改正「時価の算定に関する会計基準の適用指針(投資信託等に関する取扱い)」の解説

改正「時価の算定に関する会計基準の適用指針(投資信託等に関する取扱い)」の解説

2021年10月1日 PDF
カテゴリー 会計情報レポート

情報センサー2021年10月号 会計情報レポート

EY新日本有限責任監査法人 品質管理本部 会計監理部 公認会計士  髙平 圭

品質管理本部 会計監理部において、会計処理および開示制度に関して相談を受ける業務、ならびに当法人内外への情報提供などの業務に従事。2016年から18年の間、金融庁企画市場局企業開示課に勤務し、主に開示制度に関する国内外調査および開示府令改正等の企画業務を担当。

Ⅰ はじめに

本稿では、企業会計基準委員会(以下、ASBJ)から2021年6月17日に公表されました改正企業会計基準適用指針第31号「時価の算定に関する会計基準の適用指針」(以下、21年改正適用指針)について解説します。なお、文中の意見に関する部分については、筆者の私見であることをあらかじめ申し添えます。

Ⅱ 改正の経緯

ASBJは19年7月4日に金融商品の時価に関するガイダンス及び開示に関して、国際的な会計基準との整合性を図る取り組みとして、企業会計基準第30号「時価の算定に関する会計基準」(以下、時価算定会計基準)及び企業会計基準適用指針第31号「時価の算定に関する会計基準の適用指針」(以下、19年適用指針)等を公表しました。19年適用指針においては、投資信託の時価の算定に関する検討には、関係者との協議等に一定の期間が必要と考えられるため、時価算定会計基準公表後概ね1年をかけて検討を行うこととされていました。また、貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資の時価の注記についても、一定の検討を要するため、投資信託に関する取扱いを改正する際に明らかにすることとされていました。上記の経緯を踏まえ、ASBJは審議を行っていましたが、今般、21年改正適用指針が公表されました。

Ⅲ 21年改正適用指針の概要

1. 投資信託財産が金融商品である投資信託

(1)時価の算定に関する取扱い

投資信託財産が金融商品である投資信託(契約型及び会社型の双方の形態を含む。以下同じ)の時価の算定に関する取扱いについて、市場における取引価格が存在する場合には、時価算定会計基準第5項で定める「時価」の定義に照らすと、通常は当該価格が時価になると考えられます。なお、ここでの「市場における取引価格」は金融商品取引所における取引価格を意図しており、仮に相対市場における取引価格が存在する場合でも、「市場における取引価格」には該当しないとされています。

時価算定会計基準第5項

「時価」とは、算定日において市場参加者間で秩序ある取引が行われると想定した場合の、当該取引における資産の売却によって受け取る価格又は負債の移転のために支払う価格をいう。

次に、投資信託財産が金融商品である投資信託には、市場における取引価格が存在しないものも多く存在しますが、「解約又は買戻請求(以下、解約等)に関して市場参加者からリスクの対価を求められるほどの重要な制限」があるかどうかによって異なる取扱いが定められています。ここで、当該重要な制限があるかどうかにおける判断に際しては、仮にその解約等に関する制限により基準価額を調整するかどうかの金額的重要性によって、行うこととなります。この点について、次のような制限のみがある場合には、これに該当しないとの例が示されています(<表1>参照)。

表1 解約等に関する制限の例

解約等に関して市場参加者からリスクの対価を求められるほどの重要な制限がない場合には、基準価額を時価とすることとなります(以下、24-2項取扱い)。なお、時価算定会計基準における時価の定義を満たす、他の算定方法により算定された価格の利用を妨げるものではないとされています。ここで、24-2項取扱いを適用する場合には、当該重要な制限がなく、当該基準価額により解約等ができることをもって、第三者から入手した相場価格が会計基準に従って算定されたものであると判断することができるとされています。

一方、当該重要な制限がある場合には、時価算定会計基準第4項(1)に定められている時価を算定する際に考慮する資産の特性に該当するため、投資信託財産の評価額の合計額を投資信託の総口数で割った一口当たりの価額である基準価額が時価となるわけではなく、基準価額を基礎として時価を算定する場合には何らかの調整が必要になるものと考えられます。しかし、この基準価額に対して調整を行うことを求めた場合には、投資信託が業種を問わず広く保有されており、その影響も広範囲にわたることが予想され、実務的な対応に困難を伴うことが想定されることから、<表2>の一定の要件のいずれかに該当するときは、「基準価額を時価とみなすことができる」との簡便的な取扱いが定められました(以下、24-3項取扱い)。

