のれんの会計処理及び表示に関するテーマ提言のポイント

EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 久保 慎悟

1. はじめに

2026年7月27日に開催された第57回の企業会計基準諮問会議※1(以下「基準諮問会議」という。)において、公益財団法人財務会計基準機構(以下「FASF」という。)の事務局より示されたテーマである、のれんに関する会計処理及び表示の改善について、コンセンサスが得られたと判断され、企業会計基準委員会(以下「ASBJ」という。)に対して提言を行うこととされました。

ASBJに対して行われるテーマ提言の内容は、以下のとおりです。なお、当該テーマ提言は、ただちに基準開発することを提言するものではなく、実務上の課題への対応が図られるか否か、また、会計基準の改善をもたらすか否かについて、検討することを提言しており、基準開発等を進めるか否かはASBJの判断に委ねられています。

  • のれんを一定の期間にわたって償却するという基本的な会計処理の枠組みは変更しない。このため、非償却の導入のテーマをASBJに提言せず、償却と非償却の選択の導入のテーマも提言しない
  • 以下の事項をASBJに提言する
    • これまでの取組みで聞かれた実務上の課題について、会計基準における償却期間及び償却方法の考え方を明らかにすることにより対応が図られるかどうかを検討する。実務上の課題への対応が図られると判断される場合には、当該考え方を示す取組みを進める
    • 償却費を営業費用に計上する会計処理の下で、のれん償却前営業利益に関する情報提供のための見直しが会計基準の改善をもたらすかどうかについて検討する。会計基準の改善をもたらすと判断される場合には、会計基準の開発を行う

※1 基準諮問会議は、企業会計基準委員会における審議テーマ、優先順位等、委員会の審議・運営に関する事項について審議し、その審議状況等について公益財団法人財務会計基準機構の理事会に報告します。また、基準諮問会議は、理事会に報告するもののうち、重要性又は緊急性の高いものについてASBJに提言することになっています。

2. テーマ提言に至るまでの経緯

(1) 経済同友会等からのテーマ提案

2025年5月30日に、経済同友会はスタートアップ有志及び企業経営者有志による連名で、「のれんの非償却の導入及びのれん償却費計上区分の変更」に関するテーマ受付表を提出しました。これを受けて、2025年7月11日に開催された第54回の基準諮問会議では、新規テーマとして提案された「のれんの非償却の導入及びのれん償却費計上区分の変更」について、会計基準として改善が見込まれるかどうか、まずスタートアップの関係者の意見聴取がASBJに対して依頼されました。なお、この依頼は、テーマ提言に関する判断や評価をASBJに依頼するものではなく、当該判断や評価は基準諮問会議において行うことが付言されていました。

(2) ASBJにおける公聴会

ASBJでは、基準諮問会議の依頼に基づき、当該テーマ提案により会計基準として改善が見込まれるかどうかについて、関係者からの意見聴取を実施しました。当該意見聴取は、ASBJにおける通常の審議と異なり、ASBJ及びASBJ委員が提案されたテーマに関して判断や評価を行うものではなく、関係者からの意見聴取の結果を基準諮問会議に報告することを目的とし、公聴会という形式により実施されました。

(3) FASFによる情報要請文書の公表

ASBJによる複数回の公聴会に加え、公表情報からの情報収集等も踏まえると、テーマ提案に関する判断を行うために必要な情報は相当程度蓄積されてきていると考えられるとされつつも、これまでの公聴会での意見聴取では聞かれなかった意見を有している利害関係者が存在する可能性もあり、また、幅広い利害関係者が関心を寄せていることを踏まえ、第55回(2025年11月17日)及び第56回(2026年3月13日)の基準諮問会議での審議に基づき、慎重を期してプロセスを進めるとされました。このため、2026年4月1日に、FASFは、「のれんの非償却の導入及びのれん償却費計上区分の変更」に関する情報要請文書を公表し、これまでに収集した情報の整理において記載されていない追加的な理由や観点がないか、広く利害関係者に対して情報要請を行いました。なお、当該情報要請は、のれんの非償却の導入等の賛否そのものに関するコメントを要請するものではないとされていました。

