【前編】暗号資産に関する規制の動向 -なぜ金融商品取引法へ移るのか-

【前編】暗号資産に関する規制の動向 -なぜ金融商品取引法へ移るのか-


暗号資産の投資対象化と市場拡大を背景に、金商法への移管で何が変わるのか。情報公表規制、暗号資産関連特有の業規制など、見直しとなる規制を整理します。



要点

  • 暗号資産規制は、利用者保護と市場公正性の観点から金商法へ移管される方向。
  • 発行者・取引業者の情報公表義務や業規制が整理・強化される。
  • インサイダー取引等の規制強化がされる一方、新たなビジネス機会が期待される。


2026年4月10日に「金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案」(以下「法律案」)が第221回国会に提出され、その一部として暗号資産に係る規制の見直しが盛り込まれました。この見直しは、暗号資産の利用者が拡大し、保有目的も決済より投資が中心になっている実態を踏まえ、現行の資金決済法による規制から金融商品取引法(以下「金商法」)へ移管し、有価証券とは異なる金融商品として規制していくものです。
 

その背景には、市場の拡大に伴って顕在化した課題があります。国内では暗号資産口座の開設数が1,400万超に達し1、投資経験者における保有率も高い水準にあります。一方で、詐欺的な投資勧誘や不適切な投資アドバイス、暗号資産交換業者におけるサイバー攻撃による流出事案、暗号資産発行体から提供される情報の不十分さによる問題など、さまざまな課題が明らかになりました。こうした状況の下で、利用者保護と市場の公正性をどのように高めるかが、今回の法改正の出発点になっています。

  1. 出典:金融庁「金融商品取引法及び資金決済に関する法律の一部を改正する法律案説明資料」、fsa.go.jp/common/diet/221/02/03.pdf(2026年7月3日アクセス)

この法律案の要点は次の3点であると言えます。

① 発行者や取扱業者による情報公表規制の整備
② 金融商品取引業としての事業者に対する業規制の整理・強化
③ 暗号資産に係る不公正取引規制(インサイダー等)の整備

以下ではこれら3つの要点を順に見ていきます。

まず発行者や取扱業者による情報公表規制の整備です。なお、従前の資金決済法では暗号資産の売買や交換等を行う事業者を「暗号資産交換業者」と定義していましたが、改正金商法案ではこれを「暗号資産取引業者」と定義しています。以下では、改正後の名称である「暗号資産取引業者」を用います。

改正金商法では、特定の者のみが発行権限を有する暗号資産を「特定暗号資産」、その発行者を「特定暗号資産発行者」と定義しています。特定暗号資産発行者には、募集・売出し時に特定暗号資産の情報(特定暗号資産情報)の公表が求められます。また、年1回の情報公表(定期情報の公表)及び、当該情報に重要な事象が生じた場合の公表(臨時情報の公表)も求められます。

ここで念頭に置かれているのがIEOトークンのような類型です。IEOはInitial Exchange Offeringの略で、暗号資産取引業者が新たに発行されるトークンの募集や販売に直接関与して利用者に販売する仕組みを指します。従前の資金決済法では、暗号資産取引業者が取り扱う暗号資産(IEOトークン)に関する情報を顧客に提供していましたが、改正金商法では、特定暗号資産発行者に、自身が発行した特定暗号資産の情報公表が義務付けられる枠組みへと移行する見込みです。

なお改正金商法では、特定暗号資産以外を「暗号資産」と定義しています。ビットコイン等の発行体が明確ではないものが該当すると考えられますが、このような暗号資産の情報公表は、取り扱う暗号資産取引業者に求められます。

お問い合わせ

より詳しい情報をご希望の方はご連絡ください。


以上のように情報公表の主体と義務を明確にすることに加え、虚偽記載等に対する罰則や課徴金制度も整備しており、投資者保護の面が強化されます。

2つ目の要点は、暗号資産取引業者に対する業規制の強化です。法律案では、新たに「暗号資産取引業」を設け、当該業の登録を受けた者は第一種金融商品取引業に暗号資産管理に係る現行法での安全管理措置を含めた業規制が課されることとなります。

