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2026年5月12日、オーストラリアのジム・チャーマーズ連邦財務相は、2026-27年度連邦政府予算案を発表しました。
本税務アラートでは、日系企業の税務上の対応に影響を及ぼす可能性がある主な税制措置を、オリジナル税務アラート(英語)から抜粋して日本語で解説しています。2026-27年度連邦政府予算案の経済および全体的な政策に関する解説はEYオーストラリアWebサイト(日本語版はこちら)をご参照ください。
2026–27年度連邦予算案には、主に2027年7月1日から適用される経過措置を含む大規模な税制措置が織り込まれています。これらの変更は、その範囲および影響の広さにおいて重要性を有するものの、多くの関係者が長年求めてきた抜本的な税制改革には及んでいません。内容としては、主に個人および信託を対象に、不動産や個人資産の保有に関する領域に重点を置いた調整にとどまっており、経済全体の生産性向上を促進する観点では限定的なものとなっています。
主な税制改正としては、連邦予算案発表後に取得される住宅用不動産について、個人、パートナーシップ、法人および大半の信託におけるネガティブ・ギアリング(借入による投資損失の損益通算)は、他の所得との相殺が認められず、将来の所得への繰越に限定されます(1年間の経過措置あり)。一方で、新築住宅および既に取得された物件については改正の対象とならず現行の取扱いが適用されます。
政府はまた、新築住宅を除く全ての資産について、キャピタルゲイン税(CGT)の50%割引制度を廃止し、1999年以前に適用されていた消費者物価指数(CPI)の変動に基づき取得原価を計算する方式へ移行する方針です(経過措置あり)。なお、従来の制度で採用されていた所得の平準化(income averaging)は適用されません。
加えて、2028年7月1日からは裁量信託に対し30%の最低税率が導入されます。これは、所得分散や30%課税の「バケット」法人受益者の活用など、税務上の優遇措置を目的とした信託の利用を抑制することを目的としたものです。また、2027年7月1日以降は、個人の所得税に適用される税率にかかわらず、全てのキャピタルゲインに対して30%の実効最低税率が適用されます。
今年度の連邦予算においては、法人よりも個人投資家や不動産分野に強く焦点が当てられています。また、政府は現時点において、生産性委員会(Productivity Commission)が提言するネットキャッシュフロー課税などの抜本的な改革や、資源セクターへの追加課税(例:ガス輸出に対する課税)の導入には踏み込んでいません。この結果、大企業にとっては経済の生産性向上を促すような広範な税制インセンティブが盛り込まれなかった点では物足りなさがあるものの、より踏み込んだ課税強化が見送られたことについては、一定の安堵感もあると考えられます。
住宅関連の制度変更が、若年層の住宅購入者、賃料および賃貸住宅の供給に与える最終的な影響については、引き続き慎重に見守っていく必要があります。過去のオーストラリアおよびニュージーランドの事例から、ネガティブ・ギアリングの制限は需給が逼迫している市場において賃料上昇の圧力となる可能性が示されています。
ベンチャーキャピタル業界および高成長企業にとっては、キャピタルゲインに対する50%割引の廃止の影響が特に懸念されます。これらの業界では取得原価が比較的低いケースが多く、指数化方式への移行による税務上のメリットは僅少で、ほとんど期待できない可能性があります。
政府は提示されている変更の影響についてテック業界およびスタートアップ業界との協議を行う方針を示しているものの、政府がCGT割引の見直しを住宅用不動産に限定せず、全ての資産に適用する判断を行った背景は明確ではありません。
個人、信託およびパートナーシップに適用されているCGTの50%割引制度は廃止され、取得原価をCPIの変動を基に計算する方式へ移行します(1985年から1999年9月21日まで適用されていた制度に類似)。さらに、2027年7月1日以降に発生する実質的なキャピタルゲインには、一定の例外を除き30%の最低税率が適用されます。これにより、所得税率が30%を下回る納税者に影響が及ぶことになります。
この変更は、2027年7月1日以降に発生するキャピタルゲインに適用され、個人、信託およびパートナーシップが少なくとも12カ月間保有する、課税対象外となる資産を除く全てのCGT資産が対象となります。また1985年以前に取得された資産に対し、同日以降に発生するキャピタルゲインも対象に含まれます。対象資産には、住宅用不動産、商業用不動産、株式を含む全てのCGT資産が含まれます。一方で、主たる居住用住宅に係るキャピタルゲインは対象外とされ、適格な低中所得者向けに賃料が抑制された住宅に対する60%のCGT割引および中小企業向けCGT優遇措置は引き続き適用されます。
予算案発表日から2027年6月30日までの間に行われるCGT資産の譲渡については、引き続き50%のCGT割引が適用されます。一方、2027年7月1日以降に取得された資産に係るキャピタルゲインは、全面的に新たな指数化方式に基づいて算定されます。
