備えの順序が、地域の未来を分ける――自治体の防災投資は「どこから」で決まる

備えの順序が、地域の未来を分ける――自治体の防災投資は「どこから」で決まる


災害リスクと投資の実行条件は、地域ごとに異なります。防災投資は全国共通の基盤を確保しつつ、地域特性に応じて重点分野と着手順を変える必要があります。本稿は、自治体が直面する防災上の課題を、6つの主要類型と1つの横断類型から成るEY独自の分析枠組みで捉え、限られた財源・人材の中で「どこから着手すべきか」を考える視点を示します。



要点

  • 全国共通の防災基盤だけでは、地域固有のリスクに十分対応できない。地域の災害リスク、人口・産業構造、財政力、執行能力に応じて、重点分野と着手順を変える必要がある。
  • 本稿は、防災上の課題を6つの主要類型と1つの横断類型で捉える実務的な分析枠組みを提示する。これは機械的な分類ではなく、地域固有の状況に応じて再構成するための出発点である。
  • 実装には、国・都道府県・市町村の役割分担と、公益事業者・民間事業者等との連携が必要であり、本稿は都道府県単位の「地域防災レジリエンス基盤(仮称)」を提案する。


Why now|同じ災害は、二度と同じ形では起きない


2026年7月、熊本県で最大震度7の地震が発生しました。高速道路約142キロにわたる通行規制、大型商業施設での天井落下・外壁の一部落下、製紙工場の操業停止が同時に生じ、地震が単独では終わらず、道路・産業・ライフラインへ連鎖する現実を、改めて突きつけました。

 

災害は、地域を選ばずに発生します。しかし、その被害の形は、地域ごとに全く異なります。同じ災害は、二度と同じ形では起きません。だからこそ、備えは全国一律ではなく、地域の固有性に応じて設計されなければなりません。前回の考察(防災投資は「1兆円」で足りるのか――中央政府予算と総事業規模を分けて考える)で、私たちは国全体の投資規模の目安(GDP比0.620〜0.700%)を示しました。本稿では、その規模を、自治体が「何から着手すべきか」という優先順位へと落とし込みます。


Core hypothesis|問われるのは「いくら」ではなく「どこから」

地域レベルの具体的な投資優先順位を形成する上で、地方自治体は中核的な役割を担います。国・都道府県・公益事業者等が財源や共通基盤を整えても、地域に人材・計画・通信・備蓄・輸送手段がなければ、その投資は現場で十分な効果を発揮しません。

同じ限られた財源でも、地域特性に応じて重点分野と着手順を変えることで、被害軽減効果や初動対応の実効性は大きく変わり得ます。問われるのは、投資の「いくら」だけでなく、「どこから」着手するかです。本稿は、自治体が平時の防災の取り組みとして何から着手すべきかを考える一助として、投資の優先順位付けの視点を示します。

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Gap|三重の偏在が、全国一律のメニューを機能させない

自治体が防災投資を実行する上での構造的課題は、財政・人材・リスクの三重の偏在に整理できます。

第一に、財政の偏在です。財政力指数には大きな地域差があり、地方負担や維持管理費を継続的に負担できる余力も自治体によって異なります。第二に、人材の偏在です。国土交通省が調査した95市町村のうち、94%が技術職員不足による課題があると回答し、69%が技術職員の採用に課題があると回答しており、財源を配っても、事業を計画・発注・監理する人材がいなければ投資は実行されません。第三に、リスクの偏在です。地震・津波・水害・豪雪・火山と、守るべき災害は地域ごとに全く異なります。

とりわけ深刻なのは、財政力も技術職員も乏しい自治体です。財源を配っても実行する人材がなく、人材を送っても財源がありません。この二重の制約を抱える中山間・過疎地域にこそ、優先順位の設計が強く求められます。


