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SAP S/4HANA®導入に伴う変革:成功の鍵となる人的要因と3つの重要条件とは


SAP S/4HANA導入に伴う変革には特有の複雑さが伴います。そのため、成功には、「適応型リーダーシップ」、「心理的安全性(信頼)」、「規律ある自由(自律的なチーム)」が不可欠です。


要点

  • 変革の失敗率は67%。変革の成功が人間の行動とリーダーシップに依存し、戦略やデータだけでは不十分であることを示している。
  • 変革リーダー15名へのインタビュー調査から、SAP S/4HANA導入に伴う変革の成功には、「適応型リーダーシップ」、「心理的安全性」、「規律ある自由」が極めて重要であることが明らかになっている。
  • SAP S/4HANA導入に伴う変革プログラムをITプロジェクトではなく、ビジネス主導の変革として位置付けることで、チームの主体性を引き出して、意思決定を迅速化し、組織の中の共感、信頼と協働を築くことができる。



EY Japanの視点

EYでは、グローバル、日本国内いずれもSAP S/4HANAへの移行に伴うクライアントの業務変革を長年支援してきました。

システムやプロセスの変革が大規模であるほど、細やかなオペレーションを担う人々への尊敬なくして、変革は成功しません。特に製造や販売では、さらなる品質向上や顧客のちょっとしたニーズのために多大な努力をしていることがあります。変革の成否に影響力を持つのは、こうした現場を支えるマネジャーや担当者の方々であり、トップダウン型のコミュニケーションではうまくいきません。彼らを尊重し寄り添いながら、目標に向けてモチベーションを維持することが、大きな変革を成功に導くのです。

こうした考えに基づき、EY JapanのPeople Experienceチームは、クライアントチームと協働し、将来に向けた新しい働き方の設計をサポートしています。EYが共に課題に取り組み、徐々に変革に不可欠なマインドセットを醸成することで、クライアントが変革の本格始動に十分備えられるよう支援します。

ビジネスと組織・人に対する取り組みそのものがチェンジマネジメントであり、それがEYのSAP S/4HANA導入成功の中核なのです。


EY Japanの窓口

Erica O’Neill
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社 ピープル・コンサルティング パートナー



絶え間ない混乱が続く中、多くの企業は依然として、変革の取り組みで高い失敗率に直面しています。EY(EYGS LLP)とオックスフォード大学サイード・ビジネススクールが共同で行った包括的調査によると、変革の失敗率は67%に達しています。しかし、この調査から重要な洞察も得られています。それは、成功の鍵はデータや戦略だけではなく、人間の行動と、その行動に重要な影響を与える要因にあるということです。

今回の共同調査では、SAP S/4HANA導入に伴う変革プログラムの成功と、その価値創出に影響を与える人的要因を掘り下げています。SAP S/4HANA導入に伴う変革は、SAP ERP Central Component(ECC)の保守サポート終了期限である2027年末が迫る中、企業にとってかつてないほど重要なテーマとなっています。

SAP S/4HANA導入に伴う変革プログラムは、規模の大きさと複雑さが際立っています。こうした背景から、成功には特定の人的要因がその他の要因よりも重要とされています。

共同調査チームは、2025年4月から9月にかけて、6つのセクターの年間売上高が25億米ドルから1,000億米ドル超に及ぶ国内外の企業に所属する変革リーダーおよび実務者15名にインタビューを実施し、S/4HANAモダナイゼーションプログラムで直面する課題について見解を収集しました。このインタビューを通じて、説得力のあるユースケースが明らかになりました。

さらに、同インタビューで得られた見解は、EYとオックスフォード大学の共同調査で明らかになった「変革を成功に導くための6つの主要な条件」に優先順位を付ける際の重要な判断材料となりました。

夜遅くまでオフィスで働くビジネスマン
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第1章

SAP S/4HANAの導入に伴う特有の課題とは

SAP S/4HANAの導入は、技術・業務・組織にわたる変革を伴う、広範かつ部門横断的な取り組みです。

ERP(統合基幹業務)システムの再設計は、企業のビジネスの在り方を再構築する重要な契機となり、フロントオフィス、ミドルオフィス、バックオフィスの機能全体にわたって抜本的な変革をもたらします。こうした変革により、データの可視性や分析力、セキュリティ、コンプライアンス、M&Aへの対応力が強化され、イノベーションの加速が実現します。