テーマ提言の審議に至るまでの経緯については企業会計ナビ「「のれんの非償却の導入及びのれん償却費計上区分の変更」に関する情報要請のポイント」も参照してください。

3. テーマ提言の審議

第57回(2026年7月27日)の基準諮問会議において、上記の公聴会での意見聴取、情報要請に対して寄せられたコメント等をもとに、のれんの非償却の導入とのれん償却費計上区分について、会計基準の改善が見込まれるかどうかの分析が共有され、審議が行われました。

(1) 会計基準の改善が見込まれるかどうかの分析(のれんの非償却の導入に関する検討)

① 意見聴取での見解の整理

まず、これまでの意見聴取での見解について、いわゆる概念フレームワーク※2における質的特性の観点と国際的な整合性の観点に基づく整理がなされました。

観点見解の整理
概念フレームワークにおける質的特性
  • のれんの非償却よりものれんの償却の方が表現の忠実性やコスト・ベネフィットの観点で有用な財務情報の提供に資すると考えられる
  • ただし、償却については、償却期間の見積りや償却パターンの決め方に一定の課題が指摘されている
  • 日本基準内での非償却と償却の選択制については、比較可能性の観点から懸念が多く聞かれており、採用は難しいと考えられる
国際的な整合性
  • 国際的な整合性の観点からは、のれんの非償却の導入は海外投資家が分析している財務諸表における会計処理と整合し、投資家とのコミュニケーションを円滑にすることに役立つと考えられる
  • ただし、国際的な整合性の確保を重視するのであれば、のれん及び関連する周辺領域だけ対応しても不十分である可能性があると考えられる
  • 非償却の導入は、償却への復帰を困難にする不可逆な改正であるとの意見が聞かれている。国際的な会計基準の開発において償却の再導入が検討された際も、積み上がったのれん残高への対処の難しさが1つの課題とされた経緯がある

② 対応案

次に、国際的な整合性の観点から仮に非償却を導入する場合の対応と仮に償却を維持する場合の対応が示されました。なお、日本基準におけるのれんの非償却と償却の選択制については、これ以上議論を行わないこととされました。

ⅰ. 国際的な整合性の観点から仮に非償却を導入する場合の対応
国際的な整合性を図ることを重視して非償却を導入する場合、「開発する会計基準の範囲」と「会計基準の開発に要する期間」の2つの観点について検討することが必要と考えられました。

観点対応案
開発する会計基準の範囲
  • 非償却を導入する場合には、のれんの会計処理を非償却に変更するだけでなく、関連する領域の会計基準についても、国際的に整合性のあるものとする必要があるとの意見が聞かれている。具体的には以下の会計基準をあわせて開発又は改正することが考えられる
    • 企業会計基準第21号「企業結合に関する会計基準」(以下「企業結合会計基準」という。)の改正
    • 無形資産に関する会計基準の開発
    • 「固定資産の減損に係る会計基準」の改正
会計基準の開発に要する期間
  • 非償却の導入に伴う会計基準の開発に要する期間については、これまでの重要な会計基準等(収益認識、リースなど)の開発のプロジェクトと同様に大幅な見直しを伴うものであるため、相応の開発期間がかかると考えられる
  • 特に、無形資産に関する会計基準※3については、現時点では日本基準において包括的な会計基準が存在していないため、開発に相当の時間を要すると考えられる
  • これまでの主要なプロジェクトの開発期間を参考とすると、会計基準の公表までに少なくとも3年を要すると考えられる。さらに、基準を公表した後、周知や適用のための準備にも相応の期間を要すると考えられる

非償却の導入を進めることについては、日本基準の枠組みを維持したまま国際的な整合性を高められる点が利点と考えられますが、その実現にあたっては、無形資産や減損会計を含む広範な基準のセットでの見直しが不可欠となると考えられます。この場合、過去の基準開発の事例に照らせば、基準公表までに少なくとも3年の期間を要するほか、無形資産については国際的な会計基準の開発の状況に左右される不確実性も抱えているとされており、のれんの非償却という1ピースを埋めるために、大掛かりな改正の工数を必要とすると考えられます。

また、IFRS会計基準を任意適用する場合ほどではないにしても、改正された基準を導入するためのコストが発生し、また、周辺領域の会計基準の改正を行った場合には、議論の発端となった企業結合を行う企業だけではなく、企業結合を行わない企業についても広く影響が及ぶことになると指摘されました。

