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米国財務省とIRSは通達 2025-04(通達)の中で、ルーティンなマーケティング・販売活動に関する特定の関連者間取引の移転価格設定について、経済開発協力機構(OECD)のSSAの適用に関する規制案とガイダンスを公表する意向を発表しました。適用範囲内取引に従事する納税者は通達に基づき、2025年1月1日以降開始の課税年度でSSAの選択適用が認められます。
米国財務省とIRSは今後のガイダンス案の中で、2024年6月に公表された補完声明文も含めて(声明文)、第1の柱の利益Bに関するOECDの2024年2月報告書(報告書)の内容を全て導入する意向です。
IRSは2025年3月7日を期限として通達に関するコメントを公募しました。
2021年10月、OECDは、BEPS 2.0プロジェクトの第1/第2の柱の主要パラメーターに関するBEPS加盟国管轄区域の包摂的枠組についての大枠合意を反映した声明文を実施プランとともに公表しました。2021年10月の声明文に記載された通り、利益Bは移転価格税制執行に費やすリソースが十分ではない国のニーズに焦点を当て、ルーティンなマーケティング・販売活動に対する独立企業間原則適用の簡素化・合理化を目指しています。OECDは2022年12月と2023年7月に利益Bに関する公開協議文書を公表し、利益Bに関する継続的作業と残存課題を示しました。
2024年2月に公表された報告書は、OECD移転価格ガイドライン2022年版(OECDガイドライン)に組み込まれています。2025年1月1日以降開始の課税年度において、各国は適用範囲内取引の移転価格検証時に利益Bアプローチを選択適用することができます。
2024年6月に公表された声明文は、特定のルーティンなマーケティング・販売取引の移転価格に関する利益Bアプローチを巡る2つの文書を盛り込んでおり、これらの声明文もOECDガイドラインに組み込まれました(しかし、報告書と声明文の双方を含むバージョンのOECDガイドラインはまだ公表されていません〈2024年12月時点〉)。
通達はSSAに関して今後、規制案および準規制ガイダンスを策定予定である旨を告知すると同時に、これらのさらなるガイダンスが公表されるまでの間、納税者が依拠することができる規定を定めています。
納税者はルーティンなマーケティング・販売活動に対する独立企業間価格算定時にSSAの選択適用が可能となります。通達によれば、SSAは財務省規則セクション1.482-3(a)(4)、1.482-5および1.482-9(a)(5)および(f)の下での利益比準法(CPM)と類似するとしています。
報告書では、要件に基づきSSAを実施する国は2つの適用オプションを有していると示しています。オプション1では、納税者の意思で適用範囲内取引についてSSAを適用することができます。オプション2では、オプション1と同じくSSAを納税者が選択適用できますが、SSAを導入している販売会社所在国の税務当局も販売会社所在国の納税者の意図にかかわらずSSAを選択適用できると定めています。通達において、米国財務省とIRSはOECD報告書における利益Bの「強制適用」の定義に関して、オプション2を参照し、納税者と税務当局の双方が利益Bを適用する権利を有することが義務(適用必須)ではないとしています。通達によれば、米国財務省とIRSはオプション1に基づく規制案を公表する予定で、オプション2の適用可能性は今後の検討課題としています。
SSAの適用資格
米国でSSAを適用するには、以下の条件を満たす必要があります:
通達は米国税務目的でSSAを適用する際の、関連マトリクス・セル識別、営業費用クロスチェック、適格国でのデータ入手可能性メカニズム、報告書セクション5.2および5.3における適格国の特定を規定しており、これらは、OECD報告書および声明文の定義に準じます。
SSAセーフハーバー
通達に基づいて将来公表される規制案はSSAを納税者のセーフハーバーとして位置づけるとしています。通達によれば、セーフハーバーはOECDガイドラインと報告書に基づいており、OECDガイドラインと報告書ともに将来修正される可能性があり、通達の遵守は通達が発行された時点のOECDガイドラインと報告書に基づいています。
SSAを適用範囲内取引に適用する場合、SSAは財務省規則セクション1.482-1(c)が規定する「ベスト・メソッド」の選択として取り扱われます。この場合、SSAは基本算定法(specified method)のひとつとみなされますが、SSAがセーフハーバー・ガイドラインから逸脱する場合、SSAは他の算定方法(unspecified method)として取り扱われます。