2027年7月1日以降に建設された新築住宅への投資については、50%のCGT割引または指数化方式のいずれかを選択することが可能です。ここでいう新築住宅とは、実質的に住宅供給の増加につながる物件を指し、具体的には更地に新たに建設された住宅や、既存の建物を取り壊し、より多くの住戸を擁する居住用建物に建て替えられるケースなどが挙げられます。
インフレ調整方式の下では、資産の取得原価は四半期ごとのCPIの変動に応じて計算されます。キャピタルゲインは、譲渡対価からこの再計算後の取得原価を控除することで算定されます。納付税額に対する平準化調整は行われません。
割引方式から指数化方式への変更は広範な影響を伴うものであり、その一部は以下の通りとなります。また、制度設計に当たっては、多くの重要な影響について個別に検討する必要があります。
本措置および下記のネガティブ・ギアリングの改正により、2025–26年度からの5年間で、税収は36億豪ドル増加すると見込まれています。
2026年5月12日午後7時30分(AEST)以降に取得された賃貸不動産につき、2027年7月1日以降は新築住宅を除き、賃貸損失を給与・賃金などの他の所得と相殺することはできなくなります。控除が認められない損失は将来年度に繰り越され、キャピタルゲインを含む住宅用不動産からの所得があれば相殺されます。なお新築物件については、引き続きネガティブ・ギアリングの適用が可能です。
予算案発表前から保有されている投資用不動産(契約締結済みで未決済のものを含む)については既存ルールが適用され、本変更の適用対象外となり、引き続きネガティブ・ギアリングによる税務上のメリットを享受することが可能です。一方、予算案発表日から2027年6月30日までの間に取得された物件については、この期間中はネガティブ・ギアリングが適用されますが、2027年7月1日以降は適用されません。
本変更は、個人、パートナーシップ、法人および大半の信託に適用されます。一方で、広く保有される信託(例:多くの管理型投資信託)およびスーパーアニュエーション・ファンド(セルフ・マネージド・スーパー・ファンド〈SMSF〉を含む)は適用対象外となります。また、商業用不動産や株式などのその他の資産クラスについて変更はありません。
政府は、法人に対する損失の繰戻還付制度を再度導入する方針です。2026年7月1日以降に開始する事業年度から、当該年度に計上された法人税上の損失は、直近2年のいずれかの所得年度の課税所得と相殺するために繰り戻すことが可能となり、当該年度に納付した法人税還付を受けることができるようになります。
この制度の適用を受けるためには、以下の要件を満たす必要があります。
政府はまた、小規模なスタートアップ企業に対する損失還付制度を導入する方針です。2028年7月1日以降に開始する事業年度から、対象となるスタートアップ企業(年間連結売上高1,000万豪ドル未満)は、事業開始後最初の2年間のいずれかで税務上の損失を計上した場合、還付可能な税額控除の適用を受けることが可能となります。なおこの還付額は、当該損失年度におけるフリンジベネフィット税(FBT)およびオーストラリア従業員給与に対するPAYG源泉徴収額を上限とします。
年間連結売上高が1,000万豪ドル未満の企業を対象とした、現行の20,000豪ドルまでの資産を即時費用化できる暫定措置(2023年7月1日から2026年6月30日までに取得した資産に適用)が、今後恒久措置となります。既存の中小企業向け加速償却ルール(簡易減価償却プールを含む)は、取得価額が20,000豪ドルを超える資産について引き続き適用されます。
政府は、非固定型(裁量)信託に影響を与える重要な変更を発表しました。2028年7月1日以降、裁量信託を通じて得られる所得(キャピタルゲインを含む)は、原則として30%の最低税率で課税されることになります。これは、所得分散や30%課税の「バケット」法人受益者の税務上の優遇を目的とした信託の利用を防ぐためのものです。
本措置は施行まで一定の猶予期間が設けられているものの、既に複雑な信託課税の仕組みに対してさらに大きな変更をもたらすものであり、ファミリービジネス、投資家、専門職法人を含む幅広い民間事業者に関連するものとなります。
実務上は、裁量信託の所得(およびキャピタルゲイン)は、分配方法にかかわらず、30%未満の税率で課税されなくなります。
政府は、2028年7月1日から3年間にわたり適用される課税繰延措置の拡充を発表しており、一定の条件の下で、裁量信託からの固定型信託や法人などへの再編を促すことを目的としています。詳細なルールは未公表ですが、施行前に既存のストラクチャーを見直す際の税務上の障壁を軽減することが意図されています。現時点で直ちに対応が必要というものではありませんが、本変更は中長期的な税務および組織構造の検討において重要な論点となります。
以下の信託は、30%の最低税率の適用対象から除外されることが想定されています。
政府はFBTにおけるEVの取扱いを見直し、EV普及を促進するインセンティブを維持しつつ、より価格帯の低い車両に重点を置く方針です。
この変更は、既存および新規の契約に適用され、3年間にわたって段階的に導入されます。
なお、2026–27年度のFBT課税年度について変更はなく、対象となるEVに対する現行のFBT全額免除は引き続き維持されます。
