持分法 第4回:持分法適用会社の持分変動

EY新日本有限責任監査法人 公認会計士 久保 慎悟

1. 持分法適用会社の持分変動総論

投資会社における持分法適用会社に対する持分は、例えば、以下の場合に変動します。

  • 投資会社による持分法適用会社株式の追加取得又は売却
  • 持分法適用会社による時価発行増資等
  • 持分法適用会社による自己株式の取得

2. 追加取得

投資会社は、持分法適用会社の株式を追加取得した場合において、引き続き持分法の適用範囲に含まれる場合には、持分法適用会社の資本(評価差額を含む。)のうち追加取得した株式に対応する持分と追加投資額との間に生じた差額を、のれん又は負ののれんとして処理します。当該追加取得によるのれんの償却期間については、以下の通りに定められています(持分法実務指針第16項、16-2項)。

償却期間の決定に影響する要因

償却期間

既取得分の取得時と同様の場合

追加取得分の償却期間は、既取得分の残存償却期間ではなく、既取得分の取得時に決定した償却期間と同一の期間としなければならない。また、既取得分の残存償却期間を追加取得分の償却期間に修正してはならない。

既取得分の取得時と大きな状況の変化があった場合

追加取得分の償却期間を改めて見積る。

なお、追加取得分について既取得分よりも短い償却期間が見積られた場合において、既取得分の残存償却期間が追加取得分の償却期間を超えるときは、追加取得分の償却期間を既取得分の残存償却期間として償却を行う。 

なお、追加取得の処理には、連結との相違があります。当該相違は以下の通りです(持分法実務指針第2-2項(4))。

相違項目

持分法による処理

連結

追加取得

持分法適用会社株式の追加取得の際に生じる持分法適用会社の資本のうち追加取得した株式に対応する持分と追加投資額との差額は、のれん又は負ののれんとして処理する。

子会社株式の追加取得の際に生じる追加取得持分と追加取得額との差額は資本剰余金とする(連結会計基準第28項)。

また、持分法適用会社の株式の追加取得により当該持分法適用会社の支配を獲得した場合には、段階取得として処理します。具体的には、支配獲得時の時価により被取得企業(支配獲得前は持分法適用会社)の取得原価を算定することになるため、支配獲得前から保有していた株式は支配獲得時の時価を付し、当該時価と持分法による評価額との差額を段階取得に係る損益として処理することになります(資本連結実務指針第8項、企業結合会計基準第25項(2))。

【設例①】

P社は、X1年1月1日に、A社株式の30%を現金2,400で取得し、持分法適用関連会社とした。X1年1月1日のA社の貸借対照表は以下の通りである。なお、P社連結財務諸表作成上、のれんは償却期間5年の定額法により償却し、税効果会計は無視する。

<A社個別貸借対照表(※参考)>

<A社個別貸借対照表(※参考)>
土地の時価は700である。諸資産(土地を除く)及び諸負債の時価は帳簿価額と一致している。
※A社は、X1年1月1日に個別財務諸表を作成する訳ではないが、理解のために示す。

X1年12月31日に、P社は、A社株式の10%を現金1,500で取得した。X1年度のA社の個別財務諸表は以下の通りである。なお、P社連結財務諸表作成上、追加取得分ののれんは償却期間5年の定額法により償却する。

<A社個別財務諸表>

土地の時価は800である。諸資産(土地を除く)及び諸負債の時価は帳簿価額と一致している。

<P社の個別財務諸表上の処理>


<P社の連結財務諸表上の処理>

投資に含まれるのれん300=投資額2,400-2,100 (*1)

(*1) X1年1月1日の被投資会社資本のP社持分額2,100=(6,500+500 (*2) )×取得比率30%
(*2) X1年1月1日の土地評価差額500=時価700-帳簿価額200
(*3) 600=A社当期純利益2,000×持分比率30%
(*4) 60=のれん300÷償却年数5年
投資に含まれるのれん830=既存取得分240 (*5)+追加取得分590 (*6)

(*5) 既存取得分に係るのれん240=投資時300-償却累計額60
(*6) 追加取得分に係るのれん590=投資額1,500-910 (*7)
(*7) X1年12月31日の被投資会社資本のP社追加取得持分額910=(8,500+600 (*8) )×追加取得比率10%
(*8) X1年12月31日の土地評価差額600=時価800-帳簿価額200

<P社連結財務諸表>

なお、X2年度におけるのれん償却相当額は、追加取得分に係るのれんの償却期間も5年であるため、178(当初取得分60 (*4) +追加取得分118 (*9))となる。
(*9) 追加取得のれんの償却相当額118=追加取得のれん590 (*6) ÷償却期間5年


3. 売却

投資会社は、持分法適用会社の株式を売却した場合において、引き続き持分法の適用範囲に含まれる場合(一部売却の場合)には、持分法適用会社の資本のうち売却した株式に対応する持分の減少額と投資の減少額との間に生じた差額を、持分法適用会社株式の売却損益の修正として処理します。また、売却に伴うのれんの未償却額のうち売却した株式に対応する部分についても、当該持分の減少額に含めます。

ただし、当該差額のうち、持分法適用会社が計上しているその他の包括利益累計額に係る部分については、売却損益の修正に含めません(持分法実務指針第17項)。

なお、一部売却の処理には、連結との相違があります。当該相違は以下の通りです(持分法実務指針第2-2項(4))。

相違項目

持分法による処理

連結

一部売却

持分法適用会社株式の一部売却の際に生じる持分法適用会社の資本のうち売却した株式に対応する持分の減少額と投資の減少額との差額は、持分法適用会社株式の売却損益の修正として処理する。

