英国移転価格税制の改正:財政法案による変更点

  • 2025年12月4日、英国の2025-26年度(第2次)財政法案(以下、「本法案」)が公表され、英国における移転価格の運用に影響を与える多くの重要な変更が導入される予定。
  • 本法案により、英国国内取引に係る移転価格要件が緩和され、関連者間取引における無形固定資産(IFA)の評価規則は、単一の独立企業原則基準へと統一される。
  • 迂回利益税(DPT)制度は、移転価格税制の枠組み内で新設される「未査定の移転価格利益(UTPP)」制度に置き換えられる。
  • 英国歳入関税庁(HMRC)は、租税回避の可能性があると判断した場合には、従来どおり当該新制度を活用する。


エクゼクティブサマリー

英国の2025年秋季予算案を受け、本法案は2025年12月4日に公表されました。本法案には、英国の移転価格税制および関連税務分野における重要な改正事項が数多く含まれています。本税務ニュースでは、移転価格税制に関連する項目に関し法人納税者にとって特に重要かつ対応が求められる分野に焦点を当てています。本法案は、本税務ニュース発行時点(2026年1月時点)では未成立ですが、2026年3月までに制定される見込みです。なお、法案内容が修正される可能性はあるものの、現時点では移転価格税制に関連する項目についての変更は想定されていません(2025年12月2付EY Global Tax Alert「UK introduces Budget 2025」および2026年1月13日付EY Japan税務ニュース「英国2025年度秋季予算案」もご参照ください)。

本法案により導入される英国移転価格税制の改正は、2004年の税制改正以降で最も重要かつ大幅な見直しとなります。これらの変更の多くは、経済協力開発機構(OECD)が提唱する関連原則との整合性を一層高めることを目的としていますが、本法案では英国国内取引に対する大幅な緩和措置、関連者間のIFA取引における独立企業間価格の新たな位置付け、UTPP制度の新設などが含まれます。現行の中小企業(SMEs)に対する英国移転価格税制の一般的な適用除外要件に変更はありません。金融取引については、独立企業間金利の設定に関し、暗黙の保証の存在が明文化されました。さらに英国政府は、2027年1月1日以降に開始する会計期間からの適用開始を視野に、新たな開示義務となる「国際関連者間取引スケジュール(International Controlled Transactions Schedule、以下ICTS)」の導入に関するコンサルテーションを実施する予定です。


移転価格税制の改革

本法案における移転価格関連の変更点の多くは、英国財務省が実施したコンサルテーションのプロセスを経て策定されたものです。その目的は、現行規則の簡素化、立法上の弱点の解消、そして国際基準との整合性をより高めることにありました。

変更点の多くは、一定の経過措置を伴うものの、2026年1月1日以降に開始する課税期間から適用されます。


国際関連者間取引スケジュール(ICTS)

HMRCコミッショナー1には、一定の要件を満たす納税者に対し、国際関連者間取引に関する所定の情報の開示を義務付ける権限が付与されます(本法案第20項)。当該権限に基づき、対象となる多国籍企業は、英国における法人税申告義務の一環としてICTSを提出することが求められます。本制度は、2027年1月1日以降に開始する会計期間から適用されます。この規則の技術的な制度設計に関するコンサルテーションは、2026年春に実施される予定です。


無形固定資産(IFA)

IFAは、現行の「2009年法人税法(Corporation Tax Act 2009)」において、主に会計基準に基づく独自の税制の対象とされています。この現行の制度の下では、原則として会計上の価格を用いることが認められていますが、独立企業間価格がこれを上回る場合には、移転価格税制が適用されます。

一方、本法案の下ではIFAの移転がクロスボーダー取引に該当し英国の移転価格税制の対象となる場合には、独立企業原則が取引額を決定する際の唯一の基準として適用される予定です。この文脈におけるクロスボーダー取引とは、英国納税者の取引相手が関連する外国の恒久的施設、英国非居住者法人、英国非居住者個人、または全てのパートナーが英国非居住者であるパートナーシップである場合におけるIFAの国際的な移転を一般的に指します。移転価格税制の適用により損益が修正される場合には、譲渡者および譲受者の双方に対して独立企業間価格が適用されます。

関連者間におけるIFAのクロスボーダー取引に関しては、英国税制上の便益の有無にかかわらず、独立企業間価格が市場価格に代わって適用されることとなりました。なお、当該規定においては、取引価格を増減させる調整を引き続き行うことが可能です。この取扱いは、英国の移転価格調整において通常適用される、修正申告額の上方修正のみを認める「一方向の原則」2とは異なります。

この変更により、特に独立企業間価格が市場価格と異なると考えられる要因が存在する場合、IFA取引における各当事者の立場や価格設定の妥当性を個別に評価する必要性が高まると考えられます。


英国国内取引に関する免除

本法案は、英国国内取引を独立企業間価格原則の適用対象外とする免除規定を導入します。この免除は、この利益を受ける関連者の両方が、法人であり、英国居住者であり、法定法人税率で課税され、同じ基準通貨を使用していることなど、一定の適格基準を満たす場合に適用されます。