例えば、フロントオフィスでは、受注から入金までのプロセスの最適化や、リアルタイムのデータアクセスによる顧客対応のパーソナライズ化などの改善が進みます。サプライチェーンや製造の分野では、需要予測の高度化、倉庫プロセスの自動化、リアルタイムでの在庫可視化が可能になります。バックオフィスでは、決算締め手続きの迅速化や財務データ管理の一元化といった効果が期待されます。

フロント、ミドル、バックオフィスの変革に伴う特有の課題:

  • 広範かつ緊密な部門横断的協働:SAP S/4HANA導入に伴う変革は、単一機能にとどまる変革とは異なり、複数のエンド・ツー・エンドの業務プロセスやチームを巻き込み、さらに周辺システムやツールにも影響を及ぼします。従って、これまでにないほどの緊密な協働が不可欠です。また、変革の影響は広範囲にわたることが多く、組織全体が一体となって変革に取り組める環境づくりが欠かせません。
  • 将来の事業設計に関する戦略的意思決定の迅速化:SAP S/4HANA導入に伴う変革では、対象範囲によっては、事業部門と機能部門のリーダーが部門横断的に意思決定を行う必要があります。さらに、エンタープライズビジネスプロセスオーナー(EBPO)やグローバルプロセスオーナー(GPO)は、将来のオペレーティングモデルや各機能のプロセス、ポリシー、業務の進め方について、リアルタイムで意思決定を行わなければならない場面も想定されます。そのため、経営幹部層の積極的な関与と、権限を持つリーダーが迅速に意思決定できる体制が不可欠です。こうした体制が整うことで、経営層への頻繁なエスカレーションを最小限に抑えられます。
  • 単なるITプロジェクトという誤解:こうしたダイナミクスを踏まえると、SAP S/4HANA導入に伴う変革プログラムを単なる技術的なITプロジェクトと見なすことは、ビジネス側の主体的な関与を阻害し、重要なビジネス価値の創出を大きく遅らせるリスクがあります。従って、SAP S/4HANA導入に伴う変革では、エンド・ツー・エンドのプロセス整合性、部門横断的な意思決定、ビジネス主導のガバナンスが極めて重要となります。これについて、Daikin North America社のChief Digital and Information Officer(CDIO)であるVaidy Subramanian氏は次のように述べています。「企業を変革するのはテクノロジーではなく、人です」。この言葉が示すように、企業は、この種の変革を単なる技術プロジェクトではなく、ビジネス主導で、人を中心に据えた取り組みとして捉え、共感、リーダーシップ、信頼、協働を変革プロセスのあらゆる段階に組み込むことが不可欠です。
Senior businesswoman presenting project on digital tablet to colleague in conference room
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第2章

人を中心に据えた変革の実践

人を中心に据えた変革アプローチについて、15名の変革リーダーがどのように実践したかをご紹介します。

EYとオックスフォード大学の共同調査の第1フェーズで、変革を成功に導く鍵は「人を中心に据えたアプローチ」であり、その前提として、人間の行動を支える6つの主要条件を適切に整えることが必要であることが明らかになりました。

人を中心に据えたアプローチでSAP S/4HANA®変革を進めることで 成功の可能性が高まります

上記の図に示した6つの条件はいずれも重要ですが、インタビューに応じたリーダーらは、SAP S/4HANA導入に伴う変革の成功には、特に次の3つが欠かせないと強調しています。

1. 適応型リーダーシップ
2. 心理的安全性
3. 規律ある自由

上記3つの条件を掘り下げながら、インタビューに参加した企業の効果的な取り組み事例をご紹介します。

適応型リーダーシップ:複雑さに対応し、明確な方向性を示す

SAP S/4HANA導入に伴う変革は、単なるITのアップグレードではなく、企業の在り方を根本的に再構築する取り組みです。そのため、リーダーは、業務プロセスの再設計、技術的基盤の整備、組織変革という3つの領域を同時に統括・推進する必要があります。しかも、これらすべてを非常に厳しいスケジュールの中で実現しなければなりません。製品別、地域別、機能別に縦割りされた従来型の組織体制を敷く企業では、エンド・ツー・エンドのプロセスを重視する文化が十分に浸透していません。こうした背景から、SAP S/4HANAの導入による、「編隊飛行」とも言える新たな体制への移行は、多くの企業にとって大きな挑戦となる可能性が高いです。

