OECD、モデル租税条約の改訂を公表

  • 2025年11月19日、経済協力開発機構(OECD)は、所得と資本に関するOECDモデル租税条約(OECD MTC)およびそのコメンタリーの改訂(2025年改訂)の内容を含む文書を公表した。
  • 主な変更点には、国境を越えたリモートワーク(ホームオフィスでの勤務など)が企業に課税対象となる恒久的施設を生じさせる場合の明確化、天然資源の開発・採取に関連する活動から生じる所得の課税方法についての代替規定の追加、条約解釈の一貫性確保と税の確実性向上を目的としたその他の改訂が含まれる。
  • 2025年改訂には、OECDモデル租税条約およびそのコメンタリーに対するOECD加盟国の所見や留保、ならびに非加盟国の立場に関する修正も反映されている。


エクゼクティブサマリー

2025年11月19日、経済協力開発機構(OECD)は、OECDモデル租税条約(OECD MTC)の2025年改訂を記載した文書を公表しました。これには、以下の内容が含まれます。

  • OECDモデル租税条約の序文に2025年改訂に言及する文言を追加する変更
  • サービスの貿易に関する一般協定(GATS)に関連する第6項の新設による第25条(相互協議手続)の変更
  • 第5条(恒久的施設)、第7条(事業所得)、第8条(国際海運および航空運送)、第9条(関連企業)、第24条(無差別)、第25条(相互協議手続)、第26条(情報交換)、第29条(特典を受ける権利)に関するコメンタリーの重要な変更
  • OECDモデル租税条約およびそのコメンタリーに関するOECD加盟国の所見や留保の変更(コメンタリーに反映)
  • OECDモデル租税条約およびそのコメンタリーに関する非加盟国の立場の変更

2025年改訂の変更点は、2025年10月13日にOECD租税委員会、2025年11月18日にOECD理事会で承認されました。この改訂は、2026年に公表されるOECDモデル租税条約改正版(要約版および完全版)に組み込まれる予定です。コメンタリーの変更が既存条約に適用されるか(動的アプローチ)、新規条約のみに適用されるか(静的アプローチ)は、関係する国・地域によって異なります。


詳細解説

OECDは、モデル租税条約およびそのコメンタリーを定期的に改訂しています。前回のOECDモデル租税条約への改訂は2017年に実施され、OECD/G20の税源浸食と利益移転(BEPS)プロジェクトによる多数の変更が反映されました。

OECDが公表した文書によると、2025年改訂におけるOECDモデル租税条約およびそのコメンタリーには以下の主な変更が含まれます。

  • 第25条(相互協議手続)およびそのコメンタリーの変更
    第25条に第6項が新設され、サービスの貿易に関する一般協定(GATS)に基づく紛争解決メカニズムにおいて、租税条約の適用範囲に含まれるかどうかを判断する際の権限ある当局の役割を確認しています。
  • 第5条(恒久的施設)のコメンタリーへの大幅な追加
    個人の自宅が勤務先企業の「事業を行う場所」を構成し得る状況を明確化することを目的としています。これらの変更は既存の原則を発展させたものであり、コメンタリーに現代の労働形態を反映し、在宅勤務やその他の場所での勤務によって事業を行う一定の場所としての恒久的施設が成立する場合と成立しない場合について、より高い確実性を提供します。

既存のコメンタリーによれば、雇用主の事業を遂行するためにホームオフィスが継続的に使用され、かつ事実関係から従業員が在宅勤務をする必要があったことが明らかな場合、そのホームオフィスは雇用主が業務のために利用できる場所とみなされ、恒久的施設が成立します。

改訂後のコメンタリーでは、従業員のホームオフィスだけでなく、別宅やバケーションレンタル、その他従業員が使用する場所も対象としています。第一に検討すべき点は、自宅またはその他の場所が継続的に使用されているか、偶発的または断続的に使用されているかどうかです。継続的に使用されている場合のみ、事業を行う一定の場所とみなされます。第二に検討すべき点は、自宅またはその他の場所が12カ月間のうち少なくとも50%の期間使用されているかどうかです。使用期間が50%未満の場合、原則として恒久的施設は成立しません。12カ月間のうち50%以上の期間使用されている場合、ホームオフィスまたはその他の場所が所在する国における個人の活動に商業上の理由(現地での顧客、サプライヤー、関連企業との直接取引など)があるか否かが判断されます。

  • 第5条のコメンタリーへの追加
    採掘可能な天然資源の探査・開発に関連する活動について任意で選択できる代替規定が設けられ、関連するコメンタリーも追加されています。締約国は、非居住企業が二国間で合意された期間を超えて当該国で事業活動を行った場合に、恒久的施設の認定基準を引き下げる独立した代替規定に合意することができます。
  • 第9条(関連企業)のコメンタリーへの変更
    金融取引の移転価格に関する最近の検討(移転価格ガイドライン第10章に反映)で提起された質問に部分的に対応するものです。これらの変更は、利子や交際費の損金算入の可否など、損金算入に関する国内法との関係において、第9条の適用を明確化することを目的としています。この点について、新たなコメンタリーでは「第9条は、いずれかの企業の課税所得計算において費用が損金算入できるかどうかという問題を扱うものではない」と明記し、費用の損金算入条件は、租税条約の規定に従い、国内法に基づき判断される事項であるとしています。第7条および第24条のコメンタリーにも関連する変更が加えられています。
  • 第25条(相互協議手続)のコメンタリーへの変更
    特定の基本的なマーケティングおよび販売取引に対する第1の柱のAmount Bアプローチに関連するものです。この変更では、Amount Bに関する税の確実性および二重課税の排除について、具体的な文言が追加されました。これらの変更は、Amount Bを採用しない国・地域の紛争解決メカニズムにおいても全ての選択肢が維持されることを目的としています。
  • 第26条(情報交換)のコメンタリーへの変更
    情報交換を通じて受領した情報の利用方法が記載されており、情報が提供された対象者以外の者に関する税務事項に受領した情報を利用できることや、納税者が交換した情報にアクセスする方法に関するガイダンスが示されています。


影響

OECDモデル租税条約の2025年改訂には、国境を越えたリモートワークの恒久的施設への影響、天然資源の採取に関連する活動から生じる所得の課税方法に関する重要な追加事項に加えて、OECDモデル租税条約とそのコメンタリーに対するその他の変更が含まれます。国境を越えたリモートワークに関する第5条のコメンタリーへの変更についての詳細は、EY Global Tax alertで近日中に公開される予定です。

さらに、2025年改訂には、OECDモデル租税条約およびそのコメンタリーの規定に関するOECD加盟国の所見や留保、ならびに非加盟国の立場に関する変更も反映されています。

企業は、これらの変更による影響を評価するとともに、自社の事業に関連する国・地域における所見や留保、立場の変更についても確認する必要があります。

2025年改訂に含まれるコメンタリーの変更が、新規条約と既存条約の両方に適用されるか、または新規条約のみに適用されるかは、関係する国・地域によって異なります。



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EY税理士法人

戸崎 隆太 パートナー

※所属・役職は記事公開当時のものです