営業人材減少時代に挑むCustomer Tech戦略

営業人材が激減する時代の収益成長戦略――いま、取り組むべきCustomer Tech定着化の実務


Customer Techを導入してすぐに効果が出る訳ではなく、Customer Techの利用定着化の対応が必要になります。定着化に向けた対応内容に関してお伝えします。


共同執筆者

渕本 和崇
EYストラテジー・アンド・コンサルティング株式会社
カスタマーエクスペリエンス・トランスフォーメーション マネージャー

※所属・役職は記事公開当時のものです。



要点

  • 収益性向上に向けた、データドリブンな経営、顧客接点の統合
  • データドリブン経営、顧客接点の統合を実現するCustomer Tech
  • Customer Tech導入後の定着化を阻む原因と対応に向けたEYの支援


1. なぜいま、Customer Techが求められるのか?――営業・マーケ・CS統合の真価 

「失われた30年」と言われることに慣れてしまったところもありますが、実際に、直近30年間の日系企業の売上高のCAGR(年平均成長率)を見ると、0.5%にも満たない※1という事実があります。

 

日本企業の多くが持続的な成長を重要な経営課題に掲げながらも、製品やサービスのコモディティ化、市場が縮小する中で、成長の担い手であるはずの販売従事者(営業)は、減少の一途をたどり、歯止めがかかりません。 この二律背反する経営課題に対して、事業成長(収益)の最高責任者として、注目を集めるCRO(Chief Revenue Officer)は、「限られた営業リソースで収益を最大化する」仕組みを構築しなければなりません。

 

その実現の打ち手として「データドリブンなマネジメント」と「顧客接点の統合」が注目されています。

 

マーケティング、営業、コンタクトセンター、カスタマーサクセスといった顧客接点における各種テクノロジー(Customer Tech)を活用し、顧客情報をシームレスに把握できる状態を構築することで、従来、分断されていた顧客体験を再構築することが可能となります。

 

統合的なデータは、顧客理解を促進し、一貫した顧客対応・サービスの提供を実現させ、顧客満足度やロイヤルティの向上を通じて収益拡大に直結します。

 

さらに、顧客接点で生まれるデータを統合的に捉えることは、収益獲得のメカニズムを構造的に把握することを可能にし、収益最大化に向けた最も重要な経営基盤となります。

Customer Techを活用した目指す姿

Customer Techを活用した目指す姿

2. Customer Techの目指す姿と実現に向けた課題

企業の多くはCustomer Techの重要性を認識し、導入・活用を進めていますが、必ずしも収益向上につながらず、導入・活用に課題を感じている企業は少なくありません。

効果を出すための業務プロセスの設計不足や、現場の声による現行踏襲、現行システムのブラックボックス化などにより、当初想定していた理想の姿を実現できていないのが実情です。

インターネットに公開されている国内外の調査会社各社のレポートを読むと、多くの企業で導入プロジェクトの当初の目的を達成できていないといった結果が散見されます。

さらにわれわれにお声がけを頂くケースの例として、多いものには次のようなものがあります。

ある製造業では、営業力強化を目的にCustomer Techを導入したが、「実現可能なあるべき姿」と「Customer Techの定着化の計画・実行」の検討ができておらず、使われないCustomer Techとなりました。

しばしば聞くケースですが、要求通りに開発・導入をしたが、現場からは入力項目が多すぎて、面倒であるとか、煩雑な入力業務に忙殺されて、むしろ残業が増えたなどの理由からログインさえしてもらえず、Excelとメール・社内SNSに戻ってしまい、収益拡大のための経営基盤となるはずが、無用の長物という状況に陥ってしまいました。

このようなCustomer Tech導入の失敗例が数多く発生しています。

3. Customer Tech利用定着化に向けた推進ポイント

Customer Techの利用定着化を進めるにあたり、いくつか注意すべきポイントがあります。

例えば、「業務変革を実現するためのCustomer Tech」というビジネスケースに即したトレーニングが十分に行われていない点が挙げられます。

多くの企業はシステムマニュアルを用意し、オペレーション・トレーニングを通じてシステムの使い方を伝えていますが、売上向上のために、システムをどのように活用するかまで踏み込んだトレーニングができていません。そのため、現場ではシステムの利用価値を感じられず、Excelなどの手元管理に戻ってしまうことがあります。

これは利用定着化を阻害する表面的な原因であるため、潜在的な原因や根本的な原因を踏まえてCustomer Techの利用定着化を進める必要があります。


お問い合わせ

より詳しい情報をご希望の方はご連絡ください。


SFA/CRMの定着化・利活用を阻害する原因

SFA/CRMの定着化・利活用を阻害する原因

4. なぜ、利活用のために「定着化」が必要なのか?~アプローチを正しく理解してもらう~

Customer Techの利用定着化において最も重要なのは、その必要性を理解することです。企業はCustomer Techを導入した瞬間から現場のパフォーマンスが上がり、顧客情報も蓄積されてマネジメントの意思決定も促進されると考えがちですが、実際はそうではありません。また、多くの企業では、この定着化のフェーズを失敗して導入を断念しています。なぜ、そのようなことになるのでしょうか。

人間は環境が変わるタイミングでどうしても新しい環境に慣れるまでパフォーマンスが下がってしまいます。パフォーマンスは一時的に下がった後、徐々に向上していきますが、環境変化(Customer Tech導入)以前のレベル以上にパフォーマンスを発揮するようになるまでには時間がかかります。

そのため、導入前から利用定着化に向けた検討を進め、導入後すぐにパフォーマンスを発揮できるよう周到に準備することが重要です。

Customer Tech定着化の際に留意すべきは、図に示した4つのシナリオだと考えています。

EYでは、定着化を成功裏に進めるためには(A)社内向けのコミュニケーション戦略の設計、(B)オンボーディング、(C)コーチング、(D)ナレッジ・ツールの仕組みが重要であると考えています。