以上より、非償却の導入については、早期で円滑な対応は難しい状況にあるとされました。

ⅱ. 仮に償却を維持する場合の対応
国際的な整合性を重視しての非償却の導入については、早期で円滑な対応は難しい状況にあると考えられる一方で、いわゆる概念フレームワークにおける質的特性の観点から現行の償却を変更するほどの十分な論拠を見出せていない点を重視すると、償却を維持することが有力な選択肢になるとされました。
ただし、償却については、償却期間や償却パターンの決定について一定の課題が指摘されているため、仮に償却を維持するとしても、償却を定めている企業結合会計基準第32項の適用に資するように、償却期間や償却方法の考え方を明らかにしていく方向性が示されました。

償却の定めの要素対応案
償却期間
  • 現行の実務において投資回収期間に基づいて償却期間を決定する実務があり、当該実務においては有望な案件ほど償却期間が短くなるという意見が聞かれていることから、この点への対応を図ることが考えられる
  • 償却期間は取得企業と監査法人との協議で決まるという側面があり買収価格決定時においては償却年数が確定しないという意見が聞かれており、事前の予見可能性を高める観点及び償却期間の決定に関するコストの観点から、デフォルトの償却期間 を設定しつつ、当該期間が実態を反映しない場合には当該期間以外の期間を決定できるようにすることを検討する余地もあると考えられる
償却方法
  • 企業結合日の初日から定額法で償却するのは必ずしも実態に合わないとの意見が聞かれているため、企業結合日の初日から定額法で償却する方法以外の合理的な方法 について検討する余地があると考えられる

企業結合会計基準の償却処理を定めた部分について、償却期間や償却方法に関するガイダンスの開発や開示の見直しを行うことは、現行基準の延長線上での対応であるが、一定のデュー・プロセスを経る必要があることを踏まえると、基準公表までに概ね1年から2年程度の期間を要すると考えられます。

(2) 会計基準の改善が見込まれるかどうかの分析(のれん償却費計上区分に関する検討)

これまでの意見聴取者からの回答を踏まえた分析として以下が示されました。

(i)のれん償却費を営業外費用又は特別損失として計上することについては、特段の意見は示されていない。総じて、償却費を営業外費用又は特別損失として計上することには意思決定や会計区分の明確性、日本基準上の解釈に関する懸念が残ることが考えられる

(ii)意思決定との関連性では、のれん償却前営業利益の欄を設けることで投資家への情報提供の工夫となり、のれん償却費を営業外費用又は特別損失として計上する必要はなくなると考えられる。基準諮問会議でも一定の支持が聞かれていることから、のれん償却前営業利益に関する情報提供を検討することが考えられる。ただし、本案には表示を強制することへの懸念も聞かれていることから、当該情報提供が会計基準の改善をもたらすかどうかについてASBJの検討に委ねることが考えられる

(iii)経営者が定義した業績指標(MPM)については、意見聴取で支持する少数の意見が聞かれたが、現時点では基準諮問会議において特段の支持が聞かれていない

なお、上記(ii)ののれん償却前営業利益に関連して、決算短信等でのれん償却前営業利益、のれん償却前経常利益、のれん償却前純利益の制度開示を求める提案が聞かれており、また、投資判断に直結する利益に関連する指標(EPS、PER、ROEなど)についても、のれん償却前の利益をベースとした指標を利用できる環境を整えるべきであるとの意見が聞かれました。これに対して、のれん償却費は営業費用であることから、のれん償却前営業利益については、営業利益を計算する過程における小計として検討する余地がある一方、営業利益の下でのれん償却前経常利益及びのれん償却前純利益を小計として取り扱うことは困難であるとの考え方が示されています。このため、EPSなど利益に関連する指標について、のれん償却前純利益をベースとすることもできないと考えられます。

※2 明確に言及されてはいませんが、ASBJが2006年12月に公表した討議資料「財務会計の概念フレームワーク」(以下「討議資料」という。)を意味していると思われます。当該討議資料は、会計基準ではないものの、将来の基準開発に指針を与える役割を有し、既存の基礎的な前提や概念を要約するだけでなく、吟味と再検討を加えた結果が反映されています。また、公表当時における財務報告を取り巻く制約要因(市場慣行、投資家の情報分析能力、法の体系やそれを支える基本的な考え方及び基準設定の経済的影響に係る社会的な価値判断など)も反映されています。ただし、討議資料は、個別具体的な会計基準の新設・改廃をただちに提案するものではなく、あくまでも基本的な指針を提示することが役割であるとされています(討議資料 前文)。