How|防災上の課題を6つの主要類型と1つの横断類型で捉え、優先順位を「見える化」する

そこで私たちは、自治体が直面する防災上の課題を6つの主要類型と1つの横断類型で捉えるEY独自の分析枠組みを提示します。6つの主要類型は①大都市・都心型②沿岸・巨大地震・津波型③河川・都市水害型④中山間・半島・離島型⑤豪雪・寒冷地型⑥火山近接型―であり、これらに⑦人口減少・執行能力制約横断型が重なります。本枠組みは、国際的知見(IPCC〈気候変動に関する政府間パネル〉・仙台防災枠組・OECD勧告)と、日本の既存制度、そして財政力・技術職員等の実装データを参照して構成したものです。

類型ごとに、重点的に取り組むべき投資分野は大きく異なります。都心では帰宅困難者対策と地下空間浸水対策、沿岸では津波避難タワーと住宅耐震化、中山間・離島では多重輸送手段と衛星通信、豪雪地帯では除雪体制と寒冷地避難所が優先されます。過去の大災害も、想定される南海トラフ・首都直下地震も、多くが複数の類型にまたがる複合災害であり、単一の対策では捉えきれません。

平時の準備と役割分担が初動を早め得ることは、能登の経験からも示唆されます。能登半島地震後の運用改善を踏まえ、奥能登豪雨では、県が通信に支障のある避難所を集約し、通信事業者への配備先の振り分けを主導することで、衛星通信機器の設置が発災後3日で完了しました。災害規模や設置台数が異なるため単純比較はできませんが、平時の役割分担と情報共有が初動の迅速化に寄与し得ることを示す事例です。

そして、この優先順位を実装する鍵が、国・都道府県・市町村の三層の役割分担です。防災庁設置法が公布され、2026年11月2日に防災庁発足が定められました。本稿では、防災庁が各自治体の取り組みを下支えし、府省庁横断の情報・データ連携を促進する役割を担うことを提案します。また、都道府県が、小規模自治体単独では構築・運用が難しい防災DX、衛星通信、避難所管理、被害推計、共同調達等を共同提供する「地域防災レジリエンス基盤(仮称)」を整備することを提案します。市町村は、これらの共通基盤を活用しつつ、地域固有のリスクに応じて具体的な事業を選定します。


So what|備えの順序が、地域の未来を分ける

防災投資は、全国一律のメニューではありません。地域の災害リスク、人口構造、産業構造、財政力、技術職員の充足度に応じて、類型別に設計されるべきです。

限られた財源と人材の中で「何を優先し、何を後回しにするか」を明確にすること。それは、機械的な処方箋ではなく、地域の実務者が自らのリスクに応じて再構成し、住民・都道府県・国と対話しながら組み立てる、地域固有の防災戦略の出発点です。

自治体の防災投資は、6つの主要類型と1つの横断類型を手掛かりに、地域のリスクと執行能力に応じて優先順位を明確化し、国・都道府県・市町村が役割を分担して実装することが重要です。地域固有の備えを着実に積み上げることが、「備える国」への転換を現場から支えます。

(本稿の詳細は、以下からダウンロード可能な政策論考をご参照ください。)

出所・参照資料

  • 気象庁「令和8年熊本地震 ポータルサイト」、jma.go.jp/jma/menu/20260728_kumamoto_jishin.html(2026年9月25日アクセス):地震の規模
  • 国土交通省「道路:令和8年熊本地震 対応状況」、mlit.go.jp/road/road_fr4_000201.html(2026年9月25日アクセス):高速道路の通行止め
  • 国土交通省「Ⅳ.技術職員の確保について」、ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000857113.pdf
  • 技術職員の不足する市町村への支援に関する調査結果概要(47都道府県・95市町村、2022年10~11月調査)

サマリー

自治体の防災投資は、6つの主要類型と1つの横断類型を手掛かりに、地域のリスクと執行能力に応じて優先順位を明確化し、国・都道府県・市町村が役割を分担して実装することが重要です。


この記事は、政策論考「備えの順序が、地域の未来を分ける――防災・減災投資における自治体類型別優先順位の考察――」を要約したものです。レポートは以下からダウンロード可能です。




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