EYの事例

成長を生むAI変革──大手ビールメーカー事例に学ぶトランスフォーメーションの本質とは

Asahi Europe & Internationalは、EYおよびMicrosoftと連携し、マネージドサービスモデルを活用して販促投資の最適化ルールを抜本的に見直しました。



EY Japanの視点

AI活用を事業成果へ導く継続的な変革

本事例は、AI活用を単なるツール導入にとどめず、テクノロジー、人材、業務プロセスを横断した変革を通じて、販促領域の意思決定を高度化した好例です。買収を重ねた複雑な事業環境の下、Microsoft Azureの機械学習機能とEYの収益成長管理(RGM)の知見を組み合わせ、要因分析から施策の推奨、効果予測までを一貫して支える仕組みを構築しました。

注目すべきは、成果ベースのマネージドサービスにより、導入後も利用現場との対話を重ね、継続的な改善を図っている点です。AIの価値を持続的に引き出すには、技術の導入だけでなく、データ基盤、業務への定着、環境変化に対応する運用体制を一体として設計することが重要です。

EYは、Microsoftとのアライアンスと業務・テクノロジー双方の知見を生かし、構想から実装、運用・改善まで一貫して支援します。


EY Japanの窓口
松本 剛
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 デジタル・エンジニアリング リーダー/マイクロソフト リーダー パートナー

平川 清二
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 デジタル・エンジニアリング シニアマネージャー



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The better the question

グローバルビールメーカーは、どのようにして事業拡大で生じた課題を変革のチャンスへ変えたのか?

大胆な成長戦略を実現するためには、従来型の業務運営モデルから脱却することが必要でした。

およそ150年の歴史に支えられたブランドを誇る企業だからこそ、変革へのアプローチは慎重になります。2021年当時、Asahi Europe & International(以下、Asahi)は大きな成長を描く将来ビジョンを掲げていた一方で、それをどのように実現するか──その方法の検討が、同社CFOのAndrew Bailey氏、Head of Emerging Technologies のBhuvan Panwar氏、およびGroup Revenue Management DirectorのMatthew Jipps氏を含む経営陣が抱える重要課題でした。

日本を本拠地とするAsahiは、欧州8カ国と米国を含む9カ国で19カ所の醸造所を展開し、事業拡大期を迎えていました。欧州での存在感を高め、ノンアルコール飲料やプレミアム飲料など、変化する顧客ニーズに応えるために、積極的な企業買収(以下、M&A)を相次いで実施しました。

動画:AsahiにおけるAI変革について、AsahiのBhuvan Panwar氏およびEYのJessie Qinによる解説をご覧ください。

M&Aは成長機会をもたらすと同時に、新たな課題も生み出しました。Asahiグループ傘下となった新規事業1つ1つにおける業務プロセスの違い、SAPシステムの個別カスタマイズ、そしてデータサイロによって、買収効果を損ないかねない事態が生じていました。また、他のFMCG(消費財メーカー)企業と同様に、同社でも世界的な不確実性、消費者期待の変化、法規制の厳格化という向かい風にも直面していました。

Asahiの経営陣は、1つ1つの個別課題に対処するのではなく、全社変革に着手することを決断しました。アジャイルなデジタル駆動型オペレーションモデルを核としたレジリエンスと組織力を高め、次のステージへ向かうことを目指しました。「私たちは、Asahiを先進的な企業として確立したいと考えていました。そのためには、この変革ジャーニーを共にする適切なパートナーが必要でした」と、AsahiのPanwar氏は述べています。

変革には、テクノロジー、人材、プロセスを横断した一体的な取り組みが必要です。そこでAsahiは、SAPやMicrosoftを含む幅広いエコシステム・アライアンスパートナーと円滑に連携できるEYのチームに協力を求めました。

プロジェクト発足に当たり、「EYは経験と外部有識者としての視点を、Microsoftは先端技術を、Asahiは変革への強い意志を持ち寄りました」と、Asahiとの取り組みにおけるEY Engagement LeaderであるAlex Hanmerは言及しています。

プロジェクト開始初日からAsahiが持つ変革アジェンダを3社の関係者で共有しました。 「この実現に向け、私たちはエコシステムとの協働に重点を置きました。共通の目標とビジョンがあったため、全員がAsahiの成功に向けて最善を尽くすことができました」と、EY Client Serving Partner for Asahi Europe & International であるJessie Qinは述べています。

EYのチームとの継続的かつ成果創出を重視したマネージドサービス型のパートナーシップを構築することは、同社にとって自然な選択でした。単発型のプロジェクトではなく、長期にわたる変革ジャーニーを戦略的な協働者と並走できるという自信を経営陣にもたらすことができました。

