EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバルネットワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファームは法的に独立した組織です。アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドは、英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。
本稿の執筆者
EY新日本有限責任監査法人 モビリティセクター 公認会計士 河原 寛弥
日本基準や米国会計基準、IFRSを適用する企業に対する監査業務のほか、自動車業に関わる企業に対するアドバイザリー業務にも従事。現在、自動車セクターナレッジリーダーを務める。浜松事務所 パートナー。
※所属・役職は記事公開時のものです
要点
2024年9月13日に企業会計基準委員会から公表された企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」(以下、新リース基準)及び企業会計基準適用指針第33号「リースに関する会計基準の適用指針」(以下、新リース適用指針)が、2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から原則適用となります。
本稿では、本会計基準等を適用するに当たり、自動車業の企業において実務対応が想定される論点を中心に、具体的な会計処理方針を決定する際の検討上の留意点を解説します。
なお、文中意見に係る部分は筆者らの私見である旨、あらかじめ申し添えます。
新リース基準の適用上、「リース」とは、原資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約又は契約の一部分をいいます。
企業は、契約の締結時に、当該契約がリースを含むか否かを判断することが求められます。契約が特定された資産(原資産)の使用を支配する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する場合、当該契約はリースを含むと判断されます。
リースを含むか否かの判断においては、契約名称(リース契約と明記されているか否か)にかかわらず、リースの定義に該当する可能性のある契約を調査する必要があります。
リースの判定に当たっては、「資産が特定されているか」及び「特定された資産の使用を支配する権利(使用権)が移転しているか」の観点から検討を行う必要があります。具体的には、新リース適用指針設例1に記載のフローチャート等を参照して検討することになります(情報センサー2025年5月掲載「新リース会計基準対応のポイント:自動車業・物流業」参照)。
自動車業の企業においては、例えば、下記の取引について留意する必要があります。
自動車の部品サプライヤーは、完成車メーカーや委託元の部品サプライヤー(以下、完成車メーカー等)から要求された仕様を満たす部品を製造するために、専用の金型を取得又は製作し、完成車メーカー等が、当該金型の代金を全額支払う場合があります。
実際の製造現場で使用される金型の性質はさまざまであり、金型取引にリースが含まれるかどうかの判断に当たっては、各企業が保有する金型の実態を考慮する必要があります。
例えば、以下の状況が見られる場合、契約にリースが含まれると判断される可能性があります。
完成車メーカー(A社)に納入する部品Xを製造するための金型を部品サプライヤー(S社)が所有する場合で、
実務においては、上記のうち金型の使用を指図する権利をS社又はA社のどちらが有しているかについて、実態に応じた判断が求められると考えられます。この点、新リース基準では使用を指図する権利の判断について、「使用期間全体を通じて使用から得られる経済的利益に影響を与える資産の使用方法に係る意思決定を考慮する。当該意思決定は、資産の性質及び契約の条件に応じて、契約によって異なると考えられる。」(新リース適用指針BC13項)とされており、金型取引の場合、その使用方法(例えば、部品Xの納入時期や納入数量、納入場所等が考えられる)の変更に関する意思決定権が、A社又はS社のどちらにあるかなどを検討することになると考えられます。
金型取引にリースが含まれると判断された場合、金型を所有するS社がリースの貸手となり、金型の使用権を有するA社がリースの借手となります。想定される会計処理は、下記のとおりです。
S社(貸手) | リースの貸手が金型の製造又は販売を事業とする場合で、ファイナンス・リースに該当する場合(中途解約不能で、借手が資産の使用に伴う経済的利益とコストを実質的に享受又は負担する場合)、通常の売買取引に係る方法に準じて、リースの開始日に金型の販売に係る収益を認識するとともに同額のリース投資資産を認識し、原資産の帳簿価額により売上原価を認識します(新リース適用指針71項〈1〉) |
A社(借手) | リースの開始時に、リース負債の金額に基づいて金型に関する使用権資産を認識します(新リース基準33項) |
なお、リースの借手について、金型取引にリースが含まれると判断された場合であっても、金型代金が部品代に上乗せして支払われている場合、実質的に金型代金が全額又は部分的に保証されておらず、原資産の使用に連動して支払額が変動するリース料に該当するのであれば、使用権資産は計上されず、変動リース料の発生時に費用処理されることになると考えられます(新リース基準BC41項〈3〉)。
工場内外の発電設備に関する契約(PPAなどの電力購入契約を含む)や、データセンターのサーバー利用に関する契約、倉庫利用や傭車に関する契約についても、リースを含むと判断される場合があるため、契約内容や取引実態に基づいて、新リース基準適用上の対応を検討する必要があります。詳細は、情報センサー2025年11月掲載「製造業における新リース基準の留意点」をご参照ください。
借手のリース期間は、借手が原資産を使用する権利を有する「解約不能期間」に、「借手が行使することが合理的に確実であるリースの延長オプションの対象期間」及び「借手が行使しないことが合理的に確実であるリースの解約オプションの対象期間」の両方の期間を加えて決定されます(新リース基準15項)。
上記のとおり、リース期間の決定に当たっては、契約に基づいて解約不能期間や延長オプション、解約オプションの有無を検討する必要があります。その上で、「解約不能期間」に「合理的に確実である延長オプション等の対象期間」を加算してリース期間を決定することになりますが、ここでいう「合理的に確実」とは、蓋然性が相当程度高いことを示しており、リースごとに経済的インセンティブを生じさせる要因を考慮して判断します(新リース適用指針17項)。
