OECDの2023年相互協議手続き統計、米国のプログラムは引き続き堅調を示す

  • 経済協力開発機構(OECD)が公表した2023年の相互協議手続き(MAP)に関する統計によると、米国は移転価格事案の終了に平均約28カ月、その他の事案の終了に約25カ月を要している。
  • 世界全体では、協議継続中の事案数が初めて減少し、3.8%の減少を記録した(新規の移転価格事案では16%の減少)。米国のMAP事案数は比較的安定していた。


2024年11月15日、OECDは、MAPに関する統計を公表しました。それによると、2023年における米国のMAPプログラムにおける協議継続中の事案数は、移転価格事案についてはわずかに減少しましたが、移転価格以外の事案については増加しました。米国のMAPプログラムでは、(2016年1月1日以降に開始された)230件の事案が終了し、247件の事案が開始されました1

2023年の統計は、OECDの第6回「税の確実性の日」で公表されました2。OECDは初めてAPAの統計も公表しました3。また、同イベントで、2023年のMAPおよびAPAアワードが発表されました。

2023年のMAP統計には、米国を含む、税源浸食と利益移転(BEPS)に関するOECD/G20包摂的枠組みの140の参加国・地域からの情報が含まれており、2023年のデータでは、世界中のほぼすべてのMAP事案が取り扱われています。2023年の移転価格事案と「その他」事案(源泉徴収、居住者、恒久的施設、特典制限など)については、以下のデータポイントを含む統計データが提供されています。

  • MAPの年初繰越事案数と年末繰越事案数
  • 開始された新しいMAP事案数、完了したMAP事案数、終了または取り下げられたMAP事案数
  • 完了したMAP事案、終了または取り下げられたMAP事案の平均所要期間

2023年のMAP統計には、個々の国・地域が各締約国と協議したMAP事案数も含まれています。さらに、主要指標に関する各報告国の実績は、対話型ツールを通じて比較することもできます。

2023年のMAP統計

MAP統計では、移転価格事案と「その他」事案に区別されます。移転価格事案は、恒久的施設への利益の帰属または関連会社間の利益配分の算定のどちらかに関連しています。移転価格事案でないMAP事案はすべて「その他」事案として整理されます。また、MAP統計の報告では、2016年1月1日以前に受理された事案と2016年1月1日以後に受理された事案に区別されます。2016年12月31日より後に包摂的枠組みに参加した国・地域について、MAP統計では、当該国・地域が包摂的枠組みに参加した年の1月1日より前に受理された事案とそれ以降に受理された事案が区別されます。

対話型ツールを使用すると、利用者は2023年の両タイプの事案における特定の国・地域の実績を比較することができます。比較は以下の7つの主要指標に基づいています。

  • 年初繰越事案数
  • 開始された事案数
  • 終了した事案数
  • 年末繰越事案数
  • 開始から終了までの期間(月単位)
  • 終了率
  • 年末繰越事案数に含まれる2016年より前(または包摂的枠組み参加より前)の事案の割合