この免除規定は、両当事者が同様の制度の下で同一の税率により課税され、かつ為替差損益が同一の基準通貨で計算される場合に適用されることが想定されています。したがって、パテントボックス条項が適用される場合や、特定の金融商品によって税務上の非対称性が生じる場合には、この免除は適用されません。なお、英国納税者は、課税期間および特定の取決め(provision)に関して、当該免除を適用しない選択をすることができます。

また、HMRCは、税の徴収および確保の観点から「有用」であると判断した場合、納税者に対して税務申告の再提出を求める国内移転価格に係る通知を発行することが可能になります。


関連性要件(Participation Condition)

企業の経営、支配または資本への参加は、移転価格税制における「関連性」を判断する上での基本的な要件とされています。本法案により、HMRCコミッショナーは、移転価格に係る通知を発行する権限を付与され、当該通知が発せられた場合には、その時点から関連性要件が満たされているものとして取り扱われます。

関連性の有無は、全ての状況を総合的に考慮して判断されます。これは、「2010年国際関連税法(Taxation [International and Other Provisions] Act 2010、以下TIOPA 2010)」第157条から第161条が定める要件を満たさない場合であっても、OECDモデル租税条約に基づき関連性が認められる状況に対応するものです。

また、本法案の下では共同して行動する複数者の間で一者が権利や権限を有すると認められる場合等には、その者が実質的な支配力を有しているものとして、関連性要件が満たされる可能性があります。さらに、財務関係に基づく一定の権利については、清算時の完全な分配や資産から所得を得る場合、状況によっては関連性要件が満たされると判断される可能性があります。


金融取引

英国における債務保証に関する法律を国際基準と整合させるため、OECD移転価格ガイドライン第10章(2022年版)に組み込まれた「金融取引の移転価格に係る側面」の詳細な指針に照らして、税制改正がなされます。

この背景において、ある者が他者の借入に関して債務保証を提供し、その結果、その保証によって債務者の借入能力が独立企業間では受け入れられない水準まで増加する場合には、その債務保証行為は独立企業間で行われる取引とはみなされません。一方で、債務保証は、独立企業間価格原則に基づく金利の算定において考慮されます。また、暗黙の支援、すなわち、明示的な保証がない場合においても、債務者が財務的な困難に直面した際には、 グループ内のメンバーから支援を受ける可能性が考慮されます。

この税制改正の当面の経過措置としては、2026年1月1日以降に締結される新規の借入についてのみ適用されます。一方で、2028年1月1日以降に開始する事業年度に関しては全ての債務に対して適用されます。また英国納税者は、2026年1月1日以降に終了する事業年度から、既存の債務に関しても新規則の適用を任意的に選択することができます。

TIOPA 2010に新設される第153B条に基づき、英国居住企業には、新たな取消不能の選択肢が与えられます。これにより、独立企業間において成立しないであろう金額の債務について、当該企業が債務保証を提供したものとして取り扱うことが可能となります。

さらに、英国企業は、過去の課税期間において移転価格税制の適用により損金算入(デビット)が認められなかった金額に対応する「適格クレジット(qualifying credit)」が存在する場合には、当該クレジットを課税所得に算入しないよう申請することが可能となります。

同様に、英国企業は、「適格デビット(qualifying debit)」について、通常であれば移転価格税制における「一方向」原則により損金算入が認められない場合であっても、一定の要件の下で当該デビットを損金算入するよう申請することが可能となります。この文脈における「適格デビット」とは、過去の課税期間においてすでに課税所得に算入されていたクレジットに対応するものであり、当該クレジットが仮に英国税務上有益とされた場合には移転価格税制により否認されていたであろうものを指します。


為替差損益

ローン関係およびデリバティブ契約における為替差損益を移転価格税制の適用範囲に含めるための規則が導入されます。「一方向」原則が緩和され、過去の為替差益または公正価値の利益に対応する損失を認識できるようになります。


OECD原則

本法案は、OECDモデル租税条約およびOECD移転価格ガイドラインの定義を明確化します。さらに、OECDを参照するそれぞれの事項は、英国がその参照資料に対して行った留保、宣言または選択を反映した最新版の資料を参照して解釈されると定めています。これには、英国の移転価格に関するプロファイルや、OECDコメンタリーに対する英国の意見などが含まれます。これにより、税制が時間の経過とともに陳腐化することを防ぐことになります。


HMRCコミッショナーによる認可

特定の通知、査定、決定に関する、HMRCコミッショナーによる認可制度は廃止されます。これは、内部統制プロセスに置き換えられ、主に管理上の措置となります。


未査定の移転価格利益(UTPP)

本法案の付則5により、新たなUTPP制度が導入されます。これは、未査定の移転価格利益に対して法人税を高い税率で課す新たな課税規定です。移転価格の対象となる利益を意図的に操作することで、英国の税源を浸食するように設計された構造的な取決めを対象としており、従来のDPT制度に代わるものです。