表2 24-3項取扱いを適用する際の要件

以上を踏まえると、投資信託財産が金融商品である投資信託の時価は<図1>の4パターンに分類されます。

図1 投資信託財産が金融商品である投資信託の時価に関する分類

また、24-3項取扱いを適用する際に、海外の法令に基づいて設定された投資信託について、時価算定会計基準第5項の時価の定義を踏まえると、原則として、時価の算定日において算定される基準価額を使用することになります。しかし、国内で設定された投資信託と異なり、海外で設定された投資信託については情報の入手が困難である可能性を踏まえ、時価の算定日と基準価額の算定日との間の期間が短い(通常は1か月程度と考えられるが、投資信託財産の流動性などの特性も考慮する)場合に限り、基準価額を時価とみなすことができることとされました。

ここで、公開草案に寄せられたコメントでは、投資信託財産が市場価格のない株式等である投資信託について、市場価格のない株式等を直接保有している場合には取得原価で評価される一方、投資信託として間接的に保有している場合に貸借対照表価額が異なることを懸念する意見が聞かれていました。この点について、一般的に、投資信託は投資家から集めた資金の運用を専門家に任せ、運用成績を投資家に分配する金融商品であり、その商品特性を踏まえると、事業投資目的で保有することも多いと考えられる市場価格のない株式等を直接保有している場合と、投資信託財産の価値の増加を目的として投資信託を通じて間接的に保有している場合とでは適用される会計処理も異なるものと考えられるため、投資信託について時価をもって貸借対照表価額とすることが適切であるとされています(21年改正適用指針第49-4項)。

(2)時価のレベルの分類及び開示

投資信託財産が金融商品である投資信託のうち、24-3項取扱い以外の方法により算定した時価については時価算定会計基準に従った取扱いと整理されるため、改正企業会計基準適用指針第19号「金融商品の時価等の開示に関する適用指針」(以下、時価開示適用指針)第5-2項「金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項」の注記が必要となります。

一方、24-3項取扱いを適用した投資信託については、時価開示適用指針第4項「金融商品の時価等に関する事項」を他の金融商品と合わせて注記した上で、当該投資信託の貸借対照表計上額の合計額が重要性に乏しい場合を除き、24-3項取扱いを適用した投資信託が含まれている旨を併せて注記します。そして、24-3項取扱いを適用した投資信託は会計基準の本則に従って基準価額に対して調整を行っていれば利用したであろうインプットのレベルは把握されないこととなり、基準価額のインプットのレベルのみによって時価のレベルを決定することは適切ではないことから、時価開示適用指針第5-2項に定める事項は注記しないこととされました。しかし、補完的な情報として、他の金融商品における時価開示適用指針第5-2項(1)の注記に併せて、<表3>の内容を注記することとなります。なお、当該注記を連結財務諸表において注記している場合には、個別財務諸表において記載することを要しないとされています。

表3 24-3項取扱いを適用した場合の注記事項

2. 投資信託財産が不動産である投資信託

(1)時価の算定に関する取扱い

投資信託財産が不動産である投資信託(契約型及び会社型の双方の形態を含む。以下同じ)について、現行の実務上、時価をもって貸借対照表価額としているケースや、取得原価をもって貸借対照表価額としているケースが識別されています。しかし、投資信託財産が不動産である投資信託であったとしても、投資信託財産が金融商品である投資信託と同様に通常は金融投資目的で保有される金融商品であると考えられることから、一律に時価をもって貸借対照表価額とすることとされました。従って、市場における取引価格が存在する場合には、当該価格が時価になると考えられます。

次に、投資信託財産が不動産である投資信託についても、市場における取引価格が存在しない場合には、投資信託財産が金融商品である投資信託と同様に、解約等に関して市場参加者からリスクの対価を求められるほどの重要な制限があるかどうかにより、異なる取扱いが定められています。ここで、当該重要な制限があるかどうかの判断については、投資信託財産が金融商品である投資信託の取扱いと同様です。

