中国、増値税(VAT)法の実施条例を公布:2026年1月1日から適用となる主要な変更点

  • 中国で初となる増値税(付加価値税、VAT)法が制定されてから1年後、その実施条例が2025年12月30日に公布された。増値税法および実施条例は、ともに2026年1月1日より発効となっている。
  • 主な変更点としては、クロスボーダー取引に関するルールの明確化、長期資産に関する新たな仕入税額控除の枠組み、そして租税回避防止規定の導入が挙げられる。
  • 企業は、仕入税額およびその控除に係る管理、増値税上の調整に係る手続き、税制優遇措置の影響について検討を進める必要がある。


エグゼクティブサマリー

中国の増値税法が2024年12月25日に可決されたことを受けて、中国国務院は2025年12月30日に中国増値税法実施条例(以下、「実施条例」)を正式に公布しました。本実施条例は、増値税法の実施に関する詳細なガイダンスを提供するもので、2026年1月1日より適用開始となります。本税務ニュースでは、中国で事業を展開する多国籍企業にとって関連性の高い主要な変更点について説明しています。


クロスボーダー取引に関する規則

消費地原則

実施条例第4条は、サービスおよび無形資産がどの時点において「中国で消費された」とみなされるかの要件を明確化しており、これは経済協力開発機構(OECD)が採用する仕向地主義と整合しています。特に、中国の企業または個人が海外現地で消費したサービスについては、国内販売とは扱われないと規定しています。これにより、実際に海外で消費されたサービスへの二重課税を防止しています。


ゼロ税率となる国境を越えた役務の提供

実施条例第9条は、ゼロ税率の対象となる国境を越えた役務の提供について、その範囲を明文化しています。対象となるのは、研究開発サービス、デザインサービス、ソフトウェアサービス、海外企業への技術移転などです。ただし、これらは「完全に海外で消費される」ことが条件となります。この「完全に海外で消費される」という文言については、今後の追加ガイダンスでさらに明確化される予定です。国境を越えた役務の提供に従事する事業者は、ゼロ税率の適用要件を充足するため、適切な契約書、役務提供場所を示す証憑およびその他補足資料の整備を徹底する必要があります。


売上に係る増値税額に関する規則の更新

混合販売の明確化

実施条例第10条では、「混合販売」(すなわち、単一の取引が複数の税率から構成される場合)の判定基準が明確化されました。構成要素の間に明確な主従関係が認められる場合、混合販売としての取引全体は主となる構成要素の税率が適用されます。最近の行政ガイダンスでは、速達サービス(税率6%)および電気自動車の充電・バッテリー交換サービス(電力販売として税率13%)にこの判定基準が適用されています。


みなし課税取引の簡素化

増値税法では、みなし課税取引の範囲が大幅に絞り込まれ、以下の3つのケースのみに限定されました。

  1. 集団福利厚生または個人消費のために使用される商品であって、自社で製造した商品または外部に製造を委託した商品
  2. 無償での商品の譲渡
  3. 無償での無形資産、不動産、金融商品の譲渡

注目すべき点として、増値税法では無償でのサービス提供(例:無利息貸付、無償賃貸)および支店・部門間での商品の譲渡をみなし課税取引の範囲として明示していません。また、新たに金融商品の無償譲渡がみなし課税取引に含まれています。したがって、無償での株式譲渡や株式交換を伴う関連会社間の取引については、慎重な検討が必要です。


仕入税額およびその控除に係る枠組み

長期資産:500万人民元の閾値

実施条例は、長期資産(固定資産、無形資産、不動産)に係る仕入税額控除について大きな変更を導入しています。現行制度では、課税事業と免税/簡易課税の適用される事業の双方で使用される資産(混合用途資産)について、仕入増値税額の全額控除が可能となっています。しかし、新しい枠組みでは以下の要件が求められます。

  • 評価額が500万人民元以下の資産:混合用途資産かどうかにかかわらず、仕入増値税額の全額控除が認められる
  • 評価額が500万人民元を超える混合用途資産:取得時に仕入増値税額の全額控除を認めるが、その後は資産の耐用年数にわたって毎年控除不可部分を按分調整する

この変更は、高額な混合用途資産について、これまでの「全額控除」から「用途割合に基づく按分」への抜本的な転換となります。なお、調整計算の方法や経過措置を含む詳細な運用指針は、今後の追加条例で示される予定です。


増値税非課税取引および仕入税額控除

実施条例第22条では、仕入税額控除が認められない新たなカテゴリーが導入されています。そのカテゴリーとは、経済的利益を生むものの課税取引の範囲外となる増値税非課税取引に供される購入となります。具体的な事例については今後の明確化を待つ必要がありますが、想定されるシナリオには、事業譲渡による収入、配当、為替差益および特定の資本取引などが含まれる可能性があります。企業は自社の収益源を精査し、仕入税額控除への影響を評価する必要があります。


ケータリングサービス等における再販売の除外

増値税法では、控除対象外であるケータリングサービス、日常生活および娯楽サービスについて、「直接消費に用いられる」という条件が追加されました。これは、再販売を目的として購入されたサービス(例:会議主催者がケータリングを外部委託する場合、プラットフォーム型事業者が飲食サービスを再販売する場合など)については、今後仕入税額控除が可能となる場合があることを意味します。このようなビジネスモデルを持つ企業は、上記のような購入が再販売を目的とすることを裏付ける書類を準備しておく必要があります。


貸付サービスの利息

実施条例第21条は、貸付利息および関連手数料に係る仕入税額控除は引き続き認めないとしつつ、注目すべき点として「暫定的に控除不可(temporarily non-creditable)」という表現を使用し、政策の定期的な見直しを義務付けています。これは、金融サービスにおける増値税額控除が今後認められる可能性を部分的に示唆するものです。


仕入増値税額の年次での調整

実施条例第23条により、仕入増値税額の年次調整を行う責任が、税務当局から納税者へと転嫁されています。一般の増値税納税者は、収益比率に基づき仕入税増値税額のうち控除対象外となる金額の按分計算を行い、翌年1月の申告期間中に年次調整を完了しなければなりません。企業は、仕入税額の按分・用途分類のための堅牢な管理体制を構築する必要があります。


一般的な租税回避防止規定

増値税法制において、一般的な租税回避防止規定(GAAR)が初めて導入されました。税務当局は、増値税の負担を軽減もしくは免除する、または税還付を増加もしくは早める「合理的な商業目的」を欠く取引について、修正を行うことができます。これは法人所得税法の枠組みを反映したものです。企業は、自社の税務プランニングが、商業的な実体および適切な文書化によって裏付けられることを確認する必要があります。


今後の展望

本実施条例は重要な実施要件の詳細を定めているものの、以下の点については今後のガイダンスによるさらなる明確化が必要とされています。

  • 長期資産に係る仕入税額控除の調整に関する詳細な運用ガイダンス
  • 仕入税額控除に影響を及ぼす非課税取引の具体的範囲
  • 「完全に海外で消費される」クロスボーダー取引の判断基準
  • 税率5%およびマージン方式など、既存の増値税優遇措置の継続

増値税法および実施条例は2026年1月1日付ですでに施行されているため、企業はこれらの変更が自社のオペレーションに与える影響、特に仕入税額控除に係る管理、クロスボーダー取引、増値税優遇措置といった領域での影響を速やかに評価する必要があります。実施条例の確実かつ網羅的な遵守のため、早期に税務専門家と連携することが推奨されます。



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