ネイチャーポジティブの評価指標、State of Nature Metricsの開発状況と概要解説

ネイチャーポジティブの評価指標、State of Nature Metricsの開発状況と概要解説


State of Nature Metricsの指標フレームワークが完成すると、企業は自社の取り組みがネイチャーポジティブに貢献できているかを評価することが可能となります。


要点

  • 企業の取り組みが自然の状態を好転させているかの効果を評価する統一的指標がなかったため、State of Nature Metricsが現在開発されている。
  • 現在のドラフト案では、4つのUniversal Indicatorsと5つのCase-specific Indicatorsが提案されている。
  • いずれフレームワークが完成すると、TNFD、GRI、SBTNなどに指標として応用できるよう設計されている。
  • 企業にとっては自社の取り組みがネイチャーポジティブであるかを見れるようになるが、取得するべき情報は増えるため、早期の準備、対策が必要と考えられる。


Nature Positive Initiative(NPI)が開発中のState of Nature Metricsは、自然の状態を評価する指標です。企業は自然関連のリスクを把握し、対策を講じていますが、効果を測る統一指標が不足していました。このフレームワークは、自然の状態をモニタリングし、企業の取り組みがネイチャーポジティブかを評価できるように設計されています。

本記事では、Nature Positive Initiative(NPI)が現在開発しているState of Nature Metrics(自然の状態の指標)について解説します。


1. State of Nature Metrics(自然の状態の指標)とは

State of Nature Metricsとは、Nature Positive Initiative (NPI)が開発している、「自然の状態」に関する指標やそのフレームワーク全般を指し、自然の状態が良くなっているのか、それとも悪くなっているのかを見極めるものです。

これまで、TNFD(自然関連財務情報開示)などに代表される自然関連の情報開示において各社は、自然関連のリスク・機会を抽出し、対策を取ることで自然に対する依存・インパクトを減らす取り組みを発表してきています(例:水を大量に使用するビジネスであれば、取水できなくなることをビジネスリスクと捉え、水不足の地域からの取水量と消費量<m3>を把握、開示し、削減していくことを対策として記載します)。

一方で、それらの取り組みが果たして本当に自然劣化を食い止め、再生・回復に向かうようなネイチャーポジティブな取り組みになっているかを確認するための統一的指標がない状態でした。確かにTNFDの提言において、「自然の状態」の開示指標が示されてはいましたが、これはあくまでプレースホルダーとして暫定的に提示している状況でした(上記の水の例に合わせると、取水量を削減した結果、その地域における自然の状態が好転したのかどうかを図る指標が定まっていなかったのです)。

そこで開発されているのが本記事で紹介するState of Nature Metricsです。この指標フレームワークを用いて自然の状態を測り、継続モニタリングをすれば、実際に自然の状態が良くなっているのか、あるいは、劣化が食い止められるような状態になってきているのかが分かるものとなり、各社の取り組みがネイチャーポジティブに向けて正しい方向性で活動できているかを評価できるようになるものです。なるべく多様なステークホルダーに採用されるために普遍的かつ最小限の指標を迅速に開発することを目指しています。


2. State of Nature Metricsの開発について

State of Nature Metricsの開発に当たっては、NPIがメインとなり、TNFD、GRI、SBTN、WWF、WBCSDなど、自然関連の開示やデータ保有、イニシアチブを実践する27の団体と連携してプロジェクトを2024年に開始しました。

最初に各方面から600を超える既存の自然関連の指標を集め、整理、分析したのち、指標フレームワークのプロトタイプを形作り、2024年10月よりパブリック・コンサルテーションを経て2025年1月にパイロット(試行)用のドラフトを発表しました。この活動において、EYはNPIをサポートさせていただき、共に作業を実施してきております。


3. 現状での指標フレームワーク

2025年1月にパイロット(試行)用のドラフトフレームワーク(下図)として発表されたものを下記解説します。

Framework: Indicator overview – All indicators

Framework: Indicator overview – All indicators

“Draft State of Nature Metrics for Piloting”, NATURE POSITIVE INITIATIVE, 17 January 2025,www.naturepositive.org/app/uploads/2025/02/Draft-State-of-Nature-Metrics-for-Piloting_170125.pdf(2025年4月16日アクセス)を基にEY作成

まず、インジケーターとしては大きく3タイプあり、Ecosystem ExtentとEcosystem Condition、それからSpeciesとなります。Ecosystem Condition(生態系の状態)についてのみ細分化された2タイプ、Site ConditionとLandscape Conditionがあり、計4つのインジケーターとなります。これらの概要を下表にまとめます。

インジケーターと概要

“FOUR KEY INDICATORS IN THE DRAFT STATE OF NATURE METRICS”, NATURE POSITIVE INITIATIVE, 29 March 2025,www.naturepositive.org/news/blog/four-indicators-state-of-nature-metrics/(2025年4月16日アクセス)からEYにて情報を整理

上記4つのインジケーターはUniversal Indicatorsと呼ばれており、どんな場所の場合にも自然状態を測るために使用されるべきインジケーターとされています。

また、このUniversal Indicatorsに加え、さらなるインジケーターであるCase-specific Indicatorsが設定されており、追加的条件(トリガー)に当てはまる場所について確認する場合、このCase-specific Indicatorsをも確認することになります。この追加的な条件(トリガー)が「Case-specific Indicator Triggers」と呼ばれており、下表の3種類とされています。

