OECD、暫定適格ステータスを有する法令のセントラルレコードに関する第2の柱執行ガイダンスの更新版を発表

  • 2025年8月18日、経済協力開発機構(OECD)は、暫定適格ステータスを有する法令のセントラルレコードに関する執行ガイダンス(以下、「セントラルレコード執行ガイダンス」)の更新版を発表した。
  • 本文書には、各国・地域の所得合算ルール(IIR)に関する法令および国内ミニマム課税(DMTT)に関する法令の適格ステータスについての重要な情報が示されている。
  • 企業は、自社の事業に関連する国・地域に焦点を当て、本文書を確認し、今後の更新情報を注視する必要がある。


エクゼクティブサマリー

2025年8月18日、OECDは、暫定適格ステータスを有する法令のセントラルレコード執行ガイダンスの更新版を発表しました。

この更新版では、13の国・地域の法令が新たに適格IIRの一覧に追加され、13の国・地域が適格DMTT(QDMTT)およびQDMTTセーフハーバーの一覧に追加されました。また、2024年においてIIRおよびDMTTが選択制となっている国・地域も特定されています。

適格ステータスの認定は、グローバル・ミニマム課税ルールの適用順序を決定するうえで重要です。例えば、QDMTTセーフハーバーのステータスを有する国・地域の場合、他の国・地域のグローバル税源浸食防止(GloBE)ルールに基づいて課されるトップアップ税はゼロとみなされるため、他国でのGloBEルールの適用が排除されます。

詳細

背景

2021年10月、OECDは、税源浸食と利益移転(BEPS)2.0プロジェクトの第1の柱と第2の柱に関する包摂的枠組み参加国の大枠合意を反映した声明を発表しました1

包摂的枠組みは、2021年10月の合意以降、第2の柱に基づくグローバル・ミニマム課税に関する一連の重要な合意文書を公表してきました。これには、GloBEモデルルール2、GloBEモデルルールのコメンタリー3、GloBEセーフハーバーに関する指針4、5つのGloBE執行ガイダンスパッケージ5、そしてGloBE情報申告書の標準テンプレート6が含まれます。2024年4月25日、OECDは2023年末までに3回に分けて発行した執行ガイダンスをまとめた、GloBEモデルルールに関する初の統合コメンタリーを公表しました。さらに、2024年6月17日、包摂的枠組みは、各国・地域が導入するグローバル・ミニマム税の要素の適格性を判断するためのピアレビュー・プロセスに関する情報を提供するQ&A文書を公表しました7。また、2025年5月9日には、2025年3月末までに発行された全ての執行ガイダンスを統合した更新版の統合コメンタリーがOECDより公表されました。

2025年1月15日、OECDは、GloBEモデルルールの運用に関する追加の技術文書を公表しました。これには、暫定適格ステータスを有する法令のセントラルレコードに関する新たな執行ガイダンスが含まれており、IIR、DMTT、またはQDMTTセーフハーバーについて、適格性確認メカニズムのプロセスを完了した法令を有する国・地域の一覧と、その説明情報が記載されています8。2025年3月31日、OECDは、暫定適格ステータスを有する国・地域の一覧を更新し、ガーンジーおよびスペインを追加しました。

2025年8月のセントラルレコード執行ガイダンスの更新版

2025年8月のセントラルレコード執行ガイダンスの更新版では、以下の国・地域の法令が適格IIRの一覧に追加されました。

  • 2024年1月1日付:北マケドニア、ポーランド(2024年は選択制IIR)、ポルトガル、南アフリカ
  • 2025年1月1日付:ジブラルタル、インドネシア、マン島、ジャージー、マレーシア、ニュージーランド、シンガポール、スイス、タイ

また、セントラルレコード執行ガイダンスでは、2024年においてIIRが選択制となっているかどうかが示されるようになりました。これは、ある国・地域の法令において、当該IIR適用国に所在する構成事業体がIIRの適用対象となるかどうかを、企業グループが選択できる旨の規定が含まれている場合を指します。このようなIIRは、他の年において選択制でないことなど、一定の条件を満たす場合に、適格と認定されることがあります。

セントラルレコード執行ガイダンスでは、2024年においてDMTTが選択制となっているかどうかも示されるようになりました。これは、ある国・地域の法令が、企業グループに対して、構成事業体(またはジョイント・ベンチャー・グループのメンバー)にDMTTを適用するかどうかを選択することを認めている場合を指します。2024年に選択制となっているDMTTは、他の年において選択制でないことなど、一定の条件を満たす場合に、適格と認定されることがあります。さらに、企業グループが選択制DMTTの適用対象でない場合には、QDMTTセーフハーバーを主張することはできません。

2025年8月のセントラルレコード執行ガイダンスの更新版では、以下の国・地域の法令が、適格DMTTおよびQDMTTセーフハーバーの一覧に追加されました。

  • 2024年1月1日付:ジブラルタル、北マケドニア、ポーランド(2024年は選択制IIR)、ポルトガル、南アフリカ
  • 2025年1月1日付:ブラジル、インドネシア、マン島、マレーシア、シンガポール、タイ、アラブ首長国連邦
  • 2026年4月1日付:日本

