格の注記を行うなどの整合を図ることにも留意が必要です。

(3) 重要な会計方針の注記、収益認識に関する注記と会計上の見積りの開示との整合性

重要な会計方針や収益認識に関する注記において、変動対価や履行義務の充足に係る進捗(ちょく)度の見積りなど会計上の見積りに関連する記載を行う場合には、重要な会計上の見積りに関する注記への記載の要否や記載する場合の内容の整合性に留意が必要です。

Ⅲ 会社法計算書類における注記の留意点

1. 重要な会計方針の注記(会社計算規則第101条)

個別注記表上の「重要な会計方針に係る事項に関する注記」(会社計算規則第101条第2項)では、収益認識基準の重要な会計方針の注記(<表1>参照)と同等の開示が求められます。このため、収益認識基準の定めを参考にして記載することが考えられます。また、連結注記表についても、明文規定はありませんが、重要性が乏しい場合を除き「その他連結計算書類の作成のための重要な事項」として注記を行うことが望ましいと考えられます。

なお、有価証券報告書提出会社以外の会社について有価証券報告書提出会社と異なる取扱いは定められていないため、有価証券報告書提出会社と同様に、収益認識基準を参考にした注記をするものと考えられます。

2. 収益認識に関する注記(会社計算規則第115条の2)

(1) 記載内容

「収益認識に関する注記」として、重要性の乏しいものを除き以下の項目の注記が求められます。ただし、連結注記表を作成する会社の個別注記表においては、①及び③を省略できるとともに、②について連結注記表と同一である場合にはその旨を記載することで足ります(会社計算規則第115条の2)。

① 当該事業年度に認識した収益を、収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性に影響を及ぼす主要な要因に基づいて区分をした場合における当該区分ごとの収益の額その他の事項

② 収益を理解するための基礎となる情報

③ 当該事業年度及び翌事業年度以降の収益の金額を理解するための情報

(2) 有価証券報告書提出会社における留意点

上記(1)の①から③は、有価証券報告書の(連結)財務諸表と同等の記載をすることが原則と考えられます。その一方で、当該注記については実務上の負担等も考慮し、収益認識基準の定めとは異なり概括的に定めることとされていることから、収益認識基準において具体的に定められた事項であっても省略が認められています。

ただし、省略にあたっては、各社の実情を踏まえた合理的な判断が必要です(「『会社計算規則の一部を改正する省令案』に関する意見募集の結果について」第3 3)。

(3) 有価証券報告書提出会社以外の会社における留意点

個別注記表において、上記(1)の①及び③の注記は省略することができます(会社計算規則第115条の2第1項ただし書き)。また、②については、収益認識基準の定めを参考にした記載が原則であるものの、上記(2)のとおり省略が認められていますが、その場合には各社の実情を踏まえた合理的な判断が必要です。

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