大規模な変革を成功に導くためには、適切なプログラムリーダーの選定が不可欠です。例えば、エグゼクティブスポンサーやビジネスとテクノロジーの責任者、グローバルおよび企業レベルのビジネスプロセスオーナー(GPOやEBPO)には、技術的スキルと感情知能(EQ)の両方で高い資質が求められます。特にGPOは、プロセス、ソリューション設計、人材マネジメント、価値実現にわたって幅広い知識と経験を兼ね備えている必要があります(LinkedInより)。

Mars社のChange Experience OfficerであるNicole Licciardi氏は次のように述べています。「これらの役割を担う人材を、フルタイムとパートタイムでバランスよく振り分けることが、良いスタートを切る上で重要です。この種の変革は人員不足になりがちであり、GPOやEBPOなどの極めて重要な役割を専任で配置することで、初期段階から問題の発生を回避できます」

Licciardi氏はまた、主要な役割には専任のフルタイム人材を配置する重要性を強調しています。パートタイムの場合、整合性の欠如や遅延を招く恐れがあります。

この種の変革は人員不足になりがちであり、GPOやEBPOなどの極めて重要な役割を専任で配置することで、初期段階から問題の発生を回避できます。

日々の変革業務に直接携わっていない経営幹部や事業部門のリーダーと、変革プログラムに関する情報を緊密に共有することも欠かせません。状況を常に把握しているリーダーは、重要な転換点で変革チームの対応を的確に支援できます。積極的に関与するリーダーこそ、真に価値ある存在です。一例として、Mars社は、変革プログラムの一環で、変革の初期段階で人を中心に据えたリーダーシップを学ぶための研修を実施しました。この取り組みを後押ししたのは、Royal Canin事業部門のリーダーです。同社の経営幹部らは、変革を成功に導く6つの条件を踏まえ、自らの成長課題に向き合いました。その結果、プログラムの推進、リーダーの積極的な関与、そしてロールモデルとなる行動が、プログラム開始当初からフルスケールで展開されました。

Licciardi氏は、自社の社長が変革プログラムの従業員向けウェルネス戦略について尋ねた場面を振り返りながら、こう述べました。「リーダーが、“社員のためにどんな取り組みをしているのか”と、問いかけるようになったのであれば、それは、弊社が重視する『人を中心に据える』という考え方が根付いた証しです」

組織のあらゆるレベルのリーダーを巻き込み、主体的に関与させることは、複雑さを伴う複数年にわたるSAP S/4HANAの導入において、「転換点」を乗り越えるための鍵となります。ここでいう転換点とは、進捗の実感が薄れ、取り組みの勢いが鈍化するという、変革の過程で避けて通れない行き詰まりの局面を指します。よく見られる転換点の例は次のとおりです。

  • 評価・設計フェーズの終了時:想定以上のギャップやカスタマイズにより、予算を超過する局面
  • 構築フェーズ:詳細設計の作業が、新しいSAP®モジュールのリリースによって中断される局面
  • デプロイフェーズ直前:Go/No-Go(導入可否)の判断を迫られる局面

変革プログラムの推進において、優れたリーダーは、こうした転換点を乗り越えるだけでなく、先を見据えて予測し、対応策を講じます。

  • 計画やビジネスケースには、不測の事態を想定に入れたタイムラインと予算(運営費用〈OpEx〉/設備投資〈CapEx〉)を含める。
  • 「議論してから決定する」仕組みを採用し、意思決定において多様な意見を取り入れる包摂性と迅速性のバランスを図る。
  • 戦略的なタイムアウトを設け、目的と基本原則を再確認し、問題を特定して根本原因に対処するためのタイムリーなアクションプランを策定する。

