新リース会計基準(リースの識別)の解説 第3回:事例解説(特定された資産の使用の「支配」)

EY新日本有限責任監査法人
公認会計士 鎌田 光蔵


Ⅰ. はじめに

2024年9月に公表された「リースに関する会計基準」(以下「本会計基準」という。)及び「リースに関する会計基準の適用指針」(以下「本適用指針」という。また、以下本会計基準と本適用指針を合わせて「本会計基準等」という。)のうち、「リースの識別」について、具体的な事例を用いて解説します。

  • 本会計基準等において契約にリースが含まれるか否かは「特定された資産」と「支配」の2要件が満たされているか否かがポイントとなります。
  • 「特定された資産」と「支配」の要件が満たされていると判断する場合、現行の企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」によりリースとして会計処理されていなかった契約において、リースが含まれると判断される点に留意が必要です。
  • 資産の使用を支配する権利が顧客(借手)(※)に移転しているかどうかについては、顧客(借手)による経済的利益の享受および顧客(借手)が指図権を有するかどうかがポイントとなります。

(※)本会計基準等における「リースの識別の判断」においては、「借手」および「貸手」という用語を使用せずに、「顧客」および「サプライヤー」という用語を使用しています。リースの識別の判断の段階は、契約がリースを含むか否かを判断する段階であり、契約がリースを含まない場合があるためです(本適用指針BC9項)。ただし、本稿の一部では、理解のために、便宜上「サプライヤー(貸手)」、「顧客(借手)」と表記しています。  


Ⅱ. 「リース」の定義の概要

本会計基準等における「リース」の定義およびリースの識別に関する定めの概要については、新リース会計基準(リースの識別)の解説-第1回:総論 に記載しています。

具体的には、以下のフローチャートに沿って判断します。

図表1 リースの識別に関するフローチャート

図表1 リースの識別に関するフローチャート

Ⅲ. リースの識別に係る事例解説

契約にリースが含まれるか否かの判定にあたっては、「特定された資産」「支配」の要件が満たされているかについて、実務上の検討課題となります。これらの要件が満たされる場合、契約にリースが含まれることになります。本稿では、主に「支配」について主眼を置いた事例について解説し、「特定された資産」については、新リース会計基準(リースの識別)の解説-第2回:事例解説(特定された資産)において解説しています。

以下2要件をいずれも満たす場合、特定された資産の利用を「支配」する権利が顧客(借手)に移転していると判定されます。

① 顧客(借手)が、使用期間全体を通じて特定された資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有している(本適用指針第5項(1))
② 顧客(借手)が、特定された資産の使用を指図する権利を有している(本適用指針第5項(2))

また、以下の<図表2>における(ア)もしくは(イ)の要件を満たす場合、「②顧客(借手)が特定された資産の使用を指図する権利を有している」場合と判定されます。


図表2 特定された資産の使用を指図する権利を顧客(借手)が有しているか否かの判定基準

特定された資産の使用を指図する権利を顧客(借手)が有しているか否かの判定基準
(本適用指針第8項)


以下のいずれかの場合


(ア) 顧客(借手)が、使用期間全体を通じて使用から得られる経済的利益に影響を与える資産の使用方法を指図する権利を有している場合

(イ) 使用から得られる経済的利益に影響を与える資産の使用方法に係る決定事前になされており、かつ、次のいずれかである場合

  • 使用期間全体を通じて顧客(借手)のみが、資産を稼働する権利を有している又は第三者に指図することにより資産を稼働させる権利を有している
  • 顧客(借手)が使用期間全体を通じた資産の使用方法を事前に決定するように、資産を設計している
     

この顧客(借手)における「①経済的利益の享受」、「②指図権」の有無の判定について、「1.使用方法が契約で定められている場合」および「2.使用方法が顧客(借手)の設計によって事前に決定されている場合」のそれぞれのケースについて、事例を用いて解説します。

1. 顧客(借手)が資産の使用を指図する権利を有しているか(使用方法が契約で定められている場合)