以下の3つの要件を満たした場合、本制度が適用されます。

  • 取引または一連の取引を通じて、当該企業と他の者が取決めをしているまたは設定していること
  • 当該取決めに係る企業の利益が移転価格要件の対象であること
  • 自主申告における金額と、独立企業間価格原則に基づき申告されるべき金額との間に差異があること

従来のDPT基準は一部修正され、引き続き適用されます。UTPPは、実効税率の不一致という結果(相対的な税率に基づく定量的テストによる)をもたらす取決めから生じるものであり、税スキーム条件を満たすことが求められます。さらに例外的な貸付関係である取決めのみから生じるUTPPであってはなりません。税スキーム条件とは、そのスキームが英国の租税負担を減少・消去・遅延させる目的で設計されたと合理的に推測される場合に成立し、恣意的に構築されたスキームを対象とする規定とされています。

UTPPの税率は、そのUTPPが当該企業の納税申告書に含まれていた場合に適用される税率に6%を加えたものとなります。この計算では、申告所得が欠損であった場合は所得0とされます。

影響を受ける納税者は、引き続き自主申告を行い、利益迂回に係る開示制度を利用して移転価格調整を行い、UTPP税率による追加の課税を回避することが期待されています。UTPPは租税条約の適用対象として設計されており、適切な場合には相互協議(MAP)による救済が利用可能となります。

UTPP制度に関する新たな運用指針がINTM489100-「移転価格-未査定移転価格利益:目次-HMRC内部マニュアル-英国政府」で公表されています。


恒久的施設

本法案の付則7は、恒久的施設への帰属利益に関する法令を改正し、国際的に合意された原則により近づけるものです。この改正では、帰属利益に関する国内規定の解釈にどのOECDの文献およびコメンタリーを参照できるかが明確にされ、国内法における帰属利益の解釈に関する不確実性が軽減されます。なお、投資マネジメントを恒久的施設の認定対象外とする制度に関して、一定の変更が加えられています。


その他の関連する予算案の動向

本法案以外で取り扱われた移転価格に関連するその他の事項は、以下のとおりです。


中規模企業の適用除外

HMRCは実施したコンサルテーションの結果を公表し、中規模企業に対する移転価格税制の適用除外は引き続き維持されることが確認されました。これによって中小企業にはさらなる確実性がもたらされました3


納税者の誤りの修正、不確実な税務処理に起因する違反の削減、および行動規範ペナルティ

英国政府は、これらの分野に関してさらに検討する意向と、コンサルテーションを実施する計画を発表しました。これらのコンサルテーションは移転価格を直接対象としたものではありませんが、移転価格は法人税の複雑な分野であるため、対象に含まれる可能性があります。特に、HMRCが2024年9月に公表し、直近では2025年12月19日に更新したコンプライアンスに関するガイドライン — 「移転価格アプローチにおける共通リスクへの対応手引き」に照らして、その可能性は高いと考えられます。


日本企業が検討すべき対応事項

英国で事業を展開する日本企業においては、特に新しい規則の多くが2026年1月1日以降に開始する会計期間から適用開始となることを踏まえ、変更点の解釈と適用を検討することが最優先となります。

英国企業は日本本社や他関連企業との間の取引について、新しい移転価格税制が適用され得るか、あるいは英国国内取引の取扱いや金融取引の分析方法などに関して、慎重な検討が必要になります。

コンプライアンスの観点からは、英国における新しい移転価格の記録に関する規則の下、年次のローカルファイルの作成に加え、今後導入されるICTSの詳細の把握や、必要なデータの準備・報告プロセスに関して事前に準備を進めることが求められます。

また、英国に拠点を有する日本企業は、新たに導入されるUTPP制度に留意し、自社のクロスボーダー取引がこれらの規則の適用範囲に含まれる可能性を検討する必要があります。

つきましては、英国における日本企業におきましても、引き続きHMRCによる今後の税制改正承認プロセスやHMRCが公開している指針の更新に注視することを推奨いたします。

巻末注

  1. HMRCコミッショナーは、英国王権(国としての統治権限:the Crown)に基づき法的権限を付与された、HMRCの上級執行機関です。
  2. この原則により、通常、英国の移転価格税制においては、独立企業原則に準拠していない取引から生じる英国税務上の便益を是正する目的でのみ自主的な調整が認められており、課税所得額の減少または損失額の増加につながる修正は基本的には認められていません。
  3. HMRCは従来どおり、中規模企業に対して移転価格調整通知を発行し、通知で指定する取決めに移転価格を適用して課税所得を計算するよう求めることができます。

お問い合わせ先

EY税理士法人

Ernst & Young Tax Co. (Japan), UK Tax Desk, Tokyo
Richard Johnston EY UK パートナー、EY Japan UK Tax Desk リーダー

Ernst & Young LLP (United Kingdom), London
Jo Stobbs パートナー
平井 恵理子 パートナー
相澤 州平 シニアマネージャー
伊藤 伸彦 シニアマネージャー

※所属・役職は記事公開当時のものです