2025年8月の更新版では、オーストラリアは法案に基づいて自己認証を行う旨の注記が削除されました。

セントラルレコード執行ガイダンスには、セントラルレコードが定期的に更新される旨の記載があります。また、特定の国・地域の法令がこのセントラルレコードに含まれていないという事実は、必ずしもその法令に適格性が無いとするものではないとしています。むしろ、適格性確認メカニズムのプロセスが、国・地域によってはまだ開始または完了していないことを意味します。

影響

セントラルレコード執行ガイダンスは、グローバル・ミニマム課税ルールのさまざまな要素が適用される順序や、企業グループがグローバル・ミニマム税の租税債務を報告する必要がある国を判断するための重要な情報を提供しています。企業は、セントラルレコードにおける、自社の事業に関連する国・地域の法令の取扱いを見直し、グローバル・ミニマム税の計算への影響を評価する必要があります。また、セントラルレコードの今後の更新情報を引き続き注視する必要があります。

巻末注

  1. 2021年10月11日付EY Global Tax Alert「OECD releases statement updating July conceptual agreement on BEPS 2.0 project」および2021年10月14日付EY Japan税務ニュース「OECD、BEPS 2.0プロジェクトの大枠合意の更新に関する声明を発表」をご参照ください。
  2. 2021年12月22日付EY Global Tax Alert「OECD releases Model Rules on the Pillar Two Global Minimum Tax: Detailed review」および2022年1月7日付EY Japan税務ニュース「OECD、第2の柱(グローバルミニマム課税)に関するモデルルールを公表 前編」、2022年1月26日付EY Japan税務ニュース「OECD、第2の柱(グローバルミニマム課税)に関するモデルルールを公表 後編」をご参照ください。
  3. 2022年3月21日付EY Global Tax Alert 「OECD releases Commentary and illustrative examples on Pillar Two Model Rules」および2022年4月12日付 EY Japan税務ニュース「OECD、第2の柱のモデルルールに関するコメンタリーと計算例を公表(前編)」、2022年4月15日付EY Japan税務ニュース「OECD、第2の柱のモデルルールに関するコメンタリーと計算例を公表(後編)」をご参照ください。
  4. 2022年12月21日付EY Global Tax Alert 「OECD/G20 Inclusive Framework releases document on safe harbors and penalty relief under Pillar Two GloBE rules」および2022年12月27日付 EY Japan税務ニュース「OECD/G20包摂的枠組み、BEPS2.0プロジェクト第2の柱GloBEルールの下でのセーフハーバーと罰則免除に関する文書を公表」をご参照ください。
  5. 2023年2月9日付EY Global Tax Alert「OECD/G20 Inclusive Framework releases Administrative Guidance under Pillar Two GloBE Rules: Detailed Review」および2023年2月28日付EY Japan税務ニュース「OECD、第2の柱GloBEルールの運用指針を公表(前編)」、2023年3月8日付EY Japan税務ニュース「OECD、第2の柱GloBEルールの運用指針を公表(後編)」、2023年3月6日付EY Japan税務ニュース「OECD、第2の柱GloBEルールの運用指針を公表(保険会社編)」、2023年7月21日付EY Global Tax Alert「OECD/G20 Inclusive Framework releases additional Administrative Guidance on Pillar Two GloBE Rules: Detailed review」および2023年8月23日付EY Japan税務ニュース「OECD/G20包摂的枠組み、第2の柱GloBEルールに関する追加の運用指針を公表:詳細レビュー」、2023年12月22日付EY Global Tax Alert「OECD/G20 Inclusive Framework releases additional Administrative Guidance on Pillar Two GloBE Rules and update on Pillar One Amount A timeline」および2024年1月24日付EY Japan税務ニュース「OECD/G20包摂的枠組み、第2の柱GloBEルールに関する新たな運用指針と第1の柱Amount Aのスケジュールに関するアップデートを公表」、2024年6月28日付EY Global Tax Alert「OECD/G20 Inclusive Framework releases fourth tranche of Administrative Guidance on Pillar Two GloBE Rules」、2025年1月17日付EY Global Tax Alert「OECD releases new documents on GloBE rules and on qualified jurisdiction status」および2025年2月5日付EY Japan税務ニュース「OECD、GloBEルールと適格性を有する国・地域に関する新しい文書を公表」をご参照ください。
  6. 2023年7月24日付EY Global Tax Alert「OECD/G20 Inclusive Framework releases document on Pillar Two GloBE Information Return」および2023年8月8日付EY Japan税務ニュース「OECD/G20包摂的枠組み、第2の柱のGloBE情報申告書に関する文書を公表」、2025年1月21日付EY Global Tax Alert「OECD releases new documents on GloBE Information Return」および2025年2月10日付EY Japan税務ニュース「OECD、GloBE情報申告書に関する新たな文書を公表」をご参照ください。
  7. 2024年6月20日付EY Global Tax Alert「OECD/G20 Inclusive Framework releases documents on Pillar One Amount B and Pillar Two」および2024年7月17日付EY Japan税務ニュース「OECD/G20包摂的枠組み、第1の柱の利益Bと第2の柱に関する文書を公表」をご参照ください。
  8. 2025年1月17日付EY Global Tax Alert「OECD releases new documents on GloBE rules and on qualified jurisdiction status」および2025年2月5日付EY Japan税務ニュース「OECD、GloBEルールと適格性を有する国・地域に関する新しい文書を公表」をご参照ください。

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EY税理士法人

戸崎 隆太 パートナー
関谷 浩一 アソシエートパートナー

※所属・役職は記事公開当時のものです