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EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 鎌田 光蔵
2024年9月に公表された「リースに関する会計基準」(以下「本会計基準」という。)及び「リースに関する会計基準の適用指針」(以下「本適用指針」という。また、以下本会計基準と本適用指針を合わせて「本会計基準等」という。)のうち、「リースの識別」について解説します。
本会計基準等におけるリースの識別に関する定めは、リースの定義に関する定めと合わせて、借手が貸借対照表に計上する資産及び負債の範囲を決定するものであることから、国際的な会計基準との整合性を確保するためには、リースの識別に関する定めについて、IFRS第16号との整合性を確保する必要があるとされています(本会計基準BC30項)。
本会計基準等における「リース」の定義及びリースの識別に関する定めは<図表1>のとおりです。
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本会計基準等における「リース」の定義 |
特定された資産の使用期間全体を通じて、次の(1)及び(2)のいずれも満たす場合、当該契約の一方の当事者(サプライヤー)(※)から当該契約の他方の当事者(顧客)(※)に、当該資産の使用を支配する権利が移転している
(1)顧客が、特定された資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有している |
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(※)本会計基準等における「リースの識別」の判断においては、「借手」及び「貸手」という用語を使用せずに、「顧客」及び「サプライヤー」という用語を使用しています。「リースの識別」の判断の段階は契約がリースを含むか否かを判断する段階であり、契約がリースを含まない場合があるためです(本適用指針BC9項)。ただし、本稿では、理解のために、便宜上「サプライヤー(貸手)」、「顧客(借手)」と表記しています。
したがって、契約にリースが含まれるか否かの判定にあたっては、
図表2 契約にリースが含まれるか否かを判定するにあたっての要件
先に述べたように、契約にリースが含まれるか否かは「特定された資産」と「支配」の2要件が満たされているか否かがポイントとなります。次に、当該「特定された資産」と「支配」に関し、本会計基準等では具体的にどのような定めが置かれているのか、確認していきます。
資産は、通常は契約に明記されることにより特定されます。しかし、資産が契約において明記されている場合であっても、下記2つの場合においては、資産が特定されていないと判定されます。
上記要件を図に表すと、<図表3>のとおりとなります。
図表3 「特定された資産」か否かを判定するにあたっての要件まとめ
通常、資産は契約に明記されることにより特定されますが、資産が契約に明記されている場合であっても、一定の状況下においては、サプライヤー(貸手)が当該資産を他の資産に代替する実質的な権利を有しており、当該資産は「特定された資産」に該当しないとされます。具体的には、<図表4>のいずれも満たすときには、サプライヤー(貸手)が実質的な入替権を有しており、「特定された資産」に該当しないことになります。
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実質的な入替権を有しているか否かの判定基準 |
① サプライヤー(貸手)が、使用期間全体を通じて当該資産を他の資産に代替する実質上の能力を有している |
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端的に言えば、サプライヤー(貸手)が資産を別のものに入れ替える能力があり、かつ、入れ替えることに関し経済的メリットがあるか否か、ということになります。
例えば、以下のケースを図に表すと、<図表5>のとおりとなります。
図表5 サプライヤー(貸手)に実質的な入替権がある場合
資産が特定されているかどうかは、物理的に区分可能かどうか、という観点からも判定されます。具体的には、<図表6>のとおりとなります。
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物理的区分可能性に関する判定基準 |
① 顧客(借手)が使用することができる資産が物理的に別個のものではなく、資産の稼働能力の一部分である場合
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顧客(借手)が資産を使用しているものの、顧客(借手)が使用することができる当該資産が物理的に別個のものではない場合(稼働能力のほとんどすべてを使用する場合を除く)は、「特定された資産」にあたらないことになります。
上記<図表6>における②の要件を満たしており、資産が特定されているケースと、②の要件を満たさず、資産が特定されていないケースを図に表すと、<図表7>のとおりとなります。
図表7 稼働能力部分が特定された資産に該当するか
特定された資産の使用を「支配」する権利が顧客(借手)に移転しているかを判定するためには、以下のいずれも満たす必要があります。
上記要件を図に表すと、<図表8>のとおりとなります。
図表8 資産の使用を支配する権利が移転しているか否かの判定にあたっての要件まとめ
上記のうち、特定された資産の使用を指図する権利を顧客(借手)が有しているか否かに関し、本適用指針第8項では<図表9>のとおり定められています。
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特定された資産の使用を指図する権利を顧客(借手)が有しているか否かの判定基準 |
以下のいずれかの場合 |
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資産の使用から得られる経済的利益に影響を与える資産の使用方法を指図する権利を、顧客(借手)が有しているのか、それともサプライヤー(貸手)が有しているのかによって、特定された資産の使用を「支配」する権利が顧客(借手)に移転しているかどうかの結論が変わってきます。当該権利を顧客(借手)が有している場合は、「支配」が顧客に移転していることとなり、反対にサプライヤー(貸手)が有している場合は、移転していないこととなります(本適用指針第8項(1))。
※資産が特定されており、顧客(借手)が指図権を有し、経済的利益(本適用指針第5項(1))の要件も満たしている場合、当該契約はリースを含みます。
例えば、以下のケースを図に表すと、<図表10>のとおりとなります。
図表10 顧客(借手)が資産の使用方法を指図する権利を有している場合
契約の中には、資産の使用を指図する権利を顧客(借手)とサプライヤー(貸手)のどちらが有しているか不明瞭な場合があります。このような状況においては、使用から得られる経済的利益に影響を与える資産の使用方法に係る決定が事前になされていることを前提として、以下に基づいた判定が行われます(本適用指針第8項(2))。
① 資産を稼働させる権利
資産を稼働させる権利を顧客(借手)のみが有している状況においては、顧客(借手)は、当該資産を顧客(借手)自身で稼働、または第三者に指図のうえ稼働させることが可能となります。本ケースにおいては、顧客(借手)が当該資産の使用を指図する権利を有しているとされ、特定された資産の使用を「支配」する権利が顧客(借手)に移転していることになります。
② 資産の設計
顧客(借手)が資産の設計にかかわることで、使用期間にわたる当該資産の使用方法が事前に決定されているケースがあります。このようなケースにおいては、顧客(借手)が当該資産の使用を指図する権利を有しているとされ、特定された資産の使用を「支配」する権利が顧客(借手)に移転していることになります。
※①、②ともに、資産が特定されており、経済的利益(本適用指針第5項(1))の要件を満たしている場合、当該契約はリースを含みます。
例えば、以下のケースを図に表すと、<図表11>のとおりとなります。
図表11 使用方法が顧客の設計によって事前に決定されている場合
これまで述べてきたとおり、本会計基準等においては、現行リース基準には定めのなかった「リース」の判定に関するガイダンスが定められており、その内容も複雑となっています。フローチャートで示すと<図表12>のとおりとなります。
図表12 リースの識別に関するフローチャート
一見するとリースに該当しないような契約であっても、条件によっては、契約にリースが含まれる場合が想定されることから、実態に基づき個別に判断することが必要となります。賃貸借契約だけでなく、従来、利用料、使用料、業務委託料、サービス料等で処理されていた契約についても、契約にリースが含まれるか否か留意する必要があります。
また、新リース会計基準(リースの識別)の解説-第2回:事例解説(特定された資産)、及び第3回:事例解説(特定された資産の使用の「支配」)において具体的な事例も交えて解説していますので、併せてご覧ください。
新リース会計基準(リースの識別)の解説