SSBJ基準と企業価値の関係性とは

SSBJ基準にどう対応すべきか:制度開示に求められる実務とプロセス設計


2026年改正で本格適用が決まったSSBJ基準。制度対応にとどまらず、開示の質向上や企業価値向上につなげるために押さえておきたい実務・ガバナンス上のポイントを整理します。


要点

  • SSBJ基準が制度開示に組み込まれ、有報では基準に準拠した開示が必須に。前提や仮定、判断・算定プロセスを説明できる透明性が重要となる。
  • 実務対応にはサステナビリティ部門に限らない全社的な連携が不可欠。部門横断での役割分担と、一貫性のある開示プロセス設計が鍵となる。
  • 経過措置を単なる先送りと捉えず、初年度から将来を見据えた体制整備が重要。開示を経営戦略やリスク認識と結び付ける視点が求められる。

1. はじめに

2026年2月の「企業内容等の開示に関する内閣府令」等(以下「開示府令」という。)の改正により、サステナビリティ開示基準(以下「SSBJ基準」という。)は、制度開示として本格的に適用される段階に入りました。適用会社においては、今後これまで有価証券報告書にて開示してきたサステナビリティ情報の作成・開示に当たり、SSBJ基準という一般に公正妥当と認められるサステナビリティ情報の作成及び開示に関する基準へ準拠することが制度上求められることとなります。

もっとも、SSBJ基準の対応は、基準の条文や開示項目を一つひとつ確認すること以上に、企業価値の向上や投資家との対話に資する開示としてどのように活用していくかという視点で捉えることが重要になります。本稿では、開示実務やガバナンスの観点から、SSBJ基準について特に押さえておくべきポイントを整理します。

2. SSBJ開示の本質的な特徴

(1) 制度開示としてのサステナビリティ情報

SSBJ基準が金融商品取引法に基づく制度開示の枠組みに組み込まれ、有価証券報告書においてSSBJ基準に準拠した開示が求められるようになった点に、今回の制度改正の大きな意義があります。
一方で、サステナビリティ情報は、将来に関する見通しや見積り、不確実性の高い情報を多く含む点で、従来の財務情報とは性質が異なります。SSBJ基準は、こうした特性を前提として、企業の見通しに影響を与えるリスクや機会に関する情報をどのように開示すべきかを定める基準です。これを踏まえて、開示府令やガイドライン等において、制度開示としての信頼性を確保するための枠組みが整備されています。

(2) 説明可能性を重視する基準

SSBJ基準の開示で重要なのは、開示される情報が、どのような前提や仮定に基づき、どのようなプロセスを経て判断・算定されたのかを説明できることです。
この点は、ISSB基準とも共通する考え方ですが、今回これが制度開示として明確に位置付けられたことで、有価証券報告書の作成・開示実務において前提として考慮すべき位置付けがより明確になっています。


3. 実務が大きく変わる2つのポイント

ポイント①前提・推論過程が問われる

温室効果ガス排出量、移行計画、シナリオ分析など、SSBJ基準で求められる情報の多くは、将来情報や見積もりを含みます。これらについて、将来の結果が当初の想定と異なったとしても、それだけで問題となるわけではありません。
重要なのは、前提や仮定が合理的であったか、推論過程が一貫しているか、判断の根拠が整理されているかという点です。サステナビリティ情報には、見積もりや判断を伴う情報が含まれていることから、ガイドライン等において、一定の前提や推論過程、社内手続きが合理的に示されている場合には、直ちに虚偽記載等の責任を問うものではないとの考え方(セーフハーバー)が示されています。従って、実務対応においては、単に数値を固めるだけではなく、判断プロセスを整理し、説明可能な形で開示すること、また、判断の合理性を事後的に説明できる状態を整えておくことが重要になります。

ポイント② 全社的な連携体制が必要

SSBJ基準対応は、サステナビリティ部門だけで完結するものではありません。開示される内容は、経営戦略や投資判断、財務計画とも密接に関係しているため、経営企画部門や経理・財務部門との連携が不可欠です。
特に、有価証券報告書に記載される以上、他の開示項目との整合性や経営戦略との整合性といった点も重要になります。また、部門横断での役割分担や記載内容のレビュー体制をどのように構築するかも実務上の大きな課題となります。

4. 初年度対応で陥りやすい実務上の落とし穴

SSBJ基準の初年度の対応に当たっては、開示府令で認められている経過措置である二段階開示の適用を選択することができます。二段階開示は、SSBJ基準の適用開始年度及びその翌年度については、SSBJ基準に従って記載すべきサステナビリティ情報を記載せずに、それぞれの翌期の半期報告書の提出期限までに、SSBJ基準に基づく事項を記載した訂正報告書を提出することができる経過措置になります。この二段階開示を単なる「開示の猶予期間」と捉えてしまうと、社内の承認・レビューやデータ収集の締め切りが、有価証券報告書提出日よりも後のタイミングに設定されたままになりやすくなります。経過措置終了後には、有価証券報告書と同時に開示することが求められますので、経過措置の初年度から公表承認プロセスの整備やデータ収集体制の管理など、開示時期を前倒しすることを前提とした実務設計をしておくことが重要になります。

5. ガバナンス・監督の視点

SSBJ基準対応において、取締役会や監査役等に求められる役割も変化しています。監督の視点として重要なのは、基準に沿った数値の算定や開示の妥当性を主張する前提となる、不確実性を踏まえた仮定の設定や企業としての判断が、適切なプロセスを経て行われているかを監督・確認することです。

どのような前提で議論が行われ、どの段階で誰が関与し、どのように開示内容が確定されたのか、こうした点に目配りすることが、ガバナンスの観点から重要になります。

6. 終わりに

SSBJ基準の適用にあたっては、単にコンプライアンスとして最低限の開示を行うのではなく、経営戦略や事業リスク認識と結び付けた情報開示を通じて、投資家との対話や企業価値の向上につなげていく視点が重要です。また、開示を行うことに加えて、判断の前提やプロセスを整理し、説明可能な形で開示できる体制を構築することも重要となります。

初年度の対応は、今後の開示実務の基盤となります。短期的な対応にとどまらず、翌年度以降を見据えた実務設計とガバナンスの整備が、SSBJ基準対応を成功させる鍵となります。

まとめ

  • SSBJ基準が金融商品取引法に基づく制度開示の枠組みに組み込まれ、有価証券報告書においてSSBJ基準に準拠した開示が求められるようになった
  • 開示される情報が、どのような前提や仮定に基づき、どのようなプロセスを経て判断・算定されたのかを説明できることが重要
  • 実務対応は部門横断的な取り組みが不可欠であり、プロセス設計が重要となる
  • 経過措置は、対応を先送りするためのものではなく、初年度から将来を見据えた体制整備を行うことが、継続的な開示対応の鍵となる
  • 単にコンプライアンスとして最低限の開示を行うのではなく、経営戦略や事業リスク認識と結び付けた情報開示を通じて、投資家との対話や企業価値の向上につなげていく視点が重要

本件のお問い合わせ先

EY新日本有限責任監査法人 サステナビリティ開示推進室 清野 恭平

サマリー 

将来情報を含むSSBJ基準では、判断の妥当性を示す説明力と全社的な連携が不可欠。初年度から全社的なプロセス設計とガバナンス整備を進め、企業価値向上につなげる視点が重要です。

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