今回のインタビューに参加した中に、過去に複数の企業を買収してきた企業の変革リーダーがいました。そのリーダーは、変革プログラムの評価フェーズ初期に、サイロ化がスケジュールや予算、関係者の巻き込みに悪影響を及ぼす可能性があると判断し、プロジェクトの進行を一時的に停止しました。その後、チームは明確性を確保するために専任のチェンジマネジメント担当者を各ワークストリームに配置し、GPOや事業部門・IT部門のリーダー、要件定義の関係者が協働できる体制を整え、さらに一貫した情報発信によって共通の理解と取り組み姿勢を強化する方針を打ち出しました。

心理的安全性:傾聴と認識により信頼を築く

チームの感情は、従来のKPIにおいて問題が顕在化する前に、変革の健全性を判断する上での先行指標となります。組織全体の声に耳を傾け、フィードバックを踏まえて行動するリーダーの下では、社員が安心して意見を表明できる文化が育まれます。こうしたリーダーは、問題の兆しをいち早く捉え、先回りして対応する力に優れています。

リーダーシップ陣は、社員の声を積極的に傾聴することで、柔軟な対応姿勢を示して、信頼の文化を強化し、変革プログラムの勢いを維持できます。これを効果的に実践するためには、次のようなアプローチが有効です。

  • 定期的に匿名のパルスサーベイ(簡易アンケート)やパルスチェック(簡易チェック)を実施し、チームの心理状態が悪化する兆しを早期に把握する。
  • 得られたインサイトを速やかに分析し、根本原因を見極めた上で、改善につながる具体策に落とし込み、必要な対応を迅速に実施する。

明確な目的に基づく評価・称賛は、望ましい行動に導き、継続的改善を促し、士気を高め、エンゲージメントを持続させる鍵となります。具体的な方法としては、次のようなものがあります。

  • コスト試算において、チームおよび個人のマイルストーンに連動した金銭的インセンティブを制度化し、チームワークと主体性を促進する。
  • 個人やチームの価値ある貢献をリアルタイムで公に評価・称賛する。

一例として、ある変革リーダーは、チーム間の整合性を妨げる可能性のある認識のギャップを早期に指摘しました。リーダーシップ陣は全社ミーティングにおいてその変革リーダーの洞察を公に評価し、こうした主体的な取り組みを模範として奨励しました。その結果、見過ごされる課題が大幅に減少しました。

規律ある自由:定められた枠組みの中でチームに裁量を与える

SAP S/4HANA導入に伴う変革プログラムは、その性質上、非常に複雑です。なぜなら、エンド・ツー・エンドの業務プロセスを抜本的に再構築し、SAP標準ソフトウェアを活用しながら、事業部門全体でグローバルに展開する必要があるからです。明確な意思決定権限と統一されたガバナンスの仕組みがない場合、ワークストリームのリーダーとIT部門のリーダーの間でエスカレーションが停滞し、進捗のスピードや設計の整合性が失われ、波及的に相互に関連する機能全体に影響を及ぼす可能性があります。

効果的なガバナンスは、タイムリーかつ情報に基づく意思決定を可能にし、経営層への円滑なエスカレーションを支える「ガードレール」として機能します。強固なガバナンス体制を構築するには、役割分担の明確化、エスカレーションの基準設定、そして協働を促進し、プログラムの推進力を維持するための会議体や進行リズムの設計が不可欠です。ガバナンスを強化するための主要な取り組みには、次のようなものがあります。

  • 意思決定タイプごとの専用フォーラムを設置する。
    • エンド・ツー・エンドのプロセス設計とレビューを担うソリューション統合委員会
    • RICEFWF項目の管理、カスタマイズ制限、Clean Core原則の順守を担うデザイン・オーソリティ・ボード(DAB)
    • KDD対応およびスコープ、予算、タイムライン、ビジネス価値変更に関するガバナンスを担うチェンジ・コントロール・ボード(CCB)
    • 重大なリスクや課題の解決を担うエグゼクティブ・ステアリングコミッティ
  • 各フォーラムにおいて、議長、コーディネーター、ファシリテーターなどの役割を明確に定義し、必要なインプットとアウトプットに関する期待値を設定する。これにより、会議の生産性が高まり、さらには会議後の整合性が確保される。
  • 一例として、CCBを開催する前に、問題の定義、根拠、トレードオフ、価値・コスト・タイムラインへの影響、そしてチームの推奨事項をまとめたKDDドキュメントを準備する。同様に、DABレビューに際しては、評価を標準的な基準に基づいて行えるよう、事前にチームに対してビジネス価値、規制上の考慮事項、必要な作業量、技術的複雑性を提示することを求める。
  • ガバナンスを定期的に見直し、うまく機能している点と改善が必要な点を評価する。

