EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
2025年1月15日、経済協力開発機構(OECD)は、GloBEモデルルールの運用に関する複数の文書を公表しました。GloBEモデルルールに基づき要求される情報報告に関して、OECDは更新されたGloBE情報申告書(GIR)のテンプレートと、それに付随する執行ガイダンスを公表しました。OECDはまた、GloBE情報の交換に関する権限ある当局による多国間合意(GIR MCAA)と関連するコメンタリーを含む文書も発表しました。さらに、OECDはGIR情報の自動的交換のためのXMLスキーマと、税務当局向けのユーザーガイドを公開しました。
同日、OECDはGloBEモデルルール第9.1条の適用に関する執行ガイダンス、適格ステータスを有する法令のセントラルレコードに関する執行ガイダンス、および各国のグローバル・ミニマム課税に関する法令の適格ステータスについて更新されたQ&A文書も発表しました。これらの文書については、2025年2月5日付EY Japan税務ニュースで取り上げています1。
2021年10月、経済協力開発機構(OECD)は、BEPS2.0プロジェクト第1の柱および第2の柱の主な要素についての包摂的枠組み参加国・地域の大枠合意を反映した声明を発表しました2。
2021年10月の合意に達して以降、包摂的枠組みは、グローバル税源浸食防止(GloBE)モデルルール3、GloBEモデルルールのコメンタリー4、GloBEセーフ・ハーバーに関する指針5、4つのGloBE執行ガイダンス6など、第2の柱に基づくグローバル・ミニマム課税に関する一連の重要な合意文書を公表してきました。2024年4月25日、OECDは2023年末までに3回に分けて発行した執行ガイダンスをまとめた、GloBEモデルルールに関する統合コメンタリーを公表しました。
これらの文書は、各国・地域が第2の柱のグローバル・ミニマム課税ルールを国内の税制に組み込むために使用することを目的としています。GloBEモデルルール第8章は、GloBEルールの運用面を取り上げています。同章は、GloBEルールに基づき計算される税に関する情報を提供するために、企業グループが標準化された情報申告書を提出する義務を定めています。
2022年12月20日、OECDはステークホルダーの意見を求めるべく第2の柱のGloBE情報申告書に関するコンサルテーションドキュメントを公表しました7。同コンサルテーションドキュメントは、包摂的枠組みの一致した見解を反映したものではありませんが、標準化されたGIRの作成状況に関する情報を提供し、第2の柱に準拠したデータ項目(GloBE上の納税義務の計算を含む)とそれに付随する注釈を記載した付録が含まれています。
2023年7月17日、OECDは包摂的枠組みにより承認された文書を公表しました。本文書には、GloBE情報申告書の概要とその運用方法、GIR自体のテンプレート、GIRに関する注釈が含まれています8。本文書では、一元的ファイリングの要件と自動的GloBE情報交換のための適切なメカニズムを開発するためのさらなる作業計画が記載されており、これには適格な(二国間および多国間の)権限ある当局間合意の枠組みを含め、専用のXMLスキーマを介した情報交換をサポートする情報技術ソリューションが含まれています。
2024年7月10日、OECDはステークホルダーの意見を求めるべくGloBE情報申告書のXMLスキーマに関するユーザーガイド案に関するコンサルテーションドキュメントを公表しました。このユーザーガイドは、包摂的枠組みの一致した見解を反映したものではありませんが、税務当局間でのGIR情報交換のための技術的フォーマットを提供しています。また、状況に応じて国内でのGIR申告を容易にすることも目的としています。
2025年1月15日に公表された更新されたGIR文書には、GIRの標準テンプレートの改訂版が含まれています。GIRには、税務当局がリスク評価を行い、GloBEルールに基づく構成事業体のトップアップ税額の正確性を評価するために必要と考えられる情報が含まれています。
更新されたGIR文書は、当初の文書と同様に、GIRを作成する義務は、税務申告書に基づいて税金を申告・納付する義務とは別のものであることを述べています。各実施国・地域は、グローバル・ミニマム課税に関する税務申告書の提出と納付の手続きを決定します。一部の国・地域では、税務申告書作成のためにGIRのデータ以上の追加的なデータ項目が必要になる場合がありますが(例えば、トップアップ税を国内通貨に換算する場合など)、本文書では、国・地域が構成事業体のトップアップ税額の計算に関連する追加データを要求することは一般的に避けるべきであるとされています。本文書はまた、GIRの標準テンプレートは、税務当局が関係文書の添付を要求することを妨げるものではないとしています。