子会社株式の一部売却(支配が継続する場合に限る。)の際に生じる売却持分と売却価額との差額は資本剰余金とする(連結会計基準第29項)。


【設例②】

P社は、X1年1月1日に、A社株式の30%を現金2,400で取得し、持分法適用関連会社とした。X1年1月1日のA社の貸借対照表は以下の通りである。なお、P社連結財務諸表作成上、のれんは償却期間5年の定額法により償却し、税効果会計は無視する。

<A社個別貸借対照表(※参考)>

※A社は、X1年1月1日に個別財務諸表を作成する訳ではないが、理解のために示す。

X1年12月31日に、P社は、A社株式の10%を現金1,250で売却した。X1年度のA社の個別損益計算書は以下の通りである。

<A社個別損益計算書>

<A社個別損益計算書>

<P社の個別財務諸表上の処理>

<A社個別損益計算書>
(*1) A社株式の売却簿価800=取得原価2,400×(売却持分10%÷保有持分30%)

<P社の連結財務諸表上の処理>

<A社個別損益計算書>
投資に含まれるのれん:300=投資額2,400-2,100 (*2)
(*2) X1年1月1日の被投資会社資本のP社持分額2,100=(6,500+500 (*3) )×取得比率30%
(*3) X1年1月1日の土地評価差額500=時価700-帳簿価額200
<A社個別損益計算書>
(*4) 600=A社当期純利益2,000×持分比率30%
<A社個別損益計算書>
(*5) 60=のれん300÷償却年数5年
<A社個別損益計算書>
(*6) 売却損益の調整額180=980 (*7) -投資の減少額800 (*1)
(*7) 売却株式に係る持分の減少額980=2,940 (*8) ×(売却持分10%÷保有持分30%)
(*8) 売却直前の持分2,940=取得原価2,400+持分法投資損益540(600 (*4) -60 (*5) )

<P社連結財務諸表>

<A社個別損益計算書>
なお、X2年度におけるのれん償却相当額は、40 (*9) となる。
(*9) 残存のれんの償却相当額40=残存のれん160 (*10) ÷残存償却年数4年
(*10) 残存のれん160=売却直前のれん240 (*11) -一部売却による取崩額80 (*12)
(*11) 売却直前のれん240=取得時のれん300-X1年度償却額60 (*5)
(*12) 取崩額80=売却直前のれん240 (*11) ×(売却持分10%÷保有持分30%)

また、関連会社株式の売却等により当該会社が関連会社に該当しなくなった場合には、残存する当該会社の株式は、個別貸借対照表上の帳簿価額をもって評価します(持分法実務指針第19項)。


【設例③】

P社は、X1年1月1日に、A社株式の30%を現金2,400で取得し、持分法適用関連会社とした。X1年1月1日のA社の貸借対照表は以下の通りである。なお、P社連結財務諸表作成上、のれんは償却期間5年の定額法により償却し、税効果会計は無視する。

<A社個別貸借対照表(※参考)>

※A社は、X1年1月1日に個別財務諸表を作成する訳ではないが、理解のために示す。

X1年12月31日に、P社は、A社株式の20%を現金2,500で売却した。X1年度のA社の個別損益計算書は以下の通りである。

<A社個別損益計算書>

<P社の個別財務諸表上の処理>

(*1) A社株式の売却簿価1,600=取得原価2,400×(売却持分20%÷保有持分30%)

<P社の連結財務諸表上の処理>

投資に含まれるのれん:300=投資額2,400-2,100 (*2)
(*2) X1年1月1日の被投資会社資本のP社持分額2,100=(6,500+500 (*3) )×取得比率30%
(*3) X1年1月1日の土地評価差額500=時価700-帳簿価額200
(*4) 600=A社当期純利益2,000×持分比率30%
(*5) 60=のれん300÷償却年数5年
(*6) 売却損益の調整額360=1,960 (*7) -投資の減少額1,600 (*1)
(*7) 売却株式に係る持分の減少額1,960=2,940 (*8) ×(売却持分20%÷保有持分30%)
(*8) 売却直前の持分2,940=取得原価2,400+持分法投資損益540(600 (*4) -60 (*5) )
(*9) 剰余金減少高180=980 (*10) -A社株式の個別上の帳簿価額800 (*11)
(*10) 売却後の持分980=2,940 (*8) ×(残存持分10%÷保有持分30%)
(*11) A社株式の個別上の帳簿価額800=取得原価2,400-投資の減少額1,600 (*1)

<P社連結財務諸表>


4. 時価発行増資等及び自己株式の取得又は処分

持分法適用会社の時価発行増資等に伴い、投資会社の払込額と投資会社の持分の増減額との間に差額が生じた場合、投資会社は、投資会社の持分比率が増加したときには追加取得に準じて処理し、持分比率が減少したときには一部売却に準じて処理します。

投資会社は、持分比率が減少した場合には、当該差額(その他の包括利益累計額に係る部分を除く。)を持分変動損益等その内容を示す適当な科目をもって特別利益又は特別損失の区分に計上します。ただし、利害関係者の判断を著しく誤らせるおそれがあると認められる場合には、当該持分変動損益を利益剰余金に直接加減することができます(持分法実務指針第18項)。

持分法適用会社が外部を相手として自己株式を取得又は処分した場合には、それぞれ投資会社による持分法適用会社の株式の追加取得及び一部売却に準じて処理することになります(持分法実務指針第18-2項、企業会計基準適用指針第2号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」第21項)。


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  • 持分法とは 連結決算のルールと実務
    www.youtube.com/watch?v=wYcaPoHcDDA
  • 持分法の基本的な会計処理 連結決算のルールと実務
    www.youtube.com/watch?v=Jm1hJB-2eWc

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