EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 鎌田 光蔵
2024年9月に公表された「リースに関する会計基準」(以下「本会計基準」という。)及び「リースに関する会計基準の適用指針」(以下「本適用指針」という。また、以下本会計基準と本適用指針を合わせて「本会計基準等」という。)のうち、「リースの識別」について、具体的な事例を用いて解説します。
(※)本会計基準等における「リースの識別」の判断においては、「借手」および「貸手」という用語を使用せずに、「顧客」および「サプライヤー」という用語を使用しています。「リースの識別」の判断の段階は、契約がリースを含むか否かを判断する段階であり、契約がリースを含まない場合があるためです(本適用指針BC9項)。ただし、本稿の一部では、理解のために、便宜上「サプライヤー(貸手)」、「顧客(借手)」と表記しています。
本会計基準等における「リース」の定義およびリースの識別に関する定めの概要については、新リース会計基準(リースの識別)の解説-第1回:総論 に記載しています。
具体的には、以下のフローチャートに沿って判断します。
図表1 リースの識別に関するフローチャート
契約にリースが含まれるか否かの判定にあたっては、「特定された資産」と「支配」の要件が満たされているかについて、実務上の検討課題となります。これらの要件が満たされる場合、契約にリースが含まれることになります。本稿では、主に「特定された資産」について主眼を置いた事例について解説し、「支配」については、新リース会計基準(リースの識別)の解説-第3回:事例解説(特定された資産の使用の「支配」)において解説しています。
資産は、通常は契約に明記されることにより特定されます。しかし、資産が契約において明記されている場合であっても、下記2つの場合においては、資産が特定されていないと判定されます。
① サプライヤー(貸手)が実質的な入替権を有している(本適用指針第6項)
② 当該資産が物理的に区分可能ではなく、資産の稼働能力の一部分である(本適用指針第7項)
①については、「1.サプライヤー(貸手)が実質的な入替権を有しているか」において、②については、「2 .稼働能力部分が特定された資産に該当するか」において、事例を用いて解説します。
サプライヤー(貸手)が実質的な入替権を有している場合は、「特定された資産」に該当しません(本適用指針第6項)。具体的には、以下のいずれも満たすときは、「特定された資産」に該当せず、契約にリースが含まれていないことになります。
以下具体的な事例を用いて、契約にリースが含まれるか否か判定を行います。
※事例では、上記2要件のほか、「支配」(本適用指針第5項)の要件についても、併せて判定しています。
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資産が特定されていないケース |
資産が特定されているケース |
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前提条件 |
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結論 |
サプライヤーであるB社が貨物トラックについて実質的な入替権を有しているため、資産が特定されていないことから、A社及びB社は契約にリースが含まれていないと判断します。 |
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A 資産が特定されているか
(①もしくは②がNOの場合、資産が特定されている)
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資産が特定されていないケース |
資産が特定されているケース |
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① サプライヤー(貸手)が当該資産を他の資産に代替する実質上の能力を有しているか |
B社(サプライヤー)は、複数の貨物トラックを有しており、A社(顧客)の承認なしに貨物トラックを入れ替えることができるため、B 社(サプライヤー)は、使用期間全体を通じて資産を他の資産に代替する実質上の能力を有しています。 |
NO (該当しない) |
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② 資産を代替する権利の行使によりサプライヤー(貸手)が経済的利益を享受するか |
B社(サプライヤー)は輸送する商品の日程及び内容に応じて、どの貨物トラックを使用するかを決定することで、業務の効率化を図ることができます。つまり、B社(サプライヤー)は貨物トラックを他のものに代替することで、経済的利益を享受できます(B社(サプライヤー)は貨物トラックを代替することからもたらされる経済的利益が、代替することから生じるコストを上回るように決定できます)。 |
サプライヤーが使用期間全体を通じて当該資産を他の資産に代替する実質上の能力を有していない(①の要件を満たさない)ため、資産が特定されていることから、当事例では判断を行っていません。 |
B 使用を支配する権利が移転しているか
(➂および④がYESの場合、使用を支配する権利が移転している)
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資産が特定されていないケース |
資産が特定されているケース |
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③ 顧客(借手)が資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを得る権利を有するか |
①、②の判断過程において、「資産が特定されていない」と判断したため、契約にリースが含まれていないことから、当事例では判断を行っていません。 |
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④ 顧客(借手)が資産の使用を指図する権利を有するか |
①、②の判断過程において、「資産が特定されていない」と判断したため、契約にリースが含まれていないことから、当事例では判断を行っていません。 |
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上記事例をフローチャートに沿って示すと、以下のようになります。
図表2 資産が特定されていないケース
図表3 資産が特定されているケース
また、サプライヤー(貸手)に実質的な入替権があり、「資産が特定されていないケース」を図に表すと、<図表4>のとおりとなります。
図表4 サプライヤー(貸手)に実質的な入替権がある場合
物理的区分可能性の判定において、顧客(借手)が使用することができる資産が物理的に別個のものではなく、資産の稼働能力の一部分である場合「特定された資産」に該当しません。ただし、以下いずれも満たす場合は「特定された資産」に該当します(本適用指針第7項)。
以下具体的な事例を用いて、契約にリースが含まれるか否か判定を行います。
※事例では、上記2要件のほか、「支配」(本適用指針第5項)の要件についても、併せて判定しています。
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資産が特定されていないケース |
資産が特定されているケース |
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|---|---|---|
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前提条件 |
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結論 |
顧客が使用できるのはガスの貯蔵能力の一部であり、資産が特定されていないため、A社及びB社は契約にリースが含まれていないと判断します。 |
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A 資産が特定されているか
(①および②がYESの場合、資産が特定されている)
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資産が特定されていないケース |
資産が特定されているケース |
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① 顧客(借手)が使用することができる資産の稼働能力が、当該資産の稼働能力のほとんどすべてか |
NO (該当しない) |
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② 顧客(借手)が当該資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有しているか |
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YES (該当する) |
B 使用を支配する権利が移転しているか
(➂および④がYESの場合、使用を支配する権利が移転している)
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資産が特定されていないケース |
資産が特定されているケース |
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③ 顧客(借手)が資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを得る権利を有するか (本適用指針第5項(1)) |
①、②の判断過程において、「資産が特定されていない」と判断したため、契約にリースが含まれていないことから、当事例では判断を行っていません。 |
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④ 顧客(借手)が資産の使用を指図する権利を有するか (本適用指針第5項(2)) |
①、②の判断過程において、「資産が特定されていない」と判断したため、契約にリースが含まれていないことから、当事例では判断を行っていません。 |
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上記事例を図に示すと、<図表5>のとおりとなります。
図表5 稼働能力部分が特定された資産に該当するか
一見するとリースに該当しないような契約であっても、条件によっては、契約にリースが含まれる場合が想定されることから、実態に基づき個別に判断することが必要となります。賃貸借契約だけでなく、従来、利用料、使用料、業務委託料、サービス料等で処理されていた契約についても、契約にリースが含まれるか否か留意する必要があります。
新リース会計基準(リースの識別)の解説