Trigger category
トリガーカテゴリー

トリガー:下記のいずれか一つの条件に当てはまる

Priority ecosystems

優先的生態系

  • 絶滅の危機にひんしている生態系(CR/EN)に影響を与える活動、または1つ以上のKey Biodiversity Area (KBA:生物多様性重点地域)または「保全価値の高い」基準を満たす地域に影響する活動である場合
  • Ecosystem extentにおいては、共通する生態系の面積が急速にローカル、グローバル規模で劣化している場合。Ecosystem Conditionにおいては、共通する生態系の面積か状態が急速にローカル、グローバル規模で劣化している場合
  • 地域的に重要な生態系である場合

Priority species

優先種

  • 絶滅の危機にひんしている種(CR/EN)、または1つ以上のKey Biodiversity Area (KBA:生物多様性重点地域)と交わるか、または「保全価値の高い」基準を満たす種である場合
  • ローカル、またはグローバル規模で急速な減少を示す共通する種
  • 地域的に重要な種である場合

Intensive land use biome

集中的土地利用バイオーム

  • 年間農地、播種(はしゅ)された牧草地や畑、プランテーション、派生した半自然牧草地や、グローバルエコシステムの類型で定義されているような古い畑の生態系タイプ内での活動である場合

“Draft State of Nature Metrics for Piloting”, NATURE POSITIVE INITIATIVE, 17 January 2025,www.naturepositive.org/app/uploads/2025/02/Draft-State-of-Nature-Metrics-for-Piloting_170125.pdf(2025年4月16日アクセス)からEYにて情報を整理

Case-specific Indicatorsとして設定されているのは5種類あり、それぞれのインジケータータイプと、Universal Indicators、トリガーとの関係性は下表のようになります。

表 Case-specific Indicators、それぞれのインジケータータイプ、Universal Indicators、トリガーとの関係性

4. 今後について

今後2025年中に現在のドラフトフレームワークを用いて試行し、その結果を反映させた上で、2026年から既存のフレームワークや標準類にどう落とし込んでいくべきかを決定することになります。

NPIの発表によると、少なくともTNFD、GRI、SBTNなどのフレームワークとの連携を想定しておりこれらの開示や目標設定のプロセスの中でState of Nature Metricsが役立てられるものとして期待されています。

なお、現段階のState of Nature Metricsドラフトフレームワークは、まだまだ改変される可能性があり、NPIとしても現段階の指標はビジネスプロセスで使用されるには未完であると述べています。ネイチャーポジティブとしての評価や宣言をするためには使用されるべきではないとしていますので、本記事で紹介したフレームワークは現在の動向を知る参考としての位置付けとなることをご注意ください。


5. 企業の皆様へのメッセージ

企業の皆様は現在自社のビジネスと、自然との関わりの中で抽出されている依存やインパクトに関する指標を集めている段階ではないでしょうか。その上で、ビジネスリスクを低減させるためにそれらの依存やインパクトを低減させるような取り組みを決め、実施されていると思います。上述したState of Nature Metricsのフレームワークが完成すると、皆様の取り組みが実際にネイチャーポジティブに資する活動となっているかが評価できるようになりますので、自社の取り組みの効果の検証をすることができるようになります。思うように効果が出ていない場合、もしくは逆に自然劣化が進んでしまうような場合には、取り組みを見直し、より効果的な活動を探索することも必要になるでしょう。

これまではグローバルで統一的に効果を検証するすべがなかったので、各社独自に取り組みを決め、実施していくことで良かったのですが、今後は外部からも本当にネイチャーポジティブに資する活動になっているかを問われるようにもなるため、しっかりと効果的な活動を見つけていくことが肝要になります。

State of Nature Metricsとして集めるべきデータはこれまで集めている情報以上に、自然の状態に関する情報収集が必要となりますので、現時点から徐々に情報収集し、備えておくことが重要となります。例えば、Universal Indicatorとして設定されているインジケーター(Site ConditionやLandscape Conditionなど)に関連して拠点情報やその周辺情報を集め始めたり、トリガーとなるようなものがあるかどうかを確認したりすることができます。残念ながら、まだ具体的にどんなツールを用いてなんのデータを取得するべきか不明点は多いですが、いずれもっと多くのデータを集めなければならなくなるため、NPIの今後の発表に注意しつつ、集めたデータ取得ルートや、データ格納方法、活用方法などを見据えて、体制を整えておくのも良いでしょう。

EYではState of Nature Metricsの開発に関する作業をNPIと協働で実施しており、State of Nature Metricsに関連してサポートが必要な場合には支援・サービスを提供させていただきますので、お気軽にご相談いただければと存じます。



サマリー 

Nature Positive Initiative(NPI)が開発中のState of Nature Metricsは、自然の状態を評価する指標であり、企業の取り組みが、どのように自然環境に効果をもたらすかを確認するものとなります。この指標フレームワークが完成すると、企業はこの統一的指標を用いてネイチャーポジティブな活動を評価することが可能となります。


EY ネイチャーポジティブ(生物多様性の主流化に向けた社会変革)

EYはクライアントと共にビジネスにおける生物多様性の主流化を目指し、ネイチャーポジティブのための変革をサポートします。

この記事について


EY Japan Assurance Hub

時代とともに進化する財務・経理に携わり、財務情報のみならず、サステナビリティ情報も統合し、企業の持続的成長のかじ取りに貢献するバリュークリエーターの皆さまにお届けする情報ページ