ガバナンスは、チームが安心してその仕組みを運用できるときのみ、効果的に機能します。優れたリーダーは、リスクの早期発見・エスカレーション・解決を、特別な対応ではなく、組織の日常業務に自然に組み込み、文化として定着させています。

Daikin North America社のCDIOであるVaidy Subramanian氏は次のように述べています。「私は、失敗する可能性を見定め、リスクが低ければ、たとえ自分が完全に賛成していなくても、チームの判断を尊重し、意思決定を委ねるようにしています。こうした姿勢が、当社のエンパワーメント文化の醸成につながったと思います。チームは次第に、私が彼らに代わって意思決定することはなく、彼らを信頼していると理解するようになりました」

私は、失敗する可能性を見定め、リスクが低ければ、たとえ自分が完全に賛成していなくても、チームの判断を尊重し、意思決定を委ねるようにしています。こうした姿勢が、当社のエンパワーメント文化の醸成につながったと思います。チームは次第に、私が彼らに代わって意思決定することはなく、彼らを信頼していると理解するようになりました。

リーダーは、チームごとにスタートラインが異なること、共通の知識基盤を築くには相応の努力が必要であることを認識する必要があります。将来のあるべき姿を設計するチームには、現状を問い直すだけでなく、業務プロセスの将来像を見直すことも求められます。こうした取り組みを進めるためには、スキル向上が欠かせません。その対応策としては、変革プログラムの各主要フェーズに入る前に、適切なタイミングで基礎研修やサポートを提供することが効果的です。例えば、次のような施策が推奨されます。

  • キックオフ前のSAP S/4HANA基礎セッションの開催
  • ガバナンスと体制構築のリファレンスガイドとして活用するPMOプレイブックの配布
  • 目的・スケジュール・役割を整合するためのフェーズ別ワークショップの開催

業務プロセス全体を担うチームは、単なるコンプライアンス順守や効率化にとどまらず、価値創造とユーザー中心の視点を重視することが求められます。例えば、ERPモダナイゼーションの取り組みでは、「働きやすさ」と「協働しやすさ」を実現することが重要な目標となります。これを実現するためには、以下の取り組みが有効です。

  • 事前準備:ペルソナ定義、日常業務シナリオ、エクスペリエンスマップを活用し、課題が生じやすいポイントや価値・影響の大きい場面を特定する。
  • スキル強化:イノベーションと未来起点の思考法に関する研修を実施して、チームが変革を再構想し、人を中心に据えたアプローチを推進できるよう、必要な設計スキルを育成する。
  • 外部知見の活用:外部の視点や業界最先端のプラクティスが必要な領域で、外部の専門家の知見を積極的に取り入れる。
A man sits outside on a rooftop terrace and uses a laptop
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第3章

AI活用を人中心で進める

変革リーダーは、AIを活用して、変革を成功に導く6つの条件を強化しています。

今日、テクノロジー主導の変革を語る上で、AIの役割を無視することはできません。とりわけ、複雑さとスピード、そして人を中心に据えたアプローチが求められるSAP S/4HANA導入に伴う変革では、業務効率化と洞察の原動力としてAIの存在感が高まっています。AIは単なる自動化の手段にとどまらず、チームが変革を設計、統制し、維持する方法そのものを根本から再定義しつつあります。