政府は、アーリーステージおよび成長段階の企業への支援強化と、資金面における規模拡大を容易にするため、ベンチャーキャピタル税制優遇を拡充する方針です。2027年7月1日に、Venture Capital Limited Partnership(VCLP)およびEarly Stage Venture Capital Limited Partnership(ESVCLP)制度における主要な適格基準が引き上げられます。これにより、投資家は、税制優遇を維持しつつ、より規模が大きく成熟した企業への投資が可能となります。
VCLPにおける「許容対象企業価値(permitted entity value)」は2億5,000万豪ドルから4億8,000万豪ドルへ、ESVCLPにおける同基準は5,000万豪ドルから8,000万豪ドルへそれぞれ引き上げられます。また、ESVCLPの非課税対象資産の上限は4億2,000万豪ドルへ、ファンドの最大規模は2億7,000万豪ドルへ引き上げられます。これらの変更は、新規投資(フォローオン投資を含む)について、新規ファンドおよび既存ファンドの双方に適用されます。
政府はR&D税額控除について、支援の重点化と制度の簡素化を目的とした改正を実施する方針です。本改正は2028年7月1日から適用され、主な内容は以下の通りです。
既存住宅に対する外国人による購入の一時的な禁止措置は、2029年6月30日まで延長されます。
政府は、2026年1月5日以降に開始する事業年度に適用されるOECD/G20のBEPS包摂的枠組みにおいて合意されたSide-by-Sideパッケージを実施するため、オーストラリアのグローバルミニマム課税および国内ミニマム課税の関連法制を改正する予定です。
本パッケージには、主として、新たな簡易実効税率セーフハーバー、暫定的な国別報告(CbCR)セーフハーバーの適用期間の1年間延長、新たな実質基準に基づく税制優遇措置セーフハーバー、ならびにSide-by-Sideシステムに関連する2つのセーフハーバー措置が含まれます。
既に発表されている通り、政府は2026年4月1日から3カ月間、ほとんどの燃油税を50%引き下げました。これにより、ガソリンおよびディーゼルの税率は1リットル当たり32セントとなります。また、大型車両に対する道路利用料金についても、これまでの1リットル当たり32.4セントからゼロへ引き下げられています。
新たに250豪ドルの「Working Australians Tax Offset」が導入され、2027–28年度の所得税から適用されます。この控除は、給与・賃金や個人事業主の事業所得など、個人の労働による所得にかかる税負担を軽減するものです。この控除により、労働所得に対する実質的な非課税限度額は、約1,800豪ドル引き上げられ、最大で19,985豪ドル(低所得者税額控除の適用対象者については最大24,985豪ドル)となります。
本措置により、2025–26年度からの5年間で、税収は約64億豪ドル減少すると見込まれています。
既に成立している個人所得税の減税(2026年7月1日から税率16%を15%に引き下げ、2027年7月1日から15%を14%に引き下げ)に加えて、本税額控除が適用されます。
居住者向け個人所得税率
| 居住者向け税率(%) | 2026–27年の課税所得区分(豪ドル) | 2027–28年以降の課税所得区分(豪ドル) |
| 0% | $0-$18,200 | $0-$18,200 |
| 14% | - | $18,201-$45,000 |
| 15% | $45,001-$135,000 | $45,001-$135,000 |
| 37% | $135,001-$190,000 | $135,001-$190,000 |
| 45% | $190,000超 | $190,000超 |
*税率には、メディケア税(2%)は含まれません。
また、政府は2025年7月1日から、単身者、家族、高齢者および年金受給者向けのメディケア税に関する低所得者向けの基準値を見直すことを発表しています。
低所得者控除(Low Income Tax Offset)について変更はありません。
なお、2025年の連邦選挙において労働党が発表した、労働関連費用に対する1,000豪ドルの標準控除(2026年7月1日から適用予定)については、現時点ではまだ法制化されておらず、2026年4月に財務省から意見募集のための法案草案(Exposure Draft)が公表されています。
*本記事は2026年5月13日付EY Oceania Tax Alert「Australia’s 2026-27 Federal Budget Tax Alert」を翻訳したものとなります。英語版と翻訳版に相違がある場合は英語版が優先されます。
EY税理士法人
EY Australia, Japan Business Services
Patrick Giles-Jones パートナー、EY Oceania Japan Business Services Leader
Michael Hennessey パートナー
井上 恵章 アソシエートパートナー
内田 ジェシカ ディレクター
※所属・役職は記事公開当時のものです
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