更新されたGIR文書には、当初の文書と同様に、(i)GIRの標準テンプレート、(ii)移行期の簡略化された国・地域別報告の枠組み、(iii)GIRの普及のためのアプローチが含まれています。さらに、更新されたGIR文書には、通知要件、および最近の進展と次のステップに関する詳細が含まれています。
更新されたGIR文書と並行して、OECDはGIRの記入方法に関するより詳しい情報を提供するGIRガイダンスを公表しました。
GIRガイダンスでは、企業グループがGIRのデータ項目を記入する際には単一の基準を使用すべきであることを改めて強調し、これはGIRは一般的にGloBEモデルルールとそのコメンタリーに基づいて記入すべきであることを意味すると指摘しています。この一般規則の例外は、QDMTTセーフ・ハーバーが適用される状況(ただしスイッチオフルールは除く)に規定されており、その場合、その国・地域のGIRは適用されるQDMTT法令に基づいている必要があります。もう1つの例外として、ある国・地域またはサブグループに関して、GloBEルールに基づき課税権を有するのが唯一の国・地域である場合があります。この場合、その国・地域のGIRは、該当する国・地域の法令に基づき記入されなければなりません。GIRガイダンスでは、ある国・地域またはサブグループのGIRがGloBEモデルルールに基づいている状況において、企業グループは、特定の主要指標について、適用される国内法とモデルルールとの相違点に関する情報をGIRに記載しなければならないと規定しています。さらに、税務当局はこれらの相違点に関する追加の報告を要求することがあると指摘しています。
GIRガイダンスでは、一部の国・地域では自国の国内法に完全に一致しない情報を受け入れることができないことも認識しています。このような状況では、国・地域は追加の国内提出要件を制定することがあります(例えば、現地での情報申告を通じて、または国内の税務申告の一部として)。
国内法とGloBEモデルルールとの相違点に関するデータの新たな要件は、更新されたGIRテンプレートの大幅に拡張されたセクション3.1(国・地域の特性)に反映されており、ある国・地域またはサブグループに対する課税権を有する各国・地域について記入する必要があります。つまり、複数の国・地域がある国・地域またはサブグループに対して課税権を有する場合、このセクションは、それらの国・地域の国内法とGloBEモデルルールとの相違点を反映させるために、このセクションを複数回記入する必要があります(または、相違点がない場合はその旨を記入します)。更新されたGIRテンプレートでは、国内法とGloBEモデルルールとの相違点がGloBEに基づき支払うべきトップアップ税額の範囲に影響を与える場合はセクション1(企業グループ情報)、相違点がセーフ・ハーバーの適格性に影響を与える場合はセクション2(各国・地域のセーフ・ハーバーや除外)に関する情報も必要となります。
GIRの構造はおおむね変更されておらず、GIRは、企業グループ全体の情報が記載された一般セクション(企業グループ情報)と、企業グループが事業を展開する各国・地域の詳細情報が記載された国・地域セクション(各国・地域のセーフ・ハーバーや除外、GloBE計算)で構成されています。しかし、更新されたGIRテンプレートには、当初のGIRテンプレートの公開以降に発表された執行ガイダンスに関連するデータポイントを捕捉することを目的とした、いくつかの変更が含まれています。さらに、繰延税金に関連するデータポイントを含む、より重要な変更が反映されたセクションもあります。また、前述の通り、一部のセクションはGIRガイダンスを反映するように更新されています。
加えて、GIR文書に含まれるGIRテンプレートに関する注釈も更新されています。重要な更新事項の1つとして、軽課税支払ルール(UTPR)の下でどの国・地域も課税権を持たない国・地域、またはその国・地域に対してUTPRセーフ・ハーバーが適用される場合(例えば、GloBEルールを実施していないUPEの国・地域で、UTPRセーフ・ハーバーが適用される場合)については、詳細な情報は不要であることが確認されています。GIRテンプレート文書には、罰則の免除に関するセクションも含まれており、企業グループがGloBEルールまたはQDMTTの適切な適用を確保すべく「相当の措置」を講じた場合、各国・地域は罰則または制裁の適用の正当性を慎重に検討すべきであることを再確認しています。「相当の措置」は定義されていませんが、本文書ではさらに、これは各国・地域の既存の規則と慣行に照らして解釈する必要があるとし、罰則が免除される可能性がある例を挙げています。
GIR文書の更新された注釈では、全ての国・地域においてGIRを提出する義務はなく、各国・地域のGIR提出期限の時点でその国・地域と有効である適格な権限ある当局間合意(QCAA)を締結している国・地域において、最終親会社(UPE)または指定申告事業体(DFE)のいずれかにより、GIRを1回提出すればよいことが示されています。QCAAに基づくGIR情報の交換は3カ月以内に行われなければなりません。ただし、企業グループの構成事業体は、QCAAに基づいてどの国・地域からGIRを受け取るかを自国の税務当局に通知する義務があります。