今回の調査では、変革を成功に導く6つの条件を強化する手段として、企業がAIをどのように活用しているのかが明らかになりました。主な活用分野は以下のとおりです。

影響分析の迅速化:AIツールは、業務プロセス文書や会議の議事録を分析し、各ワークストリームへの変革の影響を迅速に初期評価します。

エンゲージメントの強化:EY Transformation Experience Platformなど、AIを組み込んだツールは、エンドユーザーとのやり取りを効率化します。主な機能には、頻繁にアクセスされるコンテンツや高評価のコンテンツをプログラムサイトのホームページに表示する「コンテンツインテリジェンス」、AIによる高度なサイト検索やチャットボット、社員向けのコミュニケーション文書の作成支援、AI生成アバターを用いた魅力的なオンデマンド研修動画の作成などがあります。

リアルタイムでのガバナンス状況の把握:プログラム提供ツールや管理ダッシュボードに組み込まれているAI主導のアナリティクスは、社員の参加状況、感情の変化、行動の変化を継続的に追跡できます。分析結果から、エンゲージメント低下の兆候をリアルタイムで検出でき、リーダーは先を見越した対応が可能になります。

結論

SAP S/4HANA導入に伴う変革の本質は、エンド・ツー・エンドの業務プロセスの再構築にあります。その過程では、迅速で部門横断的な意思決定と多様なチーム間の協働が不可欠です。変革を成功に導くためには、テクノロジーを使いこなすことだけでは不十分であり、各チームの方向性をそろえ、情報を適切に共有し、社員が確信を持って変革に取り組める環境を整える必要があります。そのためには、人を中心に据えた体験を重視するマインドセットが不可欠です。

リーダーが明確な方向性と探究心を示し、チームの声が広く反映され、ワークストリームの各リーダーが明確な指針の下で意思決定できる体制が確立されると、変革の推進力は維持され、設計の一貫性が強化されます。

自問すべき8つのこと:

1. 自社の変革ストーリーは、組織全体を鼓舞するのに十分な説得力があるか?

2. リーダーは、変革に伴う課題が感情面に及ぼす影響をどの程度率直に理解しているか?また、不可避な転換点に備えた対応策を準備しているか?

3. リーダーは、自らを変革することに前向きか?成功の鍵となる重要な要因を理解しているか?そして、自らのスキル向上に取り組んでいるか?

4. 各チームは組織全体でどの程度緊密に協働できているか?その協働を促進し、評価する仕組みは整っているか?

5. 表に出にくい声に意識して傾聴できているか?

6. より多くの責任と権限を部下に委譲できないのはなぜか?その結果、どんな代償を払っているのか?

7. ミスや誤りにどう対応しているか?その対応は、組織文化にどんな影響を与えているか?

8. 従業員が将来にわたって活躍するために必要な重要なスキルとマインドセットの変革を明確に理解しているか?

SAP S/4HANA®およびSAP S/4HANA® Cloudは、ドイツおよびその他の国において、SAP SE®またはその関連会社の登録商標です。

サマリー

企業の変革プログラムは67%が失敗に終わっています。こうした失敗率の高さは、SAP S/4HANAへの移行に伴う変革の取り組みにおいても例外ではありません。成功にはテクノロジーだけでなく、人的要因が極めて重要です。特に、適応型リーダーシップ、心理的安全性、規律ある自由は欠かせない条件です。2027年のSAP ECC標準保守期限が迫る中、EYの調査とグローバル企業のリーダーへのインタビューにより、なぜこれらの条件が重要なのか、そしてそれが複雑な部門横断型の変革の成果にどのような影響を及ぼすのかが明らかになっています。

本記事の執筆に当たっては、EYのJennifer Maddox、Jay Schumacher、Debbie Rapoport、Shreya Rai、Michelle Oden、Tigran Atayan、Jen Czupek、Mario Capece、Joy Bell、Ryan Thompson、Paul Bierbusse、Kim Turner、Rory Jackson、Keith VanWarren、Dasha Kholodenko、 Kosheelia Chetty、Sarah Thurinの協力を得ました。

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人のチカラを原動力に問題に対処するアプローチが確立している変革プログラムでは、転換点を効果的に乗り越えられる可能性が12倍高まることが期待されます。

人を中心に据えた変革で成果を倍増させるには

EYプロフェッショナルチームとオックスフォード大学は、変革の失敗がもたらす感情面の代償について共同で調査・分析を行い、期待を超える変革を実現するにはどんなアプローチが必要であるのか考察しました。

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