安全管理措置の面では、原則コールドウォレット等での管理を含む対応が求められます。コールドウォレットとは、秘密鍵を常時インターネットに接続しない形で管理する方法であるため、外部からの不正アクセスやハッキングによる流出リスクを抑える上で有効です。一方で、秘密鍵の物理的管理、アクセス権限の制御、災害時や障害時の復旧手順を適切に設計しなければ、別の運営リスクを高める可能性もあるため、鍵管理全体の統制の整備運用状況が重要な論点になります。法律案では、こうした安全管理措置に加え、暗号資産の審査体制、顧客適合性確認体制、売買審査体制などの整備も想定されています。

この点、流出事故がウォレットシステム等を提供してきた事業者に起因する事象も鑑み、法律案では、金融商品取引業者に対し情報システムの提供・保守・管理を行う事業者を「暗号資産管理関係業務提供者」と定義し、その業を行える者を金融商品取引業者が当局に届け出た者に限ることを定めました。また、金融商品取引業者が暗号資産売買等業務に必要な情報システムを継続的に利用する場合には、暗号資産管理関係業務提供者の選定基準を整備するとともに、当該提供者による業務の適切な履行を継続的に確保・検証するために必要な措置を講じることが求められます。

また、暗号資産取引に係る事故が生じた場合の顧客への補償原資として、責任準備金の積み立てが金融商品取引業者に義務付けられます。暗号資産交換業者が関係する流出事故が繰り返し問題となってきたことを踏まえると、内部管理の強化と事故発生時の利用者保護をあわせて求める今回の見直しは、実務面でも大きな意味を持ちます。

加えて、暗号資産を投資対象とする投資運用行為や投資助言行為についても、金商法上の業規制の中で位置付けることになりました。また、現行法で規定された「暗号資産サービス仲介業」は、法律案では「金融商品仲介業」に加わることとなります。このように法律案では、暗号資産の売買・交換といった中核業務だけでなく、運用、助言、仲介といった周辺業務についても規制の対象が広がることとなります。

3つ目の要点は、暗号資産の不公正取引規制の整備です。法律案では、暗号資産に対するインサイダー取引規制が導入され、発行者、暗号資産取引業者、大量売買者に関する未公表の重要事実に基づく売買等が禁止される方向です。また、相場操縦や風説の流布・偽計を含む不公正取引についても、課徴金制度や証券取引等監視委員会の犯則調査の対象に追加されます。これにより、暗号資産市場でも価格形成の公正性を確保するためのルールが明確に適用される見込みです。あわせて、無登録業者や不透明な勧誘行為への対応も強化され、利用者保護と市場の透明性を高める措置の整備が進むと考えられます。

関連事業者にとっては、制度の変更点そのものに加え、今後の政省令や監督実務の具体化を継続的に確認していくことが重要になります。

今回の法改正により、規制対象となる事業者の範囲が広がり、一部の規制はより厳格化されます。一方で、規制強化は新たなビジネス創造の機会ももたらします。特に、トークンやスマートコントラクトを活用したオンチェーン金融の可能性が注目されています。後編では、こうした新しい金融の実務的な論点について詳しく解説していきます。




お問い合わせ
より詳しい情報をご希望の方はご連絡ください。


サマリー 

暗号資産規制の金商法移管に伴う、情報公表、業規制、不公正取引規制の見直しと実務への影響を解説します。



関連記事

【後編】なぜオンチェーン金融は注目されているのか -期待される可能性と実務課題-

法改正を契機として注目が高まるオンチェーン金融。トークン化やステーブルコイン活用などのユースケースを紹介するとともに、新たなリスクと事業者に求められる実務対応について解説します。

この記事について