GIR文書の更新された注釈では、ローカルファイリングが求められる場合、国・地域に提供する必要のある情報を詳細に説明しており、さまざまなカテゴリーの国・地域(QDMTTのみの国・地域、実施国・地域、実施国・地域であるUPEの国・地域)を区別しています。
「QDMTTのみの国・地域」という用語は、更新された注釈で導入されたもので、企業グループが事業を展開する国・地域のうち、QDMTTを導入しているが、所得合算ルール(IIR)やUTPRを導入していない国・地域を指します。構成事業体(またはジョイント・ベンチャー、ジョイント・ベンチャー子会社、無国籍事業体)がQDMTTのみの国・地域で課税対象となる場合、QDMTTのみの国・地域は、企業構造および事業体の分類に関するGIRのセクション1の一般情報を受け取ります。ただし、高水準の実効税率および支払うべきトップアップ税の情報は除きます。QDMTTのみの国・地域は、課税権を有する国・地域または各国・地域のサブグループについて、セーフ・ハーバーや除外に関するセクション2、およびGloBEまたはQDMTTの詳細な計算に関するセクション3も受け取ります。
実施国・地域は、IIRもしくはUTPR(またはその両方)を実施している国・地域であり、GIRのセクション1の一般情報を受け取ります。また、実施国・地域がIIR、UTPR(UTPRの配分割合がゼロより大きい場合)、QDMTTのいずれかにより、特定の国・地域または各国・地域のサブグループに対して課税権を有する場合、その実施国・地域は、課税権を有する国・地域または各国・地域のサブグループについて、GIRのセーフ・ハーバーや除外に関するセクション2、およびGloBEまたはQDMTTの詳細な計算に関するセクション3を受け取ります。
企業グループのUPEの本拠地である実施国・地域は、GIR全体を受け取ります。
GloBEモデルルールでは、各国・地域への情報のローカルファイリングが原則とされていますが、GIRの一元的ファイリングにより、構成事業体がGIRを提出しなければならない国・地域の数を制限し、企業グループのコンプライアンス負担を軽減することができます。GloBEルールまたはQDMTTを実施している国・地域に所在する構成事業体については、その国・地域が企業グループのUPEまたはDFEの国・地域と有効である適格なMCAAを締結している場合、ローカルファイリングは必要ありません。代わりに、一元的ファイリングにより、GIRはUPEまたはDFEの国・地域の税務当局に提出することができ、その税務当局は他の国・地域の税務当局と関連情報を交換することになります。
GIR MCAAは、これらの目的のための適格な合意です。これは、自動的な情報交換を規定する多国間合意です。GIR MCAAの下では、国・地域は選択すれば一方向のみの情報交換を行うことができます。GIR MCAAは、情報交換関係を構築するためにGloBEルールまたはQDMTTを実施していることを国・地域に義務づけてはいませんが、GIRの提出と交換を可能にするための法的および運用上の枠組みを整備しておく必要があります。ただし、GloBEルールまたはQDMTTを実施していない国・地域は、MCAAの下で情報を受け取る権利を有しません。
包摂的枠組みは、GIR MCAAに関して、GIRの提出と交換を可能にする国・地域の法的および運用上の枠組みに焦点を当てたピアレビュー手続を実施し、GIR MCAAの下で最初の情報交換が行われた5年後に交換枠組みのレビューを行います。
国・地域は、GIR MCAAを使用する義務はなく、他の地域的または二国間の合意を使用することもできます。
GIR MCAAは、合意に署名した国・地域と、GIR情報に関して活発な交換関係がある国・地域を示すリストを維持管理し、OECDのウェブサイト上で公開することを規定しています。
XMLスキーマは、それに付随するユーザーガイドとともに、GIR MCAAまたは他の適格な権限ある当局間合意の下でのGIR情報の交換を容易にするために設計されています。国・地域は、申告を行う構成事業体から必要な情報を収集するために、このスキーマを国内で使用することもできます。
更新されたGIR文書では、GIRを提出する義務がある企業グループに対するデータ要件が拡大されています。特に、企業グループに対して、全ての関連する国・地域におけるGloBEモデルルールと国内の第2の柱ルールとの相違点を特定し、その影響を判断し、GIRにその影響に関する特定の情報を報告することを求めています。
企業は、最初のGIRを提出する準備を進める中で、GIRに関連する新たな文書を確認し、OECDと関連する国・地域における動向を引き続き注視する必要があります。
巻末注
EY税理士法人
須藤 一郎 パートナー
関谷 浩一 パートナー
大堀 秀樹 ディレクター
※所属・役職は記事公開当時のものです
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