以下具体的な事例を用いて、使用方法が契約で定められているケースにおいて、契約にリースが含まれるか否か判定を行います。

※事例では、資産が特定されていることを前提として、顧客(借手)における「①経済的利益の享受」、「②指図権」の有無の判定を行います。
 

事例1

顧客が資産の使用を指図する権利を有しているケース

顧客が資産の使用を指図する権利を有していないケース

前提条件

  • 半導体メーカーであるA社(顧客)は、B社(サプライヤー)と、B社(サプライヤー)が所有するガス製造設備が産出するガスのすべてを購入する契約を締結しています(10年間)。
  • B社(サプライヤー)は、業界において認められた事業慣行に従い、日々当該ガス製造設備を稼働し、維持管理を行います。
  • 当該ガス製造設備のガス産出量及び産出時期を決定する権利を有しているのは顧客であるA社(顧客)であり、契約で定められています。
  • B社(サプライヤー)が、他の契約を履行するために、当該ガス製造設備を使用することができないことも契約で定められています。
  • 当該ガス製造設備は、特定された資産です。
  • 半導体メーカーであるA社(顧客)は、B社(サプライヤー)と、B社(サプライヤー)が所有するガス製造設備が産出するガスのすべてを購入する契約を締結しています(10年間)。
  • B社(サプライヤー)は、業界において認められた事業慣行に従い、日々当該ガス製造設備を稼働し、維持管理を行います。
  • 使用期間全体を通じた当該ガス製造設備の使用方法(ガス産出量及び産出時期)は契約で定められており、特別な事情がない限り、使用方法を変更することはできません。
  • A社(顧客)は、当該ガス製造設備の設計に関与していません。
  • 当該ガス製造設備は、特定された資産です。

結論


前提条件により資産が特定され、かつ、特定された資産の使用を支配する権利が、B社(サプライヤー)からA社(顧客)に移転しているため、A社及びB社は契約にリースが含まれていると判断します。
 

前提条件により資産が特定され、かつ、特定された資産の使用を支配する権利が、B社(サプライヤー)からA社(顧客)に移転していないため、A社及びB社は契約にリースが含まれていないと判断します。

事例1の判断過程

A資産が特定されているか

顧客が資産の使用を指図する権利を有しているケース

顧客が資産の使用を指図する権利を有していないケース

資産が特定されているか
(本適用指針第6項)


YES (該当する)

前提条件より、資産が特定されていると判断します。
 

YES (該当する)

前提条件より、資産が特定されていると判断します。

B使用を支配する権利が移転しているか
(①および②がYESの場合、使用を支配する権利が移転している)

顧客が資産の使用を指図する権利を有しているケース

顧客が資産の使用を指図する権利を有していないケース


① 顧客(借手)が資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを得る権利を有するか
(本適用指針第5項(1))
 


YES (該当する)

A社(顧客)は、
10年の使用期間全体を通じてガス製造設備が産出するガスのすべてを得る権利があるため、10年の使用期間全体を通じて資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有しています。

 

YES (該当する)

A社(顧客)は、
10年の使用期間全体を通じてガス製造設備が産出するガスのすべてを得る権利があるため、10年の使用期間全体を通じて資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有しています。

② 顧客(借手)が資産の使用を指図する権利を有するか
(本適用指針第5項(2))
(本適用指針第8項)

YES (該当する)

契約によって、A社(顧客)は、ガス製造設備のガス産出量及び産出時期を決定する権利を有しています。したがって、使用期間全体を通じて、使用から得られる経済的利益に影響を与える資産の使用方法を指図する権利を有しています。


NO (該当しない)

  • A社(顧客)は、使用期間全体を通じて当該ガス製造設備について、事前に決定されている使用方法を変更することができません。
  • また、当該ガス製造設備の使用方法は事前に契約にて決定されていますが、A社(顧客)は、使用期間全体を通じて当該ガス製造設備を稼働する権利を有しておらず、設計もしていません。
  • したがって、A社(顧客)は、特定された資産の使用を指図する権利を有していません。