具体的には、賃借設備を大幅に改良している、転用が困難な多額の附属設備を設置している、解約することにより原状回復コストや設備移転コストが多額に見込まれる、事業に必要不可欠な原資産であるなどの場合、延長オプションを行使する経済的インセンティブが生じていると判断され、解約不能期間を上回るリース期間が設定されることになると考えられます。
原資産タイプ | 延長オプション行使に係る経済的インセンティブの状況に関する考察例 |
工場(土地・建物) | 通常、事業に必要不可欠な資産であり、サプライチェーンへの影響も含め、移転に伴うコストも相対的に高いと考えられることから、延長オプション行使の経済的インセンティブは相対的に高いと考えられる。 |
倉庫(土地・建物) | 事業に必要不可欠な拠点として機能しているロケーションと、一時的な在庫需要に応えるために賃貸したロケーションでは、延長オプション行使の経済的インセンティブの評価が異なる可能性があると考えられる。 |
社宅・駐車場 | 物件の状況や代替物件の有無によって評価が異なると考えられるが、一般に移転に伴うコストは限定的と考えられ、延長オプションを行使する経済的インセンティブは相対的に低いと考えられる。 |
金型 | 金型の性質によるものの、例えば、当該金型を使用して製造される製品のモデルライフサイクル期間を基礎に検討することが考えられる。 |
(注)実際には原資産に関する個別の状況を踏まえた判断が必要となる。
自動車及び自動車部品の製造には、プレス機などの大型の機械装置をはじめ、自動化ラインなどの高度に統合化された生産設備が必要となるため、自動車業の企業では、固定資産の減損会計は重要な決算上の検討事項となるケースがあります。
新リース基準の適用に伴う固定資産の減損会計への影響については、例えば使用価値を用いて減損損失を計上する場合において使用価値の算定に用いられる割引率と、使用権資産の算定に用いられる割引率との相違により生じる影響など、限定的であると考えられますが、減損テストに使用するインプットの変更など、減損損失の検討プロセスを見直す必要があります。詳細は、情報センサー2025年5月掲載「新リース会計基準対応のポイント:自動車業・物流業」をご参照ください。
新リース基準の適用により、会計上は、原則として全てのリース取引(実質リースを含む)が、リースの借手の貸借対照表においてオンバランス処理(資産・負債計上)されることになりますが、税務上は、従来同様、ファイナンス・リースとオペレーティング・リースに分類した上で、オペレーティング・リースについては賃貸借処理(オフバランス処理)されることになる見込みです(2026年3月現在)。
その結果、税務上、オペレーティング・リースに該当すると判断された場合、会計と税務における経理処理の相違から一時差異が生じるため、下記のとおり税効果会計の対象となります。
なお、使用権資産とリース負債で一時差異の解消スケジュールが異なる場合が考えられるため、繰延税金資産の回収可能性の検討において留意する必要があります。
自動車業の企業は、海外を含めて子会社を設立して事業展開しているところが多く、また、親会社(又はグループ内の資産管理会社)の土地や建物の一部を子会社に賃貸して事業運営を行う取引なども実務の中で見られることから、新リース基準の連結決算への影響に留意する必要があります。
親子会社間のリース(借手・貸手)や国内子会社の会計監査の要否(借手)に関する留意点については、情報センサー2025年11月掲載「製造業における新リース基準の留意点」をご参照ください。
なお、親会社と決算日が異なる子会社等について、新リース基準の適用時期に留意が必要です。例えば、3月決算会社である親会社が、2028年3月期の連結財務諸表を新リース基準に準拠して作成する場合、重要性が乏しい場合を除いて、12月決算会社である子会社の財務諸表は2027年12月期から新リース基準に準拠して作成することが原則と考えられます。
ただし、実務対応報告第18号「連結財務諸表作成における在外子会社等の会計処理に関する当面の取扱い」に従い連結処理を行っている在外子会社等の場合は、IFRS又は米国会計基準に準拠して作成された当該子会社の財務諸表を、原則として連結決算手続上で修正せずに利用できます。
新リース基準の適用に関して、導入当初のみならず、経常的に新リース基準の要求事項に沿った情報を収集し、適切な会計処理や開示につなげる必要があります。例えば、以下の業務プロセスについて、新たな導入や既存プロセスの更新が必要になると考えられます。
これらの業務プロセスの構築に当たっては、経理部門のみならず、契約所管部門(子会社等を含む)や法務部門などの協力が必要となると考えられます。また、それぞれについて、適切な内部統制を整備及び運用する内部監査部門との協力が望まれます。
一般に、リース取引の件数が多くなるほど、業務効率や品質確保の観点から、ITアプリケーションの利用などシステム化が望まれます。また、新リース基準の適用に伴う、予算編成プロセスや業績管理プロセスに及ぼす影響についても検討が必要と考えられます。
本稿では、自動車業における新リース基準等の適用における影響、特にリースの識別やリース期間の設定に関する留意点等について解説しました。本稿が自動車業に関わる企業の新リース基準等の適用に向けた検討に少しでも役立つことができれば幸いです。
自動車業において、新リース基準を適用するに当たり留意すべき点をまとめます。実質リース(隠れリース)の識別や、リース期間の考え方など、実務上の判断が求められる領域を中心に解説します。
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企業会計基準委員会(ASBJ)および日本公認会計士協会(JICPA)は、2024年9月13日に企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」を公表しました。本基準は、2028年3月期から原則適用され、2026年3月期からの早期適用も認められています。本ページでは、新リース会計基準の概要、実務への影響、関連コンテンツやセミナー情報をまとめてご紹介します。
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