また、当該重要な制限がない場合には、基準価額を時価とすることとされていますが、時価算定会計基準における時価の定義を満たす、他の算定方法により算定された価格の利用を妨げるものではないとされています。

一方、当該重要な制限がある場合には、投資信託財産が金融商品である投資信託の取扱いと同様に「基準価額を時価とみなすことができる」とされています(以下、24-9項取扱い)。なお、投資信託財産である不動産については、その時価の算定が時価算定会計基準の対象に含まれないことから、当該投資信託を構成する個々の投資信託財産の評価について時価算定会計基準と整合する評価基準が用いられている等の要件(<表2>参照)は設けられていません。また、投資信託財産が不動産である投資信託は、基準価額の算定頻度が低く、時価の算定日における基準価額がない場合も考えられることから、時価の算定日における基準価額がない場合は、入手し得る直近の基準価額を使用することとされています。

以上を踏まえると、投資信託財産が不動産である投資信託の時価は<図2>の4パターンに分類されます。

図2 投資信託財産が不動産である投資信託の時価に関する分類

(2)時価のレベルの分類及び開示

投資信託財産が不動産である投資信託のうち、24-9項取扱い以外の方法により算定した時価については時価算定会計基準に従った取扱いと整理されるため、時価開示適用指針第5-2項「金融商品の時価のレベルごとの内訳等に関する事項」の注記が必要となります。

一方、24-9項取扱いを適用した投資信託については、時価開示適用指針第4項「金融商品の時価等に関する事項」を他の金融商品と合わせて注記したうえで、当該投資信託の貸借対照表計上額の合計額が重要性に乏しい場合を除き、24-9項取扱いを適用した投資信託が含まれている旨を併せて注記します。また、時価開示適用指針第5-2項「時価のレベルごとの内訳等に関する事項」を注記しないこととし、他の金融商品における時価開示適用指針第5-2項(1)の注記に併せて<表4>の内容を注記することとされました。この点、投資信託財産である不動産の時価の算定が時価算定会計基準の対象に含まれないことから、解約等の制限の内容は会計基準との差異を理解するための有用な情報にはならないと考えられることから、当該注記は求めないこととされました。また、連結財務諸表において注記している場合には、個別財務諸表において記載することを要しないとされています。

表4 24-9項取扱いを適用した場合の注記事項

3. 投資信託財産が金融商品である投資信託及び投資信託財産が不動産である投資信託の共通の取扱い

投資信託財産に金融商品と不動産の両方を含む場合も想定されます。この場合、投資信託財産が金融商品である投資信託又は投資信託財産が不動産である投資信託のどちらの取扱いを適用するかは、投資信託財産に含まれる主要な資産等によって判断することになります。また、投資信託財産に含まれる主要な資産が、金融商品及び不動産以外である場合も想定されます。この場合は、当該資産が時価算定会計基準の対象に含まれるか否かという点等を踏まえ、企業が実態に合わせてどちらの取扱いを適用するか判断することになると考えられます。

なお、投資信託財産が不動産の信託に係る受益権である場合は、信託財産たる不動産そのものが投資信託財産であるのと同様に取り扱うとされています。

4. 貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資の時価の注記

組合等への出資について、従来から時価開示適用指針第4項(1)に定める時価の注記が求められていますが、時価を把握することが極めて困難と認められることを理由に時価の注記を行っていないケースも見られていました。今回の改正では、組合等への出資に関する会計処理について今後の検討課題であることを認識したうえで、組合等への出資の時価の注記についてはその会計処理と併せて注記を検討する必要があると考えられることから、21年改正適用指針では、時価の注記は要しないこととされました(以下、24-16項取扱い)。その場合、<表5>の内容を注記します。

表5 組合等への出資の時価の注記事項

Ⅳ 適用時期等

1. 適用時期

21年改正適用指針は、22年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用されます。ただし、21年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から、また、22年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度における年度末に係る連結財務諸表及び財務諸表から適用することができます。

2. 経過措置

21年改正適用指針の初年度においては、21年改正適用指針が定める新たな会計方針を将来にわたって適用し、その変更の内容について注記することとされています。その他の経過措置は<表6>のとおりです。

表6 経過措置
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