セーフハーバー要件の全てが満たされている場合、その取引に対する移転価格調整は行われません。SSAが適切に選択されたとしても収益配分計算が正しく行われていないと判断される場合、正しくSSAを適用した場合の金額との差異、および財務省規則セクション482に基づくそれ以外の調整が行われます。
納税者が関連する全ての事実関係を考慮してSSAを適切に適用している場合、財務省規則セクション6662の下での罰則の対象にはなりません。なお、内部コンパラに基づく独立価格比準(CUP)法の適用がより信頼性があると判断されるケースにおいては、当初のSSA選択が合理的であったとしても、財務省規則セクション6662の罰則の対象となります。
SSA適用の選択は取引ごとに行われます。
SSA適用を選択する場合、納税者は選択対象課税年度の申告書に次の項目を含む開示書を添付する必要があります:
適用対象の取引を識別する目的で、IRSが適用対象取引を合理的に確認することができるという条件で、納税者は製品、製品群、または類似のグループ分けに基づいて取引をグルーピングすることが認められます。
納税者は利用可能なデータの存在を前提として、(1)SSAの適用を選択した取引が適用範囲内取引であること、そして、(2)SSAの下で収益配分計算を適切に計算した、と合理的に結論付けられる十分な文書を保持しなければなりません。税務調査の際には記録書類のIRSへの提出は要請されてから30日以内に実施する必要があります。文書化に関わる不注意および些細なミスは納税者が善意に規則遵守に努めており、また誤りを発見した後速やかに是正する努力があればIRSの裁量によって容認されることがあります。
納税者はSSAを遵守していることを立証する十分に詳細な会計帳簿と記録を保持しなければなりません。通達セクション4.07は、記録に含めるべき具体的なリストを示しています。
他国の中にはSSAの適用結果を認知しない、もしくはSSA要件の解釈が米国とは異なる国が存在する可能性があります。加えて、一方の国の権限のある当局がSSAを実施していない、または該当取引に関してSSAの適用に合意していない場合、当該当局はSSAに基づく納税者ポジションを受け入れることはできません。通達は、これらの問題に直面する納税者に報告書セクション8を慎重に検討することを示唆しています。
通達に基づく規制案が他国の利益Bの採用状況や利益B採用国の数の多寡にかかわらず公表される予定である点は注目に値します。米国財務省とIRSは他国の状況に関わらず、利益Bの導入にコミットしているようです。米国では従来からこのような「片側セーフハーバー」を金利やサービスコストに関して規定してきた実績があります。
報告書と声明文の詳細なガイダンスが米国におけるSSA規定の基礎となり、米国の関与がある販売活動に関しては、より高い確度をもって利益Bの適用検討・評価、モデル化をすることが可能になったと言えます。納税者はセーフハーバーのメリットを活用すべきか否か、そしてオプション2に基づき利益Bが課せられた場合の影響を検討することに有効です。
米国でSSA適用が認められるケースにおいても他国が利益Bと異なるポジションを取る場合、引き続き二重課税の問題は残ります。米国が利益Bにコミットすることでこのリスクはより顕著化する可能性があります。
巻末注
EY税理士法人
秦 正彦 シニア・テクニカル・アドバイザー
谷津 剛 パートナー
EY US
國塩 大晃 シニアマネージャー
※所属・役職は記事公開当時のものです
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主要国におけるBEPS2.0アップデートシリーズ5 混迷極める米国のBEPS2.0対応と日本企業の留意点
米国では、現時点でGloBEルールの国内法制化のメドは立っていません。2024年11月には大統領選挙もあり、2025年前に導入が検討されることはないと推測されています。2025年以降についても、民主党と共和党のどちらが主導権を握るか、あるいは勢力が拮抗するかで将来のシナリオは異なってきます。では、今後の動向をどのように見ておけばいいのか。米国におけるBEPS2.0の法制化状況と日本企業における留意点を解説します。
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