利用者は、指標を選別し、国・地域グループを選択することにより、検索方法をカスタマイズすることができます。

米国のMAPプログラム4

米国のMAPプログラムに関するいくつかの重要なポイントの比較を、2022年の統計と比較して以下に示します。

表1 終了した事案数:2022年と2023年の比較

2023

2022

2016年より前に開始された移転価格事案の終了件数

11

23

2016年より前に開始されたその他事案の終了件数

4

24

2016年より前に開始された事案の終了件数合計

15

47

2016年以降に開始された移転価格事案の終了件数

148

106

2016年以降に開始されたその他事案の終了件数

82

101

2016年以降に開始された事案の終了件数合計

230

207

終了した事案の件数合計

245

254

表2 開始された事案数:2022年と2023年の比較

2023

2022

移転価格事案の開始件数

125

145

その他事案の開始件数

122

80

開始された事案の件数合計

247

225

表3 協議継続中の事案数:2022年と2023年の比較

2023

2022

2016年より前に開始され協議継続中の事案件数合計

47

62

2016年以降に開始され協議継続中の移転価格事案件数

401

424

2016年以降に開始され協議継続中のその他事案件数

217

177

2016年以降に開始され協議継続中の事案件数

618

601

協議継続中の事案件数合計

665

663

IRSは、2016年1月1日以降に開始された移転価格事案を終了するのに平均で28.5カ月を要し、その他事案は開始から終了までに平均で25.3カ月を要しました。

2023年において、米国は2022年のようにMAP繰越事案数を減少させることはありませんでしたが、開始された事案数と終了した事案数を見ると、米国のMAPプログラムが引き続き堅調であることが分かります。2023年に事案が終了するまでに要した期間は、移転価格事案では2022年よりも約3カ月短縮され、その他事案では3カ月延長されました。2022年と2023年との間にはわずかな傾向の違いはありますが、全体的には一貫しており、納税者が米国のMAP事案を提出する際、想定されるスケジュールを合理的に予測できることを示しています。

すべての国のMAP統計

  • 2023年には、2022年と比べてMAP事案が約10%多く終了しました(移転価格事案で7.4%、その他事案で15.8%増)。2023年に終了した事案の数は、過去のどの年よりも多かったです。
  • 2023年に新たに開始されたMAP事案数は、2022年と比較して減少しました(6%を超える減少)。2016年以降、1年間に開始された事案数が前年より減少したのは、これで2度目となります。
  • MAPは引き続き効果的です。2023年に終結した移転価格事案およびその他事案の約4分の3は、二重課税の排除に関する合意、ユニテラルの救済の付与、または国内救済措置を通じた解決により、問題が完全に解決しました(2022年の73%と同程度)。2023年には、MAP事案の約4%が合意に至らずに終了しました。これは2022年よりも2%高い結果です。
  • 平均して、2023年に終了したMAP事案は、移転価格事案で32カ月(2022年の29カ月から増加)、すべての事案で約23.4カ月(2022年は22.2カ月)を要しました。すべてのタイプの事案の平均終了期間は27.3カ月で、OECDが推奨する24カ月という目標を上回っています。
  • 2023年のMAP統計には、事案の経過年数に関する新しいデータポイントが含まれるようになりました。協議継続中のMAP事案の約52%は2年未満、24%は2年から4年経過しています。


2023年のMAPアワード

OECDは、以下の権限ある当局の取り組みを評価しました。

  • オランダ(移転価格事案の終了までの期間が最短)、オーストラリア(その他事案の終了までの期間が最短)
  • カナダ(事案数に占める2016年より前に開始された事案の比率が最小)
  • オランダとノルウェー(最も効果的な事案管理)
  • カナダとフランス(移転価格事案において共同の事案を最も効果的に処理した国・地域ペア)、オーストリアとスイス(その他事案において共同の事案を最も効果的に処理した国・地域ペア)
  • フランス(最も改善した国・地域として、2022年と比較して212件増の事案を良好な結果で終了、移転価格事案とその他事案の両方で件数増加)

今後の影響

2023年の統計は、MAPが引き続き二重課税や条約に適合しない課税を排除する効果的な手段であることを示しています。とはいえ、MAP事案の処理期間は依然として24カ月という完了目標を上回っています。全世界のMAP繰越事案の件数が初めて減少したことは、さまざまな要因によるものと考えられますが、歓迎すべき結果です。

巻末注

  1. 米国の権限ある当局は、2016年1月1日より前に開始された15件の事案も終了しました。
  2. 録画はこちらで視聴できます。
  3. IRSは、30年以上にわたり米国のAPAプログラムの統計を公表しています。2023年のAPA統計に関するさらなる分析は、2024年4月1日付EY Global Tax Alert「APA report for 2023 shows number of APAs executed more than doubled」および2024年6月4日付EY Japan税務ニュース「米国2023年APA報告書、APA締結件数が2倍以上に」に掲載されています。
  4. すべての情報はOECDが公表した統計に基づいており、こちらからご覧いただけます。

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