※3 無形資産に関する会計基準についてIFRS会計基準をベースとして開発するとした場合、現行のIAS第38号「無形資産」は見直しが進められている状況にあるため、基準改正によっては将来的に再度見直すことが必要となる可能性が考えられます。

※4 IFRS会計基準の中小企業向け会計基準において、10年を超えない期間を償却期間とする取扱いがあります。また、米国会計基準における非公開会社向けの取扱いでも10年をデフォルトとしつつ、事業の性質などから10年より短い期間が適切であると判断できる場合には10年未満とすることが認められています。例えば、米国での議論を参考にして、企業結合の効果を生かすための準備段階と実際に効果を発現させていく段階とで2つのステージがあることを想定し、それぞれのステージをより忠実に反映するように会計処理する方法が考えられます。

4. テーマ提言の内容

上記の審議を踏まえて、まず、今後、議論を行わないものは以下のとおりとされました。

  • のれんの非償却と償却の選択制の案
  • 償却を維持する場合に、のれん償却費を営業外費用又は特別損失として計上する区分の変更の案

そして、国際的な整合性の観点でのれんの非償却の導入を図る案も検討されましたが、以下に示す内容等から、現時点では、現行の会計基準の枠組みを大きく変えずに償却を維持することが妥当と考えられるとされました。

  • のれんの非償却は国際的な整合性の観点で優位性があるものの、現時点ではいわゆる概念フレームワークにおける質的特性の観点で現行ののれんの償却モデルを上回る有用性があるとはいえないと考えられること
  • 意見聴取においても、当該質的特性の観点で現行の会計基準の重大な欠陥は指摘されていないこと
  • 日本基準を改正して導入する場合、例えば、少なくとも3年間の開発期間を要することや開発内容や見込まれる開発期間がIASBの基準開発の動向に左右される不確実性を抱えていること
  • 仮に周辺領域の会計基準も含めて改正が行われた場合、議論の発端となった企業結合を行う企業だけではなく、企業結合を行わない企業についても広く影響を受けることとなると考えられるが、これまでに収集された情報の範囲では、現時点でそうした変更を受け入れる幅広い関係者の理解には至っていないと考えられること
  • 国際的な会計基準においては、償却の再導入は見送られており、これは、償却モデルと非償却モデルの優劣を比較した結果ではなく、双方に論拠がある中で現行のモデルを変更する説得力のある論拠がなかったためとされている。このような状況は償却モデルを基礎とする日本基準においても同様であり、現時点で日本基準の現行モデルを変更する説得力のある論拠は生じていないと考えられること

ただし、償却を維持するとしても、意見聴取等を通じて指摘されたような改善の余地や実務上の課題があるとされました。このため、償却処理を定めている企業結合会計基準第32項の定めを前提として、のれんの償却期間や償却方法の考え方を明らかにすることにより実務上の課題への対応が図られるかどうかの検討をASBJに提言していくこととされました。

また、のれん償却前営業利益の情報提供については、のれん償却の影響の明瞭性を高めて比較可能性を向上させる意義があると考えられるものの、賛否の両論が聞かれていることを踏まえて、当該情報提供が会計基準の改善をもたらすかどうかの検討をASBJに提言していくこととされました。

このような検討の結果、第57回(2026年7月27日)の基準諮問会議では、以下に示す、のれんに関する会計処理及び表示の改善について、ASBJに対してテーマ提言を行うこととされました。

  • のれんを一定の期間にわたって償却を行う基本的な会計処理の枠組みは変更しない。このため、非償却の導入のテーマをASBJに提言せず、償却と非償却の選択の導入のテーマも提言しない
  • 以下の事項をASBJに提言する
    • これまでの取組みで聞かれた実務上の課題について、会計基準における償却期間及び償却方法の考え方を明らかにすることにより対応が図られるかどうかを検討する。実務上の課題への対応が図られると判断される場合には、当該考え方を示す取組みを進める
    • 償却費を営業費用に計上する会計処理の下で、のれん償却前営業利益に関する情報提供のための見直しが会計基準の改善をもたらすかどうかについて検討する。会計基準の改善をもたらすと判断される場合には、会計基準の開発を行う

なお、本稿は基準諮問会議における議論の概要を記述したものであり、詳細については本文をご参照ください。
基準諮問会議の議事概要については、FASFウェブサイトにおいて公表される資料をご確認ください。

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