さらに将来的には、トークン化された資産を担保とした資金調達や、複数の金融サービスをブロックチェーン上でシームレスに連携させる仕組みの実現など、オンチェーン化の特長を生かした新たな利便性の高いサービスが登場する可能性があります。
このようにオンチェーン金融には、金融サービスへのアクセス拡大、取引コストの低減、決済の迅速化といった多くの利点があります。一方で、従来の金融サービスとは異なる新たなリスクが発生することも考えられます。
まず考えられるのが、スマートコントラクトやオンチェーン・プラットフォームシステムに起因するリスクです。
オンチェーン金融では、スマートコントラクトが活用される場面が多く想定されます。スマートコントラクトは、事前に定められたルールに従って取引や処理を自動実行できることが特徴の一つです。そのため、処理の自動化という利便性がある一方、設計や実装に不備がある場合には、意図しない資産移転や、資産のロックが生じるなど、広範囲に影響を及ぼす事故につながるおそれがあります。こうした特性から、スマートコントラクトを多用するオンチェーン金融のプラットフォームでは、従来のアプリケーション以上に、プログラムの正確性や品質管理が重要になります。
また、オンチェーン金融では、従来以上に多くの事業者と連携してサービスを提供するケースが増加すると考えられます。トークンの発行、管理、移転などには専門的な技術や知見が必要となるため、金融機関に加え、ウォレット事業者、ブロックチェーン基盤提供事業者、クラウド事業者、システム開発会社など、多数の外部事業者がサービス提供に関与する場面が想定されます。このような環境では、サービスを構成するいずれか一社のリスク管理に不備があるだけでも、障害、不正行為、サイバー攻撃などの影響がサービス全体に波及する可能性があります。そのため、個々の事業者が自社の管理態勢を整備するだけでなく、関与する事業者全体としてリスクに対応する視点が重要になります。
特に、暗号資産やトークン化資産は秘密鍵によって管理されるため、秘密鍵の漏えいは直接的な資産流出につながる可能性があります。加えて、ブロックチェーン上の取引は取り消しが困難であり、流出した資産を事後的に回収することも容易ではないため、その影響は大きくなり得ます。関与する主体が増えるほど攻撃対象領域も拡大するため、各社の内部管理態勢だけでなく、外部事業者を含めたエコシステム全体でのリスク管理が求められます。
例えば、委託先選定時の事業者のリスク管理態勢や製品・サービスの品質などの評価に加え、契約締結後も継続的なモニタリングを実施し、サイバーセキュリティ、システム運用、事業継続管理などの観点からリスクを定期的に評価する態勢の整備が重要です。継続的なモニタリングの一手段として、SOC報告書などの第三者による保証報告書を活用することも有効です。こうした第三者による評価結果や保証報告書を取得・評価し、恒常的な管理プロセスとして組み込むことが重要です。
さらに、今後事業者に求められるのは、単なるシステム対応だけではありません。
今回の法改正では、従来の資金決済法上の暗号資産交換業者は、金融商品取引法上の「暗号資産取引業者」として位置付けられることになります。その結果、事業者には、金融商品取引業者として求められる水準を踏まえたコンプライアンス管理やシステムリスク管理、外部委託管理、内部監査などの態勢整備・高度化が重要になります。具体的には、不公正取引の防止、重要情報の管理、広告・勧誘管理、顧客説明などに関する役職員教育を充実させるとともに、取引モニタリングや情報管理、委託先管理を含む内部管理プロセスを見直し、必要に応じて再設計することが求められます。
加えて、オンチェーン金融に関連する取引やサービスでは、既存の会計・税務実務との関係を整理する必要が生じる場合があります。制度や実務慣行の動向を踏まえ、経理部門や管理部門を含めて早期に検討を進めることが重要です。
法施行までの期間は決して長くありません。事業者には、制度対応、内部管理態勢の整備、システム対応、会計・税務実務への影響などを並行して進めることが求められます。特に、新たに金融商品取引法の規制対象となる事業者にとっては、自社に求められる管理水準を見極め、既存の体制や運用プロセスとのギャップ分析を早期に実施することが重要です。
また、自社のみで対応することが難しい場合には、法務、会計、リスク管理、サイバーセキュリティなどの専門家を活用しながら計画的に準備を進めることも有効な選択肢となります。
今後、オンチェーン金融が普及するにつれて、金融機関、暗号資産関連事業者、テクノロジー事業者、インフラ提供事業者などが相互に連携する場面はさらに広がると考えられます。こうした環境では、個々の事業者の利便性や効率性だけでなく、サービス全体としての安全性、透明性、信頼性をどのように確保するかが重要になります。
今回の法改正は、利用者保護と市場の公正性を高める制度整備であると同時に、オンチェーン金融の健全な発展を支える基盤を整える契機でもあります。規制対応を単なるコンプライアンス対応にとどめず、新たな金融サービスを持続的に発展させるための基盤整備として捉える視点が求められます。
法改正の影響を受ける事業者は、これを契機にサービス構築や制度対応に加え、それを支えるガバナンスやリスク管理の在り方を見直し、オンチェーン金融の信頼性を継続的に高めていくことが重要です。