まず、第一は(A)のパフォーマンス低下の下げ幅をいかに緩和するためのコミュニケーション戦略をどう組み立てていくかです。プロセスやシステムなどの変更には必ず抵抗勢力の出現はつきものです。

ポイントは一律に利用してもらうのではなく、Customer Techを利用することでパフォーマンスを早期に改善してもらうべき人(群)を明確にして、戦略的に利活用・成功体験を進めてもらうのかという点にあります。

第二は(B)効果創出の早期実現のための「オンボーディング」です。

ポイントはCustomer Tech利用定着・効果実感を得るためのジャーニーのデザインとKPIの設計です。

多くの従業員(ユーザー)は、Customer Techの導入の目的・重要性については、説明をすれば一定の理解を示してくれることでしょう。しかし、行動とその定着にはいくつかの離脱ポイントがあります。認知・理解→行動→定着・習慣化までのジャーニーマップを描き、何が理由で定着化のジャーニーから離脱していくのか、その予兆をどう定量的なKPIで把握するのか、いわばヘルススコアを設計し、モニタリングしながら、施策を打っていくことが重要になります。

第三は、(C)変革効果の最大化のための「コーチング」です。

(B)でヘルススコアを設計し、認知・理解→行動→定着・習慣化というジャーニーをいかに離脱なく進めていくのかと申し上げましたが、スコアだけ見ていても、定着化は進みません。

認知・理解は容易にできても、一般的には行動と定着のステップで多くの離脱者を生みます。

ここで重要になってくるのが、コーチングです。例えば、SFA/CRMのような場合、マネジメント(リーダークラス)がダッシュボードを利用して判断・指示・アドバイスをしなくなることで、離脱が増えます。コーチは営業の定例ミーティングや1on1に同席し、どのように利用するのか、どうアドバイスをするのか、ハンズオンでコーチングしていきます。これにより、離脱率は大きく減少することができます。

最後に(D)パフォーマンス向上の継続ための「ナレッジ・ツールの仕組み」です。

パフォーマンスを持続的に向上させていくためには、ユーザーにとっては、「なくてはならないツール」にしていくことが求められます。

従来は、ナレッジマネジメントの要素を組み入れ初回訪問用の提案アセットやビッグディールを勝ち取った提案書、競合状況などのさまざまなTipsをセールスイネーブルメントチームが準備、整理することで、定着化・利活用のパフォーマンスを向上させてきました。

しかし、現在はAX(AI Transformation)の時代です。SFA/CRMに商談情報を入力することで、AIが自動的にNBA(Next Best Action)を返してきたり、提案書作成をサポートするようなWork Agentとして、機能する時代となりました。

(A)~(C)までができれば、AIを活用した行動変容の仕組みの導入が期待でき、おのずと定着・習慣化が確立されやすい時代となりましたが、そうした仕組みの準備が重要となります。

ここまでに述べてきたように定着化とはリリース前に説明をするとか、マニュアル、FAQの準備、操作サポートするということではなく、行動変容を伴う戦略的なコミュニケーション、オンボーディングのスコア管理、コーチング、ナレッジ・ツール等仕組みの準備・・・といった定着化・習慣化までのジャーニーを明確に設計し、コントロールしていくことが要諦となります。

定着化必要性の理解不足

定着化必要性の理解不足

5. EYができること

企業にCustomer Techの定着化の取り組みの必要性を理解していただくことも大切ですが、定着化は、Customer Techを利用することで営業業務の負荷を減らしつつ(生産性向上)、営業の質(勝率)が上がる状態を成功裏に実現するためのラスト・ワンマイルの施策です。主たる目的は、生産性の向上と勝率アップを実現するのかであり、目的を成功裏に実現するための手段として定着化があります。

EYでは、クライアント企業の持続的な事業成長を総合的にご支援するため、CROアジェンダ※2として整理されるオファリングをご用意しております。定着化支援は、「販路開拓・営業強化※3」と「カスタマーテック高度化」の1つとして、ハンズオン型でのご支援を提供しております。

販路開拓・営業強化支援では、Go to Marketをハンズオン型でご支援するサービスですが、営業マネジメントの標準化などSFA/CRMを活用したマネジメント業務支援などが含まれます。また、「カスタマーテック高度化」では、生成AI等を活用した業務効率化や高度化※4のご支援はもとより、WorkLog(行動データ)をベースにした営業パフォーマンス向上やCoE(Centre of Excellence)の実現支援など、幅広いご支援が可能です。

EYの支援内容

EYの支援内容

まとめ

Customer Techは、営業・マーケ・カスタマーサクセスの顧客接点を統合し、データドリブン経営を実現する中核基盤として注目されています。しかし、多くの企業では導入にとどまり、活用・定着が進まず、収益向上に結び付いていないのが実態です。

真に成果を生み出すためには、業務・人材・マネジメントを含めた「利用定着化」が不可欠であり、ここが成否を分けるポイントとなります。

特にAXの時代においては、AIを活用した行動変容と意思決定支援が前提となるため、データの入力・活用が定着していなければ価値は発揮されません。

Customer Techの定着化は、単なる運用課題ではなく、収益最大化を実現する競争優位性そのものとなっています。





お問い合わせ
より詳しい情報をご希望の方はご連絡ください。


サマリー

収益性向上に向け、データドリブン経営と顧客接点統合を支えるCustomer Techの重要性が高まる一方で、Customer Techの定着化をいかに成功裏に進めていくのかを解説します。



この記事について