「EYは取締役会のアドバイザーとして、現状から変革の次の段階へ、特にAIを活用してどのように進むべきかを当社と議論してきました」と、Panwar氏は説明しています。

 

同氏によれば、EYとの変革は、単なるテクノロジー導入ではなく、変化を先取りしながら事業目標に集中できるという確信を経営陣にもたらしました。

テクノロジーは非常に速いスピードで進化しています。企業は、自社がどのように事業を運営したいのかを常に見直し続けなければなりません。EYや他のエコシステムパートナーと継続的に取り組むことで、私たちは事業を進化させ続けることができます。
Rows of copper fermentation tanks seen inside a brewery
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The better the answer

マネージドサービスモデルが、能力向上と変革への確信を加速する

自律的な組織により、迅速で戦略的な意思決定が可能となり、売上増と信頼の醸成につながりました。

初期フェーズにおける変革のターゲットとなったのは、Revenue Growth Management(RGM)でした。収益成長管理はFMCG企業にとって生命線であり、とりわけTrade Promotion Optimization(TPO、販促最適化)が重要です。「さまざまな投資判断が売上に与える影響を正確に予測できることは、競争優位の鍵となります」と、Bailey氏は述べています。タイムリーにTPOからインサイトを得ることで、企業は新たなトレンドや突発的な事象に迅速に対応できます。

しかし、こうしたデータを収集し分析することは、ますます難しくなっています。需給の変動は大きくなり、消費者行動は急速に変化し、販促キャンペーンも複雑化しています。

動画:AsahiとEYのチームが、どのように販促活動を変革し、より賢く迅速な意思決定ができるようになったのかご覧ください。

Asahiのチームは変化に対応するため最善を尽くしていたものの、手作業中心のプロセスがインサイト抽出の妨げになっていました。「マーケットごとにスプレッドシートを使って作業しており、それ自体は機能していましたが、多くの時間と人手がかかっていました。プロセスをスピードアップし、より早く成果につなげ、質の高い対話を実現することに大きな可能性があったのです」と、Jipps氏は述べています。

「販売促進活動における効率性や効果がわずかに高まるだけでも、大きなリターンを得られます」と、Bailey氏は付け加えています。

Asahi とEYのチームは共同で、AIを活用したTPOツールを設計しました。同ツールは、3つの連動するインテリジェント機能、つまりRGMデータを分析して売上・販促効果の要因を明らかにする記述分析、そのインサイトに基づいて推奨策や販売計画を導き出す処方分析、販売活動が収益に与える影響を予測する予測分析の3つの機能を備えています。EYのRGMフレームワークを基盤とし、Microsoft Azureの機械学習機能を活用して構築された同ツールは、Asahiが展開する各市場のニーズに対応できるよう設計されており、カスタマイズされたSAP環境とも容易に統合できます。

新たなツールの特長は、高度に洗練された分析機能にあります。また、EYが提供する消費財向けコマーシャル分析プラットフォームも活用しており、「複雑で多層的なデータセットを組み合わせ、さまざまな要因が売上や販促費の効果にどう影響するかを提示できます。POSデータに加え、天候パターン、取引上の制約、地域差なども取り込み、AI、自動化、アナリティクスを用いて、予測やビジネス上の意思決定の在り方を根本から変革しました」と、Hanmerは述べています。

EY Studio+に所属するデザインのプロフェッショナルらは、日常的な利用を促す直感的なインターフェースの設計を支援しました。「ツールの価値は、それを使う人によって決まります。ユーザーが最大限に活用する方法を理解し、いつ最適化や進化が必要なのかを見極めることが重要です。これは、ツールと人の共生です」と、Hanmerは言及しています。

AsahiとEYのチームは、継続してツールを改善しました。こうした継続的な開発へのコミットメントを、Bailey氏は重要な成功要因の1つに挙げています。この経験は、緊密なパートナーシップの重要性を示しており、「AsahiとEYの関係はトランザクション型ではありません。課題に向き合い、協働を促すオープンな対話に基づいています」と、Qinは述べています。

Jipps氏は、より深いインサイトを迅速に得られるようになったことで、状況が大きく変わったと語り、「自動化により、大規模な販促だけでなく、すべての販促を確認できます。何がうまくいっていて、何がそうでないかをすぐに把握できます。テクノロジーが、商品の店頭配置から競合の動きまで、あらゆるデータを統合し、成果を生む要因は何かを特定できるようになりました。記述分析、処方分析、そして予測モデリングがすべて高速に実行できるのです。これらは、スプレッドシートでは不可能でした」と、付け加えています。