上記事例をフローチャートに沿って示すと、以下のようになります。

図表3 顧客(借手)が資産の使用を指図する権利を有しているケース

図表3 顧客(借手)が資産の使用を指図する権利を有しているケース

図表4 顧客(借手)が資産の使用を指図する権利を有していないケース

図表4 顧客(借手)が資産の使用を指図する権利を有していないケース

また、顧客(借手)が資産の使用を指図する権利を有しているケースを図に表すと、<図表5>のとおりとなります。

図表5 顧客(借手)が資産の使用方法を指図する権利を有している場合

図表5 顧客(借手)が資産の使用方法を指図する権利を有している場合

2. 顧客(借手)が資産の使用を指図する権利を有しているか(使用方法が顧客(借手)の設計によって事前に決定されている場合)

    以下具体的な事例を用いて、使用方法が顧客(借手)の設計によって事前に決定されているケースにおいて、契約にリースが含まれるか否か判定を行います。

    ※事例では、資産が特定されていることを前提として、顧客(借手)における「①経済的利益の享受」、「②指図権」の有無の判定を行います。


    事例2

    使用方法が顧客の設計によって事前に決定されているケース

    前提条件

    • 半導体メーカーであるA社(顧客)は、B社(サプライヤー)と、B社(サプライヤー)が新設するガス製造設備が産出するすべてのガスを10年間にわたって購入する契約を締結しました。
    • A社(顧客)は、当該ガス製造設備を設計しました。
    • B社(サプライヤー)は、A社(顧客)の仕様に合わせてガス製造設備を建設し、建設後にガス製造設備の稼働及び維持管理を行う責任を有しています。当該ガス製造設備の使用方法(ガス産出量及び産出時期)は、当該ガス製造設備の設計により決定されています。
    • 当該ガス製造設備は、特定された資産です。

    結論


    前提条件により資産が特定され、かつ、特定された資産の使用を支配する権利がB社(サプライヤー)からA社(顧客)に移転しているため、A社及びB社は契約にリースが含まれていると判断します。
     

    事例2の判断過程

    A資産が特定されているか

    使用方法が顧客の設計によって事前に決定されているケース

    資産が特定されているか
    (本適用指針第6項)


    YES (該当する)

    前提条件より、資産が特定されていると判断します。
     

    B使用を支配する権利が移転しているか
    (①および②がYESの場合、使用を支配する権利が移転している)

    使用方法が顧客の設計によって事前に決定されているケース

    ① 顧客(借手)が資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを得る権利を有するか
    (本適用指針第5項(1))


    YES (該当する)

    A社(顧客)は、
    10年の使用期間全体を通じてガス製造設備が産出するガスのすべてを得る権利があるため、10年の使用期間全体を通じて資産の使用から生じる経済的利益のほとんどすべてを享受する権利を有しています。
     

    ② 顧客(借手)が資産の使用を指図する権利を有するか
    (本適用指針第5項(2))
    (本適用指針第8項)


    YES (該当する)
     

    当該ガス製造設備の使用方法(ガス産出量及び産出時期)に係る決定は、事前に設計によってなされており、かつ、A社(顧客)が、使用期間全体を通じたガス製造設備の使用方法を事前に決定するよう設計しています。したがって、A社(顧客)が、資産の使用を指図する権利を有しています。
      

    事例をフローチャートに沿って示すと、以下のようになります。

    図表6 使用方法が顧客(借手)の設計によって事前に決定されているケース

    図表6 使用方法が顧客(借手)の設計によって事前に決定されているケース

    また、使用方法が顧客(借手)の設計によって事前に決定されているケースを図に表すと、<図表7>のとおりとなります。

    図表7 使用方法が顧客(借手)の設計によって事前に決定されているケース

    図表7 使用方法が顧客(借手)の設計によって事前に決定されているケース

    Ⅳ. おわりに

    一見するとリースに該当しないような契約であっても、条件によっては、契約にリースが含まれる場合が想定されることから、実態に基づき個別に判断することが必要となります。賃貸借契約だけでなく、従来、利用料、使用料、業務委託料、サービス料等で処理されていた契約についても契約にリースが含まれるか否か留意する必要があります。


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