セールスチームは、すぐに行動に移せるインサイトへ容易にアクセスできるようになりました。その一例がルーマニアです。

「大小さまざまな数百件の販促施策を確認し、24時間以内に分析結果と顧客に提示できる推奨事項の一覧を作成できました。こうした成果が見え始めると、取り組みは一気に広がり、本格的な浸透につながっていきました」と、Jipps氏は述べています。

Panwar氏は、紙のバウチャーをローコード/ノーコードアプリケーションでデジタル化したポーランドの事例を紹介しています。

「Microsoftのテクノロジーを基盤とする仕組みにより、これまで紙のバウチャーを小売店へ持参していたセールスチームの担当者の負担を軽減できました。今ではその必要はありません。ボタンをクリックするだけで、バウチャーは小売店、卸売業者、そして監査・確認を行う財務チームへと連携されます」

同氏によれば、セールスチームにもたらされた効果は、事業全体にも波及しています。「セールスチームがより多くの情報を得られるようになると、意思決定は速くなり、顧客との交渉もより効果的になります。これは、顧客と当社双方の効率性と成長を高め、コスト最適化にもつながります」

2025年までに、このAIオプティマイザーツールは欧州5つのマーケットで採用され、市場リーダーとしての位置付けを支える基盤となりました。ツールの日次利用は前年比60%増加し、これによりセールスチームが仕事の質を高め、成果創出につながるものと考えていることを示しています。

 

本当の価値は利益向上だけにとどまりません。「効率化について語る人は多いですが、私にとってそれは出発点に過ぎません。テクノロジーは常に効率性を高められるからです。もっと重要なのは、このような優れたテクノロジーを使って、どのように事業を再設計し、従業員や株主にとってより良い機会を生み出せるかにあるのです」と、Qinは述べています。

このテクノロジーは、商品の店頭配置から競合の動きまで、あらゆるデータを統合し、成果を生む要因は何かを特定できるようになりました。
worker on the bottling line inside a brewery
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The better the world works

競争優位を生み出すプラットフォームとは

強固なデータ基盤により、Asahiは新たなビジネス機会をより的確に捉えられるようになり、市場の変化や新たな機会に迅速に対応できる体制を実現しました。

変革による具体的な成果は、新システムへの信頼を高め、変化に伴う懐疑心を乗り越える助けとなりました。

「初期段階で抵抗が生じることもあります」と、Bailey氏は認めています。「人々は、結果は本当にツールによるものではない、あるいは自分たちのやり方が優れていると考えることがあります。しかし、社員が使い込むほど、ツールに対する信頼も高まります。それが次の市場への展開を後押しします。1つの市場だけで優れているのではなく、どの国・地域でも一貫して高い効果を上げることを目指しています」と、同氏は述べています。

Jipps氏は、同じようにAI変革に取り組むリーダーに向けて、3つの示唆を述べています。「第1に、自社の現状を正しく把握することから始めるべきです。私たちは意欲的に、記述分析と処方分析を同時に導入しました。もし、再度実施するのであれば、まずは記述分析から始め、分析結果への信頼を高めてから進めてもよいかもしれません」

「第2に、データに関する課題への対応は想像以上に難しいということです。自社のデータに問題があるだけでなく、これまで使っていたデータが必ずしも完全ではなかったことに気付くことがあるのです」

「第3に、変革のスピードは、事業のスピードよりも遅れがちです。18カ月で達成できれば素晴らしいことですが、多くの複数拠点にまたがるプロジェクトは3年を要します。事業側には非常に長く感じられる可能性があります。その緊張感と期待値を管理し、変革ジャーニーにステークホルダーの関与を維持することが必要です」

 

EYのチームはAsahiと緊密に連携し、ツールの運用と継続的な改善を進めています。さらに現在、Microsoftと共に、このデータ基盤を活用し、ツールの機能を他の事業領域へ拡張する余地がないか検証しているところです。

こうして、次に新たな取り組みに事業部門を巻き込む際にも、従業員と共に前進できるという自信が生まれました。

さらに重要なのは、Asahiの経営陣が、成長を維持し、変化する市場環境に対応し、大胆な目標を実現するための自信、能力、協働パートナーを得たと実感していることです。

「私たちは成功を収めたことで、確信が生まれました。次に新たな取り組みに事業部門を巻き込む際にも、従業員と共に前進できるという自信が生まれました」と、Bailey氏は述べています。

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